このごろ、ほとんど毎日のように「市場原理主義」という言葉を目にする。しかも、それが肯定的な意味で使われることはまずない。たとえば今月の『文芸春秋』でも、例の藤原正彦氏が、ライブドア事件の元凶は小泉構造改革であり、日本社会に格差が広がっている原因も、市場原理主義だという。それに対する彼の処方箋は、「武士道」に回帰し「日本型資本主義」を広めることだ。

所得格差は、日本でも多くの経済学者が論じてきたテーマであり、そのほぼ一致した結論は「見かけ上の所得格差は拡大しているが、その主な原因は高齢化だ」ということである。高齢者はもともと所得格差が大きいから、人口の高齢化にともなって所得格差が開くのは当然であって、これは市場原理とも規制改革とも関係ない。

若者にフリーターのような非正規労働者が増えていることは事実だが、その原因は企業が退職者の不補充(新卒の採用抑制)によって雇用調整をしているためである。つまり中高年労働者の既得権を守る「日本型資本主義」が雇用調整を遅らせ、若年労働者の失業率を高めているのである。

市場原理主義が猛威をふるっているはずの日本で、「まちづくり三法」の見直しで郊外への大型店の出店が事実上禁止され、高速道路整備計画では今後9300km以上の「全線建設」が決まった。市場原理をきらい、「弱者保護」を理由にして既得権を守るのは、自民党の古いレトリックだが、藤原氏のような無知な「有識者」がそれを(結果的には)応援しているのである。