裁量労働の朝日新聞が裁量労働制を批判する偽善

朝日新聞の「裁量労働制を違法適用、社員が過労死」という記事は論理的におかしい。記事のリードはこうなっている。
裁量労働制を全社的に違法に適用し、昨年末に厚生労働省東京労働局から特別指導を受けた不動産大手、野村不動産(東京)の50代の男性社員が過労自殺し、労災を認定されていたことがわかった。
裁量労働制を「違法に適用」したことと「労災を認定」されたことが事実だとしても、この2つの事実から「裁量労働制が過労自殺の原因だ」という因果関係は導けない。これは野村不動産の違法行為であり、裁量労働制の問題ではない。スピード違反で死亡事故が起こったからといって「道交法が死亡事故の原因だ」といえないのと同じだ。

続きはアゴラで。

韓国人はなぜ日本人を恨むのか

韓国の文在寅大統領が「加害者の日本政府が『慰安婦問題は終わった』といってはならない」と発言したが、日韓併合は国際法にもとづく正式の条約であり、日本政府が「加害者」呼ばわりされるいわれはない。しかし韓国人から見るとどうだろうか。

明治維新で日本が急速な近代化を遂げたのに対して、清の属国だった李氏朝鮮の停滞は深刻だったので、金玉均などの独立派は朝鮮を近代国家に改革しようとした。彼らは福沢諭吉の指導で、1884年にクーデタ(甲申事変)を起こしたが失敗し、朝鮮が独立する可能性はなくなった。このため日本は、日清戦争で朝鮮半島の支配権を清から奪った。

これを朝鮮からみると、清を中心とする華夷秩序の中では、朝鮮は「華」の周辺国だったが、日本は「夷」だった。朝鮮の官僚機構は科挙をまねたが、日本は科挙を輸入しなかった。日本を支配していたのは、儒教秩序の中では卑しい身分の軍人(武士)だったからだ。それが成り上がって朝鮮を支配したことが、彼らにとっては屈辱だった。「われわれは日本人の兄貴分だ」という気分は、今でも韓国人には残っている。

続きは3月5日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。(まぐまぐに引っ越しました)

「大きな政府」というモラルハザード

JBpressでも書いたが、安倍政権の「大きな政府」は、現在の有権者の利益を最大化するという意味で民主的である。普通選挙には将来世代の利益を代表するメカニズムがないので、島澤諭氏も指摘するように、日本の社会保障は、まだ生まれていない世代(0歳以下)に負担をしわ寄せするしくみになっている。


もともと議会というのは納税者が政府を監視するしくみだったが、普通選挙で全国民に1票が与えられた。専業主婦や年金生活者には、参政権があるが(消費税を除いて)納税の義務がないので、行政サービスや社会保障の受益者が納税者にただ乗りする傾向が強まった。この関係をざっくり図に描くと、次のようになる。

vote


もう一つの変化は、金融市場が発達して国債が大量に発行できるようになり、納税者より大きな負担者(将来世代)ができたことだ。このため政府の行動を制約していた納税者の監視が機能しなくなり、政府債務によって現在世代が将来世代にただ乗りできるようになった。これは現在と将来のペイオフの非対称性を利用した、合理的なモラルハザードである。

続きは3月5日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。(まぐまぐに引っ越しました)

世界宗教の経済倫理

世界宗教の経済倫理 比較宗教社会学の試み 序論・中間考察 (日経BPクラシックス)
人が救済を求めるのは、死に直面したときや絶望したときだから、救済を約束する一神教の強さは、不幸の増加関数である。昔から戦争の多かったユダヤの宗教が、戦争や疫病が流行したヨーロッパで流行し、今でも戦争の多いアラブにイスラム教徒が多いのは偶然ではない。

