村上世彰氏が起訴された。案の定「聞いちゃった」という記者会見のストーリーは、検察の証拠で崩され、故意を認めて「完落ち」した、というお粗末だ。この筋書きは、ほとんど『ヒルズ黙示録』と同じだが、違うのは、大鹿記者がライブドアの「決断」を05年1月17日としているのに対して、当の村上氏がそれを04年11月8日までさかのぼる検察の筋書きを丸呑みしたことだ。

常識的には、ライブドアがまだニッポン放送株を買っていない段階で、一社員から「願望」を聞いただけで、それを「5%以上買い占める」という重要事実だと認定するのはむずかしいはずだが、検察には決め手があったらしい。NHKのニュースによれば、「N社について」という企画書とは別に、04年11月に「ITとメディアの融合をうたった事業計画書」(*)を村上氏が書いてライブドアに渡していたという。これが事実なら、相手がそれに同意すれば重要事実と考えても無理はないだろう。

しかし、村上氏が抱えていたニッポン放送株をライブドアに買わせて売り抜けたという行為は、インサイダー取引にあたるのだろうか。この場合は、逆にライブドアが(村上氏が買い占めるという)「重要事実を知つて買い付けた」インサイダーになるのではないか。これに該当する条文が証取法にないからインサイダー取引として起訴するのだとすると、おかしな話である。公判で、弁護人が「起訴事実は証取法167条違反に該当しない」と主張したら、どうなるのだろうか。

167条では「公開買付け等の実施に関する事実を当該各号に定めるところにより知つたもの」が当該有価証券を買い付けてはならない、としているが、村上氏は自分から仕掛けたのだから、ライブドアに聞いて「知つた」わけではない。これは確かに不正行為ではあるが、インサイダー取引とは違う類型の犯罪である。前にも紹介した郷原信郎氏や小幡績氏のいうように、157条の包括規定で起訴して、判例で類型を規定するのが本筋だったのではないか。

(*)この「事業計画書」は、NHK以外のメディアには出てこない。NHKのスクープなのか誤報なのか不明だが、私の経験では、NHKの司法クラブがこういう危ないネタで他社を抜いたことはないので、後者である疑いが強い。

追記:47thさんから、コメントとTBで詳細な解説をいただいた。それによると、問題はむしろ村上氏とライブドアの行動が「共同買付」にあたるかどうかだという。両者が一体の「共同買付者」である場合にも167条を適用すると、「5%以上買い付けることを決定したファンドが、その事実を公表せずに買付を行うこともインサイダー規制に該当する」というおかしなことになり、企業買収の実務に影響が大きいそうだ。法律ってむずかしいですね。