「村上ファンドに捜査」というニュースが、けさの各紙に大きく出た。しかし捜査が行われていることは、Economist誌でさえすでに報じた周知の事実だから、ニュースではない(*)。ニュースは、検察がこういう「観測記事」にGOを出したということだ。ライブドアの捜査で「主役」である村上ファンドの立件に自信をもったのか、それともシンガポールに証拠書類を全部移す前に強制捜査するということか。

もちろん村上氏も、捜査当局の動きを知っているはずだ。シンガポールに移る話も、最大の目的は捜査を逃れるためだろう。しかし、与謝野金融財政相も「ファンドの本拠地がどこにあろうと、日本の株式に投資しているかぎり、日本の法律が適用される」とコメントしている。シンガポールに亡命でもしないかぎり、捜査を逃れることはできない。

焦点は、ライブドアの時間外取引によるニッポン放送株の買収が、村上ファンドの筋書きによるものだったかどうかだ。『ヒルズ黙示録』も示唆しているように、その疑いは強い。ニッポン放送株を買い集めて、ホリエモンに買収の話を持ちかけたとすれば、明白なインサイダー取引である。時間外取引を利用する手口も、村上氏が去年、阪神株を買収したときと同じだ。

しかし最大の焦点は、村上氏ではない。彼の力のかなりの部分は、宮内義彦氏のバックアップに依存している。村上氏の荒っぽい手法が、これまで公的にはそれほど問題にされなかったのも、日本の企業には「資本の論理」が必要だ、という宮内氏の正論があったからだ。そのオリックスが、今度の引っ越しを機に手を引いたのは、情勢の変化があったからではないか。

もしも村上ファンドに強制捜査が入ったら、少なくとも宮内氏の結果責任はまぬがれない。当局が慎重に捜査しているのも、ひとつ間違えると、財界全体を敵に回すことを恐れているからだろう。検察の「国策捜査」の筋書きには、どこまで入っているのか、しばらくは目が離せない。

(*)ただ、Economistの記事がウェブに出たのは、日本時間のきょう午前0時ごろで、各紙に出たのは、けさの朝刊だから、もしかすると、このEconomistの記事が「解禁」のきっかけになったのかもしれない。