ウェーバーの『プロ倫』などの実証研究は、今では陳腐化しているが、彼の思想には価値がある。彼の著作は膨大だが、その思想を要約したのが本書に収められている「中間考察」である。ここでは彼が晩年の心境を語り、意味や救済について論じている。ここにはニーチェの影響が明らかだ。
合理的・経験的認識が世界を呪術から解放して、因果的メカニズムへの世界の変容を徹底的になしとげてしまうと、宗教的要請との緊張関係はいよいよ決定的となる。なぜなら経験的でかつ数学による方向づけが与えられているような世界の見方は、原理的におよそ現世内における事象の「意味」を問うというようなものの見方をすべて拒否する、といった態度を生み出してくるからである。
近代科学はキリスト教を否定して出てきたのではなく、キリスト教神学の延長上に生まれた。それは世界を合理化して大きな富を生み出したが、人々を原子的な個人に分解して世界を「脱意味化」した――という物語は、ほとんどニーチェの「ヨーロッパのニヒリズム」である。

続きは3月5日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。(まぐまぐに引っ越しました)

働き方改革はドイツに学べ



安倍政権の「働き方改革」関連法案から、裁量労働制の適用拡大の法案が切り離されることになった。「不適切データ」が原因だが、このデータには意味がない。裁量労働制と残業時間は無関係だからだ。「企業が裁量労働制を悪用してタダ働きさせる」というのは裁量労働制の問題ではなく、社員がノーといえない「正社員」の問題である。

今回の法案は、成立しても大した効果はない。コンセプトが混乱しているからだ。普通は雇用改革でもっとも重要なのは雇用の流動化だが、今回の改革には含まれていない。雇用を流動化すべきだという財界と正社員を守ろうとする労働組合が対立し、改革としては裁量労働制の拡大と高度プロフェッショナルだけが残った。

続きはアゴラで。

軍事政権で平和を守った徳川幕府

昨今の憲法論争で「文民統制」という話がよく出てくる。軍人より文民のほうが平和主義だと思われているのだろうが、歴史的には必ずしもそうではなかった。日本は鎌倉時代から700年以上も武士による軍事政権が続いた、世界でも珍しい国である。特に江戸時代は、徳川幕府の軍事政権で長い平和が続いた。丸山眞男は1966年の講義でこう述べている。
徳川時代の世界史的な逆説は、爪の先まで武装したこの体制の下において、二世紀半以上にわたって「天下泰平」の安定性が維持されたことである。高度に発達した文明の段階において、「閉じた社会」の人為的造出がこれほどすみずみまで計画され、しかもこれほど長期的に成功した例は稀である。
今でも途上国には軍事政権が珍しくないが、それが長期政権になることはまずない。軍政を支えているのはむき出しの暴力なので、それより大きな暴力をもつ軍人が出てくると倒れるからだ。ところが徳川幕府は、軍人が軍人を支配することによって長い平和を守った。この「世界史的な逆説」を理解することが、現代の日本を考えるときも重要である。

続きは3月5日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。(まぐまぐに引っ越しました)

安倍首相はなぜ「左傾化」したのか

日銀総裁は、黒田総裁が再任されることになった。若田部副総裁は実務は知らないので、出口戦略は雨宮副総裁が仕切ることになろう。彼は日銀の本流なので、それほどおかしなことにはならないと思うが、気になるのはここに至る経緯だ。関係者によると、今回の人事の最大の問題は「本田悦朗副総裁の阻止」だったという。

本田氏は極端なリフレ派で、出口戦略も否定していた。これまで安倍首相が任命した審議委員はほとんど本田氏の推薦なので、彼が副総裁になると大きな実権をもち、後任総裁になる可能性もあった。財務省は全力を上げて本田副総裁を阻止したが、若田部氏もリフレ派であり、本田氏の影響力は残った。

アベノミクスの中核だったインフレ目標は失敗したが、安倍首相の「大きな政府」路線は変わらない。最近の「教育無償化」や「働き方改革」の規制強化も、バラマキと政府の介入を拡大する社民的な政策だ。こうした決定は税調や審議会を飛び越え、首相自身がやっているという。なぜ彼は「左傾化」したのだろうか。

