山口栄一

NTT出版

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「クリステンセンの誤りを正す」などと書いてあるが、破壊的イノベーションに代わって著者が提示する「パラダイム破壊型イノベーション」の概念は実質的にほとんど変わらない。破壊的イノベーションの性能は初期には既存技術に劣っているとされるが、実際にはトランジスタなどの重要な破壊的技術の性能は最初から既存技術よりも高い、というのがその違いだが、これは本質的な問題ではない。著者のいう「パラダイム」も、クリステンセンの「バリュー・ネットワーク」の概念とほとんど同じだ。

実質的な違いは、破壊的技術が開発されても実行されない理由にある。それは第一線の研究者の物理特性についての「勘」のようなものが資金を提供する資本家や経営者にうまく伝わらないことにあるという。これは本書の扱う半導体には当てはまるのかもしれないが、あまり普遍性のある話ではない。それに対して研究者と経営者の「共鳴場」をつくれという提案も、アドホックでよくわからない。最後は2005年の総選挙など、話がとっちらかったまま終わってしまう。

ただ、イノベーションをパラダイム論と接合する著者の発想(数ページしか展開されていないが)は悪くない。一昨日の記事でも書いたように、誤った理論は反証によって葬られるとか、よい技術は必ず成功するといったナイーブな科学(技術)信仰を克服し、技術が選ばれる社内の意思決定やマーケティングなどの政治的プロセス(著者のいう「場」)を分析することがイノベーション論の課題だろう。

破壊的イノベーションを企業が容易に受けつけないのは、それなりに合理性がある。既存の技術に埋没したサンクコストが大きい場合、設備や組織をすべて取り替える破壊的イノベーションを採用することはリスクが大きいからだ。このような「局所最適化」の淘汰圧は大きな組織ほど強いので、重要なのは既得権の少ない小組織で開発を行い、バリュー・チェーンを短くして要素技術に特化した「突然変異」を市場に出すことだろう。この点で「モジュール化」が重要だという結論に本書も行きついているが、これは新しい提言とはいえない。