The Looming Tower: Al Qaeda And the Road to 9/11Lawrence Wrightこのアイテムの詳細を見る |
9/11から来週で5年になるが、あの事件についてはいまだにわからない部分が多い。特にわからないのは、なぜ彼らがアメリカに対してあれほど強い敵意を抱くようになったのかということだ。本書は、それを1940年代に渡米したエジプト人、クートゥブから説き起こす。彼はアメリカに憧れたが、挫折して故郷に帰り、イスラム原理主義の運動を起こした。こういう西洋に対するアンビバレントな感情は、非西欧圏の知識人には共通のものだ。それが日本などではナショナリズムになったが、近代化に失敗してオスマン帝国の崩壊したアラブ世界では、宗派にアイデンティティを求める原理主義になったわけだ。
イスラム原理主義の標的は、当初はエジプトのムバラク大統領やアフガニスタンのソ連軍など、アラブ世界の宗教的秩序を乱す権力だったが、しだいに活動は「国際化」し、特に反イスラム勢力の後ろ盾になっている(と彼らの考える)アメリカをねらうようになる。中でもエジプトの過激派を率いたザワヒリと、腐敗したサウジアラビアの王家に敵対する勢力を率いたビンラディンが連合して、アルカイダという統一テロ組織ができた。
後半は、アルカイダが世界各地でテロの戦線を拡大する一方、アメリカの対応が後手に回り、破局的な事態を防げなかった経緯を描く。特にFBIのテロ対策の責任者、ジョン・オニールは、90年代前半からイスラム原理主義のテロが国際化していることに気づいて対策をとろうとしたが、縄張りを侵されることを恐れたCIAの妨害にあい、FBIから追放される。彼は偶然にも世界貿易センターの保安対策責任者となり、9/11で犠牲になった。
9/11を防ぐことは可能だったか、という問いについての本書の答は、「イエス」である。クリントン政権の時代から、アルカイダはアフリカや中東でアメリカの施設や軍艦をねらっており、不審なアラブ人がアメリカの航空学校で操縦を習っていることについて、FBIは「航空機を使ったテロの可能性がある」と警告する報告書まで出していた。しかし、こうした警告は無視され、CIAやNSAと情報は共有されず、重複して諜報活動が行われ、結果的にテロ活動の全体像をだれも知らないまま、9/11を迎えたのである。
5年たっても、9/11を引き起こした問題はまったく解決しておらず、テロの脅威はまだ残っている。アメリカの圧倒的な軍事力をもってしてもテロリストを全滅させることができないのは、アラブ世界の西洋に対する敵意が彼らを支えているからだ。それはアラブを分断し、寄ってたかって食い物にしてきた欧米諸国への歴史の復讐ともいえるのではないか。