NTTドコモがフジテレビに出資した。といっても、その比率はフジテレビ全株式のわずか2.6%である。こういうのを出資というのだろうか。この原因は、NTT(グループ)が放送局に出資する比率を3%以下に制限する「3%ルール」があるからだ。ところが、この3%ルールは、総務省のホームページを検索しても見つからない。法令にもとづかない口頭の「行政指導」だからである。

この背景には「巨大なNTTが放送に進出してきたら、資本力の弱い放送局は呑み込まれてしまう」という放送業界の危機感がある。2001年末にIT戦略本部が「通信・放送の水平分離」を打ち出したときにも、民放連や新聞協会は「抗議声明」を出してこれを阻止した。通信と放送の「垣根」は守る一方、コンテンツとインフラの「分離」は許さないというのが、放送業界の主張である。

他方、NHKのインターネットへの配信にも「1週間以内のニュース・教育・福祉番組に限る」という(同じく法的根拠のない)「ガイドライン」がある。このため、NHKのアーカイブにある(オンラインで提供可能な)180万本もの番組のうち、インターネットで提供されているのは1%にも満たない。こいう規制を要求したのも、NHKと番組内容で競争できない民放連だ。

こういう話は、どこかで聞いたことがないだろうか。金融関係者なら、1980年代の金融制度調査会で似たような論争があったことを覚えているだろう。1984年に日米円ドル委員会で金融自由化が決まったあとも、業界は自由化を銀行と証券の「垣根問題」ととらえた。とくに証券業界は、巨大な資金量とメインバンクとしての強い影響力をもつ銀行が証券業務に進出するのを恐れ、「興銀証券」の名前に「銀」の字を入れるかどうかといった論争を延々と続けていた。

日本でそんな縄張り争いをしている間に、世界では金融技術の急速な発達によって、銀行と証券の垣根がなくなる一方、金融仲介機能と決済機能の水平分離(アンバンドリング)が進み、日本はすっかり取り残された。そのあげく、自由化された大口定期預金の高コスト資金を持て余した銀行は不動産融資にのめりこみ、バブルの発生と崩壊によってファイナンス(金融・証券)業界全体が沈没してしまったのである。

似ているのは、それだけではない。ファイナンス業界にこうした構造変化が起こったのは、オプションなどの派生証券(derivatives)によってすべての金融商品の機能が実現できるようになったからだ。通信・放送業界で派生証券に似た役割を果たしているのがIP(Internet protocol)である。コンテンツをIPのパケットにカプセル化すれば、どんなインフラでも通るので、通信と放送の垣根はなくなり、コンテンツとインフラは自然に水平分離されるだろう。

類比がここから先も続くとすれば、「竹中懇談会」でも3%ルールやNHKのインターネット配信規制などをめぐって不毛な垣根論争が繰り返され、通信も放送も世界の流れに取り残されるかもしれない。それを避けるには、規制を全面的に撤廃する「ビッグバン」を行い、行政は民間のビジネスに介入しないでルール違反を取り締まるだけの機能に縮小するしかない。

かつて英国では、サッチャー政権によって1986年にビッグバンが行われたが、橋本政権で「日本版ビッグバン」が始まったのは1996年である。この10年の差が、ファイナンス業界の競争力に決定的な差をもたらした。日本でも、必要なのは通信・放送の利害調整ではなく、ビッグバン的な抜本改革である。