黒田日銀のマネタイゼーションはなぜ失敗したのか

日本の政府債務が先進国で最悪だということはよく知られている。粗債務ではGDPの236%、純債務でみても152%で、2位イタリアの約2倍だ。国債のリスクが政府債務に比例するとすれば、日本の長期金利はイタリアより高くなるはずだが、図のようにイタリアの金利が最高7%を超えたのに、日本の金利は1%からゼロだ。

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各国の長期金利

この図を見ると、日本やドイツのようなよい均衡と、イタリアやスペインのような悪い均衡があるように見える。日本では国民が政府を信頼しているので、政府債務が増えても金利が上がらないが、南欧では国民が政府を信頼していないので債券市場が国債に高いリスクプレミアムを要求し、金利が上がるのだ。このように金利(国債価格)は予想に依存する複数均衡になっているので「最適な政府債務」は存在しない。

ユーロ圏ではECBが通貨を発行するのに、国債を各国政府が発行する「ねじれ」が債務危機の原因になったが、日本政府は自国通貨を発行できるので、財政をコントロールしやすい。その特権を利用して、国債のマネタイゼーションという禁じ手でインフレ予想を生み出そうというのが、日銀の黒田総裁の発想だったと思われる(そんなことは公言できないが)。

これはよくできた戦略だったが、失敗した。その最大の原因は、財務省が財政赤字を減らしたからだ。マネタイゼーションが危険なのは財政への信頼をなくすからだが、日本はよくも悪くも財政への信頼が強すぎるのだ。財政赤字が減っているとき、それをマネタイズしても国債のリスクは増えないので金利は上がらず、インフレにもならない。黒田総裁は財務省出身なので「消費税を増税するな」とはいえなかったのだろうが、ここに彼の矛盾があった。

続きは4月15日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

新紙幣を「政府の電子マネー」として発行したら…

政府が2024年から新紙幣を発行すると発表したが、キャッシュレス化を進めているとき、時代錯誤な話だ。むしろ脱税の温床になっている1万円札は廃止すべきだ、というのがロゴフの提案である。そこで電子マネーの時代にふさわしい新通貨を考えてみた。



続きはアゴラで。

5Gの電波はプラチナバンドに空いている



第5世代移動通信システム(5G)の電波割り当てについての比較審査(美人投票)の結果が出た。きょう政策カフェでその話をしたが、その結果がちょっとおもしろい。NTTドコモとKDDIが1位と2位で3.7/4.5GHz帯では2枠取ったが、ソフトバンクは最下位で1枠しか取れなかったのだ。その点数は4.7点と、楽天より少ない。

続きはアゴラで。

ゼロ金利では賦課方式の社会保障が効率的になる

ゼロ金利の世界では、いろいろ直感に反する現象が起こる。Blanchard-Summersの指摘でおもしろいのは、賦課方式の社会保障が積立方式より効率的になることだ。社会保障の常識では、若者の所得を同時代の老人に移転する賦課方式は不公平で、積立方式にしたほういいと思われているが、金利が成長率より低い動学的に非効率な社会ではその逆になるのだ。

これを簡単な例で考えてみよう。これから50年間、人口も年齢構成も同じで成長率は1%、金利はゼロとする。いま20歳の若者Aの年収が500万円で毎年1%増えると、50年後の年収は822万円になる。他方いま70歳の老人Bがいて年収ゼロとすると、積立方式では生活できないが、賦課方式でAが収入の10%を社会保険料として払うと、Bは年収50万円になるので得する。

50年後には、積立方式だとAは社会保険料を年金として払い戻すが、金利ゼロだと元本が増えないので、年収は(年金の算定方式によって違うが)毎年60万円ぐらいだろう。しかし賦課方式だと、Aは50年後の現役世代の年収の10%をもらえるので、年収82万円になる。つまり賦課方式で今の老人は明らかに得するが、今の若者も(次の世代がいる限り)得するのだ。続きを読む

大坂なおみ選手は国籍選択しないと「違法状態」になる



パックンが「大坂なおみ選手の二重国籍が認められた!」というコラムを書いているが、これは蓮舫問題のときも出てきた誤解である。これは国籍法の改正ともからむので、訂正しておく。彼の論旨は
日本国籍をキープしたいなら、それを選ぶ「選択宣言」をしないといけない。そして、その後「外国籍の離脱に努める」ことが規定となっている。しかし、それに伴うチェック機能もなければ、離脱に努めていないときの罰則もなにもない

ということだが、これは間違いである。

続きはアゴラで。

財政赤字で将来世代の負担は減る

超高齢化する日本で、世代間格差は大きな問題である。増税を先送りすると財政赤字が増え、そのコストは将来世代の増税になるので、現在世代は子孫にツケを回しているとよくいわれるが、この問題は二つにわけて考える必要がある。

第一は所得分配の問題である。賦課方式の社会保障は、定義によって世代間の所得移転なので、高齢化で現役世代の負担が増えることは避けられないが、これは財政赤字の問題ではない。日本の社会保障は老人の既得権を過剰に認めているので、今の60歳以下には超過負担が発生するが、これは負担の歪みである。この赤字を国債で埋めても、借り換えできれば(政府債務は増えるが)増税しなくてもいい。

