NHKと朝日新聞の人事異動

朝日新聞によると、NHKの定期人事異動で、「番組改変事件」の当事者だった永田担当部長が「ライツ・アーカイブスセンター」に、内部告発した長井CPが放送文化研究所に異動した。NHKの広報は、今回の人事は「処罰的なものではない」とコメントしているが、アーカイブスというのは、普通の会社でいうと「資料室」。文研というのは、愛宕山にあることから、別名「姥捨て山」ともいわれる。左遷であることは明らかだ。

しかし朝日新聞こそ、よその会社の人事をいちいちニュースにするぐらいなら、同じ事件の朝日側の当事者である本田雅和記者が、今年4月に「アスパラセンター」に異動した人事をちゃんと説明してはどうか。「取材メモ」が『月刊現代』に流出した事件については、編集担当常務が更迭されたが、流出ルートは不明のままだ。

本田記者は、差別問題に執念を燃やし、「反体制」を自称する問題記者。過去にも何度もトラブルを起こしており、社会部のなかでも、追い出すべきだという意見が強かったという。関係者によると、取材メモ(明らかに録音を起こしたもの)のコピーは当時、社会部内ではかなり広く出回っていたようなので、だれかが本田記者を窮地に追い込むために魚住昭氏(『月刊現代』の記事の筆者)に渡したのではないか。

フラット化する世界

フラット化する世界 [増補改訂版] (上)
この本にリンクを張るのは、「おすすめ」するためではない。こういう本もあると紹介するだけである。もしもあなたが、「ブラウザ」とはどういうもので、「モザイク」というソフトウェアが世界をどう変えたかについて、10ページ以上にわたって懇切丁寧に教えてほしいとすれば、この本をおすすめする。それ以外の人にとっては、本書の記述は、その題名のように平板だろう。

本書の原著は、Freakonomicsと並んで、発売から1年以上たっても、まだAmazon.comのベストテンに入っている。たしかに、グローバリゼーションがいかに進んでいるかを、それぞれの現地へ行って取材し、具体的に記述したレポートとしては、本書にも一定の価値はある。コラムを書くという条件さえあれば、会社の経費で世界のどこへでも行けるジャーナリストは、限られているからだ。

しかし皮肉なことに、彼がNYタイムズの多額の出張旅費を使って取材したことのほとんどは、フラット化した世界では、グーグルを使えばだれでも知ることができる。今ごろ『共産党宣言』がグローバリゼーションを予言していたことを知って驚くのは、米国人ぐらいのものだ。

日本はブログ大国?

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すでに多くのブログで話題になっていることだが、TechnoratiのCEO、Dave Sifryによれば、全世界の3700万あまりのブログの記事を言語別に分類すると、トップは日本語だそうである。英語が英米以外のかなりの国で使われていることを考えると、日本語=日本人の投稿がそれを上回るというのは、ちょっと信じがたいが、昨年9月から一貫して日本語が英語を上回っていることをみても、集計ミスではないだろう。原因としては、
  • 日本では、携帯電話から投稿する短い記事が多い。
  • 日本のほとんどのISPが無料でブログ・サービスを提供している(米国のサイトを見ると、AOLにもMSNにもYahoo!にも、トップページに"blog"というサービスは見当たらない)。
  • 米国ではブログが「草の根ジャーナリズム」として扱われているのに対して、日本では「個人の日記」という感じで気楽に始めるケースが多い。
といったところだろうか。しかしTechnoratiのベスト100ランキングをみると、日本のブログは4つしか入っていない。内容面でも、米国ではBoing BoingやEngadgetやDaily Kosなど「硬派」のニュース系サイトが多いのに対して、日本では「がんばれ、生協の白石さん」がトップで、あとは中川翔子や眞鍋かをりなどのアイドル系が続く。

どうやら、日本が「ブログ大国」になったのは本当らしいが、その位置づけは米国とはかなり違う。米国では、実名で主張するブログが多いのに対して、日本ではほとんどが匿名で、趣味的な内容が多い。ただ、2ちゃんねるなどの匿名掲示板に比べると、ブログの言説の質は上がっている。こうしてインターネットも、成熟してゆくのだろう。

新聞の「特殊指定」はなぜ必要なのか

きのうのICPFセミナーでは、新聞協会の後藤秀雄氏に話を聞いた。オフレコなので、くわしいことは書けないが、「再販制度があるのに、なぜ特殊指定が必要なのか?」という点については、「新聞の乱売合戦を防ぐため、昭和28年に再販制度ができたが、それでも乱売が止まらないので、昭和30年に特殊指定ができた」とのことだった。50年以上前のことだ。今でも特殊指定を廃止したら、終戦直後と同じ状況になるのだろうか。

