Avner Greif, Institutions and the Path to the Modern Economy : Lessons from Medieval Trade は、中世の経済史をゲーム理論で分析した先駆的な業績である。この組み合わせだけみると、好事家的なトンデモ本みたいだが、著者はスタンフォード大学の教授である。経済史学会賞を受賞したばかりでなく、世界計量経済学会で経済史の専門家が招待講演を初めて行うという快挙もなしとげた。

基本的な考え方は単純で、要するに無限繰り返しゲームの「フォーク定理」を中世の地中海で活躍したマグレブ商人の共同体に適用し、1次史料で実証したものだ。彼らはユダヤ人で、その「身内」の長期的関係を維持して情報を濃密に共有し、借金を返さないような裏切り者は共同体から「村八分」にする強力なメカニズムによって取引の安全性を確保した。

しかしこの共同体は、近世になって商圏が拡大すると、司法的に取引の安全を担保するイタリア商人に敗れる。それは、身内とよそ者をきびしく区別するマグレブ商人の共同体がオープンな取引を阻害し、新しい相手との取引を困難にするためだった。この話は、「グローバリズム」を否定して身内の共同体ばかり大事にしていると、結局は経済そのものが没落するという点で、現代の日本への教訓ともなるかもしれない。