買収防衛策

来年から外資による企業買収が容易になることで検討されていた会社法案の買収防衛策が、ライブドア騒動で注目を浴びている。

しかし内容は「ポイズン・ピル」などの買収妨害を可能にするもので、株主資本主義という観点から見ると問題がある。経営努力を怠っている経営陣が、「外資はいやだ」とか「ベンチャーに買われたくない」といった理由で買収を拒否する道具に使われる可能性もある。

要は「敵対的」とか「友好的」とはだれに対してなのかということだ。たとえ経営陣にとっては敵対的であっても、企業価値を高めるなら株主にとっては友好的な買収だ。「米国並み」にするというふれこみもおかしい。ポイズン・ピルなどを認めているのは州レベルで、「株主軽視だ」と批判をあびたケースもある。

敵対的買収の成功率は高くないが、「株主を無視して株価が下がったら買収される」という規律を経営陣に与える意味は大きい。買収が本格的に始まらないうちから、防衛策ばかり入念に検討するのもいかがなものか。

泥沼

ライブドアの騒動は、泥沼化してきた。ニッポン放送の株式の40%を取得したとしているが、これ自体には大した意味がない。過半数の株式を取得したとしても、ニッポン放送を支配できるだけで、フジテレビに対しては単なる筆頭株主でしかない。

「インターネット時代にはスピードが重要だから、買収で決着をつける」という堀江氏の主張は正論だが、それならフジテレビを買収しなければ意味がない。ニッポン放送の22.5%という持株比率では、フジテレビに役員も出せないし、特別決議の拒否権もない。

堀江氏が今まで買収してきたようなネット企業とちがって、フジサンケイ・グループのような大企業集団を支配するのは、ライブドアの体力では無理だろう。企業買収というのはall or nothingである。中途半端に支配権をもって業務提携の呼びかけをしても、相手は拒否反応を起こすだけだ。

堀江氏は「事実上の筆頭株主になれば、フジテレビが提携に応じる」と考えたのかもしれないが、放送業界の体質は、彼が考えているよりはるかに保守的で、とくにインターネットに対しては拒否感が強い。そのへんの読みが甘かったのではないか。

岡本喜八

岡本喜八氏が死去した。私にとっては、中学生のとき見た「肉弾」の印象が鮮烈だ。米軍の本土襲来に備えて、自爆攻撃の訓練をする若い兵士(寺田農)の孤独な青春物語である。最後は、魚雷をくくりつけたドラム缶の中で餓死するのだが、そのとき幻想のなかで、最後に一夜を過ごした女子高生(大谷直子)を思い出す。

岡本氏自身が、こういう「本土決戦」の訓練をしていたという。無意味な戦争で失われた同世代の青春への追悼だったのだろうが、戦争を「告発」するのではなく、ひとりの青年の物語としてユーモラスに描いていた。あのように重いテーマを軽く描ける監督は、もう出てこないだろう。

敵対的買収

ライブドアのケースは、日本では珍しい敵対的企業買収としても注目される。しかし欧米でも、敵対的買収が成功する確率は低い。その種の企業として有名なKKRも、ほとんどは友好的買収である。

日本でも、かつて孫正義氏がルパート・マードック氏と一緒にテレビ朝日の株式を取得したことがあったが、彼も総括するように「相手が十分にその気になっていないのに株主になってもあまりうまくいかない」。ライブドアに、これを乗り越える秘策はあるのだろうか。

放送業界は変わるか

今日ある官庁の現場(課長級)の人々と話したら、「ライブドアの騒動で、放送業界は変わりますかね」と聞かれた。彼らは期待しているようだが、私は「正直いって背景がわからないが、かき回すことはいいことでしょう」と答えるしかなかった。

霞ヶ関でも、放送業界は問題になっているようだ。IT戦略本部でも、水平分離や地上波のIP送信などについて、いろいろな球を投げたが、みんな「ファウル」に終わったという。それもこれも、政治家を握っている「海老沢的パワー」のおかげだろう。NHKとフジテレビを突破口にして、この「日本最後の護送船団」が崩れることを期待するしかない。

WiMAXの運命

鷹山がWiMAXの「実地試験」を開始するそうだ。これは世界でも最も早い実験のひとつだろう。

他方、Economist誌はWiMAXについて「田舎向けがせいぜい」という否定的な分析を載せている。DSLが米国よりもはるかに発達した日本ではもっと不利かもしれないが、勝負はむしろ移動性がどの程度、確保できるかだろう。PHS程度で定額ブロードバンドが提供できれば、十分競争力があると思う。