第二は資源配分の問題である。これは理論的にはむずかしいが、厳密な証明はブランシャールの論文を読んでいただくとして、ごく大ざっぱにいうと、財政赤字で民間投資がクラウディングアウトされるが、金利(資本収益率)が成長率より低いときは、そのコストは小さい。資本過剰で投資が足りない動学的に非効率な状態では、政府が需要不足を埋めたほうがいいのだ。

今のゼロ金利の状況では財政赤字のコストはゼロなので、政府が借金して需要を作り出し、それをゼロ金利で借り換えれば、現在世代は得をし、将来世代も成長率が上がって利益を得る。つまりゼロ金利がずっと続くとすれば、財政赤字ですべての世代が利益を得るフリーランチがあるのだ。問題はそれがいつまで続くのかということである。

続きは4月15日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

アベノミクスはMMTの実験だった

いよいよ日本の国会でもMMT(Modern Monetary Theory)が出てきた。自民党の西田昌司氏は「安倍政権はすでにMMTをやっている」という。



この指摘は正しい。MMTのケルトンも、最近のインタビューでこう答えている。
日本の経済には十分な余裕があり、これまでもありました。政府債務は過去の財政赤字の単なる歴史的記録です。これによってわかるのは、これまでの赤字財政で日本経済の過熱を招くことはなかったということです。だからこの水準[GDP比240%]の債務を吸収することができたのです。

続きはアゴラで。

イノベーションで長期停滞は脱却できるか

日本が低成長に陥った原因を「イノベーションの不足」や「生産性の低さ」に求める人が多い。

 潜在成長率=資本蓄積率+労働人口増加率+全要素生産性(TFP)上昇率

なので、資本蓄積が飽和して労働人口が減少しても、TFPを上げれば成長は維持できる、というわけだ。それならイノベーションの中心であるアメリカではTFPが上がっているはずだが、次の図のように2000年代前半にITバブルが崩壊したあと、アメリカのTFP上昇率は大きく下がっている。

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ロバート・ゴードンはこうしたデータをもとにして、IT革命の最盛期は終わったと論じている。それはイノベーションが衰退したからではなく、物的設備がコンピュータに代替されて資本コストが大幅に下がったからだ。ITイノベーションは一部の企業には大きな利益をもたらすが、経済全体のGDPは低成長になるのだ。これがマイナス金利の原因である。

続きは4月8日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

安倍政権のバラマキ財政は成功した

国交省の塚田一郎副大臣が更迭された。NHKによると、福岡県知事選挙の集会で彼が4月1日に発言した内容は次のようなものだ。
下関は誰の地盤か。安倍晋三総理大臣だ。安倍晋三総理大臣から麻生副総理の地元への、道路の事業[下関北九州道路]が止まっているわけだ。吉田博美参議院幹事長と大家敏志参議院議員が副大臣室に来て、「何とかしてもらいたい」と言われた。動かしてくれということだ。

吉田氏が私の顔を見て、「塚田、分かっているな。これは安倍総理大臣の地元と、麻生副総理の地元の事業なんだ。俺が、何で来たと思うか」と言った。私はすごくものわかりがいい。すぐ忖度する。

続きはアゴラで。

長期停滞か過剰債務の解消か

きょうからアゴラ経済塾「長期停滞の時代」がスタートする(ネット受講はまだ受け付け中)。これはいま論争中の問題だが、これを考えるとき大事なのは、次の3つの概念を区別することだ。
  • GDP成長率
  • 潜在成長率
  • 可能な潜在成長率
現実のGDPと潜在GDPの差がGDPギャップ(需給ギャップ)である。これまでの常識では2008年の世界金融危機のような大不況が起こったときはGDPギャップがマイナス(需要不足)になるので財政出動が必要だが、時期がたつとギャップは縮小して経済は回復すると考えられていた。ところが金融危機から回復した後も、先進国では低成長が続いている。

これを説明するために出てきたのが、サマーズの長期停滞論である。Fatas-Summersは、これをユーロ圏について次のようなシミュレーションで説明している。2007年の成長率のトレンドが金融危機で大きく下方屈折したが、その後回復した。しかし2011年からEUの緊縮財政で財政支出が削減されたため、さらに成長率が下がったという。

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彼らの計算ではEUが緊縮財政にしないで赤字財政を拡大していれば、図の"Potential11"という成長率には達していたはずだ。つまり潜在成長率とは別の可能な潜在成長率があり、緊縮財政でその達成が阻害された、というのがサマーズの見方である。これによれば需要不足は構造的な問題なので、財政赤字が中長期にも必要だということになる。

これに対する批判も多い。その一つは、2008年までの成長率が過剰債務によって嵩上げされたバブル的な水準であり、今はそれが解消されて正常化する途上だ、というロゴフの批判である。これによればゼロ金利はいずれ終わり、成長率も潜在成長率に収斂するので、財政赤字を拡大するのは危険だ。赤字を縮小することが政治的に困難だからである。

続きは4月8日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。






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