先週は、出張のためにブログの更新が滞ってしまった。といっても、普通は出張先でもウェブが見えるので、環境はほとんど変わらないのだが、今回は後半、ローマに入ってからまったくインターネットが使えなくなった。ホテルには「Wi-Fi完備」という表示があり、最初はつながったのだが、3回目から何度アクセスしてもつながらない。どうもWi-Fiを接続しているテレコムイタリアのプロクシサーバが容量不足かダウンしたようで、ローマ中で同じ現象が起きているはずだから、そのうち修復されるだろう・・・と思ったのが甘かった。1日たっても直らないのだ。おまけにダイアルアップもつながらない。

現地で仕事を手伝ってもらったミカさんによれば、こんなことはイタリアでは日常茶飯事だという。日本ではNTTのIP電話が止まったら大騒ぎになるが、イタリアではだれも驚かない。ホテルや電話会社に抗議しても、何もしないことがわかっているので、みんなあきらめて自衛策をとる。私も、ホテルのモーニングコールが当てにならないので、警戒してラジオのタイマーと二重にかけたが、両方とも鳴らなかった(危険を感じて目が覚めた)。

しかし世界の中で見ると、こういう事件に普段まったく遭遇しない日本のほうが例外である。今回も最初のワシントンのホテルでは、Wi-Fiがつながったりつながらなかったり不安定だったし、ダレス空港では荷物が迷子になった。当たり前のことが当たり前に動くありがたさに日本人は気づいていないが、こういう社会的な信頼性の高さ(取引費用の低さ)が日本の製造業の高い効率を支えているのである。

こうした社会的インフラを社会学でsocial capitalと呼ぶが、イタリアはそのショーケースとして有名だ。同じ国の中でも、ミラノなど北部は信頼性が高く工業化が進んでいるが、南部のシチリアなどは今でもマフィアが地域を支配し、産業も立ち遅れている。この原因は、中世にスペインがイタリア南部を支配下に置いたとき、住民の反乱を防ぐため、地域を分断して住民を互いに反目させたことにあるという。その結果、イタリアでは統一国家の成立が遅れ、「私的な警察」としてのマフィアが登場したのである。彼らにとっては、治安サービスの「需要」を作り出すために犯罪を起こし、社会の信頼性を破壊することがビジネスになるわけだ。

これは旅行者にとっては笑い話ですむが、ローマに住んでいるミカさんにとっては深刻な問題だ。インフラが当てにならないので、同じ仕事をするにも日本の倍ぐらい手間がかかる。他人が信用できないため、借金は家族や親戚からしかできず、大企業が成立しない。賄賂や地下経済も蔓延しているが、裁判所が機能しない(ちょっとした裁判も10年ぐらいかかる)ので、だれも不正をただそうとしない。欧州でも他の国との経済格差が拡大して、こういう腐敗の親玉であるベルルスコーニは政権から追放された。

・・・などと書くと、イタリア人は不幸な顔をしているみたいだが、レストランは果てしなくおしゃべりする人々で満員だ。みんなコンピュータなんか使わないで、人生を楽しんでいるのである。私もWi-Fiと格闘して疲れたあと、近所のレストランで安いスパゲティを食ったら、今まで食ったスパゲティのなかで一番うまかった。「貧弱な通信インフラとうまいスパゲティ」と「高速の通信インフラとまずいスパゲティ」のどちらをとるかと問われたら、私も前者をとるような気がする。