小さく見えて大きな政府

世界的には保守とリベラルの争点は「大きな政府か小さな政府」かという対立軸だが、この基準でみると日本に保守政党はない。安倍政権は世界的にみるとアメリカ民主党よりリベラルで、野党は極左である。

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この図は内閣府の調査した国民負担率の国際比較(クリックで拡大)だが、日本は極端に大きいわけではない。その特徴は租税負担率の低さである。日本よりはるかに国民負担率の低いアメリカでも24.2%なのに、日本の租税負担率はそれとほとんど変わらない。この最大の原因は財政赤字が大きいことだが、もう一つは社会保険料が高いことだ。

日本の社会保険料は、大きな政府の代表だと思われているスウェーデンの3倍だ。選挙のたびに消費税が争点になって先送りされ、社会保険料が引き上げられてきたため「痛税感」は小さいが、負担の実態はヨーロッパ並みに大きい。

つまり「大きな政府か小さな政府か」というのはもはや問題ではなく、日本は財政赤字や社会保険料で国民負担を偽装した小さく見えて大きな政府なのだ。デモクラシーの基準が「納税者が自分の負担を決める」ことだとすると、日本は税デモクラシーが最低の国である。続きを読む

株式市場は未来を予見できない

日経平均は、21年ぶりに2万1000円台を回復した。選挙になったとき株価が上がるのは当たり前で、安倍政権も消費税の「使途変更」でその期待に応えようとしている。国民所得統計でも物価統計でもアベノミクスの成果は出ていないが、株価への効果は顕著だ。

安倍政権で行われた財政政策の規模は、民主党政権と大して変わらない。それが成長率の低い原因だが、金融政策は突出している。図のように日銀が黒田総裁になってから、マネタリーベースは150兆円から500兆円に激増し、その資産のうち国債が450兆円以上を占める。これが安倍政権の唯一の経済政策といってよい。


マネタリーベース(青・億円)と業況指数(赤・右軸)出所:日銀


続きはアゴラで。

憲法第9条は戦後リベラルのコアではない

戦後リベラルの終焉 なぜ左翼は社会を変えられなかったのか (PHP新書)
三浦瑠麗氏のコラムが左翼から批判され、右翼には評判がいいらしい。その論旨は「日本型リベラルの核心には憲法9条がある」という言葉に尽きるが、これは事実誤認である。拙著でも書いたように、終戦直後から60年代にかけて日本の左翼のコアは「全面講和」に代表される非同盟だった。その代表と目される丸山眞男は、1964年に次のように書いた。
第九条の理想としての平和主義を堅持するという主張によって、なにが否定されているのか。「戦争主義」が否定されているのか。そうだとすれば、およそ戦争主義、あるいは軍国主義を理想として憲法に掲げる国家というのは、現実にもなかったし、今後は一層考えられません。(「憲法第九条をめぐる若干の考察」)
ここで彼は第9条そのものは否定していないが、その理想とする平和主義(pacifism)が政治学的には無意味な概念だと指摘している。彼は日米同盟には強く反対したが、「第9条を守れ」と主張したことはない。彼を中心とする戦後リベラルが憲法問題研究会に結集して改正を阻止しようとしたのは、第9条ではなく第1条(国民主権)だった。晩年の丸山はこう明言している。
僕はこういう条件[国連軍]がかなえば、憲法は第二の条件であって、憲法改正の議論も自由にしていいです。九条も含めていいですよ。[…]あれは「国家の自衛権」がないという意味です。僕もそれは書いたけど、いつ「国民の自衛権」を否定しましたか。国民が自己防衛するのは憲法は許していますよ。(『丸山眞男話文集』続3、pp.270~71)
今のガラパゴス憲法学者とは違い、丸山にとって憲法は理想ではなく、それ自体には価値のない政治的手段に過ぎなかった。では彼の究極の目的は何だったのだろうか。

続きは10月16日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンでどうぞ。

「失業予備軍」としての高齢者と主婦

アゴラの記事を補足しておくと、2009年以降に新たに労働市場に入ってきたのは、退職後の高齢者と主婦である。そのほとんどはパートタイム労働者なので、労働人口は増えたが、総労働時間が減ったのだ。

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正社員とパートタイム社員(右軸)の実質賃金(時給)


上の図は川口=原のデータだが、「正社員と非正規の格差が拡大した」という一般的なイメージとは逆に、人手不足でパートタイム労働者の時給は上がった。このためパートの供給が増えたが、彼らの時給は正社員のほぼ半分。正社員の給与が下がり、定年退職してパートに置き換わったので、合計した平均賃金は上がらない。

これはマルクス的にいうと、高齢者と主婦が失業予備軍として低賃金労働を供給したということだ。失業予備軍とは労働市場の外側にいる人々で、労働供給の価格弾力性が大きいので、時給が上がると労働市場に入ってくる。特に2010年代にコンビニや外食などの業務が自動化され、こういう非熟練労働者が大量に供給された。

続きは10月16日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンでどうぞ。

若者はなぜ自民党を支持するのか

今回の総選挙の世論調査で、若者の自民党支持率が高い。たとえば毎日新聞の世論調査では、20代以下の自民党支持率が4割弱で、30代以上は2割台だ。それを「保守化」という人がいるが、逆である。彼らは新聞を読まないので、「反安倍」の刷り込みを受けていないだけだ。

