基本的人権


自民党の憲法改正案が出た。世の中の注目は「自衛軍」などの第9条に関連する部分ばかりに集まっているが、私はむしろ基本的人権の「追加」が問題だと思う。

報道によれば、名誉権、プライバシー権、肖像権、知る権利、犯罪被害者の権利を新たに基本的人権として創設するそうだが、最初の3つは表現の自由を侵害するおそれが強い。特にプライバシー権を認めると、個人情報保護法をめぐって起こっている混乱は、さらに拡大するだろう。名誉権や肖像権も、表現の自由を侵害する理由になりやすい。

そもそも、こうした「人権」を憲法に明記する意味は疑わしい。ハイエクもいうように、正義の概念は、ポジティヴな人権としてではなく、最小限度の財産権などを保護するネガティヴな自由権として規定すべきなのだ。

集中排除原則


読売新聞社に続いて、中日新聞社日経新聞社TBSも「マスメディア集中排除原則」に違反していることがわかった。

こういう形骸化した原則は、もうやめるべきだ。デジタル放送にともなって地方民放を再編するうえでも、この原則が障害になっているが、なかなか改正できない。県域の地方民放を地元での「宣伝塔」として使っている政治家が、統廃合を許さないからだ。

「報道ステーション」に朝日新聞の記者が堂々と出てくるような状態で、持株比率だけ制限しても、事実上の集中は排除できない。それよりも番組と電波をアンバンドルして、周波数オークションなどで新規参入を認めたほうがよほど競争的になるだろう。特定の企業の支配力が強まったら、公取委が取り締まればよい。


追記:朝日新聞社、産経新聞社、日本テレビ、フジテレビもやっていたようだ。新聞社とキー局で、やっていない会社はないのではないか。

ミクロとマクロ


ケインズ理論などのマクロ経済学が新古典派的なミクロ経済学で基礎づけられないことは、昔から経済学の悩みの種だ。現在の主流は、今年ノーベル賞を受賞したKydland-Prescottに典型的にみられるように、経済全体を超合理的な「代表的個人」の行動の単純な集計と想定する「新しい古典派」アプローチだが、これは実証に合わないばかりでなく、論理的にも欠陥がある。

こういう想定が成り立つためには、各個人の効用関数が同一であるばかりでなく、全員が他人の需要関数について共通知識を持っていなければならない。これは「各人は価格だけを知っていればよい」という市場メカニズムの特徴に反するし、そもそも全員の効用関数が同じだったら、取引は起こらないだろう。

現実には、個人からみると合理的な行動の集計がバブルなどの非合理的な経済現象を引き起こすことは珍しくない。こういう非線形のミクロ的なふるまいをマクロ的に粗視化(coarse graining)する方法論は、物理学では「くりこみ」理論として知られているが、経済学にもようやく経済物理学として導入され始めた。

この観点からみると、新しい古典派の致命的な難点は、合理性の仮定ではなく、ミクロとマクロの「スケーラビリティ」を仮定していることだ。この種の理論が数学的に過度にテクニカルであることがよく非難されるが、むしろまだ経済学の数学的手法は十分テクニカルでないのかもしれない。

第三のビール


政府税調が、サッポロの「ドラフトワン」などの「第三のビール」の増税を決めたという。

このように、相手の投資がサンクコストになってから、事後的に不利な条件を持ち出すことを「ホールドアップ」という。こういうことが起こると事前にわかっていると、ビール会社は新商品の開発投資をしなくなり、経済全体に悪影響を与える。税調の石弘光会長は「税の秩序を乱す」とかいったそうだが、彼はもう経済学者を廃業したのだろうか。

問題は、第三のビールの税率が低いことではなく、ビールの税率が他のアルコール類に比べて高すぎることだ。「税の公平」をいうなら、ビールの税率をドラフトワンに合わせるべきなのである。



ゲーム理論


ゲーム理論が流行しているらしい。そういえば、最近、本屋で「ゲーム理論で経営に勝つ」みたいなタイトルをよく見るが、こういう本を読むのはやめたほうがいい。経済学を学んでも金がもうからないように、ゲーム理論を学んでもゲームに勝てるわけではない。それに経営学者の振り回すゲーム理論は、恐ろしくお粗末だ。

他方で「ゲーム理論批判」みたいなものも出てくるようになったが、これはもっと相手にしないほうがいい。金子勝に典型的にみられるように、もともとゲーム理論を理解していないのがほとんどだからである。そのなかで、竹田茂夫『ゲーム理論を読みとく』(ちくま新書)は、少なくとも著者が理論を理解しているだけでも救われる。

ただ、この本も「人間の行動は戦略的ではない」という類の超越的な批判で、経済学者が読んでも参考にはならない。経済学は、人間を利己的な個人として単純化する点に特長があるので、それを捨ててヴィトゲンシュタインだのハーバーマスだのといい出したら、本書のように何の結論も出ないのである。

