デジタル放送の再送信

日本では、テレビ局が地上波の番組のIPによる再送信を認めないが、日経ITProの記事によると、米国のテレビ局は積極的に通信インフラを利用しようとし、通信会社のほうも放送の再送信をブロードバンド・サービスの目玉にしようとしているという。

この背景には、ケーブルテレビをめぐる状況の違いがある。米国のテレビ局は、難視聴対策をケーブルに頼ったため、今では8割の視聴者がケーブルでテレビを見ている。電波をいくらデジタル化しても、ケーブルが配信してくれなければ意味がないので、通信会社に頼らざるをえない。

他方、日本ではケーブルを規制して弱体化したため、地上波の独占が維持できた。ここでIP再送信を認めたりしたら、米国の二の舞になる、というわけだ。しかし地上デジタルで全国をカバーするには、こうした通信網も使わざるをえないだろう。意外に、地上デジタルが通信と放送の融合のきっかけになるかもしれない。

第3回ICPFセミナー

今日のセミナーも、立ち見の出る大盛況だった。通信と放送の融合を放送業界がどう見ているか、について『月刊NEW MEDIA』編集長の吉井勇さんに話してもらった。

再送信の問題などでテレビ業界がもっとも恐れているのは、映像が勝手に編集されたりコマーシャルが抜かれたりすることだという。ケーブルテレビのように電波のまま再送信するならいいが、インターネットに出てしまうと何をされるかわからない、というわけだ。

それでいて、地上デジタル放送で全国の85%もカバーするのは無理だから、IPによる再送信の実験もしているという。それなら栄村の実験などは、妨害しないでむしろ協力すべきだろう。逆にいえば、こういう方向でwin-winの解を見出すことは、それほど困難ではないような気がする。

Sharing Economy

Yochai Benklerの論文"Sharing Nicely"は、これまでに比べて「共有」の重要性についての主張が控えめになっている。オープンソースのような共有システムは、市場メカニズムをくつがえす存在という感じではなく、市場と共存でき、ある場合には市場や企業よりすぐれた一つの「モード」だという評価になっている。

これは一般論としてはそのとおりだが、問題はどういう場合に市場が、どういう場合に共有が望ましいのかという場合わけをすることだろう。そのへんの経済学的なロジックが弱い(法学の論文だからしかたがないが)。これでは経済学者を説得できない。

むしろ、彼もBusinessWeekのインタビューでいっているように、共有モードは急成長中で、まだ通常の経済メカニズムと比べられるほど安定したシステムではないのだろう。

放送村

仕事の都合で『NHK:問われる公共放送』(岩波新書)を読んだが、予想どおりつまらなかった。終戦直後のことなどはよく知らなかったので、資料としては役に立つが、結論は「経営の公開」とか「ジャーナリスト魂」云々といういつものお題目だ。デジタル化についても、BBCのようにSDTVでやれという。

要するに、こういう「放送評論家」の人々も、放送業界の連中と同様、「放送村」の中しか見ていないのだ。ジャーナリズムを支える産業的・技術的な「下部構造」の変化に気づいていないから、十年一日の精神論になってしまう。村そのものが消滅する過程がすでに始まっているということに、彼らは気づかないのだろうか。

それでいて、録画ネットやクロムサイズのようなマージナルなビジネスにも、いちいち訴訟を起こすのは、放送が通信に飲み込まれることを恐れているからなのだろう。こういう後ろ向きの対応だけはすばやいというのも、困ったものだ。

クロムサイズ

ICPFの第2回セミナーでクロムサイズの副社長の寺田さんが、同社の選撮見録(よりどりみどり)というシステムを紹介した。これはマンションの中にサーバを置いて放送を録画し、LANでつないで各部屋のユーザーが見るというもので、いわばHDDレコーダーの共同利用システムである。

