総務省の「IP化の進展に対応した競争ルールの在り方に関する懇談会」の報告書が公表された。総務省には、当ブログの熱心な読者もいらっしゃるようなので、簡単にプライベート・コメントを述べておく:
設備競争について(p.17):今後の競争のあり方のトップに設備競争が掲げられ、なかでも線路敷設基盤の開放促進が最初にあげられているのは(この優先順位に)賛成である。これは当然のことだが、通信・放送懇談会の混乱した論点整理に比べると、プロの仕事という感じがする。特に管路の開放は、これまでリップサービスばかりで実質的な進展がないので、ぜひ「官邸主導」で実行してほしい。
指定電気通信設備について(p.23):ところが、こちらでは回線の開放規制について「メタル回線と光ファイバ回線を一体的に運用」する従来の方針を堅持するとしている。これではNTTグループは、永遠に非対称規制から逃れられず、設備競争は実現しないだろう。この報告書でも、光ファイバーの開放規制をしている国が他にないことを認めているが、「市場構造の違い」を理由にして、従来の規制を継続するという結論を出している。
NTT東西の子会社に対する規制について(p.31):NTT東西の子会社は、NTT法の適用範囲外で規制の抜け穴になっているので、「一体的な規制」を行う必要があるとしているが、これは逆である。アメリカでは、ILECの子会社も96年通信法の規制対象になるので、LoopCoなどの組織革新を阻害している、と当時のFCC計画政策局長ペッパー氏はこぼしていた(CNET)。
むしろ必要なのは、規制の対象をなるべく低いレイヤーに最小化して、NTTの「自発的アンバンドリング」を促進することだ。これはNTT東西の余剰人員10万人を(規制の対象外である)地域子会社に移すという形で、NTT自身も行ったが、まだ東西会社にはサービス部門が残っている。規制を管路(レイヤー0)に限定し、ダークファイバー(レイヤー1)の開放規制を撤廃すれば、NTT東西は管路だけを持つ「0種会社」になり、他のインフラ・サービスはすべてスピンオフして規制を逃れることが合理的だ。もっとも、NTTがこういう合理的な行動をとるかどうかは疑問だが。
次世代ネットワークについて(p.44):日経新聞の観測記事とは違い、この報告書ではNGNの開放規制は打ち出されておらず、「検討する場」を設けるとしているだけだ。これは当然だが、NGNがかつてのISDNのようなものになるリスクも大きいことに注意したほうがよい。90年代に、郵政省は「ISDNのユニバーサルサービス規制」を行おうとして、通産省に反対された。規制は「技術中立的」であるべきだ。
ネットワーク中立性について(p.71):総務省が基本的に規制しない方針をとったのは賢明だ。これは一部のネット企業とレッシグ一派の作り出した「非問題」である疑いが強い。
全体として、従来よりも介入的な色彩が薄れ、規制の必要性を検討する姿勢がみられるのは前進だが、インフラ規制については依然として「教育ママ」的なおせっかいが多い。設備競争こそがNTTの独占を打破する真の競争を生み出すことは、携帯電話をみればわかる。もしもドコモの基地局に「開放規制」を行って、他の業者がそれにぶら下がっていたらどうなったかを想像すれば、光ファイバーについても結論はおのずと明らかだろう。
最大の疑問は、競争政策として緊急の課題であり、社長同士の討論でも激しく議論されたNTTの再々編について、何もふれていないことである。これは通信・放送懇談会の意味不明な「二重改革案」が自民党に一蹴されたことに敬意を表してのことと思われるが、136ページもの報告書に「NTTの経営形態」の文字さえないのは、いかがなものか。NTT問題を回避して通信業界の競争政策を語るのは、トヨタを抜きにして自動車業界を語るようなもので、ナンセンスと評価せざるをえない。
追記:この報告書には「水平的市場統合」という奇妙な表現が出てくる(p.6)。経済学で水平統合というのは、同一の業種の企業が合併することだから、この表現はおかしい・・・と書いて、あとで気づいたのだが、これは放送業界のきらう「水平分離」という言葉を避けたためらしい。言論統制を行う言論機関と、それに「配慮」して自己規制する行政という救いがたい状況をみると、この「競争ルール」も空しい。
