古典的な名著『<帝国>』の続編の邦訳、『マルチチュード』(NHKブックス)が出た。しかし残念ながら、その出来は前著に遠く及ばない。

前著の弱点は、<帝国>に対峙するはずの「マルチチュード」の概念が抽象的で曖昧だということだった。著者もそれはわかっていたらしく、その部分を補うのが本書だが、上下巻600ページあまりを読んでも、その曖昧さは変わらない。

「反グローバリズム」運動を評価しているようなしていないような書き方で、具体的な運動論としてはほとんど何も書かれていない。「新自由主義」に対する批判も通俗的だし、知的財産権に対する批判も常識的だ。それに対置してインターネットやオープンソースがマルチチュードのモデルとして出てくるのも、「今ごろ気づいたの」という感じだ(私も前著の書評で書いた)。

そういうモデルがサブシステムとして成り立つことは、わかっている。問題は、それがグローバル資本主義の<帝国>に取って代われるような完結したシステムなのかどうかなのである。このへんについては、はっきりいって著者のどちらもインターネットを理解していないから、まったく議論になっていない。