電波の市場

ソフトバンクがボーダフォンの日本法人を買収することで、合意に達したという。ボーダフォンの撤退は当ブログでも予想していたとおりだが、ソフトバンクがそれを丸ごと買うというのは驚きだ。買収価格が2兆円だとすれば、そのうち1兆円ぐらいは免許の価値だろう。つまり日本の制度では、最初に免許を取得するときは無償なのに、それを会社ごと転売するときには免許に巨額の価格がつくという非対称性があるわけだ。

しかも、この買収が成立すれば、ソフトバンクは携帯電話の「既存事業者」ということになる。「新規参入」の枠として予備免許の下りている1.7GHz帯はどうなるのだろうか(*)。周波数がオークションで割り当てられていれば、こういうややこしいことにはならない。ソフトバンクは、1.7GHzが不要なら、免許を第三者に売却するだろう。ところが日本では、会社を売ることはできても、電波を売ることはできない。

ドコモなども、ポケットベルの会社を買収するなどして帯域を広げており、日本でも事実上「電波の第二市場」が成立している。第二市場があるのに、第一市場(周波数オークション)がないのはおかしい。オークションにも問題はあるが、すでに携帯電話に使われている帯域は、無料で配給するのではなく市場原理で売却すべきだ。その売却代金は、既存業者を追い出す「逆オークション」にあてればよい。

(*)追記:やはりeアクセスが「ソフトバンクはボーダフォンを買収するなら、新規参入事業者に割り当てられた携帯電話用周波数帯を返上すべき」と総務省に申し入れるという(6日)。

追記2:総務省の林事務次官は、記者会見で「ソフトバンクに与えた免許の取り消しもありうる」と表明した(6日)。

原著なき訳書

ビル・エモットの『日はまた昇る』(草思社)がベストセラーだそうである。中身は、去年10月のEconomist誌の特集をほぼそのまま訳したもので、活字をスカスカに組んで160ページだ。原著は出ていないのに、日本語訳だけが出ている。

著者が「どうせ日本人は英語が読めないからわかるまい」と高をくくっているのか、あるいは版元が「中身は薄くても株価が上がっているうちに出したい」と出版を急いだのか、いずれにしても日本の読者はバカにされたものだ。こんな駄本が売れるようでは、本当に日が昇るのかどうか疑わしい。

国際放送

NHKの国際放送をめぐって、いろいろな情報が錯綜している。NHKの橋本会長が「広告を入れたい」と発言したら、すぐ民放連が反発し、首相も「海外に向けてもっと情報発信が必要」といってみたり「チャンネルは減らせ」といってみたり、どっち向いて改革するのか、よくわからない。

国際放送(テレビジャパン・ラジオジャパン)は、政府から補助金をもらう「半国営放送」という中途半端な経営形態で、慢性的に赤字だ。海外に向けて情報を発信するなら、BBCのようにウェブでストリーミングするのがもっとも効率的だ。これなら何ヶ国語でやっても、コストはほとんどかからない。ところが、NHKのIP放送には「過去1週間以内の番組」とか「予算は10億円以下」とか変な規制があって、使い物にならない。

NHKも、15年前に島会長(当時)が「世界に情報を発信する」という掛け声のもと、CNNの向こうを張ってGNN(Global News Network)という国際的な24時間ニュース構想をぶち上げたことがあるが、島の失脚で立ち消えになってしまった。実際には、日本のTV番組やニュースは、今でも大幅な「入超」で、情報発信は途上国向けばかりで商売にならない。政府の外交戦略としてやるなら、広告なんか取るよりも、国際放送は完全に切り離して国営化したほうがいいだろう。

スパイウェア入りCD

先日、My Morning Jacketの"Z"というCD(輸入盤)を買った。なかなかポップでいいアルバムだが、「このCDをPCで再生する際にインストールされるソフトウェア"MediaMax Version 6"にセキュリティの脆弱性」があるので、ウェブサイトからセキュリティ・パッチをダウンロードせよ、という日本語の注意書きがついている。これが話題の「スパイウェア入りCCCD」らしい。

もともとは、ソニーBMGがCCCDに組み込んだXCPというコピープロテクト・ソフトウェアが、OSに入り込んでセキュリティ・ホールをつくることが去年の10月、ユーザーに発見されたのが騒ぎの発端だった。そこでソニーは、XCPを削除するアンインストーラを配布したが、それにも欠陥があることがわかった。

