まぐれ―投資家はなぜ、運を実力と勘違いするのか
経済学では、株式市場の情報はすべて株価に織り込まれているので、市場に勝つことはできないと教える。では年率80%以上の収益率を上げるファンドは、何か魔法でも使っているのだろうか? 

著者は、それはただの「まぐれ」だという。そういう天才投資家をつくるのは簡単だ。架空のファンドマネジャー1万人をコンピュータの中につくり、最初の年に半分が1万ドルもうけ、半分が1万ドル損をして退出する・・・というシミュレーションを繰り返すと、5年目には313人が5年連続で合計5万ドルもうける。 しかしメディアは彼らを賞賛し、その投資術を書いた本がベストセラーになるかもしれない。

こういう錯覚を「生存バイアス」とよぶ。負けた人々が目に入らないため、まぐれ当たりの成功者の結果論がもてはやされるのだ。10年ほど前、人々は「金融工学」を使えば確実にもうかると信じ、ノーベル賞受賞者を擁したファンド、LTCMは莫大な資金を集めたが、世界的な金融危機で破綻した。

普通の確率論では、この暴落の幅は「標準偏差の10倍」で、数百億年に1回しか起こらないはずだった。それは市場の出来事が正規分布に従うと仮定しているからだが、実際の相場の動きは正規分布とはほど遠い。  

著者は、このように人々の行動を確率という人工的な概念で理解することによる失敗例をあげ、市場をメカニカルにとらえる経済学を嘲笑する。経済学は、ニュートン力学の厳密性にあこがれてそれをまねたが、結果的には穴だらけの、ほとんど占いと変わらないものなってしまった。

彼は、経済学はこういうインチキな理論を忘れ、ハイエクから出直すべきだという。人間の行動を決めるのは物理ではなく心理であり、それは不完全な情報と不合理な感情に動かされるものだ、という当たり前の事実を認めることから出発するしか、経済学が役に立つ学問になる道はないだろう。