村上ファンドの阪神電鉄に対する株主提案が話題を呼んでいる。阪神側が反発する最大の理由は、村上ファンドが経営権を握ったら不動産事業などを「切り売り」するのではないか、との懸念だという。しかし、これこそ投資ファンドの存在理由だ。

1980年代の米国でも多くの投資ファンドが登場し、「多角化」で水ぶくれした企業をLBOで買収し、不採算部門を売却するなどして効率化した。その理論的支柱となったのが、Michael Jensenの有名な論文である。Jensenは、成熟産業の経営者は余ったキャッシュフローを「帝国建設」的な規模拡大や多角化に使う傾向が強いので、それを阻止して利益を投資家に還元する手法としてLBOは重要だと指摘した。

LBOの効果には、賛否両論ある。米国でも社会的には「拝金主義」として批判を受けることが多く、Barbarians at the Gate(『野蛮な来訪者』)やDen of Thieves(『ウォール街・悪の巣窟』)など、企業買収を批判するノンフィクションがたくさん出た。しかし経済学的には、米国の資本主義が80年代までの閉塞状況を脱却するうえで、こうした「企業コントロールの市場」が大きな役割を果たしたという肯定的な評価が多い。

日本では、企業は「共同体」という意識が強いので、いまだに藤原正彦氏のように企業買収そのものに嫌悪を示す人が多く、特に事業売却はよほど追い込まれないとやらない。しかし今回のNHKをめぐる議論でもわかるように、企業に「規模を縮小せよ」と説得するのは無駄である。市場の力で適正規模に縮小させるしかない。資本市場が機能していなくても、効率の悪い企業は最終財市場から退場させられるから、市場が最強のガバナンス装置なのである。