年金はゼロサムゲームではない



懸案の年金財政検証が出たが、野党は批判しない。批判すると、今より年金を減らせという話にしかならないからだ。マクロ経済スライドはほとんど実施されていないため、今の年金は大幅な過剰給付になっている。今のままだと積立金は2030年代に枯渇し、年金は完全な賦課方式になるだろう。

そうなると年金を一般会計とは別の特別会計で管理する理由はない。賦課方式の年金は国債と同じ将来世代からの借金だから、社会保障支出はすべて一般会計に計上し、一元管理すべきだ。そうすると当初予算の半分以上が社会保障費になり、「財政とは社会保障である」ということが可視化されるだろう。

年金純債務は今でも1300兆円あり、これを将来世代が負担すると大幅な増税(あるいは社会保険料の増額)が必要なので、年金は世代間のゼロサムゲームになるが、政治的にはもっと楽な方法がある。年金会計の赤字を国債で埋めるのだ。それを社会保障国債と名づけ、建設国債のように財政法で認めれば、合法的に財政赤字が増やせる。

オフバランスの年金債務を一般会計に計上すると、政府債務は2500兆円を超えるが、債務残高そのものは大した問題ではない。マイナス金利が今後もずっと続くとすると、借り換えで借金が減るのでネズミ講が可能になり、将来世代も利益を得る。しかし金利が上がって国債が暴落すると、金融危機が起こるだろう。つまり年金財政はゼロサムゲームではないのだ。

続きは9月9日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

日韓「歴史問題」は1990年代に生まれた

日韓歴史認識問題とは何か (叢書・知を究める)
最近の日韓関係しか知らない人は、韓国がずっと反日だったと思っているかもしれないが、1980年代までそんな運動はなかった。90年代にそれに火がついた最初のきっかけは、強制連行だった。今でいう「徴用工」問題だが、あまり盛り上がらなかった。それは当時、韓国の与党の重鎮だった金鐘泌が、1965年に朴正熙政権で日韓請求権協定を結んだ当事者だったからだ。

彼は朴がつかみ金で問題を「完全かつ最終的に解決」したことを知っていたので、日本の自民党と手を組んで強制連行の問題を握りつぶした。ところが1992年に話が慰安婦問題に飛び火したとき、宮沢首相が不用意に謝罪したため、これが韓国の野党の標的になった。金鐘泌は「請求権協定のときは慰安婦問題の資料がなかった」と釈明する一方、日本には「誠意ある対応」を求めた。

これが日韓関係に混乱をまねいた。この時期、日本では自民党政権が崩壊して非自民連立政権が生まれ、それが崩壊して自社さ連立政権が生まれた。社会党は韓国に賠償するよう求めたが、自民党は「日韓併合は合法だ」と主張し、これが韓国を刺激した。それまで韓国でもまじめに信じる人の少なかった建国神話が韓国の公式見解になり、「日韓併合は侵略だから無効だ」という運動が、このとき始まったのだ。続きを読む

トリチウムの処理は韓国に学べ

日韓関係の悪化が、放射能の問題に波及してきた。 このところ立て続けに韓国政府が、日本の放射能について問題提起している。8月だけでも、次のようなものが挙げられる。
  • 8月8日 韓国環境部が、ほぼ全量を日本から輸入する石炭灰の放射性物質の検査強化を発表
  • 16日 韓国環境部が、日本からのリサイクル用廃棄物を輸入する際、放射性物質と重金属の検査を強化することを発表
  • 19日 韓国外交部がソウルにある日本大使館の公使を呼び、福島第一原発のトリチウムなどを含む処理水について説明を要求
  • 20日 韓国オリンピック委員会が、東京オリンピック選手村の食事に福島の食材を使うことに懸念を表明
  • 21日 韓国環境部が、日本から食品を輸入する際の放射性物質の検査について、17品目の検査を強化すると発表
韓国のねらいは明白である。 日本が半導体材料の輸出管理を強化したのに対して、韓国は通商問題で有効な反撃のカードを持っていないため、日本の弱点である放射能の問題をねらっているのだ。