今の国際情勢で「安保反対」を唱える野党を支持する理由は見当たらないし、若者にとって重要な雇用も改善している。自民党はこれを「アベノミクスで雇用が改善した」とアピールしている。確かに完全失業率は3%を下回って「完全雇用」といっていい水準だが、その原因は何だろうか。

続きはアゴラで。

ロシア革命は「社会主義」だったのか

世界戦争から革命へ (ロシア革命とソ連の世紀 第1巻)
今月はロシア革命(10月革命)から100年。いろいろな本が出ているが、その多くは本書のいう「ボリシェヴィキの語り」を脱していない。1917年のロシアで起こった出来事のピークが10月革命であり、それは(よくも悪くも)ロシアの伝統とは断絶した政治体制だったという見方は今なお根強い。

だが本書のような最近の研究が明らかにするのは、10月革命がマルクスやエンゲルスの考えた社会主義(共産主義)とはほとんど関係なく、ロシア人が人民専制と呼んだものだったということだ。それはツァーリをボリシェヴィキに置き換えたクーデタで、革命と呼べるかどうかも疑問だが、専制国家の伝統になじんだロシア人には受け入れやすかった。

レーニンはそれを「歴史の法則」という言葉で語った。ロシア革命は資本主義から社会主義への移行という普遍的な法則の証明であり、市場経済は計画経済に置き換えられ、国家は死滅して国際的な労働者のコミューンが生まれる――そういう語りは今も一部の人に空想的平和主義として残っている。

社会主義のイメージは否定的にも受け継がれているが、ロシアや中国の悲劇の原因は社会主義だったのか。資本主義のもとでは、戦争や虐殺は起こらないのか。1989年から崩壊したのが社会主義ではなく専制国家だったとすれば、それは資本主義がすぐれているという証明にはならないのではないか。続きを読む

リチャード・セイラー『実践行動経済学』

実践 行動経済学
2017年のスウェーデン銀行賞は、本書の共著者、リチャード・セイラーが受賞した。彼は行動経済学の開拓者で、この本はそれを応用した「リバタリアン・パターナリズム」を提唱している。これは冗談で、まじめにいうと「これまで非現実的な『合理的経済人』を想定して行なわれてきた制度設計を現実的な人間の行動にもとづいて考え直す」ということだ。

新古典派経済学では、人々はすべての問題について効用最大化の選択を行なうことになっている。しかし、たとえばあなたが職場に行くとき、何時に起きて朝食で何を食べ、どんな服を着て何時に家を出るか・・・など多くの問題があり、それぞれについて多くの選択岐があるので、すべての選択肢について効用最大化の計算をしていると、組み合わせの爆発が起きて、会社に遅刻してしまう。続きを読む

小池百合子氏の好きな「見えない税」の盲点

今回の総選挙は、争点があるようでない。憲法・国防については自民・希望が同じ方向で、それに反対する「立憲主義」勢力はマイナーだ。経済政策も消費税の増税を掲げているのは自民党だけで、他の党はすべて増税には反対である。

増税の好きな人はいないので、それは政治的には合理的だ。この点でわかりやすいのは、希望の党である。小池百合子氏のあげている「三本柱」のうち、「消費税の増税凍結」と「原発ゼロ」は、見える税を減らして見えない税を増やすというポピュリズムで一貫している。

続きはアゴラで。

災害が日本社会のモラルをつくった

江戸の災害史 - 徳川日本の経験に学ぶ (中公新書)
近代ヨーロッパの社会をつくった大きな原因が戦争だということは、社会科学の共通理解になりつつある。日本は16世紀までヨーロッパとあまり変わらない「封建社会」だったが、江戸時代に長い平和が続き、それとはまったく違う社会になったといわれている。

しかし本書も問いかけるように「江戸時代は本当に平和だったのだろうか。一体平和とは何だろうか。たしかに戦争はなかったが、じつは江戸時代は、わたしたちが想像する以上に生き延びるのに苦労の多い時代であった」。19世紀末の平均寿命は43歳ぐらいと推定され、生まれた子供の半分は5歳までに死亡した。17世紀に日本の人口は2倍以上になったが、18世紀以降はほとんど増えなくなった。

その大きな原因は災害だった。特に18世紀後半から、地震や火災や飢饉などが多発した。それは自然災害が増えたのではなく、人口が増えて都市に集中したため、被害が増えたのだ。特に1780年ごろの天明の大飢饉は、社会を大きく変えるインパクトがあった。そのころから戦争で戦うのではなく、災害で助け合うことが日本社会のモラルになったと思われる。

続きは10月9日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンでどうぞ。

「内部留保」をなくすシンプルな税制改革

希望の党の「内部留保課税」は、今どき法人税を実質的に1.5倍に増税しようという失笑ものの提案だ。消費税の増税を凍結する財源として「300兆円の内部留保に2%課税する」という答を用意したのだろう。消費税をいやがる情報弱者に配慮して「もうかっている大企業から取る」というわけだ。

続きはアゴラで。






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