続きはアゴラで。

【おしらせ】池田信夫ブログマガジンは「まぐまぐ」に移行しました

coverBLOGOSメルマガのサービスは2月19日で終わりましたが、池田信夫ブログマガジンは「まぐまぐ」で続けます。お手数ですが、まぐまぐに移行をお願いします(初月無料)。今週の目次は次の通りです。
  • クニがあっても「国家」のない国
  • 「黒い福沢諭吉」をどう理解するか
  • 「働き方改革」は霞ヶ関から
  • 陸軍を脱線させたのは「賊軍」だった
  • 麻美のグルメガイド:ミクニ・マルノウチ
  • 私の音楽ライブラリー:John Abercrombie "Up And Coming"

陸軍を脱線させたのは「賊軍」だった

半藤一利氏と保阪正康氏の対談が、ちょっと話題になっている。明治維新を高く評価する「薩長史観」が一面的だという総論はいいのだが、「戦争を始めたのは長州閥で、やめたのは長州に排除された賊軍出身者だった」という半藤氏の話は事実に反する。それは1930年代の陸軍の中枢となった一夕会のメンバーをみても明らかだろう。
  • 陸士14期 小川恒三郎
  • 陸士15期 河本大作、山岡重厚
  • 陸士16期 永田鉄山、小畑敏四郎、岡村寧次、小笠原数夫、磯谷廉介、板垣征四郎、黒木親慶
  • 陸士17期 東條英機、渡久雄、工藤義雄、飯田貞固
  • 陸士18期 山下奉文、岡部直三郎、中野直三
  • 陸士20期 橋本群、草場辰巳、七田一郎
  • 陸士21期 石原莞爾、横山勇、町尻量基
  • 陸士22期 本多政材、北野憲造、村上啓作、鈴木率道、鈴木貞一、牟田口廉也
  • 陸士23期 清水規矩、岡田資、根本博
  • 陸士24期 沼田多稼蔵、土橋勇逸、深山亀三郎、加藤守雄
  • 陸士25期 下山琢磨、武藤章、田中新一、富永恭次
これだけで(よくも悪くも)その後の陸軍を語れるぐらいの錚々たる顔ぶれだが、この中に長州出身者は一人もいない。それは一夕会が「反長州」のグループだったからだ。逆にいうと、1920年代まで危ういバランスを保っていた軍部がおかしくなったのは、こうした「賊軍」が長州閥を排除した後だった。

続きは2月26日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。(まぐまぐに引っ越しました)

「働き方改革」は霞ヶ関から

キャプチャ

JBpressの記事で私も誤解していたので、補足しておく。厚労省の調査に「不適切データが117件あった」という数字は、それだけ見ると大きなミスのようだが、これは「全国の1万1575事業場を労働基準監督官が訪問した聞き取り調査のうち87事業場」の個票の数で、全体の0.75%である。

上の写真のように「1日に45時間残業した」という記入ミスを1件と数えているが、普通はこんな数え方はしない。統計の合計が間違っていたら、全体で1件である。数字を改竄したなら重大だが、個票には記入ミスも計算ミスもある。原データまですべて洗い出したら、国会答弁には膨大なミスがみつかるだろう。

国会で出てくる質問は氷山の一角で、ほとんどの答弁資料は準備したまま使われない。野党の質問通告は直前なので、官僚はみんな徹夜して資料づくりをやる。その中に一つでも間違いがあったら、今回のように答弁の撤回や厚労相の進退問題にまで発展するからだ。まず改革すべきなのは、こういう霞ヶ関の異常な働き方ではないか。

続きは2月26日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。(まぐまぐに引っ越しました)






title




連絡先(取材・講演など)

記事検索
月別アーカイブ
QRコード
QRコード
Creative Commons