「ジョブ型正社員」の偽善

大学の研究者が、来年3月で雇い止めになるという問題が、最近また話題になっている。これは私が9年前のコラムで書いた「5年雇い止め」と同じ問題である。



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「内部留保」を減らして「一億総株主」を実現する税制改革

岸田首相は、当初は金融所得課税の強化を提唱していたが、来年度の骨太の方針では逆に「貯蓄から投資へ」というスローガンを打ち出し、自民党の経済成長戦略本部は「一億総株主」を提言した。

貯蓄から投資へというのは昔からいわれているが、いまだに日本人の金融資産のうち預金・現金が54%である。アメリカはその逆に株式・投信が48%なので、次の図のような大きな差がついてしまう。この異常なリスク態度が、日本人が貧しくなった大きな原因だ。

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日米の家計金融資産の推移

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人口大逆転:高齢化、インフレの再来、不平等の縮小

人口大逆転 高齢化、インフレの再来、不平等の縮小
日本で長期停滞が続いている最大の原因は貯蓄過剰だというのは経済学者のコンセンサスだが、その原因についてはコンセンサスがない。サマーズは高齢化で貯蓄が増えたというが、日本の家計貯蓄率はほぼゼロになった。年金生活者が貯蓄を取り崩しているためだ。

本書は、高齢化で貯蓄が減ってインフレになると主張する。従属人口(老人や子供)が増えると、消費が生産を上回るからだ。1990年ごろから世界的にデフレ傾向が続いたのは、グローバル化(中国と旧社会主義国の世界市場への参入)で安い労働力が大量に供給されたためだった。

しかしグローバル化は逆転し始めた。コロナで分断された世界は元に戻らない。他方で高齢化は世界中で進み、図のように中国では労働人口が減り始めた。世界的に安い労働供給が減るとインフレの時代になる、というのが本書の仮説である。

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世界の労働人口増加(単位:年間百万人)2020年以降は国連の予想

この仮説の反例にみえるのは日本である。日本は高齢化のトップランナーだが、企業の貯蓄過剰が続き、金利はマイナスだ。本書はその原因は、製造業の空洞化だという。日本のメーカーはアジアに安い労働力を求め、グローバル化して生き延びたのだ。

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泊原発の判決に欠けている「根拠法」

北海道電力の泊原発の運転差し止めを求める判決の判決要旨を読んでみた。まず奇妙なのは「被告は原子炉1号機ないし3号機を運転してはならない」という主文である。これはどんな法律を根拠とし、誰が北電の原子炉運転を止めるのだろうか。

原子炉等規制法で原発の運転停止を命令できるのは原子力規制委員会だけだが、この訴訟には規制委員会が当事者として登場しない。泊原発が規制基準を満たすかどうかを判断するのも規制委員会だけだが、この判決の根拠は憲法13条の「人格権」だけで、運転を止める根拠法が書いてない。

判決本文も異常である。北電の態度が悪かったことへの不満を延々と書き、差し止めの理由は「防潮堤の高さが16.5メートルでは足りない」ということだけだ。

これも規制委員会が規制基準に従って判断することだが、裁判所が勝手に決め、それ以外の論点は無視している。10年かかった割には、ずいぶん荒っぽい判決である。裁判官の苛立ちはわかるが、これでは控訴審でくつがえされるだろう。

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「WGIP史観」を卒業するとき

日本人はなぜ自虐的になったのか:占領とWGIP (新潮新書)
戦後左翼の原点が憲法9条だとすれば、右翼の原点は東京裁判批判だろう。前者はウクライナ戦争でようやくその影響力を失いつつあるが、後者の影響はいまだにいろいろ形を変えて生き残っている。その一つが、江藤淳に始まるWGIP(戦争犯罪情報計画)である。

江藤の話は心情的にはわかるが、WGIPの存在を示す一次資料がなかった。本書がそれを出したのは一歩前進だ。これは高橋史朗氏の発掘した、1948年3月のCIE(民間情報教育局)の広報計画書の草案である。

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この草案にはWGIPという文字列があるが、目的は次の二つである。
  • 日本人が原爆の使用を「残虐行為」だと考える傾向をなくす
  • 日本人が極東軍事裁判の判決を受け入れる
著者も指摘するように、これ以前にWGIPという言葉はアメリカの公文書になく、この後も公表文書には出てこない。WGIPというのは、一時CIEの内部だけで使われた隠語なのだ。

本書のWGIP批判の中身は、江藤以来おなじみの話である。占領軍の言論支配力は圧倒的だったが、それは1952年までの話だ。その後70年も日本の教育やマスコミで「自虐史観」が支配的だった原因をWGIPで説明するのは、ウクライナ戦争を「アメリカのしかけた代理戦争」だというのと同じ陰謀史観である。

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エブリシング・バブルの崩壊

エブリシング・バブルの崩壊 (集英社学芸単行本)
世界同時株安が進行している。ナスダック総合指数は史上最高値の1万6000ドルから27%下がり、日経平均は13%下がった。

今回のバブルの主役は、1990年代末のドットコムバブルと同じくITである。その典型はGAFAMなどのハイテク銘柄ばかりを集めたARKKイノベーション・ファンドで、最高値から62%下がった。

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バブルは必ずしも悪いことではない。1990年代末のITバブルでは、アマゾンやグーグルが生まれた。日本の問題は、むしろバブルに乗ったライブドアなどを社会から追放し、GAFAMのようなグローバル企業を生み出せなかったことだろう。

