インターネットが生み出すグローバル独占

デジタルエコノミーの罠
情報の豊かさは,それが消費するものの稀少性を意味する.情報が消費するものは,かなり明白である.それは情報を受け取る人の関心を消費するのである.したがって情報の豊かさは関心の稀少性を作り出し,それを消費する膨大な情報源に対して関心を効率的に配分する必要が生じる。
これは私が1997年に出した『情報通信革命と日本企業』の第1章の冒頭に掲げたハーバート・サイモンの言葉である。本書も第1章にこのサイモンの言葉を引用し、「関心の経済」によって産業構造が大きく変わったと論じている。

インターネットの初期には、自律分散ネットワークで誰もがコンテンツを世界に発信できるようになり、メディアは民主化すると予想する人が(私を含めて)多かった。私は要素技術のモジュール化で、巨大企業の脱統合化が起こると予想した。

このモジュール化という概念はブームになったが、脱統合化は必ずしも正しくなかった。IBMのような巨大企業が敗北し、インテルとマイクロソフトのような「水平分業」が進んだという意味では正しかったが、いま起こっているのはかつてのIBMを上回るGAFAの独占である。その原因は何だろうか。続きを読む

「人工知能」の幻想をヒュームが破壊する

人間本性論 第1巻 〈普及版〉: 知性について
西洋の近代哲学はカントに始まったといわれるが、彼を「独断のまどろみ」から覚ましたのはヒュームだった。カントはヒュームの問題を解決して「コペルニクス的転回」を実現したというが、それは間違いだったとラッセルは『西洋哲学史』で指摘している。

ヒュームの問題は、きわめてシンプルである:経験的な観察から法則は帰納できない。きょうまで太陽が昇ったという事実から、あすも昇るという普遍的な法則は論理的に導けないのだ。

これは当たり前のようにみえるが、それが正しいとすると、ニュートン力学に始まる近代科学は単なる経験則で、厳密な法則ではありえない。同時代に、このパラドックスの深刻さに気づいたのはカントだけだった。

彼はそれを解決するために『純粋理性批判』を書いてニュートン力学を正当化しようとしたが、これは「太陽があすも昇るという先験的主観性があるから昇る」という循環論法だった。それを批判したヘーゲルは壮大な観念論の体系を築いたが、彼も解決できなかった。近代哲学はヒュームに始まり、ヒュームで終わったとラッセルはいう。続きを読む

期限つき「デジタル政府紙幣」がバラマキの歯止めになる



期限つきで通貨を発行する提案は、私が初めて考えたものではない。1914年にシルビオ・ゲゼルは、1ヶ月で価値のなくなるスタンプつき紙幣を提案し、ケインズは「未来はマルクスの精神よりもゲゼルの精神から多くを学ぶだろう」と高く評価した。

続きはアゴラ

ITによる投資不足を社会保障の赤字が埋めた

いまマクロ経済学の主流は「ニューケインジアン」と呼ばれているが、その中身はケインズとは無関係な新古典派の均衡理論である。サマーズはこれを否定し、「新しいオールドケインジアン経済学」が必要だという。

ニューケインジアンは経済はつねに均衡に戻ると想定し、それが価格硬直性で一時的な不均衡状態にあるだけだと考える。しかし日本でこの20年、欧米ではこの10年続いてきたゼロ金利(マイナスの自然利子率)は、この投資不足(貯蓄過剰)が一時的なものではないことを示している。その原因としてサマーズがあげるのは、次のような構造的要因である:
  1. 高齢化による耐久消費財や住宅の需要不足
  2. 情報技術革新による資本財の価格低下
  3. 巨大企業の独占による新規投資の阻害
  4. グローバル化による所得格差の拡大
このうちケインズの時代にもみられたのは3ぐらいで、あとは21世紀に固有の現象だ。特に2から4は1980年代に始まったIT革命の影響である。蒸気機関や電力のような汎用技術の影響が社会全体に広がるには半世紀ぐらいかかるのが経験則だが、ようやくITの社会的影響が(意図せざる形で)出てきたのかもしれない。

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Rachel-Summersは、これを計量分析で明らかにしている。それによると図のように1980年代から民間部門の投資不足は増加しており、先進国全体で自然利子率は3%ポイント下がった。もし公的部門の財政赤字(特に社会保障)がなかったら、7%ポイント下がっただろうと推定している。

続きは11月30日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで(初月無料)。

ニューラルネットは民主主義

脳・心・人工知能 数理で脳を解き明かす (ブルーバックス)
いま人工知能と呼ばれているのは知能ではなく機械学習で、そのハードウェアはPCなどとは違うニューラルネットである。これが実装されるようになったのは1990年代だが、甘利俊一氏は70年代にその原理を論文で数学的に定式化した。時代の先を行きすぎてハードウェアに実装できなかったが、これが今の深層学習の原型である。

脳の情報処理は、外界からの刺激によるニューロンの興奮の伝達で行われる。たとえば猫の映像は網膜で多くの画素に分解され、ニューロンはその刺激を隣のニューロンに伝える。こうした多くの刺激を総合して画像認識が行われ、そのとき多くのニューロンの出力の重みWの合計で出力値(猫か否か)が決まる。

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日経XTRENDより

これをモデルにしてニューラルネットでは素子の入力層と出力層の間に中間層を設定し、出力値を答と照合して誤差に応じて重みを補正する。これは1990年代に誤差逆伝播法として実用化されたが、この重みづけの変化を微分方程式で表現したのが甘利氏の確率降下学習法だった。

多くのニューロンが猫と知覚したら猫と判断する脳のしくみは、民主主義に似ているという。出力の重みは人間の影響力のようなもので、多くの人が賛成すると重みが大きくなる。他人に影響されやすい人が多いと社会全体が興奮しやすく、付和雷同が起こる。続きを読む

新型コロナはこわい病気なの?

