Bolton-Dewatripontをざっと読んだ。教科書としては現状でベストだと思うが、私のもっとも関心のあった「完備契約と不完備契約を統一的に説明する」という部分は、Maskin-Tiroleの批判とHart-Mooreの反論を紹介するだけに終わっている。

これは、ある意味ではやむをえないことで、現在の経済学のなかで両者を統一することは不可能といわざるをえない。というのは、争点は「契約後に再交渉しないことにコミットできるかどうか」ひらたくいえば「約束を最後まで守れるかどうか」ということにつきるからだ。契約が終わったあとでPareto-improvingな再交渉が可能な状況というのはよくあることで、普通は再交渉が起こる。

これを最初からrenegotiation-proofな契約を設計しようなどと考えると、恐ろしく複雑な話になり、本書でも結論は出ていない。日本の会社がやっているのは逆に、再交渉することを前提に最初はアバウトに決めて、「細かいことは終わってから詰める」というやり方だ。石油や板ガラスなどでは、取引が終わってから価格交渉をやったりする。

だから最後は、契約理論でブラックボックスになっている契約のenforcementのメカニズムが鍵になる。これを裁判所と考えるのは単純すぎ、現実には暗黙の社会的規範や「お互いに無茶はいわない」という長期的関係が担保だったりする。こういう制度の問題を考えないと、契約だけでcompleteな世界はできないので、むしろ経済学の「下部構造」として法(成文法とはかぎらない)の層があるのだ。