ついにYouTubeに対して、著作権侵害の訴訟が起こされた。ただZDNetの記事によれば、原告はRobert Turというカメラマンで、YouTubeに「違反1件あたり15万ドルの罰金と、原告の素材の使用差し止め」を求めているだけで、サイトの停止は求めていないので、さしあたり影響は限定的だろう。YouTube側は、ISPを免責するDMCAを根拠にして責任を否定している。

YouTubeは、1日のアクセスが1億回を超える巨大サイトになったが、テレビ局やハリウッドは沈黙しており、MTVやNBCはYouTubeと提携してプロモーション・ビデオを流し始めた。その一つの原因は、YouTubeがアップロードを10分以内に制限しており、短い(画質の悪い)ビデオクリップばかりで、映画やテレビ番組を代替するような「実害」が少ないと見ているからだろう。

この種の問題についての最近の重要な判例は、昨年アメリカの連邦最高裁が出した「Grokster判決」である。Groksterは、Napsterのようなウェブサイトではなく、分散的にファイルを交換するソフトウェアだが、その配布も違法とされた(*)。それに比べると、YouTubeは古典的なサーバ型のサイトであり、かつて敗訴して閉鎖されたMP3.comに近いので、MPAAなどが訴えれば勝てる可能性は高いようにみえる。

しかし著作権訴訟のランドマークとなった1984年の「ベータマックス判決」では、著作権を侵害しない利用が十分あるかどうかが違法行為の基準とされ、Grokster判決も基本的にこれを踏襲している。この基準に照らすと、Groksterで交換されるファイルの大部分は違法な音楽ファイルだったが、YouTubeの場合には"Broadcast Yourself"と銘打っているように、ユーザーが自作のビデオを投稿するという建て前になっており、現実にそういうファイルが多い(人気があるのは海賊ファイルだが)。

またYouTubeは、サイトの利用規約に「著作権法違反の投稿を禁止する」と明記しており、著作者から抗議があると、すぐ違法ファイルを削除している。むろん1日65000件にも上る投稿をすべてチェックすることは不可能だから、放置された違法ファイルも多いが、番組の丸ごとコピーはなくなった。これは、Groksterが違法行為を抑止することを拒否したのと異なる点だ。これまでの多くの判例でも、業者が著作権侵害を奨励したかどうかが違法性の重要な目安になっている。こういう法的な観点からYouTubeをみると、意外に周到な安全対策を講じており、その成功の秘訣は「訴訟対策のイノベーション」といえるかもしれない。

ただ最近は、YouTubeのサーバも負荷に耐えられなくなり、ビデオが途中で止まることが増えた。やはりアーキテクチャとしてはP2Pのほうが合理的であり、「違法ファイルを許さない」と宣言するだけで許されるのなら、同じようなしくみをP2Pで実現するサイトが出てきても不思議ではない。事実BitTorrentは、5月からタイム=ワーナーと提携してP2Pで映画の配信を始めた。

しかし、まだわからない。Napsterを最初に訴えたのも、メタリカのドラマーだった。今回の訴訟が、P2Pのときのような訴訟の洪水のきっかけとなる可能性も否定できない。一連のP2P訴訟のおかげで技術革新は大きく阻害されたが、レコード業界の衰退は止まらなかった。テレビ業界が、その教訓に学んでくれることを祈りたいが・・・

(*)ただし、この判決でソフトウェアの開発者は賠償責任をまぬがれることも確定した。それに比べると、Winny事件でソフトウェアの開発者を逮捕した京都府警は、世界的にも突出した「過激派」である。

追記:この「法律豆知識」は、DMCAの解説が不十分だったので、27日の記事で補足した。