「発掘!あるある大事典Ⅱ」の捏造問題で、関西テレビは放送の打ち切りと社長の減給などの処分を決めた。映像はGoogleからもYouTubeからも削除されているが、番組サイトのキャッシュがまだ残っており、そこに台本の大筋が掲載されている。今週の『週刊朝日』にも詳細な記事が出ているので、それをもとに事実関係を検証してみた。

最大の問題は、関西テレビの謝罪文に書かれている
テンプル大学アーサー・ショーツ教授の日本語訳コメントで、「日本の方々にとっても身近な食材で、DHEAを増やすことが可能です!」「体内のDHEAを増やす食材がありますよ。イソフラボンを含む食品です。なぜならイソフラボンは、DHEAの原料ですから!」という発言したことになっておりますが、内容も含めてこのような発言はございませんでした。
という点だ。しかし『週刊朝日』によれば、Arthur Schwartz教授がDHEAの研究者であり、彼がDHEAについてコメントしたことは事実のようだから、このインタビュー自体はまったくの捏造というわけではない。致命的なのは、このインタビューの前に出てきた56人の実験をしたのがワシントン大学のDennis Villareal教授らの研究(*)なのに、番組では実験の映像に続けて
そこで、調査のためスタッフは緊急渡米~!!情報の発信源である、ペンシルバニア州立テンプル大学へ駆け込み、アメリカ生物学の権威、アーサー・ショーツ博士を直撃した!
と、まったく別人の研究をSchwartz教授の実験として紹介し、彼がそれについてコメントしたかのように構成していることだ。これは不可解である。どうして最初からVillareal教授に取材しなかったのか。『週刊朝日』によれば、彼は「日本のメディアの取材は受けていない」といっているそうだから、最初のリサーチ(下調べ)の段階で勘違いした疑いがある。

民放の制作体制は孫請け・曾孫受けで複雑になっており、特に海外については英語のできるリサーチャーに丸投げになっていることが多い。この番組のディレクターは英語ができなかったようだから、リサーチャーが間違えたか、そのレポートの内容をディレクターが取り違え、現地に行ってから人違いに気づいたが、今さらフィラデルフィアからセントルイスまで行く時間も予算もない。え~い、吹き替えればわからないや・・・となったのではないか。「アメリカで行った研究者への取材が難航し、制作会社サイドが追い詰められた」という記者会見の答は、そういう事情をうかがわせる。

正直にいうと、これに近いことは海外取材ではよくある。思ったとおりコメントが取れなかったとき、吹き替えで「作文」した経験のないディレクターはほとんどいないだろう。これが国内ならばれるが、海外ならその心配もない。特に今回のように専門的な話だと、内容に疑問をもつのはごくわずかの専門家だけだ。ハコフグマンのブログによれば、取材したのは日本テレワークの孫請けのアジトという零細プロダクションらしいが、「海外取材は人違いでした」などといったら、二度と仕事は来ないだろう。一か八かで捏造しようと考えても不思議はない。

しかし、この番組の骨格である「DHEAに腹部脂肪を減らす効果がある」という事実は、前述のVillareal教授らの研究で発表されており、嘘ではない。それをイソフラボンと結びつけ、さらに納豆と結びつけたのは医学的にはナンセンスらしいが、この程度のことは、DHEAというわかりにくい物質の話をおもしろく見せる演出の一種だろう(許される範囲かどうかは微妙だが)。もう500回を越えて、健康食品のネタも尽きていたのではないか。

実験データの捏造も、それほど深刻なものではない。もともとテレビ番組の実験なんて学問的に厳密なものではないし、大事なポリアミンの実験データの解析だけはしていたようだから、100%捏造というわけではない。これがだめなら、「超能力」と称してやっているいかがわしい「実験」や、占い師のおばさんが2時間にわたって根拠不明の「予言」をする番組はどうなるのか(**)

こうみると、今回の番組はそう突出した例外ではない。異常なのは人違いのインタビューを吹き替えでごまかしたことだが、それも運悪く週刊誌の取材を受けたからばれただけで、実験データの捏造は過去にも疑惑が指摘されていた。納豆業界に事前に情報が流れていたというのも、別に問題になるようなことではない。だから不二家みたいに「総懺悔」にならないで、どうやって品質管理するか、どこまで演出が許されるかを冷静に考えたほうがよい。

私は番組を発注する側にも受注する側にもいたことがあるが、発注元のテレビ局がこういう捏造をチェックすることは不可能である。試写でチェックするのは、客観的に見て辻褄のあわない部分やわかりにくい部分だけだ。下請けプロダクションは制作の過程から関与しているので、事実関係の誤りなどはチェックできるが、それでも捏造されたらだめだ。ディレクターが嘘をつくということは想定していないのである。

捏造を事前に防ごうと思えば、すべての取材過程に管理職が同行してチェックする「内部統制」が必要になるが、それでは仕事にならないので、チェックは人事でやるしかない。捏造がばれたら業界から永久追放される、という社会的制裁(ゲーム理論でいうtrigger strategy)が最後の歯止めだ。長期的関係で固定された下請け構造が、強力な品質管理装置になっていたのだ。

しかしこういう「村八分」的なペナルティは、下請け関係が流動化するとあまりきかなくなる。零細プロダクションはしょちゅうつぶれ、フリーのディレクターはプロダクションを渡り歩いているので、「前科」が残らない。給料も安いので、クビになってフリーターになっても失うものはあまりない。これは雇用流動化のコストであり、問題ディレクターについての「評判データ」を各社が共有するなど、モニタリングのしくみを考える必要がある。

(*)関西テレビの謝罪文では、誤って「デニス教授」と書いている。

(**)言葉が足りなかったようで、たくさんコメントがつき、高木浩光さんなどからもTBがついたので、補足しておく。私は捏造を擁護しているのではなく、民放の番組が事実を軽視する傾向はこの問題に限らないといっているのである。技術者からみれば、実験を冒涜するのはけしからんと思うかもしれないが、視聴者への悪影響という点では超能力や占い番組のほうが罪深いと私は思う。それは科学をあからさまに否定しているからだ。今回の事件は特殊なケースではなく、事実よりおもしろさを優先し、コストを徹底的にたたいて品質管理に手を抜く民放の体質が、たまたま表面化しただけだ。この体質を改めない限り、同様の問題はなくならない。