学術会議の荒療治は「第2の小泉改革」の始まり?

学術会議の問題は意外に大きい。予算10億円というのは国家予算160兆円の中では誤差の範囲だが、これは森友・加計のようなケチなスキャンダルではなく、内閣人事局による官僚機構のコントロールという安倍政権以来のテーマにかかわるからだ。

2013年に安倍首相が内閣法制局長官に慣例を破って外務省の小松一郎氏を起用したとき、マスコミは「法の番人」の独立性を侵害すると騒いだが、法制局は首相の指揮下にあり、独立性はない。同じく内閣直轄の学術会議も任命権は首相にある。これは単なる国家公務員の人事であり、「学問の自由」を侵害するという議論は成り立たない。

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文化はラマルク的に進化する

文化進化論:ダーウィン進化論は文化を説明できるか
学校では「ラマルクの用不用説は間違いだ」と教える。彼は「キリンの首が長いのは高い木の枝の実を食べるためだ」と主張したが、獲得形質は遺伝しないからだ。言葉も遺伝しないが、子供はまるで親から遺伝したように話せるようになる。それはなぜだろうか?

これはそれほど自明の問題ではない。チョムスキーは人間の脳内に備わる「普遍文法」が遺伝すると主張したが、これは今日では否定されている。主流派の答は、文化はラマルク的に進化するというものだ。文法は遺伝しないが、他人の行動を見てまねる能力は遺伝するからだ。

たとえば獲物を食い殺せる丈夫な歯が進化するには何万年もかかるが、歯の弱い個体が石器で獲物を殺せるようになると、この技術は数年あれば集団全体に広がる。つまり図のように遺伝では長期間かかる環境への適応が、文化によってそれよりはるかに速くできるようになったのだ。

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その代わり人間には、他人の行動をまねて集団で継承する能力が必要だ(言葉は不可欠ではない)。類人猿には多少そういう能力があるが、道具のような複雑な技術をまねることはできない。

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学術会議を民営化して「学問の自由」を取り戻そう



日本学術会議の会員任命をめぐる議論が、国会の焦点になりそうだ。大部分の国民には何の関係もない問題だが、「学問の自由」がどうとかいうのはお門違いである。彼らの研究にも発表にも、政府はまったく介入しない。

学術会議の会員は非常勤の国家公務員(特別職)であり、学術会議法7条では会員は「学術会議の推薦に基づいて内閣総理大臣が任命する」と定めているので、任命権は菅首相にある。210人の会員は任期6年で3年ごとに半数改選され、再任なし(Vlogで「再任」といったのは誤り)なので、これは新規採用である。

つまり今回の問題は、政府が非常勤公務員の1次試験を通った105人のうち99人を採用したということにすぎない。

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「明治デモクラシー」はなぜ自壊したのか

明治憲法史 (ちくま新書)
日本国憲法を美化する人は、明治憲法は「万世一系の天皇」の統治する専制的な憲法だと思っているかもしれないが、これは当時としては世界でもっとも民主的な憲法だった。日本が戦争に突入したのは、憲法の「明治デモクラシー」が機能しなくなったためだというのが著者の見方である。

美濃部達吉は「天皇機関説」で政治的に迫害された立憲主義者として知られているが、1933年に『中央公論』に掲載された論文で、政党政治を批判してこう書いている。
単純に立憲政治の常道に復するということだけでは吾々は到底満足し得ない。吾々の希望したいことは、此の際、各政党の首領、軍部の首脳者、実業界の代表者、勤労者階級の代表者を集めた円卓巨頭会議を開き[…]財政及び経済の確立に付き根本的の方針を議定し、此の大方針の遂行に関しては、恰も戦争に際した時の如く、暫く政争を断って、挙国一致内閣を支持することである(強調は引用者)。

ここで彼が提唱している「円卓巨頭会議」は議会とは別の職能別組織だが、それが「挙国一致内閣」を支持するというのは、のちの大政翼賛会に近い発想である。1930年代には美濃部だけではなく多くの進歩的知識人が、腐敗した政党政治では危機は乗り越えられないと考え、挙国一致体制を提案したのだ。続きを読む

ベーシックインカムはベストの社会政策

絶望を希望に変える経済学 社会の重大問題をどう解決するか (日本経済新聞出版)
本書の著者ははノーベル経済学賞を受賞した開発経済学の専門家だが、第9章をベーシックインカムにあて、こう書いている。
社会政策の設計としてこれ以上のものはない、というのがユニバーサル・ベーシックインカム(UBI)である。単純にしてエレガントかつ近代的な政策であり、シリコンバレーの起業家、メディア、一部の哲学者や経済学者、ちょっと変わり者の政治家の間では絶大な人気を誇る。

UBIは貧困国でも実験が行われ、インド政府は全国民に年430ドルを支給することを検討している。これはインドの基準でも低いが、財源はこれでもぎりぎりだ。ケニアでもUBIの実験が行われており、著者はそれに参加している。

先進国でも多くの実験が行われているが、労働意欲への悪影響は大きくない。UBIの最大の(そして唯一の)問題は財源である。アメリカ人全員に毎月1000ドル渡すには年間3.9兆ドル必要で、現行の社会保障予算を1.3兆ドル上回る。

