竹中総務相が「マスメディア集中排除原則」の見直しを示唆した。この規制は、今まで何度も「見直し」ては、結局なにも変えないままに終わっている。最大の障害は、地方民放を私物化している政治家が、再編成を拒んでいることだ。他局に買収されたら、「お国入り」をローカルニュースで放送させるなど、宣伝塔として使うことができなくなるからだ。

この原則が1950年にできたときは、米国のようにローカル局が自主編成を行って多様な番組を放送することを想定していた。ところが現実には、地方民放とキー局の資本関係は(集中排除原則のおかげで)20%以下なのに、地方局の番組の90%近くはキー局の垂れ流し、という奇妙な系列関係ができてしまった。この規制は地方民放を過小資本にしただけで、言論の多様性には何も貢献していない。おかげで、民放連の圧倒的多数を占める地方民放がキー局よりも大きな発言力をもち、放送業界の近代化をさまたげてきた。これは、貧しくても頭数の多い途上国が国連を支配しているのと同じ構図である。

この「途上国」は、資本力が弱く経営基盤は不安定だが、危なくなったらキー局からもらう「ネット料」を増額させるので、つぶれる心配はない。地上デジタルは、ある面ではこの「放送業界の癌」を設備投資負担でつぶすための計画だったが、地方民放は政治家を使って「アナアナ変換」に国費を投入させ、ピンチを逃れた。しかし今後のデジタル化投資は、自己資金でやらざるをえない。キー局も、集中排除原則があるかぎり、設備投資を補助することはできない。

放送のデジタル化を効率的に進めるには、集中排除原則を撤廃して、地方民放をキー局の子会社にし、県域ごとの無駄な投資を省く必要がある。局舎は、たとえば九州なら福岡に1局あればよく、他の県には中継局と取材拠点があればよい。せまい日本で、県域ごとに免許を出す制度も改めるべきだ。またインフラは県ごとに統合して「受託放送事業者」とし、NHKも含めた共同中継局を建てるのが合理的である。

ただ、先日のICPFセミナーで深瀬槇雄氏も指摘したように、竹中氏の構想を小泉政権で実現するのはむずかしい。竹中氏は、6月までに通信・放送懇の結論を出して「骨太の方針」に入れるつもりらしいが、今はおとなしいNTTやNHKも、その既得権を脅かすような結論が出たら、激しいロビイングを展開するだろう。「死に体」になりつつある小泉政権に、その抵抗を押し切って改革を実行する力があるかどうかは疑わしい。本格的な改革は、次の政権がどうなるか次第だろう。