情報弱者の「速い思考」が政治を動かす



石原元知事の百条委員会は、予想通り何も出なかった。しいていえば彼が「環境基準のハードルを高く設定した」と認めたことぐらいだが、これは2014年に舛添知事が「安全宣言」で修正した。もともと法的根拠のない議会答弁なのだから、小池知事があらためて「安全・安心宣言」を出せばよい。

続きはアゴラで。

人間はなぜ合理的に考えるのか

A Natural History of Human Thinking
経済学では、人間が合理的に考えるのは当然で、感情的な行動は「バイアス」だと考えるが、これは非現実的というより完全に倒錯している。感情は霊長類に普遍的にみられるが、理性は人類にしかない特殊な能力だからである。それが進化の過程でなぜ有利だったのかははっきりしないが、その一つの要因は言語による伝達を容易にしたことだろう。

猿は自分で経験したことしか記憶できないが、人間は他人に言語で経験を伝えて協力できる。動物が身振りで伝えられる内容は限られているが、人間は文法的な再帰性(recursiveness)で複雑な知識を表現できるからだ。たとえば「穴があると落ちる」という事実と「落ちると死ぬ」という事実から、「穴に落ちると死ぬ」という知識を組み立てることができる。

このように複雑な知識を互いに伝えることによって、個体としては弱い人間がグループで生き残った。つまり合理的思考そのものより、それによって協力する意図の共有が生存競争で重要だった、というのがトマセロの理論である。

続きは3月27日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンでどうぞ。

百条委員会は小池知事を延命する「パンと見世物」


東京都の百条委員会が始まったが、何も出てこない。あすの石原元知事の喚問が山場だが、豊洲移転を左右するような話は出てくるはずがない。この委員会は移転の是非を議論するはずだったが、始まる前に小池知事が豊洲の「安全宣言」を出し、何のためにやるのかわからなくなった。「豊洲は安心ではない」というなら、彼女が「安心です」といえばすむ。

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「八百長の平和」が終わる

朝鮮半島の緊張が高まる中で、国会はワイドショー化している。これは当然で、日本の国会にはもともと国家戦略を決定する機能がない。自民党は1955年に結党したときから、保守勢力が「反共」で野合した理念なき日本型ポピュリズムの党だった。党是としては憲法改正を掲げたが、その実態はアメリカの核の傘にただ乗りして地元利益で集票するマシンだった。

アメリカは軍事負担の肩代わりを求めたが、自民党は「国内的な配慮」を理由にして拒否してきた。1972年の沖縄返還のとき、佐藤内閣は「沖縄の核は黙認するが自衛隊は海外派兵しない」という取引をして「集団的自衛権」の行使を違憲とする法制局見解を出した。集団的自衛権は、東アジアの紛争から逃げるための「貞操帯」のようなものだった。

安保法制をめぐる「与野党対決」も、アメリカの圧力をかわすための八百長だった。そのあと争点を失った野党は、大阪の幼稚園をめぐる騒動に国会審議を費やしているが、こんな茶番はいつまでも続けられない。東アジアの地政学的なバランスは大きく変わったからだ。続きを読む

日本は「国家的アナーキズム」

アナキズム入門 (ちくま新書1245)
アナーキズムはプルードンの「所有は盗みだ」という思想と、クロポトキンの「相互扶助」の思想に尽きるが、いずれも荒唐無稽なものではない。プルードンの「社会的所有」の思想はマルクスに剽窃され、共産主義(国家的社会主義)に堕落した。

クロポトキンの思想はダーウィンの進化論に依拠しており、今の生物学でいうと集団淘汰の理論である。これは個体群のレベルでは正しいが、多くの中間集団が複合して「大きな社会」をつくるとき、全体を統括する国家(暴力装置)をつくらないで、ローカルな集団の協力で秩序を守れるかどうかは疑問だ。

プルードンとクロポトキンの思想は一体で、国家による所有権の保護なしで中間集団の相互扶助によって社会が維持できる、というのがアナーキズムの仮説である。こういう性善説は近代国家では内戦を誘発して悲惨な結果になるが、その唯一の例外が日本である。

「家」は相互扶助の単位だが、徳川家は全国で300の家を固定し、その中でさまざまな中間集団をつくった。明治以降もこのフラクタル構造は生き残り、意思決定はすべて中間集団で行われる。役所を超える天皇の意思は「忖度」されるだけで、究極的な決定主体としての国家はなかった。それは今も続く国家的規模のアナーキズムともいえよう。

続きは3月20日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンでどうぞ。

森友学園の「寄付」は籠池理事長の自作自演



森友学園の話はますます奇怪な展開になってきたので、経緯を簡単に整理しておこう。籠池理事長は「安倍首相が昭恵夫人を通じて森友学園に100万円寄付した」というが、官房長官が「首相も夫人も寄付していない」と否定した。菅野完氏はその「物証」を入手したと称しているが、この話には疑問が多い。

