マルチチュード

古典的な名著『<帝国>』の続編の邦訳、『マルチチュード』(NHKブックス)が出た。しかし残念ながら、その出来は前著に遠く及ばない。

前著の弱点は、<帝国>に対峙するはずの「マルチチュード」の概念が抽象的で曖昧だということだった。著者もそれはわかっていたらしく、その部分を補うのが本書だが、上下巻600ページあまりを読んでも、その曖昧さは変わらない。

「反グローバリズム」運動を評価しているようなしていないような書き方で、具体的な運動論としてはほとんど何も書かれていない。「新自由主義」に対する批判も通俗的だし、知的財産権に対する批判も常識的だ。それに対置してインターネットやオープンソースがマルチチュードのモデルとして出てくるのも、「今ごろ気づいたの」という感じだ(私も前著の書評で書いた)。

そういうモデルがサブシステムとして成り立つことは、わかっている。問題は、それがグローバル資本主義の<帝国>に取って代われるような完結したシステムなのかどうかなのである。このへんについては、はっきりいって著者のどちらもインターネットを理解していないから、まったく議論になっていない。

地域IP網

朝日新聞によると、NTTは「地域IP網」をやめて全国一体の光ファイバー網を構築する方針だという。技術的には、当然のことだ。国境のないインターネットに県境を設けて、互いに接続もできないというネットワークは、世界にも例をみない。

競合各社は、最近のこうした動きを「NTTの再統合だ」と批判しているが、もう時代は変わったのだ。電話網のように長距離網と市内網がピラミッド型になっているネットワークなら、各市内網を切り離すことにも意味があるが、IP網はメッシュ型に構成するのがもっとも効率的だから、どのノードも切り離せないのだ。

シェアでみても、NTTが圧倒的に優位なのは、加入者線(銅線)だけである。その独占的行動を阻止するには、加入者線をNTTから切り離してはどうか。あとは普通の会社と同じように、独禁法で取り締まればよい。総務省の電気通信事業部を公取委に吸収すればよいのである。

クロムサイズ判決

情報通信政策フォーラムでも話題になったクロムサイズのテレビ共同受信設備「選撮見撮(よりどりみどり)」について、大阪地裁は販売差し止めを命じる判決を出した。それによれば、このシステムは
電気通信回線を通じて多数の利用者にサービスを提供することから、公衆用自動複製機械の使用に該当するとし、放送を送信可能化するものであると認定。集合住宅にシステムが設置された場合には、放送局の著作隣接権を侵害することがほぼ必然である
という。フォーラムでも議論したように、こういう情報を蓄積するコンピュータがすべて違法ということになったら、ホスティング・サーバやキャッシュ・サーバなどはすべて違法になる。こういう愚かな判決を出す裁判官は、コンピュータの知識がないのではないか。



デジタル放送に国費投入

米国でも、とうとうデジタル放送に国費が投入されることになった。NYタイムズによれば、2009年にアナログ放送を止め、アナログ受像機でデジタル放送が見えるようにするコンバータに30億ドル支出する法案が上院の委員会を通過した。

日本でも、2011年のデッドラインを守るには手段を選ばないようだから、同様の措置がとられるおそれが強い。それがわかっていれば、あわててデジタルテレビを買うのは損だ。

知的財産権の功罪

最近、米国を中心に進められている「プロ・パテント」の動きには問題があるが、「知的財産権」に積極的な意味があるとすれば、それによって知識が「モジュール化」され、「アイディアの市場」が形成されることだろう、とEconomist誌が論じている。

私もおおむね同感だが、このアイディアの「商品化」の過程に政府が介在するところが問題だ。しかも財産権がどこまで及ぶのかが不透明で、所有者が複数いる「アンチコモンズ」が生じやすい。ただ財産権にしても、定着するのに数百年かかっているので、情報を効率的に流通させるしくみができるのも、百年以上はかかるのだろう。

ノーベル賞

今年のノーベル経済学賞(正確にはノーベル記念スウェーデン銀行賞)は、オーマンとシェリングに授賞された。

この決定は、ただでさえ批判の多い「経済学賞」への疑問をさらに強めるだろう。オーマンがゲーム理論の発展に貢献したことは確かだが、彼の仕事は理論的には袋小路で、今は受け継がれていない。シェリングの仕事は、ゲーム理論の応用の一つにすぎない。

日はまた昇る?

