行動経済学 経済は「感情」で動いている

光文社

このアイテムの詳細を見る

きのうの記事でも少し言及した「行動経済学」の入門書。中心はKahneman-Tverskyのプロスペクト理論やフレーミング理論だが、多くの実例でわかりやすく解説されている。この種の理論は、経済学者はバカにしていた(2人とも心理学者)が、2002年にKahnemanがスウェーデン銀行賞を受賞して、にわかに注目されるようになった。

経済学、とくに消費者行動の理論は、本来は心理学の領域である。「限界効用が逓減する」などという事実は実証されてもいないし、そもそも一意的な「効用関数」が存在するかどうかも疑問だ。Kahneman-Tverskyは実証データによって効用理論を否定し、「感情」によって消費者行動が決まる「価値関数」を導いた。ゲーム理論を使った「実験経済学」でも、ナッシュ均衡が実現することはほとんどない。

しかし今でも多くの経済学者は、この種の理論に懐疑的だ。それはこういう理論が正しくないからではなく、正しいと困るからだ。消費者の主観的均衡が成立するには、効用関数が連続で凸であるといった条件が不可欠である。価値関数のように非凸だと、均衡がひとつに決まらず、経済学の体系全体が崩れてしまう。

これは実証科学では当たり前のことだ。理論が現実にあわないときは、理論を現実にあわせるべきであって、その逆ではない。行動経済学は、今のところは経済システム全体を説明する厳密な理論にはなっていないが、著者もいうように「厳密に間違っているよりは大ざっぱに正しいほうが役に立つ」。一方では「経済物理学」のように、市場データを正確にシミュレートする理論も生まれているから、そのうち現在の均衡理論とはまったく違う「21世紀の経済学」が生まれるかもしれない。