続きはアゴラで。

【再掲】MMTについての超簡単な解説

MMT現代貨幣理論入門
訳本が出たので原著の解説を再掲するが、結論からいうと読む価値はない(Kindleのサンプルで眺めるぐらいで十分)。経済学者のアンケートでも賛成する人は1人もいない。もうMMTは忘れていいと思う。

本書はMMTのほぼ唯一の入門書だが、これは金融理論というより素朴な財政哲学で、数式も統計データも出てこない。その考え方は通貨は税であるというものだ。管理通貨制度では法定通貨(不換紙幣)は商品とリンクされておらず、政府と中央銀行は一体なので、自国通貨はいくらでも発行できる。

政府に徴税能力がある限り国債は通貨でファイナンスできるので、政権が崩壊しない限り政府がデフォルトすることはありえない。自国通貨は税と同じなので、中央銀行は政府と同じだ。統合政府で考えると国債は通貨と同じなので、中央銀行が国債を買い取れば政府債務は相殺できる。

銀行が企業に貸し出すとき、預金を集めて貸し出すわけではなく、貸し出しによって企業の預金が発生し、信用創造が行われる。この内生的貨幣供給説と呼ばれる理論が、本書の唯一の意味のある部分だが、これは新しい話ではなく、資金需給を需要の側からみているだけだ。

MMTが(暗黙のうちに)想定している不均衡状態では、失業がある限り信用創造で需要を創出でき、中央銀行が通貨発行(準備預金の増加)で需要を創出できる。しかし長期的な均衡状態では資金需給が金利で調整されるので、資金が超過供給になると金利が下がって物価が上がる。そういう不均衡を長期にわたって放置すると、取り付けが起こって金融システムが崩壊する。続きを読む

在日の耐えられない軽さ

在日の耐えられない軽さ (中公新書)
日本人の韓国に対する後ろめたさの原因に「在日」がある。 日本が植民地支配で朝鮮人を迫害し、戦後も在日韓国人を差別してきたというイメージが、日本人の罪悪感と韓国人の被害者意識の原因になっている。その典型が著者の妹のように「世界中にいいたい。日本には来るな!」と憎悪をあおる在日だが、こういう意識は昔からあったものではない。

本書はその当事者が、戦前に朝鮮半島から渡ってきた父(鄭然圭)と自分の歴史を自伝風に描いたものだ。 父は若いころプロレタリア作家だったが、朝鮮総督府から「国外追放」されて内地にやってきた。その後は朝鮮人として初めて日本語で小説を書き、「アジア主義」の作家として有名になった。

日本に渡ってきた朝鮮人も「二等国民」であり、内地と同等ではなかったが、彼らにとっては日韓併合は別の意味をもっていた。それは両班とそれ以外の国民の差別をなくし、朝鮮人を「天皇陛下の赤子」として平等にしたのだ。著者の父はそれを拡大して、全アジアを「皇国」として統合すべきだと主張した。

ところが戦後、朝鮮半島に基盤のなかった李承晩政権が「抗日戦争」というフィクションで韓国を統合しようとして、反日思想を国民に植えつけた。それは初期には反共と一体だったが、日本では朝鮮総連が在日を利用して日韓の対立をあおり、在日の参政権を要求する奇妙な運動が出てきた。

著者も指摘するように、在日のハンディキャップは自分で作り出したものだ。彼のように帰化して日本国籍を取得すれば、すべての権利は普通の日本人と同じである。帰化を拒否する論理的な理由は何もない。特別永住資格などという植民地支配の遺制は廃止し、特別永住者には無条件で帰化を認めればいいのだ。

続きは9月2日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

「1965年日韓体制」を清算したらどうなるか



今回の日韓紛争の背景には、韓国人が日本に対してもっている屈折した被害者意識と、日本人が過去に朝鮮人を差別したという加害者意識がある。そういう差別の実態はもうほとんどないのに、マスコミや一部の知識人は罪悪感をあおり、韓国に同化する。たとえば浅井基文氏はこう書く。
私たちは、韓国に100%の理があり、日本に100%の非があること、日韓関係悪化の責任は100%安倍政権にあることを内外に明らかにしなければならないと思います。そして、今日の事態を作り出した「1965年日韓体制」を根本的に清算して、個人の尊厳・基本的人権の尊重を基調とする21世紀にふさわしい日韓関係の構築が求められていることを日韓両国民の共通認識に据える努力を行っていく必要があると確信します。

