Who Controls the Internet?: Illusions of a Borderless World

Jack Goldsmith, Tim Wu

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トム・フリードマンによれば、インターネットで経済はグローバルに一体化し、国境はなくなり、政府は無力になる――こういうビジョンは新しいものではない。1996年にJ.P.バーロウは、肉体も領土もないサイバースペースは国家から独立する、と宣言した。しかし、それから10年たった現在の状況が示しているのは、インターネットの世界でも各国政府は有効であり、国内法は必要だということである。

本書は、2人の若い法学者が、インターネットで起こっている現実を分析し、「ボーダーレス・ワールド」が幻想であることを実証したものだ。たとえばP2P技術は、知的財産権への挑戦とみられたが、Napsterは訴訟に敗れた。その後あらわれたKazaaは、本社をバヌアツに登記するなどして各国法の支配を逃れたが、ビジネスとして成り立たず、サービスを停止した。違法性の強いサイトには、大企業は広告を出さないし、クレジットカードの口座もつくれないからである。

サイバースペースで「評判」による自生的秩序を可能にしたようにみえたeBayも、大規模な詐欺事件が起こるようになって、内部に監視システムを設置した。さらに国際展開のなかで、各国法の違いによる事件(ナチ商品の販売禁止など)が起こるようになった。こうした紛争を解決するうえでは法秩序の安定性が重要であり、eBayが進出している26ヶ国はこういう基準で選ばれている。これはYahoo!の進出している27ヶ国とほとんど同じであり、両社とも(財産権の保護が弱い)ロシアを避けている。

インターネットは、ある意味ではリバタリアニズムの社会実験だった。それが世界規模の実験になってから10年たった結果は、主権国家から切り離された「独立空間」としてのサイバースペースは、可能でもなければ望ましくもないことを示している。日常的な秩序の大部分は、法律ではなく習慣的な規範や評判によって成立しているというリバタリアンの主張は正しいが、その秩序が政府の強制力なしで維持可能だという結論は誤りである。そうした日常的な規範を意図的に侵害する犯罪者が出現した場合の「ラスト・リゾート」としての国家の潜在的な役割は、想像以上に大きいのである。