新型コロナの「第3波」が来たとマスコミが騒いでいます。政府はGoToを見直したりして、また自粛が強化されそうですが、本当に大変なことになってるんでしょうか。

Q. 死者が2000人を超えたと騒がれてますが、本当ですか?

本当です。NHKの調べではまだ1988人ですが、クルーズ船「ダイヤモンドプリンセス」の14人を加えると累計で2002人です。いずれ2000人を超えるのは時間の問題だったので、この数字には意味がありません。

Q. 毎日の死者は増えてるんですか?

減っています。22日の死者は7人で、ピークの21人から減り、ここ1ヶ月をみても以前と比べて増えているわけではありません。



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コンピュータはいかにして猫を発見したか

人工知能をめぐる議論は、近代の認識論の歴史を繰り返しているようにみえる。1980年代までの初期のAIでは、人間の知能は論理だからコンピュータの論理回路で実現できると考えたが挫折した。その本質的な原因がフレーム問題だった。

たとえば「猫に餌を与える」という動作をロボットにやらせるには、猫とは何か、餌をどうやって口に入れるのか…といったフレームを無限に設定しなければならない。これはカントの認識論に似ている。「物自体」は認識できず、まずカテゴリー(フレーム)に分類する必要があるのだ。

1990年代にニューラルネットで人工知能という曖昧な技術は機械学習に進化したが、フレーム問題は解決できなかった。機械学習は学習で画像や音声を処理する技術だが、その答は人間が与える教師あり学習だから、顔認証や指紋認証はできるようになったが、何も教えないで猫というフレームを発見することはできなかった。
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ところが2012年に、グーグル教師なし学習で猫を発見した。無作為に抽出した1000万枚のYouTubeの動画(いろいろな物体が出てくる)をコンピュータに見せ、人間が何も教えないで、コンピュータが上のような猫のイメージを描いたのだ。この計算には、1000台のサーバで1万6000のプロセッサーをつないで3日間かかったという。

このようにコンピュータがフレームをつくって対象を認識するのが深層学習だが、人間の子供なら誰でも瞬時にできる処理にこれほど膨大なコストがかかるということは、「古い脳」の動作原理がノイマン型コンピュータと根本的に違うことを示している。

続きは11月23日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで(初月無料)。

新型コロナ「第3波」は来たのか

久しぶりにマスコミが、コロナで活気づいている。「新規感染者数が初めて2000人を超えて第3波が来た」とか「東京都で初めて500人を超えた」と騒いでいるが、これは正確にいうとPCR検査の新規陽性者数で、サンプルが一定でないと統計的な意味がない。


図1 コロナの検査数と陽性者数と死者数(7日移動平均)

続きはアゴラ

Chromebookを使ってみた

職場で使っているサブのWindowsパソコンが異様に遅くなってきたので、アマゾンで安いマシンをさがすと、ほとんどがChromebook。日本ではコロナの影響で学校や企業の集団購入が増え、ノートPC市場でのChromebookのシェアが、去年の1%から今年は13%になったらしい。試しに一番安い2万3000円(税込み)のLenovo S330を買ってみた。

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電源を入れると8秒で立ち上がり、重いファイルもサクサク動く。これはHDDがなくなり、すべてeMMCという半導体になったことも大きいが、SSDの(はるかに高スペックの)Windowsマシンより速い。Windowsのように既存のすべてのデバイスに対応する機能を切り捨てたからだろう。

ほとんどの機能をブラウザで実現し、ファイルもクラウドに保存するので、OSはシンプルでセキュリティが高く、ストレージも32GBで十分だ。Windowsアプリは使えないが、Androidアプリが使えるので主要なアプリはほとんど動く。WordやExcelは無料版なので機能には制限があるが、フォーマットが崩れることはない。

問題は日本語と印刷だ。Google日本語入力はインターフェイスが使いにくいが、それ以外のIMEは使えない。キー設定のカスタマイズもほとんどできないので、大量に文書作成する人には物足りないだろう。印刷もChromeOSに対応しているプリンタは少ない。

要するにAndroidタブレットにキーボードがついたようなもので、ソフトウェアキーボードで入力するより楽と割り切れば、サブのマシンとしては買い得だと思う。

続きは11月23日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで(初月無料)。

人新世の「資本論」

人新世の「資本論」 (集英社新書)地球温暖化は現代の宗教である。それは社会主義が崩壊してよりどころを失った左翼がつくった終末論だが、最近は国連も各国政府もそれを信じるようになり、「気候危機で人類が滅亡する」と騒ぐ人が増えた。本書もグレタ・トゥーンベリのような幼稚な話だが、この宗教がどういうものかを知る手がかりにはなる。

著者は1987年生まれだが、この世代には珍しいマル経の研究者である。彼は「近経」のノードハウスの「環境と成長のバランスが必要だ」という議論を(科学的根拠もなく)否定し、パリ協定の2℃目標を絶対化して「地球温暖化で人類は滅びる」と繰り返す。

CO2を削減するには成長率の低下は不可避で、両者の「デカップリング」は幻想だという本書の主張は正しいが、著者は前者を絶対化して成長を否定する「脱成長コミュニズム」なるものを提案する。

その中身は地球環境という「コモン」を共有し、市場価値ではなく「使用価値」を中心にしたアソシエーションをつくろうという陳腐な話だ。著者が生まれたころ社会主義が崩壊したので、それがいかに悲惨だったか知らないのだろう。

宗教とは疑いえない思い込みを共有する集団だとすると、環境派の思い込みは資本主義が地球環境を破壊するということだが、これは迷信である。資本主義で地球環境は劇的に改善されたのだ。その原因は経済成長で世界の人々が豊かになったからである。

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