「プロパティ」は財産権ではない

ジョン・ロック――神と人間との間 (岩波新書)
ジョン・ロックは退屈である。本の名前は誰でも知っている『統治二論』を最後まで読んだ人は、ほとんどいないだろう。「近代的な財産権の宣言」というイメージとは違う神学的な話が延々と続き、財産権の根拠になっていないからだ。

しかし著者は、それがロックの本質だという。彼のコアにあったのは啓蒙的な個人主義ではなくピューリタニズムであり、世界は「神の作品」だという信仰だった。Propertyという言葉は「所有権」とか「財産権」とか訳されるが、本書によればそれなしには神への義務を果たすことができない固有の権利で、資産だけでなく「生命・健康・自由」を含む。

ロックが「プロパティ」の根拠を労働に求めたのも労働価値説ではなく、神の救いの確証を見出すためだという。財産の格差は勤勉によるものだから、土地の所有権も投下した労働で正当化される。北米に移民したイギリス人が原住民を追い出して開拓した土地は、労働した開拓者のものだ。ロックは明確に植民地支配を肯定している。

続きは6月11日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

問題は消費税ではなく法人税だ

20180526_FBC517
アメリカ経済が好調だ。失業率は3.8%とここ20年で最低水準になり、株価も回復してきた。大統領選挙のときはトランプを全面否定していたEconomist誌が、トランプ政権の経済政策をかなり高く評価している。

この1年半でトランプの実行した最大の政策は、大幅減税である。これは共和党の伝統的な政策だが、今までは増税(連邦消費税)とワンセットだったので民主党が反対し、ずっと実現しなかった。それをトランプは法人税率を21%に下げる一方、増税はしないという乱暴な方法で実現した。この結果、図のように国内投資が大幅に増えた。

トランプは経済理論なんか知らないので、財政赤字は大幅に増える見通しで、長期的にどういう効果をもたらすかはわからない。金利が上がり、労働分配率は上がっていないが、トランプ政権が安倍政権より結果を出したことは明らかだ。その違いは安倍首相が消費税にこだわったのに対して、トランプが法人税に焦点を絞ったことだ。

続きは6月11日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

奇跡的に無能な日本の経営者

デービッド・アトキンソン 新・生産性立国論
きのうの記事でも書いたように、日本の低成長の最大の原因は高齢化による労働人口の減少なので、マクロ経済政策では解決できない。金融政策が役に立たないことはもう明らかだが、財政出動も短期的な意味しかない。財政赤字の分だけ総需要は増えるが、それが終われば元の木阿弥だ。

GDPを維持する一つの方法は移民を受け入れて人口を増やすことだが、これは社会保障を混乱させ、一人当たりGDPを上げる役には立たない。女性の労働参加率を高めることは意味があるが、今はかなり高くなったので劇的な効果は期待できない。

労働人口の減る中でGDPを上げるには、労働生産性(労働者一人当たりGDP)を上げるしかない。これは算術的には当たり前だが、具体策ははっきりしない。安倍政権の「生産性革命」も、成果はまるで上がっていない。本書は、日本企業の生産性が上がらない原因は「奇跡的に無能な経営者」を政府が甘やかしてきたからだと指摘する。その原因は次の5つだという。
  1. 株主のガバナンスが弱い
  2. 労働組合の弱体化
  3. インフレがない
  4. 超低金利政策
  5. 輸入がきわめて少ない
続きは6月4日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

「日本だけ成長していない」という迷信

世の中には「日本だけ成長していない」と思い込んでいる人が多いようだ。それを根拠に「もう成長できない」とか「脱成長」という人々がいる一方、「財政出動でもっと成長しろ」という人々もいる。これは本当だろうか。世界経済のネタ帳で調べてみよう(原データはIMF)。



続きはアゴラで。

戦争に反対したのは「保守派」だった

近代日本の構造 同盟と格差 (講談社現代新書)
坂野潤治氏の実証的な本は勉強になるが、最近の本は政治的主張が前面に出て理解しがたい。本書も最初のページで「憲法学者の違憲の声を無視した」安倍政権を糾弾し、それは「日英同盟を想起させる」という。歴史学的な新事実があるのかと思って読んでみると、大東亜共栄圏の「大アジア主義」を肯定する荒唐無稽な話で前半が終わる。

後半は民政党の「保守派」に対して無産政党の「格差是正」が対立したという図式で、1930年代の歴史を語る。後者の元祖は「民本主義」をとなえた吉野作造で、蝋山政道や矢部貞治や宮沢俊義など、東京帝大のインテリが無産政党を支持し、大政翼賛会を指導して総力戦体制を構築した。

そこまでは最近の他の研究と似ているが、著者は保守派を批判する。1936年に革新官僚や陸軍統制派を批判した斉藤隆夫の「粛軍演説」も、資本家や地主の負担を減らそうとする既得権擁護だという。この問題を解決したのは戦争と軍拡と徴兵による「総需要拡大」だったが、なんと著者はそれを支持するのだ。

続きは6月4日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

戦時体制という「ビッグプッシュ」

帝国の昭和 日本の歴史23 (講談社学術文庫)
1930年代の日本政治を「ファシズム」と呼ぶのは間違いである。その出発点になったのは国粋主義ではなく、講座派マルクス主義だった。明治期の日本が「半封建的」な後進国であり、それを近代化するためには、まずブルジョア革命が必要だという「二段階革命」論は、当時の進歩的知識人に共通の歴史認識だった。

