きのう警視庁は、携帯電話のSIMカードのロックを解除して売っていた業者L&Kの社長を、商標法違反と不正競争防止法違反などの容疑で逮捕した。気になるのは、メディアの扱いである。たとえばTBSは(おそらく警視庁のリークで)事前取材をした形跡があり、この商売をいかにもいかがわしいものとして描いている。テレビ朝日の「報道ステーション」でも、解説者が「こういう不正改造を許したら携帯電話業者のビジネスは成り立たない」とコメントしていた。

果たしてそうか。SIMカードは、もとはヨーロッパ統一規格のGSMで、一つの端末を各国で使うためにできたものだ。端末とSIMカード(携帯電話アカウント)を別に売っているので、一つのカードで複数の端末を使うこともできる。これによって端末とサービスがアンバンドルされ、両方の市場で競争が促進された結果、GSM端末の原価は日本の携帯電話よりも一桁ぐらい安く、通話料金も日本よりはるかに安い。端末の国際的ポータビリティは、ヨーロッパでは当たり前なのである。

これに対して、日本では郵政省がPDCというNTTローカル規格に一本化したおかげで、市場が広がらず、携帯電話オペレータが端末を買い取って流通を支配する垂直統合型の構造ができてしまった。したがってPDCの端末には、SIMカードはない。W-CDMAは世界共通規格なので、UIMというSIMと同様のカードが内蔵されているが、日本のオペレータは垂直統合のビジネスを守るため、端末にロックをかけて他社のUIMでは動かないようにしている。L&Kは、このロックを解除し、日本の端末で中国などのUIMが使えるようにして輸出していたのである。

しかし、このビジネスのどこが悪いのか。これは技術的には「不正改造」ではなく、端末の本来の機能を使えるようにするだけである(日本でもNokiaの端末ではSIMが交換できる)。商標法違反という容疑も理解に苦しむが、それは逮捕しなければならないような凶悪犯罪なのか。すでにブログでも、たとえばタイ在住者から次のような批判が出ている:
仕事でタイにしょっちゅう来ている人。当然タイでも携帯電話を使いたいですよね。国際ローミングなんて、ばかばかしい値段を払いたくないし。一台の携帯で、SIMカードだけ交換して使えれば便利ですよね。[・・・]「各社の販売戦略上の理由などから、」SIMロックなんてばかばかしいことが行われていることが間違っているわけで。
日本では、オペレータが販売店に多額のインセンティブを出し、販売店はこれを原資にして端末を大幅に割り引き、オペレータはインセンティブのコストを通話料に上乗せして回収するしくみになっている。L&Kのように端末を安く買って解約し、改造して高く転売されると、インセンティブがまるまる損失になってしまう、ということらしいが、これはビジネス上の問題にすぎず、警察の動くような事件ではない。オペレータが端末1台4万円以上という異常なインセンティブを下げ、異常に高い通話料金を値下げすればいいのである。

10月から、ナンバー・ポータビリティ(MNP)が始まる。その大義名分は「競争の促進」だが、数千億円もかかるMNPに比べて、SIMロックを解除して端末をポータブルにするコストはゼロである。端末をもとのまま使えばいいからだ。欧米で行われている競争促進策は、どんなコストがかかっても業者に強制するが、日本だけでやっている(*)競争制限策は放置する総務省のダブルスタンダードも問題だが、さらに問題なのは、競争を促進する業者を「別件逮捕」する警察と、その尻馬に乗って業者を犯罪者扱いするメディアである

ケータイWatchによれば、今回の事件を警視庁に垂れ込んだのはボーダフォンだという。同社は10月からソフトバンクモバイルになるが、かつてADSLでNTTに対して果敢な価格競争を挑んだソフトバンクが、警察まで使って閉鎖的なビジネスモデルを守ろうとするのは筋が通らない。むしろ率先してSIMロックを解除し、グローバルな端末を使って価格競争を仕掛けることが挑戦者らしいのではないか。

(*)これは事実誤認だった。SIM lockは海外でも行われている。しかしEUでは、これは反競争的な行為として規制され、オペレータは消費者が要求した場合にはロックを解除することが義務づけられている。総務省は、ロック解除が違法行為ではないことを言明し、消費者の求めに応じて解除することを義務づけるべきだ。

追記:TBで指摘されたが、総務省もSIMロックの規制は検討しているようだ。とすれば今度の逮捕は、総務省にも相談しないで警視庁が「暴走」したものと思われる。