贋札

新千円札の贋物がヤフー・オークションに出て、大事件になっている。

しかし、これは奇妙な話である。99億円という値段が(たぶん冗談で)ついたものの、主催者が削除したため、取引は成立していない。競売に出たものは「みほん」と書いてあって、贋札でさえない。それがこんな大騒ぎになるのは、贋札が主権国家の「アキレス腱」だからである。

不換紙幣というのは、実体的な資産価値を持たない「情報」にすぎないし、技術的には複製は容易だ。それがこれほど重大な犯罪とされるのは、贋札を禁止する(貨幣発行権を独占する)ことが主権国家の権力(および財力)の源泉だからである。「知的財産権」を守ることが音楽産業の生命線であるのと同じだ。

ボードレールやジイドから赤瀬川原平にいたるまで、贋金は多くの芸術家のイマジネーションの源泉になってきた。それは、贋札が主権国家といういかがわしい概念のメタファーだからである。

スパムの終わり?

POPFile 0.22が正式にリリースされた。懸案だったAPOPにも(少なくとも日本語版は)対応した。

ベイジアン・フィルターの精度は、驚くほど高い。1000通ぐらい受信すれば、99%以上正確にフィルタリングできるようになる。注意しなければいけないのは、必要なメールが排除されるfalse positiveだが、これもフィルタリングの精度を1/10000以上に上げれば、まず問題ないし、心配なら1日に1回ぐらいログをチェックすればよい。

Mozilla Thunderbirdなどにもベイジアン・フィルターがつくようになり、これでスパムの問題は基本的に終わったと思う。

Carlos Kleiber

カルロス・クライバーが死去して3ヶ月近くたつが、「遺作」が続々と発売されている。

なかでも驚異的なのは、彼がたった1回、録音した(といっても息子のカセット)ベートーヴェンの第6番(Orfeo)である。音質は最悪だが、演奏は最初の数小節で彼とわかる。これ以上は文字で語ることはできないが、聞く価値はある。指揮者の創造性がほとんど作曲家のそれに達しているような、こんな指揮者は、もう出ないだろう。

彼が死んだときは、1週間ぐらい彼のCDばかり繰り返し聞いていて、妻に「もうやめて」といわれた。

制度設計と設計主義

最近「制度設計」という言葉がよく使われるようになった。竹中平蔵氏は「郵政民営化は戦後最大の制度設計だ」という。しかし、こうした発想そのものを批判する人も多い。

小谷清氏は、竹中金融行政は、ハイエクの否定した「設計主義」(constructivism)だというが、これは設計主義という誤訳にひきずられた誤解である。Constructiveというのは特定の目的のために構造物を建設してゆくことだから、「構築主義」とか「計画主義」などと訳すべきだろう。「設計」は英語でいえばdesignで、明らかに別の概念である。

制度設計というのは、ルールを決めることであって、特定の目的を実現することではない。「自生的秩序」に早くから注目したハイエクも、秩序が自生的に維持されるにはルールが厳密に守られる必要があることを認識していた。彼の評価したプリゴジンの理論でも示されるように、物理系の挙動にも不規則性が大きいと、散逸構造は生じないのだ(だから、この種の「カオス理論」は経済学では実用にはならない)。

晩年のハイエクの大著が『法と立法と自由』であることからも明らかなように、合理的なルールの設計こそ自由な社会にとってもっとも重要である。これから経済学がめざすべき一つの(規範的な)方向は、「制度設計の科学」ではなかろうか。


ソフトバンクのFTTH

「ヤフー!BB光」のおひろめが、上戸彩まで使って派手に行われたようだ。

しかし、ヤフー!BBが始まったときのような衝撃はない。月額6890円というのは有線ブロードよりも高いし、シェアド・タイプでさえNTT東西と300円しか違わない。NTTのPONを使っているからだ。償却の終わったドライカッパーと違って、光では得意の「コバンザメ商法」はあまり効果がない。