彼らは戦争を望んでいたわけではなく、来たるべき戦争にそなえて日本の経済力を結集し、重化学工業化を進めようとした。消費財ばかり生産しても、単純再生産になって資本が蓄積できない。こういう「貧困の罠」を脱却するには、戦時体制で一挙に資本集約化するビッグプッシュが有効だ、というのは今でも開発経済学で有力な理論である。この点で、初期のソ連は成功モデルとされている。

それを国家総動員法で実行したのが、蝋山政道、矢部貞治、宮沢俊義、大河内一男などの東京帝大の知識人で、近衛文麿はその影響を受けて大政翼賛会をつくった。そこには明治以来の権力分立を克服し、国家を計画的に運営するという合理的な目的があり、無産政党が率先して合流した。日本は戦争には負けたがビッグプッシュは成功し、それが戦後の成長の原動力となった。

続きは6月4日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

廃炉の「主体」を明確化せよ

Cciu7qYUEAEuzhx

産経新聞によると、5月18日に開かれた福島第一原発の廃炉検討小委員会で、トリチウム水の処理について「国の方針に従う」という東電に対して、委員が「主体性がない」と批判したという。「放出しないという[国の]決定がなされた場合、東電はどうするつもりなのか」と問い詰めたのはもっともだが、廃炉の主体は東電なのだろうか。

続きはアゴラで。

原子力開発は1980年代に挫折した

日本の原子力外交 - 資源小国70年の苦闘 (中公叢書)
まもなく日米原子力協定が自動延長される。その条件は日本が余剰プルトニウムを使い切ることだが、六ヶ所村の再処理工場が動くめどが立たない現状では、核燃料サイクルは成り立たない。それでも経産省と電力会社が核燃料サイクルにこだわるのは、日本の原子力開発が高速増殖炉(FBR)を中核として始まったからだ。

アメリカの原子力開発も1970年代までは核燃料サイクルを前提にしていたが、カーター政権がくつがえした。日本もヨーロッパも、これに強く反発した。初期の「核拡散防止」は、米ソ以外の国が核兵器を持てないようにすることだったが、その後、中国が核兵器を開発し、プルトニウムを規制するだけでは拡散を防げない一方、その平和利用に強い制限がかかったからだ。

アメリカの方針は迷走し、世界中がこの方針転換に振り回された。同じころスリーマイル島の原発事故が起こり、アメリカでは67基の原発建設がキャンセルされ、1980年代以降まったく建設されなくなった。将来は火力を代替する超経済的なエネルギーとして期待された原子力は、こうした政治的な原因で挫折したのだ。

他方、日本ではFBRの開発が遅れる一方、それまでのつなぎだった軽水炉の経済性が高かったため、全国の電力会社が軽水炉の建設を進めた。結果的に原子力開発は進んだが、核燃料サイクルは宙に浮いてしまった。1990年代までに「全量再処理」の方針には疑問が出てきたが、日本は方針転換できなかった。

続きは6月4日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

バカでもできる円安目標

インフレ目標に行き詰まった日銀が、外債を買うという話が出ている。理論的には、黒田総裁が1ドル=200円にペッグすると宣言して米国債を買い、日本国債を売れば、円安・インフレが起こる。これはスヴェンソンが2000年に提案したバカでもできる方法(Foolproof Way)の応用だ。もちろん政治的には不可能だが、どうなるかは容易に予想できる。

 1.円は暴落して200円に近づく
 2.国債の相場も暴落する。
 3.市中銀行が大きな評価損を抱えて金融危機が起こる
 4.財政インフレが起こって物価が急上昇する
 5.日銀が一転して市中銀行の国債を買い、米国債を売る

続きはアゴラで。

「AIで仕事がなくなる」論のウソ

「AIで仕事がなくなる」論のウソ この先15年の現実的な雇用シフト
AI(人工知能)のブームは、これまで3度あった。第1次ブームは1950年代後半から始まったが、この時期にAIの限界(フレーム問題)が指摘され、それはいまだに解決していない。第2次ブームは1980年代の「第5世代コンピュータ」のころで、自然言語処理が主なテーマだった。私も取材したが、まったく実用的な成果が出ないで終わった。

2000年代後半からが今の第3次ブームだが、本書も指摘するように、AIの限界が「深層学習」で解決したわけではない。本質的な問題は、機械は人間より安いのかということだ。たとえば外食レストランで注文をとって食事を出すロボットができたとしても、そのロボットを時給1000円で借りることができないかぎり、人間の仕事はなくならない。

この点では「AI化」に大した意味はなく、すでに「IT化」でコンピュータにやらせたほうが安い事務作業は、かなり置き換えられている。さらにいえば「グローバル化」で、国内雇用が輸入に置き換わっている。つまりこれまで中国人に奪われていた仕事が今後はコンピュータに奪われるわけだが、その基準はAIの性能ではなく、経済的な比較優位である。

続きは5月28日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。




title


連絡先(取材・講演など)

記事検索
月別アーカイブ
QRコード
QRコード
Creative Commons