設備競争について(p.17):今後の競争のあり方のトップに設備競争が掲げられ、なかでも線路敷設基盤の開放促進が最初にあげられているのは(この優先順位に)賛成である。これは当然のことだが、通信・放送懇談会の混乱した論点整理に比べると、プロの仕事という感じがする。特に管路の開放は、これまでリップサービスばかりで実質的な進展がないので、ぜひ「官邸主導」で実行してほしい。
指定電気通信設備について(p.23):ところが、こちらでは回線の開放規制について「メタル回線と光ファイバ回線を一体的に運用」する従来の方針を堅持するとしている。これではNTTグループは、永遠に非対称規制から逃れられず、設備競争は実現しないだろう。この報告書でも、光ファイバーの開放規制をしている国が他にないことを認めているが、「市場構造の違い」を理由にして、従来の規制を継続するという結論を出している。
NTT東西の子会社に対する規制について(p.31):NTT東西の子会社は、NTT法の適用範囲外で規制の抜け穴になっているので、「一体的な規制」を行う必要があるとしているが、これは逆である。アメリカでは、ILECの子会社も96年通信法の規制対象になるので、LoopCoなどの組織革新を阻害している、と当時のFCC計画政策局長ペッパー氏はこぼしていた(CNET)。
むしろ必要なのは、規制の対象をなるべく低いレイヤーに最小化して、NTTの「自発的アンバンドリング」を促進することだ。これはNTT東西の余剰人員10万人を(規制の対象外である)地域子会社に移すという形で、NTT自身も行ったが、まだ東西会社にはサービス部門が残っている。規制を管路(レイヤー0)に限定し、ダークファイバー(レイヤー1)の開放規制を撤廃すれば、NTT東西は管路だけを持つ「0種会社」になり、他のインフラ・サービスはすべてスピンオフして規制を逃れることが合理的だ。もっとも、NTTがこういう合理的な行動をとるかどうかは疑問だが。
次世代ネットワークについて(p.44):日経新聞の観測記事とは違い、この報告書ではNGNの開放規制は打ち出されておらず、「検討する場」を設けるとしているだけだ。これは当然だが、NGNがかつてのISDNのようなものになるリスクも大きいことに注意したほうがよい。90年代に、郵政省は「ISDNのユニバーサルサービス規制」を行おうとして、通産省に反対された。規制は「技術中立的」であるべきだ。
ネットワーク中立性について(p.71):総務省が基本的に規制しない方針をとったのは賢明だ。これは一部のネット企業とレッシグ一派の作り出した「非問題」である疑いが強い。
全体として、従来よりも介入的な色彩が薄れ、規制の必要性を検討する姿勢がみられるのは前進だが、インフラ規制については依然として「教育ママ」的なおせっかいが多い。設備競争こそがNTTの独占を打破する真の競争を生み出すことは、携帯電話をみればわかる。もしもドコモの基地局に「開放規制」を行って、他の業者がそれにぶら下がっていたらどうなったかを想像すれば、光ファイバーについても結論はおのずと明らかだろう。
最大の疑問は、競争政策として緊急の課題であり、社長同士の討論でも激しく議論されたNTTの再々編について、何もふれていないことである。これは通信・放送懇談会の意味不明な「二重改革案」が自民党に一蹴されたことに敬意を表してのことと思われるが、136ページもの報告書に「NTTの経営形態」の文字さえないのは、いかがなものか。NTT問題を回避して通信業界の競争政策を語るのは、トヨタを抜きにして自動車業界を語るようなもので、ナンセンスと評価せざるをえない。
追記:この報告書には「水平的市場統合」という奇妙な表現が出てくる(p.6)。経済学で水平統合というのは、同一の業種の企業が合併することだから、この表現はおかしい・・・と書いて、あとで気づいたのだが、これは放送業界のきらう「水平分離」という言葉を避けたためらしい。言論統制を行う言論機関と、それに「配慮」して自己規制する行政という救いがたい状況をみると、この「競争ルール」も空しい。