ただ20年前と比べて、今回のバブルは振幅が大きい。次の図のようにVIX指数(ボラティリティの指標)は、2020年のコロナのとき2008年のリーマンショックのときと同じぐらい暴落し、その後も高い水準のままである。この点ではサブプライム・バブルに似ている。

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リーマン後の世界金融危機とコロナ後の危機には共通点がある。その短期的な原因は、大幅な金融緩和で過剰流動性が生じたことだ。今回も昨年秋までFRBがインフレを無視して量的緩和を続けたため、株式や不動産や暗号通貨のバブルが発生した。それを年末から急に引き締めたため、バブル崩壊が始まったのだ。

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高橋洋一氏の間違いだらけのバランスシート

アゴラの記事に、ツイッターでコメントがたくさん来た。いちいち答えるのは面倒なので、ここでまとめて答えておこう。

いちばん多いのは「日銀当座預金は負債ではないのではないか」という疑問だが、これについては短い答がある:次のように日本銀行の貸借対照表の負債の部に「当座預金522兆円」と記載されており、これが負債であることに疑問の余地はない。

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問題は日銀当座預金に「実質的な債務性」があるのかということだが、これは金利がつくのかという問題に帰着する。これについても、黒田総裁が明確に答えている。彼は今年2月15日の国会で、こう答弁した。

ありうるシナリオとしては、将来2%に物価上昇率が近づいていくと、出口という議論になりますし、一つのあり方として政策金利が引き上がってゆく。そうなると当然、日銀当座預金に対する付利の引き上げなどによって支払い金利が増えてゆくことから逆鞘になる可能性が論理的にはある。

だから日銀当座預金は形式的にも実質的にも負債であり、借方と貸方が一致しない高橋洋一氏のバランスシートは誤りだ。彼が日銀の資産として計上した714兆円の保有国債は、それを買った日銀の負債(大部分が日銀当座預金)と相殺され、連結では統合政府の負債に計上されるのだ。

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国債は日銀以外の民間金融機関も保有しているので、その負債が947兆円(年金債務なども含む)。そして純資産(負債-資産)が540兆円の債務超過である。これは財務省のバランスシートにも書かれている。

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統合政府は540兆円の「債務超過」

このごろ三角関数がいるとかいらないとか論争が続いているが、高校の三角関数は文系にはいらないと思う。それより大事なのは、簿記の知識である。高橋洋一氏は、テレビで「政府の連結バランスシート」と称して、次のような図を出している。

簿記を知っている人がこの図を見たら、驚くだろう。資産と負債が対応していないからだ。複式簿記の基本は借方と貸方をバランスさせることだが、これだと政府は資産超過だから、徴税の必要がない。

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暗号資産の暴落はバブル崩壊の予兆か



暗号資産が暴落している。図のようにビットコインはこの半年で50%以上さがり、「ステーブルコイン」と称するテラUSDは95%以上さがって、ほぼ無価値になった。この原因は単純で、今まで金余りで暗号資産に流れていた余剰資金が、金利上昇で撤退したからだ。

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WSJより

クルーグマンは、こういう投機が投機を呼ぶバブルは歴史上何度もくり返されたものと同じで、時価総額3兆ドルといわれる暗号資産は、サブプライムローンの崩壊がアメリカの不動産バブル崩壊のきっかけになったのと同じ役割を果たすかもしれないと警告している。

特に問題なのはステーブルコインである。暗号資産はドルとの為替レートの変動が激しすぎるので決済手段としては使えないが、為替レートを固定すれば安定する。これがFacebookがリブラで実現しようとしたものだが、連邦政府に阻止された。

他にもテザーやUSDコインなどのステーブルコインがあるが、ドルとペッグしたプリペイドカードのようなもので、暗号資産の意味がない。注目されたのは、そういう担保なしでレートを固定する数学的アルゴリズムを開発したと称して急成長したテラUSDのような無担保型である。

このしくみは複雑だが、ステーブルコインはほとんどの人がドルと換金しないことを前提にした人為的バブルで、すべての保有者が一挙に換金する取り付けが起こると崩壊してしまうのだ。そういう意味では日銀券もバブルだが、そこには決定的な違いがある。

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硫黄島の「時間稼ぎの戦い」

散るぞ悲しき―硫黄島総指揮官・栗林忠道 (新潮文庫)
マリウポリの戦いで、沖縄戦を引き合いに出して「もっと早く投降すべきだった」といった橋下徹氏は、つくづく戦争を知らないんだなと思った。沖縄で日本軍がすぐ投降したら米軍は九州に上陸し、本土決戦でもっと大きな犠牲が出ただろう。

沖縄戦の直前の硫黄島もそうだった。1944年6月にサイパン島が陥落してB29が東京を爆撃できるようになったとき、日本が挽回できる見通しはなくなったので、日本政府は降伏すべきだったが、東條首相は時間稼ぎの戦いを繰り返した。それは戦略的には不合理だが、本土の民間人を救う戦いだった。

栗林忠道は硫黄島の司令官として2万の兵をひきいて戦い、米軍を震撼させた。5日で終わる予定だった硫黄島上陸作戦は36日に及び、米軍の死傷者は2万8000人で、日本軍より多かった。日本軍は全滅したが、米軍は栗林を高く評価し、硫黄島の戦いは2006年に映画化された。



栗林の作戦の特徴は、バンザイ突撃などの無駄な犠牲を出さず、地下壕にもぐって生き残り、敵に最大の打撃を与えることだった。もとより敗戦が確実であることは承知していたが、彼は「子供らが日本で一日でも長く安泰に暮らせるなら、この島を守る一日には意味がある」と考えたのだ。

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