MediaMaxは、このXCPの代わりに使われたものだが、これもセキュリティ・ホールをつくることが明らかになり、そのアンインストーラをウェブで公開したところ、これにも欠陥が見つかるという泥沼状態になった。結局、XCP入りのCDはリコールされたが、MediaMaxは注意書きつきでまだ売っている(XCPおよびMediaMaxを含むCDのリスト)。当のウェブサイトを見ると、"SUPPORT"と書いてあるだけで、おわびの言葉はどこにもない。

私はDRM一般を否定するつもりはないが、OSを書き換えるような危険なソフトウェアを勝手にインストールするというのは言語道断である。しかも米国では集団訴訟まで起こされた(今年2月に和解)というのに、被害が世界でもっとも多いと推定される日本では、ほとんど問題の存在さえ知られていない。メーカーのモラルを疑う。

追記:この問題について、日経BPのサイトに津田大介氏のくわしい解説がある。

偽メールの怪

永田議員が記者会見し、メールは偽物だと事実上みとめた。その根拠として鳩山幹事長は、「Eudoraのバージョンが堀江氏の使っているものと違う」「署名が『@堀江』となっており、彼がふだん使っている署名と違う」などの点をあげた。これらの疑問点は、永田氏の質問直後に、すでにブログなどで指摘されたことである。結果的には、ブログの情報が民主党を追い込んだという点では、CBSのアンカーマン、ダン・ラザーを辞任に追い込んだ「キリアン文書」事件と似ている。

キリアン文書の場合には、軍の様式に沿って書かれていたが、フォントが30年前のタイプライターではなくMS-Wordのものであることがブログで指摘され、それがCBSの謝罪につながった。しかし今回のメールは、Fromが消され、文体も署名も本人のものと違うなど、偽物としてもB級だ(偽作者は堀江氏のメールを見たこともないのだろう)。こんなものに引っかかった民主党がお粗末だったという以外にないが、問題は、だれがどういう目的でこんな偽物を持ち込んだのかということである。

ブログで実名のあがっている元週刊ポスト記者のN氏は、「事実無根だ」と抗議する内容証明を送ったりしているが、手口は彼が過去にやった捏造記事と似ている。今回も、1月末に毎日新聞に問題のメールを持ち込み、その後も週刊誌に持ち込んで、いずれも断られたことがわかっている。ただ、永田氏と現金のやり取りはなかったようなので、何のためにこんなすぐばれる偽物を持ち込んだのかが不可解だ。

キリアン文書の場合には、大統領選挙の最中で、ブッシュ候補を攻撃する材料だったという目的が明確であり、その文書を書いた(ことになっている)キリアン中佐は故人だったので、偽造する合理的な理由があったが、今回の場合は武部氏の次男の実名を出しているのだから、確認は容易である。民主党を陥れようとする謀略と考えられないこともないが、最初はメディアに売り込んだところをみると、それほどの計画性があったとも思えない。

問題のN氏は「笹川良一の孫」を自称するなど虚言癖があり、過去にも2件、名誉毀損事件を起こし、業界からは追放された人物だというから、一種の病気なのかもしれない。だとすれば、そんな人物の背景も調べないで「親しくしていた」永田氏と、それをチェックもしないで国会に出した執行部の情報管理能力が問われよう。まあ堀江氏を「わが息子」と持ち上げた人物がそれを批判するのも滑稽だが。


Freakonomics

Levitt & Dubner, Freakonomics (Morrow)は、経済学の本としては珍しくベストセラーになり、今でもAmazon.comで第5位にランクされている。タイトルはキワモノ的だが、著者のLevittはJ.B. クラーク・メダルを受賞した、れっきとした経済学者で、内容も実証データに裏づけられている。

たとえば、米国で1990年代に犯罪が半減したのはなぜか?著者は、その原因を1973年に連邦最高裁で妊娠中絶を合法とする判決が出たことに求める。貧しいシングル・マザーが望まない子供を出産した場合、その子供が犯罪者になる確率は高い。それが減少したため、20年後の90年代に犯罪が減ったのだという。

他にも、経済学の論理とデータを使って常識をくつがえす例があり、それがインセンティヴや情報の非対称性などの概念の説明になっている。学問的に新しい議論が展開されているわけではなく、データの検証も厳密に行われてはいないが、とても読みやすいので、経済学の考え方を知る読み物としてはいいだろう。

Not Invented Here

通信・放送懇談会で、松原座長はNTTの研究所について「研究開発は外部に出すべきだ」と記者会見で明言し、NHKの技研についても他の同様の研究所とまとめて独立行政法人にする案を示した。これに対して、NHKの橋本会長は「直接放送に利用する技術は、視聴者なり、制作現場なり、本体とつながっているからこそ、開発の目標、パワーが出てくる。分離しては、これらが欠ける懸念がある」と反論している。

