Knowledge And The Wealth Of Nations: A Story Of Economic Discovery

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知識が経済にどのような影響を及ぼすかを、Paul Romerの有名な論文を中心に描いたもの。率直にいって、もとの論文を読んだ人には読む価値はないし、逆に論文を読んだことのない人には、本書の解説だけを読んでも、モデルの構造は理解できないだろう。ただ、知識や情報が経済学でどのように扱われてきたかという経済学史的なおさらいとしては、わかりやすく書かれている。

アダム・スミスやマルクスのころから、技術革新(マルクスのいう「資本の有機的構成の高度化」)が経済成長の最大のエンジンであることは認識されていたのに、新古典派は「完全情報」の世界を仮構することによって、知識の問題を無視してしまった。新古典派成長理論は、技術進歩を(理論的に説明できない)残差項としてモデルの外に出したが、実証研究によって明らかになったのは、皮肉なことに、成長の最大の要因がこの「残差」だということだった。

このパラドックスを解決し、技術革新を内生的に説明したのが、Romerの論文である。そのポイントは、情報は「非競合的」な資源だから、技術情報が社会全体に「スピルオーバー」することによって、研究開発の効率が高まる、という考え方である。いま社会全体に蓄積された知識の量をA、生産性パラメータをδ、研究開発に使われる人的資本をHAとすると、知識の増分⊿Aは、社会全体に蓄積された知識のストックに依存する。

⊿A=δHAA

つまり、教育や訓練によって労働者が身につける知識は、追加的な投資なしに社会全体で利用できるので、知識を利用すればするほど人的投資の単位コストが低下する「収穫逓増」が生じるのである。この「内生的成長理論」は、1990年代に大流行したが、これは「情報こそ最大の生産要素である」という常識的な事実を、経済学が遅まきながら定式化したというだけで、著者が強調するほど画期的な発見ではない。ただ、普通はBenklerの本のように曖昧にしか語られない情報共有と経済的なインセンティヴの関係を定量的に明らかにし、計量的に検証可能にしたという点では重要である。