WiMAXの運命

鷹山がWiMAXの「実地試験」を開始するそうだ。これは世界でも最も早い実験のひとつだろう。

他方、Economist誌はWiMAXについて「田舎向けがせいぜい」という否定的な分析を載せている。DSLが米国よりもはるかに発達した日本ではもっと不利かもしれないが、勝負はむしろ移動性がどの程度、確保できるかだろう。PHS程度で定額ブロードバンドが提供できれば、十分競争力があると思う。

MCIの買収

VerizonがMCIを買収する最終合意が成立した。WSJも指摘するように、これで独立系の長距離電話会社は消滅する。時計の針は、AT&T分割の前に戻りつつあるようだ。

今から7年前、WorldComやQwestなどが華々しく登場した当時、エリ・ノームにインタビューしたら、「最後に生き残るのはラスト・マイルを支配するILECだ。新しい長距離業者は彼らに買収されるだろう」と予言していた。

「設備ベースの競争」という概念は、ILECの独占を守るレトリックとして使われることも多いが、今回の一連の事態をみると、やはり通信業界を変えるには加入者系の競争しかないと思う。その可能性をもっているのは、無線だろう。

遺伝子工学のコモンズ

Economist誌によれば、遺伝子工学でも「コモンズ」的アプローチが始まったようだ。これは遺伝子操作によって新しい植物をつくる技術を、GPLのようなライセンスで公開するものだ。

Boldrin-Levineの主張するように、関連技術をもっていないと役に立たない医薬品や遺伝子工学は「オープンソース」に向いていることは確かだ。しかし、クローズドにすれば巨額のライセンス料を得られる技術をあえて公開するインセンティヴがあるのだろうか。

こういう問題は、結局「お互い様」という状況ができるかどうかに依存している。GNUのようにコミュニティができれば、そこから利益を得ることもできるので、問題はむしろ遺伝子工学のGNUができるかどうかということだろう。

名誉の挫折

先日、ある政治学者に「RIETIの挫折は、ある意味では必然だった。あれは名誉の挫折だ」といわれた。霞ヶ関が研究所を独立行政法人にしたとき、思い描いていたのは経済社会総合研究所のような人畜無害なもので、浜田所長も期待されたとおり「お飾り」の役割を演じただけだった。それに対してRIETIは、制度設計の段階から青木所長が「独立」という理念を本気で実現したため、霞ヶ関のコントロールがきかなくなった。だから、彼らにつぶされたのだ。

特に大きかったのは、他の省庁の政策を公然と批判したことだ。大学改革や通信政策を経産省の「外郭」が論じるというのは、霞ヶ関の常識にはない事態だった。これに対する他省庁の苦情に経産省が「対応」した結果が、今回の解体処分だったわけだ。事前には「霞ヶ関全体に対する"プランB"を提案する」などと格好いいことをいっておいて、実際には省益の圧力でつぶしたというのは、いかにも日本的だ。その建て前を信じて政策提言をした私がバカだったのだろう。

従来は、こうした外郭研究所は、官僚の決めた政策を合理化する資料を集める手段にすぎなかった。結論は霞ヶ関が知っており、学者はその土俵のなかで利用する対象でしかなかったのだ。ところがRIETIは意識的に、その土俵を踏み超えた。官僚が日本のthe best and the brightestであるという前提を否定したのである。これが彼らのプライドを傷つけたのだろう。

霞ヶ関の権力のかなりの部分は、彼らの知的権威に根ざしている。少なくとも私の世代までは、法学部と経済学部でもっとも優秀な学生は官僚になり、その次が学者になったものだ。ところが、今では経済学部の一番人気は外資系の投資銀行で、官僚の人気はメーカー以下だ。権力だけは大きく、そこに二流の人物が入ってくるというのは、かなり危険な現象である。

ライブドア

今回の買収劇の真相は、まだよくわからない。Greenmail(買収をほのめかして高値で買い取らせる)の可能性も捨てきれないが、堀江社長の話を読むと、それなりに筋は通っている。要するに、フジテレビに対するcorporate controlを割安で買い取ったということだろう。

堀江氏の戦略は、今ごろから携帯電話に出ようとしているソフトバンクよりも当たる可能性が高い。携帯業界は競争的だが、放送業界には競争がないからだ。企業買収を「乗っ取り」などと訳す習慣も改め、日本でもmarket for corporate controlを拡大する必要がある。

これは知的財産権の問題とも、間接的に関係がある。企業は、情報という非競合的な資産をコントロールし、自己完結的な「商品」にするシステムだから、これを売買することは、市場によって情報の組み換えを実現するもっとも効率的な手段である。