Economist誌の日本特集のタイトルは、「日はまた昇る」。筆者は編集長のビル・エモット、1989年に『日はまた沈む』を書いた(当時の)東京支局長である。

要するに、バブル崩壊後の15年の調整期は終わり、不良債権は処理され、企業は資本の浪費をやめ、過剰雇用も是正され、政治も合理的になった、という評価だ。小泉内閣の改革をきわめて高く評価しており、不安要因は小泉首相が退任したあと、また「古い政治家」が歯車を元にもどすのではないか、ということだ。

ただ、アジア経済圏のなかでの日本の役割についての評価は低い。靖国神社の問題にみられるような周辺諸国との無意味な対立関係が経済統合を阻み、日本の代わりに中国がアジア経済圏の盟主になるかもしれないという。

それぞれの事実は、とくに新しい指摘ではないが、こうした事実から日本が復活するとEconomistが予測した意味は大きい。日本のバブル崩壊を最初に予告したのも、1990年に出たEconomistの日本特集だった。今度も、その予告が当たることを祈りたい。

第5回ICPFセミナーのおしらせ

「技術革新と電波政策」
講師:真野浩(ルート株式会社 社長)
モデレーター:池田信夫(ICPF事務局長)

電波政策は、周波数の再配置、携帯電話事業に対する新規参入、無線LANなどのコモンズ拡大という大きな構造改革を伴いながら進めらています。これらの改革には、電子、通信、情報技術の変化にともなう必然的な要求が潜在しています。インターネットと無線を融合したビジネスを多く手がけ、総務省ワイヤレスブロードバンド推進研究会の委員でもある真野社長に問題提起をしていただき、インターネット時代の電波政策と技術課題について考えます。

日時:10月27日(木)19:00~21:00
場所:東洋大学白山キャンパス 5号館5202教室
   東京都文京区白山5-28-20
   地下鉄三田線「白山」駅から徒歩5分
   地下鉄南北線「本駒込」駅から徒歩5分
入場料:2000円
    ICPF会員は無料(会場で入会できます)

申し込みはinfo@icpf.jpまで電子メールで(先着順で締め切ります)

ワンセグ放送

地上デジタルの携帯端末むけ放送(いわゆるワンセグ放送)が、来年4月から始まることが発表された。テレビ局は、HDTVよりもカネになるワンセグのほうに期待しているようだ。

しかし、その実態は、HDTVの映像を携帯電話の上半分に表示し、下半分に文字放送を表示するもので、映像のスーパーはとても読めない。下半分に出る文字放送も、予算がないので画面と連動したものを出すのはむずかしいという。BSデジタルで挫折したデータ放送の二の舞になるのではないか。

NTT再々編

NTTグループが、再々編にむけて動き出したようだ。この案は、われわれの「電話・IP分離案」と似ているが、「ループ(0種)会社」を分離しないところが違う。

これはおそらく、0種会社をつくると、銅線だけではなく光ファイバーまで分離させられるのを恐れたためだと思われる。しかし、NTTのシェアが90%を超えるローカルループは、明らかに独占的なインフラであり、公正接続を担保するためにも、銅線だけは分離して開放義務を課したほうがよい。その代わり光ファイバーの開放義務ははずし、東西会社は合併してもいいだろう。

今回の案は、NTT法を改正しないで再々編を行うというアクロバティックなことをやろうとしているが、そういう中途半端な措置では、またすぐ再々々編が必要になるだろう。どうせやるなら、国民的な議論をして、NTT法を改正(あるいは廃止)したほうがいいと思う。







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