「新聞の価格競争が始まったら、戸別配達網が崩壊するという根拠は何か?」という質問に対しても、あまり説得力のある説明はなかった。価格競争が始まったら、販売店の淘汰・再編は起こるだろう。それは、どこの業界でも起こっている流通の合理化であり、販売店の問題にすぎない。「活字文化」とは何の関係もない。

たとえ特殊指定や再販で価格を守っても、1世帯あたり1.1部という現在の購読率が欧米なみの0.7部ぐらいまで下がったら、戸別配達網は維持できなくなるかもしれない。それは斜陽産業の宿命であり、規制によって止めることはできない。むしろ今のうちに販売店を集約するとか、宅配便に業務委託するとか、いろいろな改革を試みる必要がある。規制を維持することは、効率の悪い販売店を温存して本質的な問題を見えなくするだけだ。

何よりも異様なのは、この問題をめぐる各紙の報道や論説が、まるで戦時中のように一致していることだ。「新聞協会としては各社に意思統一を求めていない」とのことだから、なおさら異様だ。「他の業界の規制についてはきびしく批判する新聞が、自分の業界については甘いダブル・スタンダードだ」と見られることが、新聞の信用を傷つけていることを自覚すべきである。

行動経済学

行動経済学 経済は「感情」で動いている

光文社

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きのうの記事でも少し言及した「行動経済学」の入門書。中心はKahneman-Tverskyのプロスペクト理論やフレーミング理論だが、多くの実例でわかりやすく解説されている。この種の理論は、経済学者はバカにしていた(2人とも心理学者)が、2002年にKahnemanがスウェーデン銀行賞を受賞して、にわかに注目されるようになった。

経済学、とくに消費者行動の理論は、本来は心理学の領域である。「限界効用が逓減する」などという事実は実証されてもいないし、そもそも一意的な「効用関数」が存在するかどうかも疑問だ。Kahneman-Tverskyは実証データによって効用理論を否定し、「感情」によって消費者行動が決まる「価値関数」を導いた。ゲーム理論を使った「実験経済学」でも、ナッシュ均衡が実現することはほとんどない。

しかし今でも多くの経済学者は、この種の理論に懐疑的だ。それはこういう理論が正しくないからではなく、正しいと困るからだ。消費者の主観的均衡が成立するには、効用関数が連続で凸であるといった条件が不可欠である。価値関数のように非凸だと、均衡がひとつに決まらず、経済学の体系全体が崩れてしまう。

これは実証科学では当たり前のことだ。理論が現実にあわないときは、理論を現実にあわせるべきであって、その逆ではない。行動経済学は、今のところは経済システム全体を説明する厳密な理論にはなっていないが、著者もいうように「厳密に間違っているよりは大ざっぱに正しいほうが役に立つ」。一方では「経済物理学」のように、市場データを正確にシミュレートする理論も生まれているから、そのうち現在の均衡理論とはまったく違う「21世紀の経済学」が生まれるかもしれない。

日本発のOS環境?

先日の「日本発の検索エンジン?」については、あちこちのブログで(否定的に)話題になったが、今度は政府が「セキュアな次世代OS環境」を開発するそうである。内閣官房を中心として、総務省も経産省も加わり、大学やメーカーが開発に参加する。

まず不可解なのは、「OS環境」という耳慣れないことばだが、これは正確にいえばOSではなく、ひとつのマシンで複数のOSを動かす仮想機械(VM)である。具体的には、VMwareのようにx86マシンをソフトウェアでエミュレートするものだろう。しかしVMの用途は、いろいろなバージョンのWindowsをひとつのサーバでサポートするといった特殊な場合に限られる。ハードウェアにかかる負担が重くなり、マシンが複雑になってトラブルも起こりやすくなるので、一般にはあまり使われていない。

セキュリティについての問題はいろいろなレイヤーで起こり、その大部分はアプリケーションだ。VMでセキュリティを守っても、たとえばeメールに添付されるウイルスは阻止できない。OSのセキュリティ・ホールについては、WindowsもLinuxも発見され次第、パッチを発表しており、VMの出る幕はない。レイヤーが増えると、かえって原因の同定がむずかしくなるだろう。

