NHKを民営化すべきだというと、多くの人から返ってくる反論が「今の民放みたいな下らない番組を作るようになるから反対だ」というものだ。しかし、この心配に対するわかりやすい反例は、衛星放送である。

BSが15年前に始まったとき、黒字になると思ったNHK職員は(私を含めて)ほとんどいなかった。それが今や視聴者1500万人を超え、この種の有料放送としては世界有数である。これは「受信料」という建て前になっているが、実質的には衛星のアンテナを立てている人だけから取る「視聴料」であり、欧米のペイTVと基本的には変わらない。BSの成功は「いい番組は長期的にはペイする」という教訓を示唆している。

他方、今後ハードディスク録画が普及すると、CMをスキップすることが容易になり、従来の広告収入に依存した民放は斜陽産業になるだろう。インターネット上のサイトと同様、情報を売ってもうけるビジネスモデルを考えなければならない。これは現在もケーブルテレビで始まっているモデルであり、今後はこちらが主流になるだろう。つまり民営化されたNHKは「未来の放送=通信」の先例となりうるのだ。

これは、NHKをすべて民放と同じ株式会社にすべきだという意味ではない。視聴料ベースにしても、非営利の公共放送にする方法はある。NHKが他の特殊法人と違って健全なのは、受信料を直接徴収するため、顧客(視聴者)を意識せざるをえない点にある。今回の辞任劇では、このメカニズムがちゃんと機能した。NHKをチャンネルごとに別会社にし、芸能などは株式会社にしてもいいが、総合テレビ(24時間ニュース)は非営利のNPO法人とするのがいいかもしれない。