WSJに"The Long Tail"の批判記事が出ている。筆者のLee Gomesによれば、「オンライン音楽サイトの曲の98%は四半期に1度は演奏(ストリーム)される」というChris Andersonの「98%ルール」は、実証データによって反証されるという。たとえば、
むしろ彼の議論の欠点は、実証データを系統的に検証していないため、それがどこまでベキ分布に近いかが、はっきりしていないことだ。もし完全なベキ分布になっていれば、彼が強調しているように、テールが長くなると同時にヘッドが低くなって「ブロックバスター」が減るという現象は考えにくい。ベキ分布は、45度線について対称なので、テールが長くなると、ヘッドも高くなるはずである(現実にそうなっている)。
もう一つのAndersonの議論の問題点は、分布のベキ係数(対数グラフでみたときの傾き)の変化と、分布の右端の切れていたテールの出現が混同されていることである。アマゾンでテールの比重が高くなるのは、かつては倉庫スペースなどの制約で市場に出てこなかった商品が売れるようになったことによるもので、分布関数の変化ではない。ちょうど潮が引いて氷山が水面上に姿を現すように、ITによって取引費用が下がったことで、テールの部分の市場が見えてきたわけだが、このように氷山の全体像が見えたことは重要である。
これまでのようにベキ分布のテールの部分が大きく切れていると、正規分布で近似できる。市場データも、1日単位の粗いデータで見ると、ランダムウォークで近似できる。それをこれまでの経済学者は、経済現象の本質と取り違え、ほとんどの統計データを正規分布で近似してきた。正規分布で平均値をとれば、集計的には決定論的なデータと変わらないからである。しかしベキ分布では、平均や分散という概念は意味をもたない。
いずれにしても、この種の問題は、まずいろいろなデータを集めて解析してみないと、実態がわからない。Andersonの本は、少ないサンプルを繰り返し使っていろいろ憶測しているが、経済学者がもっと系統的に調べる必要があるだろう。そういう研究会を立ち上げようかと思っているので、データ解析やネットワーク理論に興味と知識のある方は、連絡をください。
追記:Odlyzko et al.が、ロングテールを「ネットワークの価値」という観点から論じている。
追記2:"The Long Tail"の訳本が9/25に早川書房から出るそうだ。
- Andersonがこの「法則」の根拠としたEcastの最新のデータでは、四半期に1度も演奏されない曲が12%に増えている
- Rhapsodyでも、まったく演奏されない曲が22%にのぼる
- Ecastでは、10%の曲がストリームのの90%を占める
- Bloglinesでも、トップ10%の記事のRSSフィードが登録数の88%を占め、35%の記事にはまったく読者がいない
むしろ彼の議論の欠点は、実証データを系統的に検証していないため、それがどこまでベキ分布に近いかが、はっきりしていないことだ。もし完全なベキ分布になっていれば、彼が強調しているように、テールが長くなると同時にヘッドが低くなって「ブロックバスター」が減るという現象は考えにくい。ベキ分布は、45度線について対称なので、テールが長くなると、ヘッドも高くなるはずである(現実にそうなっている)。
もう一つのAndersonの議論の問題点は、分布のベキ係数(対数グラフでみたときの傾き)の変化と、分布の右端の切れていたテールの出現が混同されていることである。アマゾンでテールの比重が高くなるのは、かつては倉庫スペースなどの制約で市場に出てこなかった商品が売れるようになったことによるもので、分布関数の変化ではない。ちょうど潮が引いて氷山が水面上に姿を現すように、ITによって取引費用が下がったことで、テールの部分の市場が見えてきたわけだが、このように氷山の全体像が見えたことは重要である。
これまでのようにベキ分布のテールの部分が大きく切れていると、正規分布で近似できる。市場データも、1日単位の粗いデータで見ると、ランダムウォークで近似できる。それをこれまでの経済学者は、経済現象の本質と取り違え、ほとんどの統計データを正規分布で近似してきた。正規分布で平均値をとれば、集計的には決定論的なデータと変わらないからである。しかしベキ分布では、平均や分散という概念は意味をもたない。
いずれにしても、この種の問題は、まずいろいろなデータを集めて解析してみないと、実態がわからない。Andersonの本は、少ないサンプルを繰り返し使っていろいろ憶測しているが、経済学者がもっと系統的に調べる必要があるだろう。そういう研究会を立ち上げようかと思っているので、データ解析やネットワーク理論に興味と知識のある方は、連絡をください。
追記:Odlyzko et al.が、ロングテールを「ネットワークの価値」という観点から論じている。
追記2:"The Long Tail"の訳本が9/25に早川書房から出るそうだ。