利息制限法と出資法の上限金利が異なる「グレーゾーン金利」について、アメリカの金融業界団体が上限金利の引き下げに反対する書簡を与謝野金融担当相に出した。

今年1月に、最高裁がグレーゾーンを事実上認めない判決を出したことを受けて、金利の返還訴訟が頻発している。金融庁は、上限金利を一本化して年率15~20%とする方向で、来年の通常国会で法律を改正する予定だ。アイフルの悪質取り立て事件で批判を浴びた消費者金融業界は、正面きって反論もできない。メディアも、取り立ての実態を暴いて業者を指弾する報道ばかりで、異論を唱えているのは外資だけという状況だ。

しかし、ちょっと冷静に考えてほしい。現在の上限(29.2%)を20%以下に引き下げることが何をもたらすかは、経済学的には明らかである。金利は貨幣のレンタル価格だから、それが人為的に抑えられると、資金の供給(貸出)が減少して超過需要が発生する。この超過需要が満たされなければ破産が起こるか、闇金融に流れることが予想される。事実、2000年に出資法の上限金利が40%から引き下げられたあと、個人破産と闇金融が増えた。

こうした金利の制限は、先進国にはみられないものであり(*)、終戦直後の混乱期に闇金融を規制して「弱者」を保護するために設けられた規制である。同様の規制としては、借家人の権利を強く保護する借地借家法がある。これも終戦直後に戦争未亡人を守るために設けられた規制だが、結果的には借家の過少供給をもたらし、家賃の高騰をまねいた。今回の金融庁の懇談会のヒアリングでも、多重債務の被害者や弁護士は規制強化を強硬に主張したが、そういう近視眼的な「正義」は、長期的には弱者のためにもならない。悪質な取り立ては、金利とは別の問題である。

上限金利が20%に制限されるということは、木村剛氏もいうように、企業も「20%以上の金利で借金する権利がなくなる」ことを意味する。中小企業の場合には、短期的な資金繰りで高利の資金が必要な場合もあるし、収益率が20%を超えることはそう珍しくない。金利を必要以上に抑制すると、収益はあるのに資金繰りで行き詰まる「黒字倒産」が増えるおそれがある。

ファイナンス業界の合理化のためにも、規制強化は有害である。消費者金融などのリテール分野は、成長の期待される部門だが、日本では「サラ金」という特異な業態として社会から白眼視されてきた。いま日本で必要なのは、ハイリスク・ハイリターンのオプションを広げ、新しい分野にチャレンジする機会を増やすことだ。ところが長期にわたる「量的緩和」のおかげで不良銀行が延命され、企業金融の多様化は中途半端に終わってしまった。さらに今回のような規制強化が行われると、外資を含めたファイナンス業界の競争が阻害され、日本経済全体にも悪い影響が出るだろう。

(*)これは誤り。アメリカ(連邦レベル)・イギリスには上限規制はないが、ドイツ・フランスにはある。ただし金融庁の懇談会に提出されたACCJの資料によれば、多重債務や違法貸付の問題は、イギリスよりもドイツ・フランスのほうが多い。