最大の問題は、こういうプロジェクトを政府主導でやることだ。できたVMは「政府御用達」だから、国内では確実に売れるが、海外からは間違いなく無視されるだろう。その場合も、政府調達にはこのVMが入札条件になるといった形で、IPv6のように、必要もないVMがあちこちで使われてコンピュータの動作を重くするだけ、ということになりかねない。

驚くのは、この予算が3年で6億円(初年度2億円)だということだ。これは、霞ヶ関の常識では「調査費」である。まぁどうせろくなものはできないだろうが、とりあえず官邸の顔は立てておこう、という財務省の査定だとすれば、健全な常識である。「日本発の検索エンジン」についても、同様の常識を発揮してほしいものだ。

The Wealth of Networks

The Wealth of Networks: How Social Production Transforms Markets And Freedom

Yale Univ Pr

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著者には、レッシグと一緒に会ったことがある。「電波コモンズ」の提唱者としての功績は大きいが、それ以外のLaw Journalの論文は凡庸だ。本書についてレッシグは、当然のことながら裏表紙で
In this book, Benkler establishes himself as the leading intellectual of the information age. Profoundly rich in its insight and truth, this work will be the central text for understanding how networks have changed how we understand the world.
と絶賛しているが、率直にいってそれほどの本ではない。私の感想は、Publisher's Weeklyの
Though Benkler doesn't really present any new ideas here, and sometimes draws simplistic distinctions, his defense of the Internet's power to enrich people's lives is often stirring.
という書評に近い。

著者は法学者だが、本書のコアになる議論は、オープンソースやWikipediaなどのネットワークによる「社会的生産」が、市場に匹敵する自律的なメカニズムかどうかという経済学の問題である。著者は、Tiroleなどの議論を参照して、オープンソースが経済メカニズムとして成立することを説明し、行動経済学の文献を援用して、知的労働には金銭的な「インセンティヴ」よりも内的な「モチベーション」のほうが重要だと指摘する。

そこまではいいのだが、そのあとが続かない。「IBMではライセンス料よりもオープンソースの収入のほうが多くなった」といったアドホックな例がいろいろ出てくるだけで、論理が展開しない。本書が示しているのは、たかだか「市場とは別の情報生産・流通システムが存在する」ということまでで、そのメカニズムは明らかでないし、それが市場とどういう関係にあるのかもわからない。

しかし、これはないものねだりというものだろう。当の経済学者が、この問題を系統的に説明できないのだから、法学者にそれを求めるのは酷だ。おそらく、その答にもっとも近いところにいるのは、オープンソースについても行動経済学についても論文を書いているTiroleだろうが、彼でさえ決定的な答は出せていない。これは21世紀の社会科学にとってもっとも重要な問題のひとつだと思うが、21世紀のうちに答が出るかどうかもわからない。

追記:本書の中身は全部、著者のサイトからPDFファイルでダウンロードできる。ただし500ページもあるのでご注意を。

NHK民営化は、なぜ封印されたのか

けさの朝日新聞のオピニオン面に「受信料『税金化』前面に」という1ページの記事が出ている。最初はNHKの民営化を検討するはずだった通信・放送懇談会の議論が、なぜ受信料の「税金化」に方向転換したのか、を追及する記事だ。

最大の疑問は、昨年12月22日の「2001年の閣議決定でNHKは特殊法人にすると決めた」という小泉首相の発言の背景に、どういう事情があったのかということだ。この記事には「メディア全体を敵に回してどうするんだ、という判断が官邸にあった」という「閣僚経験者」の推測が出ている。民放連もNHK民営化に反対していたから、というのだが、これは怪しい。

民放連の氏家元会長も、NHKについて「何らかの制度改革は避けられないだろう。分割して一部民営化する方向に議論が進むのではないか」(日経12/21)と民営化を許容するような発言をしていた。広瀬会長も、「朝生」の議論では絶対反対という感じではなかった。有料放送であれば、彼らの利権とはあまり競合しないからだ。

この記事には、NHKの川口元会長と私のコメントが並んでいるが、川口氏の話は、あいかわらず「視聴者の信頼」とか「良い番組を作り続ける」とかいう精神論だ。新聞の特殊指定を正当化するのに「活字文化」が出てくるのと同じである。メディアを産業として論じることを忌避し、「文化」や「公共性」を盾にとって現状維持をはかる古いレトリックは、もうやめるべきだ。

いずれにせよ、今のままでは通信・放送懇談会は、NHK改革に関しては後ろ向きの提言をするおそれが強い(チャンネルの削減や国際放送なんて改革の名には値しない)。それどころか、義務化や罰則の導入は、受信料を税金化してNHKを「官報」にしようという自民党のねらいにはずみをつける結果になりかねない。そんなことになるぐらいなら、思い切ってNHK改革に関しては白紙とし、「次の政権に引き継ぐ」と書いてはどうか。

