貸金業規制法の改正案をめぐる議論が、大詰めを迎えている。けさの朝日新聞の1面トップの見出しは「貸金業金利 一部アップ」。え?と思って本文を読むと、これは利息制限法(の一部)の上限のことだ。おまけに「後藤田政務官 抗議の辞意」と、金融庁の「業界保護」を指弾する論調である。日経は「貸金業規制、調整綱渡り」と比較的冷静だが、読売は社説で「『特例』容認で骨抜きにするな」と主張している。毎日の社説に至っては、こう主張する:
貸金業界は上限金利が引き下げられれば、信用リスクの高い人は排除されてしまうと主張する。本当だろうか。金利の引き下げは消費者にプラスである上、与党の基本方針も求めている低所得世帯に対する金融小口融資や中小零細事業者に対するセーフティーネット貸し出しの強化を図れば、かなりの問題は解消できる。
「本当だろうか」と問いかけておきながら、「信用リスクの高い人が排除される」という主張には反論せず、政府系金融機関による「小口融資」の話にすりかえている。要するに、高リスクの債務者には国費を投じろという話だ。「庶民の味方」を気取りながら、実はお上に頼るのが、こうしたポピュリズムの特徴である。

消費者金融の平均貸出金利は、大手5社でも23.15%(2005年3月・消費者金融連絡会調べ)である。上限を20%以下に引き下げれば、債務者の半分以上が借り入れできなくなるだろう(*)。特に中小の貸金業者は、ほとんどが20%以上でしか貸していないから、壊滅的な打撃を受ける。ところが毎日の社説は「業界ではこうした規制が実施されれば、業者数は現在の約1万4000から大幅に減少すると予測する。それも過剰供給状態からの正常化過程であろう」という。

こういう議論の背景には、「サラ金は暴利をむさぼっているのだから、金利を引き下げる余地があるはずだ」という通念がある。しかし金利が高すぎるという主張と、業者が「過剰供給状態」だという主張は矛盾している。過剰供給であれば、金利は競争によってリスクに見合った水準まで下がるので、得をするのは債務者である。現実に、貸金業界は非常に競争的であり、平均貸出金利も下がり続けている。業者が「大幅に減少」して大手の寡占状態になったら、リスクの高い債務者は市場から排除されるだろう。

「サラ金に駆け込むような債務者は、もともと返済能力がないのだから、貸さないほうがいい」という家父長主義も事実に合わない。大手5社の貸付債権のうち「返済困難」とみなされるのは7.9%で、大手行の2.9%に比べれば高いが、それほど特殊な市場ではない。それを地下経済に追いやるのではなく、価格メカニズムで解決する手段を整えることが市場経済の原則だ。

たしかに個別の債務者の話を聞けば、「金利を下げれば救済できる」と思うのも無理はない。しかしそれを救済しようとして金利を規制すると、市場全体としては資金供給が減少し、かえって救済されない人が増えるのだ。こういう合成の誤謬は、当事者の意見を聞いても解決せず、経済全体をみる政策当局やメディアが注意しなければならない。それを「業者保護」対「消費者保護」といった図式でしかとらえず、最後は政府に尻ぬぐいさせようという毎日新聞的ポピュリズムの背後には、まだ社会主義の亡霊が残っているのである。

(*)もう少しくわしいデータを『TAPALS白書』から補足しておく。消費者金融の債務者は、大手5社だけで1054万人(2005年)。そのうち、実に91%の債務者が20%以上の金利で借りている。業界全体では、債務者はこの1.5倍ぐらいだろうと推定され、中小の金利はほとんど20%以上だから、上限が20%になると1400万人以上が締め出されることになる。このうち3割ぐらいは金利引き下げで救済されると仮定しても、900万人以上が借り入れできなくなるだろう。金融庁の案でさえ、きわめて暴力的な価格統制である。