奇妙なTOB

フジテレビが公開買い付けで取得したニッポン放送株は、36%を超したという。

しかし、これをTOB(Take Over Bid)とよぶのはおかしい。TOBというのは、企業の支配権を得るために行うもので、最初にフジテレビの行った「50%超」という目標の買い付けはTOBだが、それを25%に下げた買い付けは、消極的な「企業防衛策」でしかない。

また、市場価格を下回る価格で買い付けが成功するのもおかしな話だ。通常のTOBでは、市場価格が上がるとTOBの価格も引き上げられ、むしろ一定のプレミアムがつくのが普通だ。今回は、トヨタが「市場価格以下で売るのは株主に説明がつかない」と応募を拒否したようだが、これが世界の常識である。

日本では初めての出来事だからしかたないが、いかにも日本的な、奇妙なTOBだった。

Secondary market

昨日の記事へのコメントで議論が沸騰している。私はAMラジオに未来がないことは明らかだと思うが、ライブドアに未来があることはそれほど明らかだとは思わない。少なくとも、これまで表明されている堀江氏のビジネスモデルは、かなり曖昧なもので、それがすべてだとすれば失敗するおそれも強い。

こういう買収が起こる一つの原因は、放送業界に新規の免許が出ないことだ。したがって企業買収が事実上免許を売買するsecondary marketになっており、この意味での放送局の買収というのは、欧米でも珍しくない。今回も、ニッポン放送の免許の買収だとすれば成功する可能性は大きいが、本来の目的はフジテレビだろう。しかし筆頭株主になっただけでは、その目的は達成できない。

日本のテレビ業界では、これまで買収・合併は1件もない。これは「護送船団行政」で保護されてきたためだ。これを打破するには、やはりブロードバンドで「もうひとつのテレビ」をつくって正面突破するしかないのではないか。護送船団に慣れきった今の放送業界に、変われと要求しても無理だ。そのことは、今度の騒動で堀江氏も学んだのではないか。

ある「家」の終焉

辻井喬『父の肖像』(新潮社)を読んだ。前に買ったのだが、今度の騒動で、堤康次郎という人物に興味がわいたので。

ひとことでいうと、堤義明前会長のワンマン経営は、康次郎の手法の「まるごとコピー」に近い。「世間では東急を近代的だとか大企業らしいなどと言っているが、どの企業も五島家のものではない。そこへ行くとわしの事業は全部[堤家の]ものだ」という康次郎の「家」への執着はすさまじい。

さらに話をややこしくしているのが、いろいろな妾にたくさん子供を生ませた血縁関係のドロドロだ。著者(堤清二氏)も、父に反抗して共産党に入り、相続を拒否したりするのだが、結局は西武百貨店を相続した。これも経営が破綻して、解体されてしまった。

これで堤家は、事実上消滅することになるだろう。「家」の業の深さを感じさせる。

AMラジオの未来

ニッポン放送の「社員総会」で、「ライブドアに買収されるのはいやだ」という決議が出され、圧倒的多数で可決されたそうだ。まあ敵対的買収というのはそういうものだが、この社員たちは、AMラジオに未来があると思っているのだろうか。

わが家のチューナーは、AMも受信できるが、一度も受信したことがない。Business Weekも指摘しているように、インターネット・ラジオが在来のラジオの市場を侵食している。日本では、規制がじゃましているが、時代の流れは戻らないだろう。ライブドアのノウハウを使って生き残りを図ってはどうだろうか。

キラー・コンテンツ

ソフトバンク・ホークスの試合(オープン戦)がヤフーBBで中継されたらしい。球場にカメラを30台置いて、視聴者が好きなアングルから見られるそうだ。

昔、NHKのBSの立ち上げにつきあった経験からいうと、こういう新しいメディアの「キラー・コンテンツ」は映画とスポーツだ。この意味で、ソフトバンクの戦略はまちがっていないが、野球だけではどうにもならないだろう。まず、地上波を再送信するという有線放送として当たり前の機能を実現する必要がある。