ところが、これに対しても民放連が「私的利用の範囲を超えるものだ」と訴訟を起こしている。これが違法だとすると、世の中のインターネット接続しているLANは、みんな違法になるのではないか。一度ヤフーかどこかが「ヤフーのコンテンツをキャッシングしているサーバは、すべて違法な録画代行サービスだ」と訴訟でも起こしてみればおもしろい。

録画ネット

ICPFの第2回セミナーでとりあげた録画ネットの異議申し立てが却下された。これが決定書(PDF 3.7MB)。

決定を読むと、録画ネットは「単なるハウジング・サービスではなく、利用者と共同で複製をしているから違法だ」と書いてある。そうすると裁判所の基準では、マシンを保管するだけのハウジングは適法で、それを使ってインターネット接続をしたりするホスティングは違法ということになるのだろうか。

アーキテクチャ

藤本・新宅編著『中国製造業のアーキテクチャ分析』(東洋経済)は、「脅威論」と「共存共栄論」が交錯する対中経済関係をミクロ的に分析したもの。マクロ的な貿易統計では見えない複雑な状況がよくわかる。

しかし依然として「アーキテクチャ」についての概念的な整理が不十分だ。著者は「インテグラル/モジュラー」の軸と「オープン/クローズ」の軸を設定しているが、後者の軸は必要なのか。インテグラルでオープンなアーキテクチャというのはありえないし、モジュラーでクローズなアーキテクチャというのも不安定な均衡でしかない。ホンダのオートバイの模造品を安く作る中国のメーカーがそれを示している。

オープンかクローズかというのは、アーキテクチャの問題ではなく企業の境界の問題にすぎない。特許で守らないかぎり、モジュール化した技術をクローズにしておくことは不可能である。あるモジュールが「業界標準」になるかどうかという違いはあるが、これもアーキテクチャの問題ではなく、むしろ業界内の標準化ゲームで決まることだろう。

スーパーコンピュータ

「産官学」で世界最高速のスーパーコンピュータを開発する計画が進んでいるそうだ。去年まで世界最高速だった「地球シミュレータ」が米国のマシンに抜かれたから、抜き返そうということらしい。

開発費は1000億円だが、今度のはアプリケーションがよくわからない。蛋白質の解析から核融合までいろいろ挙がっているが、要するに「米国が3000兆回/秒のマシンをつくるので、1京回/秒に性能を引き上げた」というのが本当の動機だろう。

メーカーの人にいわせると「スパコンというのは技術力を誇示するシンボルで、戦艦大和みたいなもの。採算とかアプリケーションとかはろくに考えてない」とのこと。今どき戦艦大和をつくりたければつくるのは勝手だが、税金を1000億も使うのはやめてほしい。

ITNY

西和彦、山田肇、田中良拓の3氏と一緒に、ITNY & パートナーズという株式会社を作った。社名は、4人のパートナーのイニシャルを並べたもの。

ITNYの仕事は「ITについての戦略コンサルティング」。日本の企業は、オペレーションの効率は高いが、過去の経緯にとらわれて長期的な将来像が描けず、大きな戦略の転換ができない。当社のパートナーは、これまでIT業界の大きな変化を予見してきた。その実績をもとにして、グローバルな市場や規制体系などの巨視的な環境から企業の目標設定を行い、具体的な戦略の立案を行う。

インターネットの夜明け

ヤフーのつくった独自番組は、ドキュメンタリーとしての作りはちょっと荒いが、なかなかおもしろい。ただ、IIJの立ち上げが郵政省に妨害された有名な事件が出てこず、商用IXの話が前後編もあって長い。

テレビ局が地上波の再送信を拒否とかしているうちに、GyaOやこれのように、インターネットが独自にコンテンツを蓄積していけばよいのだ。かつて映画業界は、テレビに役者を出さない「五社協定」というのをつくり、その結果、テレビは独自の人材を発掘し、映画は斜陽産業になってしまった。歴史は繰り返すのかもしれない。







title




連絡先(取材・講演など)

記事検索
月別アーカイブ
QRコード
QRコード
Creative Commons