この大きなギャップを埋めることは困難だが、不可能ではない。莫大な財源が必要になるのは必要のない人にも無条件に支給するからで、ユニバーサルではない条件つきベーシックインカムとしてはいろいろな方法が考えられる。

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国民年金をベーシックインカムにする幻の改革案

本来の意味でのベーシックインカムは政治的に不可能だが、国民に最低所得を保障するという目的は他の方法でも実現できる。これは年金改革では昔から議論され、民主党は2009年のマニフェストで「7万円の最低保障年金」を公約した。

その具体案はなかったが、自民党の河野太郎、野田毅、亀井善太郎が協力し、民主党の年金担当だった岡田克也、枝野幸男、古川元久、大串博志と協議して超党派の年金改革案をまとめた。その内容は図のように全国民に毎月7万円の「基礎年金」を支給し、それに加えて所得比例の「積立保険料比例年金」を支給するものだ。

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河野氏の説明では、基礎年金の財源は消費税とし、所得比例の部分は本人負担の積立方式とする。これだと現行の賦課方式との二重の負担が生じるが、積立保険料を国債で立て替え、50年で償還する。高額所得者については基礎年金を減額する(クローバック)。

この案は国民年金をBIのような税方式の定額給付とし、それ以外は自己負担の年金保険にするものだが、巨額の税負担と所得移転が発生するため、弱体な民主党政権では具体化できなかった。2012年に「社会保障と税の一体改革」で実現したのは消費税の10%への増税などの財源確保だけで、積立方式は議論にもならなかった。

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民放連が動画のネット配信ビジネスを殺した

毎日新聞によると、河野行革担当相が規制改革推進会議の投資ワーキンググループで、放送の規制改革について文化庁に「やる気がないなら担当部署を変える」と迫ったという。

この記事だけではわかりにくいが、「放送をインターネットで同時配信する際、映像などの使用許諾が別々に求められるため事業者の権利処理の負担が大きい」というのは、私が15年前から指摘してきたIP再送信の問題である。

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老人に搾取される現役世代がベーシックインカムに反対する

竹中平蔵氏のベーシックインカム論が炎上しているが、驚いたのは95%以上がBIを理解しないで批判していることだ。これは社会保障を廃止するものではなく、全国民に同じセーフティネットを提供する社会保障である。生活保護はBIに吸収され、国民年金をBIに置き換えることは考えられるが、月額7万円では厚生年金は廃止できない。

今の生活保護の受給者は163万世帯、国民年金(1号受給者)は1471万人である。その対象を1億2600万人の国民に拡大する政策を「福祉切り捨て」と呼ぶのはお門違いで、むしろ社会保障支出は大きく増える。問題は今の社会保障がそれほどすばらしいのかということである。


これは国民民主党の玉木代表の2年前のツイートだが、専門家の常識である。日本の社会保障は超高齢化の中で給付を削減しなかったため世界一不公平で、20歳以下の生涯所得は60歳以上より1億円以上も少なくなる。BIはこの大きな世代間格差を是正し、年齢に関係なく最低所得を保障しようという提案だが、それを搾取されている現役世代がいやがるのはなぜだろうか。

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月額10万円のベーシックインカムを考えてみた



竹中平蔵氏が「毎月7万円のベーシックインカム」を提唱して話題になっている。ネット上の反応のほとんどは「7万円では生活できない」という批判だが、支給額だけ問題にするのはナンセンスである。BIは既存の財源を置き換える制度なので、財源と一体で議論しないと意味がない。

それを理解するために、月額10万円のBIを考えてみよう。国民全員に(大人も子供も)一律10万円を給付すると、4人家族で年額480万円。これなら最低限度の生活はできるだろうが、支給総額は年間約150兆円。今年度の一般会計予算(当初+補正)とほぼ同額の財源が必要になる。

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コロナ不況のあとに来るのはインフレかバブルか

あまり注目されていないが、今年に入ってマネーストック(M2)が前年比8%以上増えた。この原因はコロナ対策で数十兆円の給付金が支給されたことだが、消費者物価指数はほとんど反応していない。このように大幅にマネーストックが増えたのは初めてではない。図のように1980年代後半にもM2は10%以上増えたが、物価はほとんど上がらなかった。

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マネタリーベースとマネーストック(M2)の前年比増加率(日銀)

この図からもう一つわかるのは、マネタリーベースとマネーストックの増加率にはほとんど相関がないということだ。2013年以降、日銀の黒田総裁はMBを激増させたが、M2は反応せず、物価も上がらなかった。

これは80年代後半にM2の増加率がMBを上回ったのと対照的である。当時は公定歩合が自然利子率より低かったため、貨幣の大幅な超過需要が発生してM2が増えた。それに対して2000年代以降はゼロ金利になって貨幣需要が増えなかったので、日銀の量的緩和には効果がなかった。

しかしM2が80年代後半以来の増加率になったのは危険信号である。まだコロナ不況で総需要が低迷しているので物価は上がらないが、需要が回復すると資産バブルが起こる可能性がある。80年代後半も円高不況で物価はほとんど上がらなかったが、そこには落とし穴があった。

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