企業買収が情報の取引として機能しているのは、取引費用が低い(買収額に比べて手続きのコストが無視できる)wholesaleの取引だからだ。知的財産権でも、コンピュータにWindowsを組み込むようなホールセールの取引では、市場メカニズムが機能している。ここから考えると、DRMによって取引費用を相対的に下げることが知的財産権問題のひとつの解決法だろう。

トヨタ

トヨタの社長交代と奥田会長の日本経団連続投は、まるで日本経済の進路を決めるニュースのように報じられた。今や日本経済をトヨタがひとりで背負っているかのようだ。トヨタの渉外部(財界活動担当)では、70人ものスタッフが公共政策を担当しているという。欧米のような「シンクタンク」の役割をになっているともいえる。

しかし、トヨタをモデルにして「日本はすり合わせしかない」などという結論を出すのは早計だ。自動車という商品と「日本型」の経営システムが調和しているという点で、トヨタは一種の奇蹟である。情報産業では、ソニーでさえ自信を失っている。必要なのは、過去の成功体験にこだわらず、多様なアーキテクチャの「ポートフォリオ」をもつことだろう。

武士道

去年は「ラスト・サムライ」のヒットで新渡戸稲造の『武士道』が売れるなど、ちょっとした武士道ブームだった。しかし新渡戸の説く武士道は、本来の武士とは無縁の、明治国家を基盤とする近代思想である、と菅野覚明『武士道の逆襲』(講談社現代新書)は批判する。

たしかに武士は、各藩に雇われた「私兵」であって、国家に徴用される近代の兵士とは違う。本来の武士道は、むしろ自立した個人としての「名」を重んじる思想だった。『軍人勅諭』が、その忠義の対象を「主君」から国家にすりかえることによって、武士道は軍国主義のイデオロギーになったのである。

近代国家が中世の都市国家にまさったのは、私的な傭兵ではなく徴兵制による常備軍を持ったためだが、この転換はきわめてむずかしい。それに失敗したイタリアは近代化に立ち遅れ、急速な軍備増強をはかったドイツは2度の大戦で連敗した。プロイセンの「国のかたち」をまねた日本は、このドイツの失敗のあとを追ってしまったわけだ。

近代国家の本質は、暴力装置を国家に集中するとともに私的な暴力を禁止する、軍事共同体である。最近の米国の突出した軍事的冒険主義は、それをあらためて認識させてくれる意味では教訓的だ。

Re: ソフトウェア特許

ソフトウェア特許については、ストールマンの古典的な論文を初めとして、山のような議論があるが、今の流れとしては、極端な「プロパテント」からの揺り戻しが起きているのではないか。論議を呼んだソフトウェア特許についてのEU指令も、見直せという議論が出ている。

とはいっても、法律を改正するのは大変なので、あとは司法の良識によって「コモンロー」で解決するしかないだろう。特許の範囲を限りなく狭く解釈し、特許無効の判決をどんどん出せばいいのだ。「知財高裁」も、専門家が冷静に知財の価値を判断する場になるなら、悪くないかもしれない。

その際の基準は、特許を無効にすることによる社会的な費用と便益のどちらが大きいかということだ。今回のヘルプ機能などは、松下はもうワープロを作っていないのだから、明らかに一太郎の製造禁止による被害のほうが大きい。こういうrent-seekingは排除すべきだ。

ソフトウェア特許

一太郎をめぐる驚くべき判決は、いろいろな反響を呼んでいる。私の印象では、これまで「ソフトウェア特許」について比較的せまく解釈してきた日本の裁判所が、「知財強化」の国策に沿って米国のように広く解釈する前兆のような気がする。

問題の特許は単なる「思いつき」であり、ほんらい特許の対象になるかどうかも疑わしいし、ジャストシステムも主張するように、こんなに広く解釈すると、Windowsのヘルプ機能ぜんぶが特許に抵触するおそれがある。

特許制度は、学問的には存在意義が疑わしいという意見が強い*。国家が介在するとしても、優秀な発明に賞金を与えて公開することでよかったはずだ。とりわけソフトウェア特許は、著作権と二重保護になっておかしい。今となっては、廃止するわけには行かないだろうから、なるべく限定的に運用してほしいものだ。

* e.g. Shavell, Foundations of Economic Analysis of Law, Harvard U.P.

大江健三郎

大江健三郎氏の「古希」インタビューが朝日新聞に出ている。それによると、彼は最近になって初めて「書くことがなくなってから本当の作家になる」と気づいたそうだ。それでは、今まで書いていた「憲法第9条」や「核戦争の恐怖」などをテーマにした駄作群はどうなるのだろうか。

とはいいながら、加藤周一氏などと一緒に「9条の会」を発足させたというから、結局なにも「成熟」していないわけだ。







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