追記:コメント欄にも書いたが、これは官邸内の権力闘争の一環という見方もできるかもしれない。最近、首相と竹中氏の距離が広がり、特に飯島秘書官が彼らが2人きりで話すのを妨害しているといわれる。しかし「2001年の閣議決定」なんて持ち出したのは飯島氏とは思えないから、財務省出身の丹呉秘書官だろう。竹中氏が「懇談会の結論を骨太の方針に盛り込む」としていたのを、経済財政諮問会議の主導権を奪い返した財務省がきらったのではないか。

フィッシャー・ブラック

金融工学者フィッシャー・ブラック

日経BP社

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いわずと知れたブラック=ショールズ公式の発見者、ブラックの生涯と金融工学の発展を重ね合わせて書かれたもの。伝記としては、よく取材していておもしろいが、ついでに金融工学の勉強も、というのはちょっと無理だろう。本書の柱になるCAPMやB-S公式については一応の説明があるが、初心者向きではない。これとは別に金融工学の入門書(*)を読んだほうが、本書のおもしろさもよくわかると思う。

ブラックは、スウェーデン銀行賞(通称ノーベル経済学賞)をもらう前に死んだので、受賞者はショールズとマートンだったが、本書を読むと、本当の発見者はブラックだったことがわかる。彼が公式を見つけたのは1969年だが、それを解くのに1年かかり、さらに論文が学術誌(JPEとREStat)に却下された。ミラーやファーマの口添えで書き直し、2度目の投稿でやっとJPEに発表されたのは1973年だった。

ただブラック自身は、オプション理論には大して関心がなく、主要な興味はCAPMを応用した「一般均衡理論」の構築だった。こっちのほうは、あらゆる学術誌に却下され、今日では忘れられているが、「実物的景気循環」の先駆ともみることができるようだ。ただ、彼は計量経済学がきらいだったので、理論モデルを計量モデルで検証するというマクロ経済学の「作法」に従わなかったことが拒否された理由らしい。

またブラックは、B-S公式も疑っていたようだ。この公式が一般に知られるようになってからは、すべてのトレーダーがこの公式を使って価格を計算するので、B-S理論は「自己実現的な予言」になってしまったのである。彼は、現実の市場が(B-Sの前提である)正規分布よりも裾野の広い「ファット・テール」になることを知っていた。彼は、マンデルブローとも付き合いがあったようだから、もう少し生きていれば「経済物理学」に近づいていたかもしれない。

(*)入門書といっても、「ブラック・ショールズ微分方程式」などと銘打ったものは、やめたほうがよい。野口・藤井『金融工学』(ダイヤモンド社)でも説明しているように、B-S公式は微分方程式なんか使わなくても、初等的な「2項モデル」で理解できる。ブラック自身も、このCox-Rubinsteinモデルを好んでいたようだ。

日本発の検索エンジン?

高田さんからのTBによれば、経産省は「日本発検索エンジンでグーグルを超え目指す」プロジェクトに3年間で300億円の予算を要求するそうだ。ふれこみは「ネット上の画像や映像、音声情報などの検索機能を飛躍的に高める」といったものだが、これは当ブログで「産業政策の亡霊」と評した研究会の産物だろう。

こういうプロジェクトを計画しているのは、日本だけではない。欧州でも、Quaeroという"EuroGoogle"の開発が始まっている。こちらは初期の予算だけで17億ユーロ(約2400億円)と一桁大きいが、中身は映像・音声による「マルチメディア検索」など、似たようなものだ。だいたい官僚の考える(そして予算のつく)キャッチフレーズは、どこの国でも同じらしい。問題は、こういう官民プロジェクトが(特にITの分野では)成功した試しがないことである。

さらに問題なのは、このように政府が特定の企業に補助金を出す産業政策は、WTOで「不公正貿易」とみなされることだ。Quaeroの場合には、補助金ではなく無利子融資にしたり、学術研究費を装うなど、複雑なしくみでWTO違反にならないようにしているらしいが、経産省はどうするのか。WTOで補助金削減を唱えている貿易グループは、この季節はずれの「亡霊」をどうみているのだろうか。

追記:経産省の担当者が、この「情報大航海プロジェクト」について語っている。彼も質問する側も、過去の産業政策の失敗をまったく意識していないことに唖然とする。






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