今インターネットで最大の話題は、YouTubeだろう。この奇妙な名前のウェブサイトは、去年できたばかりだというのに、今では1日7000万アクセスを超える巨大サイトに成長した。広告はAdSenseを貼り付けている程度だから、ビジネスとしては成り立っていないし、著作権法違反のコンテンツも多いので、いつまでもつかはわからない。しかし、ビデオ配信で世界中の注目を集めるという、ヤフーもグーグルもできなかったことを、こういう無名のサイトがなしとげたのは教訓的だ。

インターネットが「ウェブとメール以上のものになる」というのは、多くの人々が予想したことだが、たいていの人は(私を含めて)「次世代インターネット」は広帯域でビデオを流すものだと考えていた。その場合のコンテンツとしては、テレビ番組のようなものを想定し、インフラは光ファイバーを想定していた。しかしブロードバンド人口が2000万世帯を超えた日本でも、いまだにビデオ配信はビジネスとして成り立たない。むしろ新しいサービスは、ブログやWikipediaなど、ウェブの発展形として生まれてきた。YouTubeは、こうした「消費者生成メディア」の延長上にある。

こういう経験は、初めてではない。90年代後半、多くの音楽配信サイトができたが成功せず、爆発的な成功を収めたのは、大学生のつくったナプスターだった。またNTTを初めとする大企業がそろって参入し、大がかりな実証実験の行われた電子マネーは失敗に終わり、生き残ったのは「スイカ」など用途を特化したソニーの「フェリカ」だけだった。数年前に「日本発の国際標準」をめざして大規模なコンソーシャムの作られたICタグは、いったいどこへ行ったのだろうか?

この失敗の歴史が教えているのは、新しい技術にとって、政府や大企業が一致して推進するのは、悪い兆候だということである。Web2.0というバズワードに意味があるとすれば、それが「何でないか」ということだろう。ウェブとメールの次に来たのは、高品質・大容量のブロードバンドではなく、マイナーな情報の価値を高める「ロングテール」だった。ビデオ配信も、テレビを模倣するのではなく、YouTubeのようにユーザーからの情報を集積する「ブロードバンド2.0」として出発するのが正解かもしれない。