閉鎖会社

西武鉄道をめぐる事件は、今週にも「本格捜査」に入るそうだ。堤義明氏が、意外に率直にグループの実態を話しているのがおもしろい。

なかでも興味あるのは「なぜ西武鉄道を上場するのかわからない」という話だ。事実、その株式は堤家の「私物」だったわけだ。今回は、それを虚偽記載したことが問題になったが、正直に記載して閉鎖会社にしていれば、問題はなかったはずだ。

ニッポン放送の事件でも「買収によって上場廃止になる」ということが問題であるかのように語られるが、別に上場しなくても経営している大企業はたくさんある。サントリーも朝日新聞も閉鎖会社だ。1990年代の米国では、LBOによって公開会社の比率は減った。

企業は私有財産であり、基本的にはその株主のものである。鉄道や放送に「公益性」があるからといって、株式を公開すべきだということにはならない。

退屈

「肉弾」がレンタルで見られないので、買って見てしまった。

この映画の隠れたテーマは「退屈」だ。主人公は、自由時間を与えられると、まず古本屋へ行って「時間をつぶせる本は何か」とたずねる。店主が出したのは、聖書だった。これは実際に、学徒出陣のときにはよくあったことらしい。

老後というのも、退屈との闘いである。私も、そういう年齢に近づいている。これを解決してくれる、もっとも身近な手段がテレビなのだが、これが救いがたく退屈だ。これを是正することは、高齢化社会にとってきわめて重要な問題だと思う。今度のライブドア騒動でも、退屈ではないという点で堀江氏を応援したい。

ポイズン・ピル

ニッポン放送の発表した新株予約権の発行は、一種のポイズン・ピルである。日本の商法では、こういう対抗措置を認めておらず、しかも買収をしかけられてから事後的にやったのは疑問だ。ライブドアが仮処分を申請すれば、差し止められる可能性もある。そもそも、こんな方法が許されるなら、最初からTOBなんて必要なかったはずだ。

ニッポン放送は、増資の理由として「ライブドアの傘下に入ったら企業価値が毀損される」としているが、要するに「インターネットが恐い」ということだろう。これに対して「地上デジタル放送なんてナンセンス。インターネットでやればよい」という堀江社長のほうが、メディアの未来像としては正解だが、それが実現するかどうかはわからない。

ちなみに、ニッポン放送の亀淵社長というのは、もとディレクターで「オールナイト・ニッポン」のDJをやっていたこともある。当時に比べると、すっかりサラリーマン化した感じで、フジテレビのいいなりという感じだ。

放送の外資規制

今国会に、放送への外資規制を強化する法案が出るという。ライブドアの買収を「外資の間接支配」ととらえる時代錯誤は救いがたい。こういうルールを適用すると、ソニーもトヨタも「外資系」としてひっかかってしまうだろう。

かつてもNTTの大株主に外資がなったとき、「通信主権」なるものが論じられたことがあったが、具体的にどういう弊害があるのかわからないため、立ち消えになった。放送の場合も、外資の出資している会社が20%以上の株式を持ったら、番組の内容に影響が及ぶのか。

こういうとき必ず出てくるのが「電波は有限だ」とか「公共の財産だ」という話だ。世の中に無限の財産などない。有限だからこそ、特定の企業に独占させないで新規参入によって有効利用するのが市場メカニズムである。外資を差別する理由はない。

買収防衛策

来年から外資による企業買収が容易になることで検討されていた会社法案の買収防衛策が、ライブドア騒動で注目を浴びている。

しかし内容は「ポイズン・ピル」などの買収妨害を可能にするもので、株主資本主義という観点から見ると問題がある。経営努力を怠っている経営陣が、「外資はいやだ」とか「ベンチャーに買われたくない」といった理由で買収を拒否する道具に使われる可能性もある。

要は「敵対的」とか「友好的」とはだれに対してなのかということだ。たとえ経営陣にとっては敵対的であっても、企業価値を高めるなら株主にとっては友好的な買収だ。「米国並み」にするというふれこみもおかしい。ポイズン・ピルなどを認めているのは州レベルで、「株主軽視だ」と批判をあびたケースもある。

敵対的買収の成功率は高くないが、「株主を無視して株価が下がったら買収される」という規律を経営陣に与える意味は大きい。買収が本格的に始まらないうちから、防衛策ばかり入念に検討するのもいかがなものか。







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