大陸型と英米型

大陸型の「市民法」の影響の強い国よりも、英米型の「コモンロー」の国のほうが成長率が高いというShleiferたちの実証研究は有名だが、官僚制についても同じような類型がある。

Silberman, Cages of Reasonによると、日仏の官僚制度は中央集権・終身雇用・「組織特殊的」な技能形成などの特徴でよく似ており、英米の官僚制度は分権的・専門家志向・ローヤー中心という点で似ている。ここでも著者が指摘しているのは、実は米国の官僚制が「最古」だということで、英国の制度はそれに追随したものだという。各州ごとに政治・司法システムがばらばらにできたのをつなぎあわせたのが英米型で、それにあとから追いつくために国家に権力を集中して工業化を行うシステムが日仏型だというわけだ。

この2類型は、企業組織の「アーキテクチャ」についての一般的な類型にも対応している。Holmstrom-Milgrom(1994)などの「マルチタスク」モデルで知られているように、複数の業務に補完性がある場合、「強いインセンティヴと弱いコーディネーション」(英米型)か「弱いインセンティヴと強いコーディネーション」(大陸型)の組み合わせが望ましく、これ以外の組み合わせは安定な均衡にはならない。

この二つの均衡のどちらが最適になるかは環境に依存し、帝国主義の脅威に対抗して短期間に国家建設を行うには日仏型が向いていたという見方もありうる。ただ経済が成熟してくると、英米型の「モジュール的」な官僚制のほうが、柔軟にシステムを組み替えられるぶん有利になる。民間のほうはかなり「英米型」への移行が進んでいるが、行政の転換はこれからだ。

コンニャク問答


FTAで、コンニャクの関税率を下げるかどうかが「争点」の一つになっているそうだ。

20年ほど前にも、コンニャクが話題になったことがあった。日米貿易摩擦で、中曽根内閣が輸入拡大の「アクション・プログラム」を作ったときのことだ。通産省の担当者に「この計画で、黒字は減るんですか?」と質問したら、ニヤリと笑って「官邸がどこまで本気かは、コンニャクを見てればわかりますよ」という謎めいた答が返ってきた。調べてみてわかったが、コンニャクは群馬県の特産物なのだ。

それから20年。「大勲位」の引退で、ようやくコンニャクも聖域ではなくなったのだろうか。現在のコンニャクの関税率は990%・・・

民営化の手順


郵政公社の生田総裁が、竹中郵政民営化担当相に抗議の意見書を出したという。

業務範囲などに制約があっては他社と競争できないというのは、一般論としては正論だが、問題は、公社が実質1兆円も免税されて民間と競争するのが公正といえるのかということだ。これはNHKの「肥大化」問題と同じで、個別の業務について行政が監視するのではなく、経営を完全に民営化しないかぎり、公正競争は実現しない。

中途半端に政府から切り離して一挙手一投足を監視する「民営化」はNTTでも行われ、現在のようないびつな競争しか生まれなかった。このときも「分割」が争点になったが、企業の境界を決めることはもっとも重要な経営問題であり、これを自主的に決められないようでは、NTTのような「セミ民間企業」しかできない。

経営者が経営に100%の権限と責任を持たないかぎり、企業の経営はできない。生田氏が自由に競争したいのなら、まず公社という形態をやめ、法人税を収めるのが先である。この肝心の問題を曖昧にするから、いろいろ政府の介入が起こるのだ。ユニバーサル・サービスなどの問題は「デカップリング」して解決できる。

Hype cycle


先日、ある記者に「マルチメディアの歴史」についての話をしていたら、1985年ごろにはINSなどの「ニューメディア」が流行し、1995年ごろにはビデオ・オンデマンドなどの「マルチメディア」、というように、新技術が大規模に宣伝されては失敗するhypeが10年周期で起こっているのではないか、という話になった。

では2005年のhypeは何か、と考えてみると、明らかに「ユビキタス」だろう。需要があるかないかわからないうちから政府が補助金を投入し、マスコミ先行でブームが盛り上がり、NTTや日立などの重厚長大企業が巨費を投じて「実証実験」をやる、というパターンもそっくりだ。

同じ失敗が繰り返されるのは、みんなサラリーマンで、失敗したら配置転換されてしまい、政府も企業も「失敗」という総括をしたくないので、教訓が継承されないからだ。愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶというが、せめて10年前の経験には学んでほしいものである。

Firefox 日本語版


Mozilla Firefox 1.0の日本語版の公式ページができた。メニューが日本語になるだけで、機能的には英語版と変わらないが、とりあえず正式版が出たのはめでたい。

非常に混んでいるので、本家のほうからダウンロードしたほうがいいかもしれない。







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