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「宗なき教」としての教育勅語

私はFacebookの始まったころからのユーザーだが、初期はほとんど英語で、海外との連絡に使っていた。"Atheist"(無神論者)というグループに入ったら、たくさん質問が来て驚いた。よくきかれたのは「日本人は宗教なしで、どうやって高いモラルを保っているのか?」という話だが、それは日本人にもよくわからない。

たぶん明治の日本人もそうだったのだろう。JBpressにも書いたように、井上毅が教育勅語を書いたのも、彼の訳した「宗教」という概念を日本に定着させるためだった。ヨーロッパで文明国をみた井上は、日本に欠けているのは「国教」だと考え、「世に宗教なきときは政府たるもの幾分か此の宗教の力をかりて以て治安の器具となさざる事を得ず」と書いた。

彼は「国民多数の信仰ある宗旨を用ふべし」と書いて仏教を国教にしようとしたが、それは「葬式仏教」になっていて国民を統合することはできなかったので、教育勅語を起草した。長州閥は儒教を国教にしようとしたが、井上は元田永孚などの儒学者の抵抗を押し切って中立な勅語にした。

おかげでたった315字の無内容な訓話になり、勅語は国民を精神的に統合できなかったが、全国民が暗唱する同調圧力にはなった。井上はいろいろな宗旨から独立の宗なき教として勅語を書いたのだが、それは実定法と道徳を乖離させ、法を超えた「詔勅」で行政の裁量が拡大する結果をまねいた。続きを読む

「インフレ税」で所得分配は公平になる

日経新聞も朝日新聞も財政タカ派だから、FTPLには否定的だ。私もその結論に反対ではないが、「インフレ税は不公平だ」という批判は誤っている。少なくとも理論的には、インフレ税は金融資産への一律課税だから、Lucas-Stokeyのいう最適課税になる。所得分配も、預金が目減りして金持ちが損するので(相対的には)公平になる。

それより大きいのは、世代間の所得分配を公平にする効果である。公的年金などの社会保障債務の減額は政治的に不可能だが、インフレ税なら踏み倒せる。シムズもいうように、これを政治的に解決する方法はインフレ以外に考えられない。財政タカ派のいうように政府が「地道に増税」すると、デフレになって実質債務は増え、かえって不公平になる。

インフレ税の最大の難点は、多くの人が批判するように、政府が物価上昇率をコントロールできないことだが、これは今のまま放置しても同じだ。政府債務が極限まで積み上がると、いずれ長期金利が上昇し、インフレが起こる。続きを読む

森友事件の「忖度」が示す日本の変わらぬ「國體」

森友学園の事件は国会で審議するような問題ではないが、稲田防衛相にも延焼して社会部ネタとしてはおもしろくなってきた。本丸の安倍首相は「もし関わっていたら私は政治家として責任を取る」と明言しているので、常識的には(少なくとも意図的には)彼は関与していなかったと思われる。

だが9億5000万円で取得した土地の「ゴミ処理代」が8億2000万円というのは、いかにも不自然だ。国有地を売却したのは財務省の理財局だが、これについて橋下徹氏が「財務省の忖度ではないか」という古風な表現をしていたのがおもしろい。『大辞林』によれば、忖度(そんたく)とは「他人の気持ちをおしはかること」で、その「他人」はかなり目上の人だ。この場合はもちろん首相である。

続きはアゴラで。

「亜インテリ」が歴史を動かす

豊洲をめぐる騒動の原因は、小池知事が大衆をバカにしているからだというのが私の仮説だが、彼女がワイドショーの話を信じているという説も捨てきれない。本人が間違いだと知っていたら、そう長く嘘をつき続けることはできない。トランプのように支離滅裂な話を信じているのがポピュリストの特徴である。

丸山眞男は、ファシズムの担い手は本物のインテリではなく「小中学校の教員や村役場の下級官吏のような亜インテリだった」(「日本ファシズムの思想と運動」)と書いて批判を浴びた。これは政治的には正しくないが、当たっている。科挙でインテリが国家権力をもった中国と違って、日本ではインテリが歴史を動かしたことはない。

しかし結果的には「全面講和」を唱えた丸山や南原繁などのインテリより、自民党を支持した大衆のほうが賢明だった。もし1950年にインテリが勝利していたら、日本は講和条約を結べず、安保条約は60年で破棄されただろう。国民が自民党を支持したのは、彼らが条約の中身を知らなかったからだ。歴史を動かすのは、それを書くインテリではなく、圧倒的多数の大衆であり、それを煽動する亜インテリである。

大衆は平時には政治に無関心なので自民党を支持するが、危機のときはワイドショーを見て小池氏のようなポピュリストを支持する。アメリカでトランプが支持され、イギリスでBrexitが支持されたのも同じ現象である。それは国民が愚かになったからではなく、その知識水準が上がって、彼ら自身が亜インテリになったからだ。

続きは3月20日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンでどうぞ。






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