今ごろこんな議論をしている日本は、世界の流れから周回遅れだ。NTTのようにコモンキャリアが12も研究所をもっている例は、世界にない。そのお手本だったAT&Tのベル研究所は、ルーセントに移された。放送局が研究所をもっている例も、他にない。電機メーカーでさえ、日本のように各社が研究所をもっているケースは他にない。

IBMのワトソン研究所ができたのは1961年、「システム/360」に代表される大型コンピュータと、それに対応する垂直統合型組織の全盛期だった。その後、部品調達が多様化するにつれて、物理学からソフトウェアまですべてを研究する組織は不要になり、ほとんどの企業で研究所は解体され、開発部門に吸収された。

1990年代にNTTがISDNやATM交換機などの自社技術に固執して失敗した大きな原因も、研究所にある。一時は「研究所のスタッフの1/3は、なんらかの形でATMにかかわっている」というほど、NTTはATMの研究・開発に力を入れたが、結果的にはそれがIPへの対応を大きく遅らせた。こういう失敗はありふれたもので、"Not Invented Here"症候群としてWikipediaにも載っている。

そこに「日本発の国際標準」を推進する産業政策が重なると、事態はさらに悪化する。携帯電話でも、PDCは標準化競争でGSMに敗れたのに、NTTは「性能はPDCのほうが上だ」と主張し、郵政省も他のキャリアにPDCを採用させた。おかげで、日本の携帯電話は、どんなに高機能でも、世界市場でのシェアは数%である。NHKのハイビジョン(MUSE)も同じだ。

コモンキャリアや放送局の本業はサービスであり、調達できる機材を自社開発する必要はない。無意味なエリート意識を作り出し、独善的な技術開発を助長する研究所は解体し、基礎研究は独立行政法人に移管すべきである。

ライブドア事件について

ライブドア事件についての私のコメントが、ライブドアのサイトで公開された。

シンポジウム資料

第2回シンポジウムの資料(PDF)を、ICPFのウェブサイトに置いた。

シンポジウム

ICPFのシンポジウムが、きょう開かれた。申し込みが400人を超える大盛況だった。なかでも、目玉は通信・放送懇談会の松原座長のスピーチだった。

NTTについては、「今の組織形態が決まってから10年たっている。NTT法の改正が必要だ」としたが、「持株会社をなくしてバラバラにするという案はまったく念頭にない」として「解体論」を否定した。「インターネット時代に県内通信と県間通信をわける意味があるのか」とNTTの再々編案に一定の理解を示し、「IP懇談会」でソフトバンクの提案している「ユニバーサル回線会社」構想については「魅力的だが、巨大な独占インフラをつくる特殊会社という案には乗れない」と否定した。

放送については、「コンテンツをデジタル化すれば、伝送路は地上波だけではなくCSもIPもあるので、効率のよいインフラを選んで全国に放送できる。これがデジタル化のメリットであり、それを県域に閉じ込めるのはおかしい」と地上デジタルの方向に疑問を呈した。これは情報通信審議会の第2次中間答申に対するICPFのパブリック・コメントと同じだ。

著作権の処理についても、国会答弁で「IP放送について総務省と文化庁の解釈が違う」と認めていることを引き合いに出して、「放送の定義が役所ごとにバラバラになっているのはおかしい」として、総務省の解釈に一元化する方向を示した。この点については、林紘一郎氏のスピーチでも同じ指摘があった。これは知財本部の提言とも一致しているので、著作権法が改正されることは、ほぼ間違いないだろう。

パネル討論では、通信・放送業界の関係者も出席して議論が行われたが、おもしろいのは「伝送路の融合については、もう議論は終わっている」として、技術的な議論はほとんど出なかったことだ。むしろボトルネックになっているのは、規制や著作権などの制度的な問題とビジネスモデルである。

個人的に興味があったのは、関口氏の「インターネットはロングテールの裾野をねらい、放送はピークの部分と、ビジネスモデルが違う」という指摘だった。だとすれば、映像伝送では今は権利処理などの取引費用が高いために裾野の部分が商売にならないが、この障壁が低くなればミニコミ的な映像サービスが出てくる可能性がある。

ただ、松原氏のスピーチでNHKへの言及がアーカイブの話しか出なかったのは、少し気になった。単なる時間配分の問題か、関係者のいうように「NHK民営化論が封じられた」ためなのか...






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