続きはアゴラで。

年金危機は予定より早くやってくる

参議院選挙の前に出るはずだった年金財政検証がようやく出たが、予想されたほど数字が悪化していない。実質成長率がマイナス0.5%という「ケースⅥ」でも、所得代替率が50%になるのは2043年と、前回の最悪のケースより遅くなっている。

財政検証

これには一見すると気づかないトリックがある。ここでは「マクロ経済スライドを機械的に続ける」と書いているが、これは正確ではない。マクロ経済スライドは所得代替率を徐々に下げて将来世代の負担を下げるしくみだが、これには名目下限措置があるので、年金支給額は名目的には減らないのだ(図で年金額が減るのは実質に直しているため)。

名目下限措置というのは「名目賃金が上がったときは年金支給額を上げるが、名目賃金が下がっても支給額を下げない」という非対称なルールで、インフレで賃金が上がるときは問題ないが、最近のように名目賃金が下がったときは所得代替率は上がってしまう。西沢和彦氏によれば、次の図のように所得代替率は2014年までに59.3%から62.7%に上がった。

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これは今年の改正で61.9%に下がったが、それでも大幅な過剰給付になっている。このままでは所得代替率が50%になるのは、2040年代より先になるだろう。それはいま年金をもらう世代にとってはいいことだが、年金積立金を先食いするので、積立金が枯渇する年金危機は予定より早く(おそらく2030年代に)やってくるのだ。

続きは9月2日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

韓国が開けた「個人請求権」というパンドラの箱

「徴用工」問題について「日韓請求権協定で個人請求権は消滅していない」という人がいる。その代表が宇都宮健児氏である。彼は韓国の新聞にこう書く。
元徴用工などの個人の損害賠償請求権を国家間の協定によって消滅させることができないことは、今や国際人権法上の常識となっているものである。

1991年8月27日の参議院予算委員会において、外務省の柳井俊二条約局長(当時)は「いわゆる個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたというものではございません」と答弁している。

続きはアゴラで。

「親韓派」知識人が日韓関係をゆがめてきた

和田春樹氏の「安倍政権は平和日本の終焉だ」という講演が、韓国で大歓迎を受けている。彼は1970年代から韓国の民主化運動を支援し、最近も「韓国は『敵』なのか」という署名をつのっている、日本の「親韓派」知識人のリーダーである。

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私は学生時代に、彼の運動員をやったことがある。当時は朴正熙政権が民主化運動を弾圧し、和田氏が彼らを支援する基金をつくったのだ。当時の韓国では、腐敗した軍事政権と闘う運動には大義があった。和田氏は北朝鮮と連帯し、日本から運動資金を送金した。それを支援したのが、岩波書店や朝日新聞だった。

和田氏の運動は、丸山眞男のいう悔恨共同体の一種だった。彼の専門はロシア史だったのだが、日本の朝鮮支配は絶対悪なので日本は韓国に永久に謝罪し続けなければならないと信じて運動を続けた。こういう日本の「良心的知識人」が、韓国人に「日本人には何をいってもいい」という甘えを生んだ。

そういう物語は、1990年代に軍事政権が終わり、北朝鮮の実態がわかると信じる人はいなくなったが、和田氏は運動を続けた。韓国の左派の敵は軍事政権から、戦争犯罪を反省しない日本政府になった。それに対して慰安婦問題で1992年に宮沢政権が謝罪したため日韓問題がこじれ、彼らは韓国内の「反日」を支援する運動になってしまった。

続きは9月2日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

日韓問題を混乱させる単純な錯覚

文在寅政権の暴走を支持する声は日本にはほとんどないが、英米圏では「お互い様」という意見が出てきた。ニューヨークタイムズの社説ワシントンポストのコラムは日韓の一方に肩入れするものではないが、そこには共通のパターンがある。NYTは朝鮮半島で「性奴隷」や「強制労働」が行われたと書き、ポストはこう書いている。
第二次世界大戦中に、日本は記録された歴史の中でもっとも恐ろしい残虐行為を行った。これには数十万人の「慰安婦」の性奴隷化や、朝鮮の学童に日本語の学習を強制して韓国文化を根絶する努力が含まれていた。

続きはアゴラで。






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