MCIの買収

VerizonがMCIを買収する最終合意が成立した。WSJも指摘するように、これで独立系の長距離電話会社は消滅する。時計の針は、AT&T分割の前に戻りつつあるようだ。

今から7年前、WorldComやQwestなどが華々しく登場した当時、エリ・ノームにインタビューしたら、「最後に生き残るのはラスト・マイルを支配するILECだ。新しい長距離業者は彼らに買収されるだろう」と予言していた。

「設備ベースの競争」という概念は、ILECの独占を守るレトリックとして使われることも多いが、今回の一連の事態をみると、やはり通信業界を変えるには加入者系の競争しかないと思う。その可能性をもっているのは、無線だろう。

遺伝子工学のコモンズ

Economist誌によれば、遺伝子工学でも「コモンズ」的アプローチが始まったようだ。これは遺伝子操作によって新しい植物をつくる技術を、GPLのようなライセンスで公開するものだ。

Boldrin-Levineの主張するように、関連技術をもっていないと役に立たない医薬品や遺伝子工学は「オープンソース」に向いていることは確かだ。しかし、クローズドにすれば巨額のライセンス料を得られる技術をあえて公開するインセンティヴがあるのだろうか。

こういう問題は、結局「お互い様」という状況ができるかどうかに依存している。GNUのようにコミュニティができれば、そこから利益を得ることもできるので、問題はむしろ遺伝子工学のGNUができるかどうかということだろう。

名誉の挫折

先日、ある政治学者に「RIETIの挫折は、ある意味では必然だった。あれは名誉の挫折だ」といわれた。霞ヶ関が研究所を独立行政法人にしたとき、思い描いていたのは経済社会総合研究所のような人畜無害なもので、浜田所長も期待されたとおり「お飾り」の役割を演じただけだった。それに対してRIETIは、制度設計の段階から青木所長が「独立」という理念を本気で実現したため、霞ヶ関のコントロールがきかなくなった。だから、彼らにつぶされたのだ。

特に大きかったのは、他の省庁の政策を公然と批判したことだ。大学改革や通信政策を経産省の「外郭」が論じるというのは、霞ヶ関の常識にはない事態だった。これに対する他省庁の苦情に経産省が「対応」した結果が、今回の解体処分だったわけだ。事前には「霞ヶ関全体に対する"プランB"を提案する」などと格好いいことをいっておいて、実際には省益の圧力でつぶしたというのは、いかにも日本的だ。その建て前を信じて政策提言をした私がバカだったのだろう。

従来は、こうした外郭研究所は、官僚の決めた政策を合理化する資料を集める手段にすぎなかった。結論は霞ヶ関が知っており、学者はその土俵のなかで利用する対象でしかなかったのだ。ところがRIETIは意識的に、その土俵を踏み超えた。官僚が日本のthe best and the brightestであるという前提を否定したのである。これが彼らのプライドを傷つけたのだろう。

霞ヶ関の権力のかなりの部分は、彼らの知的権威に根ざしている。少なくとも私の世代までは、法学部と経済学部でもっとも優秀な学生は官僚になり、その次が学者になったものだ。ところが、今では経済学部の一番人気は外資系の投資銀行で、官僚の人気はメーカー以下だ。権力だけは大きく、そこに二流の人物が入ってくるというのは、かなり危険な現象である。

ライブドア

今回の買収劇の真相は、まだよくわからない。Greenmail(買収をほのめかして高値で買い取らせる)の可能性も捨てきれないが、堀江社長の話を読むと、それなりに筋は通っている。要するに、フジテレビに対するcorporate controlを割安で買い取ったということだろう。

堀江氏の戦略は、今ごろから携帯電話に出ようとしているソフトバンクよりも当たる可能性が高い。携帯業界は競争的だが、放送業界には競争がないからだ。企業買収を「乗っ取り」などと訳す習慣も改め、日本でもmarket for corporate controlを拡大する必要がある。

これは知的財産権の問題とも、間接的に関係がある。企業は、情報という非競合的な資産をコントロールし、自己完結的な「商品」にするシステムだから、これを売買することは、市場によって情報の組み換えを実現するもっとも効率的な手段である。

企業買収が情報の取引として機能しているのは、取引費用が低い(買収額に比べて手続きのコストが無視できる)wholesaleの取引だからだ。知的財産権でも、コンピュータにWindowsを組み込むようなホールセールの取引では、市場メカニズムが機能している。ここから考えると、DRMによって取引費用を相対的に下げることが知的財産権問題のひとつの解決法だろう。








記事検索
月別アーカイブ
QRコード
QRコード
Creative Commons
  • ライブドアブログ