自壊する帝国

佐藤優

このアイテムの詳細を見る

ゴルバチョフの登場からソ連の崩壊後までの7年あまり、モスクワに駐在した著者が、ソ連という「帝国」の崩壊する過程を同時代的に体験した記録。政治家だけではなく、反政府活動家や宗教家などとの交流から、ロシア人の内面に入り込み、80年代までにソビエトという帝国が精神的に空洞化し、内部から崩壊していたことを明らかにする。

モスクワ大学の「科学的無神論学科」では、宗教を批判するという名目でキリスト教が研究されていた。宗教が公式に禁止されてから70年以上たっても、ロシア人の心のよりどころはキリスト教だったのである。マルクス主義は結局、そういう求心力を持ちえなかった。レーニンが「弁証法的唯物論」と称してでっち上げた素朴実在論が党の教義となり、精神の問題を完全に無視したからだ。ちなみに、弁証法的唯物論なる言葉は、マルクスの著作には一度も出てこない。

他方、チェチェンにみられるようなナショナリズムは、今なお強い求心力をもち、ロシア連邦の同一性を脅かしている。第2次大戦でドイツを撃退した力の源泉も、イデオロギーではなく、「国土を守れ」というナショナリズムだった。キリスト教も国民国家も人為的につくられた幻想にすぎないが、豊かなシンボリズムをそなえた幻想は、社会主義の貧しい現実よりも現実的だったのである。

ただし、本書は著者の個人的な交友関係を中心とした「ミクロ的」な叙述に終始し、全体状況がよくわからない。あとがきでは、全体の話は宮崎学氏との対談『国家の崩壊』(にんげん出版)を読めと書いてあるが、この本はゴルバチョフと小泉首相を同列に扱う宮崎氏の床屋政談で台なしになっており、おすすめできない。