eエコノミーの衝撃
いま読み返すと、目次を見ただけで笑ってしまう。「サイバー・ビジネスの台頭」とか「tエコノミーからeエコノミーへ」などというのは、当時(といってもわずか1年半前の本だ)ありがちな勘違いのあまりにも典型的な見本だ。

これは、彼が無断でソニーの社外取締役になって一橋大学をクビになった事件のあと出たものだが、至る所に出井社長(当時)の言葉やソニーの宣伝が出てきて、とても読むに耐えない。話の大部分も週刊誌の受け売りで、特に技術的な記述は間違いだらけだ。数えてみたら、20ヶ所以上あった。ざっとこんな調子だ:
  • 普通の製造業は「収穫逓減」だが、情報産業では「収穫爆発」が起き、大きい者が「ひとり勝ち」する。
  • 自動車産業では「規模の経済」が大きいので「モジュール化」が行われる。
  • プレステ2はインターネットと接続し、家庭のすべての娯楽を実現する「エンタテインメント万能機」になる。
ある研究会でこの話をしたら、三和総研のスタッフが「そうなんですよ。われわれも困ってるんです」と心配して、三和総研の研究会に招かれた(さすがに理事長は欠席だったが)。こういう通俗的な誤解が起こるのは、インターネットを「eコマース」などの表面的なビジネスの面だけでとらえているからだ。インターネットはTCP/IPというプロトコルであり、サービスではないのだ。

こんな「社外取締役」を使うソニーも迷惑だが、まあ出井氏の勘違いぶりも似たようなものだから、いいコンビかもしれない。 見逃せないのは、こういう話が経済学用語を使って学問的な装いで行われていることである。これは経済学者の恥だ。