それよりもWiMAXを使って、昔「スピードネット」で実験した無線による高速アクセスをねらってはどうだろうか。世界的に、いま最大の焦点はUHF帯の免許不要機器への開放である。ソフトバンクには、日本の「電波開放の旗手」になってほしいものだ。

Star Suite

MS Office XPのPersonal editionにはPowerPointが入っていない。これだけを買おうとすると14000円もするので、Star Suite 7(本体1980円)を使ってみた。

買うのは、ソースネクストのサイトからダウンロードするだけで、あっという間だ。利用期限は1年だが、MSのほうもすぐアップデートするから、似たようなものだろう。特にいいのは、PDFファイルにできることで、これなら互換性の問題もクリアできる。

ファイルを作成する機能は遜色ないが、既存のMS-Officeファイルを読むのは弱い。特にOLEは、まともに動くと思わないほうがいい。しかし文書作成だけなら問題ないし、単独のオフィス・ソフトと割り切れば、これで2000円はお買い得だ。

金子勝『経済大転換』の支離滅裂

著者は日本で数少ないマル経だが、本書では経済学者の名前をあげて、支離滅裂な「批判」を浴びせている。たとえば、著者は、ゲーム理論を次のように批判する:
ゲーム理論は融通無碍にできている。それは、このアプローチの前提となる契約理論では、モデル設計者が超越的な「観察者」の立場に立って、現にある制度を事後的に跡づけるモデルを設定することができるからである。(p.78)
この文章を理解できる経済学者はいないだろう。日本語として、意味をなしていないからである。「ゲーム理論の前提となる契約理論」とは、どんな理論 だろうか。ゲーム理論は、1944年のフォン=ノイマンとモルゲンシュテルンの本で始まったとされるが、契約理論(情報の経済学)の先駆とされるアカロフ の「逆淘汰」についての論文が発表されたのは1970年であり、後者が前者の「前提」となるはずもない。逆に契約理論は、最適な契約は戦略的な相互作用の 結果(ナッシュ均衡)として決まると考える「応用ゲーム理論」なのである。著者は、そもそもゲーム理論とは別の契約理論が存在することも知らないのだろ う。
ゲーム理論では、ゲームのルールは所与とされるが、このルールを決めるにはも う一度プレイヤーが一堂に集まってゲームをしなければならないと考えられる。では、そのゲームのルールを決めるゲームのルールは誰が決めるのか・・・とい うように、無限に遡及されなければならなくなる。こうした問題を避けようとして、ハイエクと同様に自主的なルールの形成を「繰り返しゲーム」、制度の変化 を「進化ゲーム」で描こうとする。(pp.78-9)
これも意味不明だ。繰り返しゲームはハイエクとは何の関係もなく、単に同じゲームが繰り返されると想定する理論である。 この程度のことは、どんな初等的な教科書にも書いてある。それも読まないで(あるいは読んでも理解できないで)「批判」する人物も問題だが、そのまま出版 する編集者も非常識である。筑摩書房は経済学の本は出していないから、編集者は素人なのだろうが、それなら専門家に原稿を読んでもらうべきだ。そうすれ ば、出版に耐えないことがわかるだろう。

京都議定書

ロシアが批准を決めたことで、来春にも発効する見通しだという。

ロシアの動機は明らかで、「排出権取引」という名による先進国からの援助を得ようということだ。GDPが(したがってCO2排出量が)基準となる1990年の半分になったロシアの排出枠は大幅に余っており、CO2は最大の「輸出資源」なのだ。

私は、環境問題をproperty ruleで解決するというCoaseの考えに基本的には賛成だが、この問題に関しては、財産権を設定するコストがあまりにも大きいうえに実効性が疑わしく、エネルギー関連産業をすべて規制産業にするおそれが強い。経産省の官僚も実は大部分は反対だが、公式にはいえない。私は炭素税のようなliability ruleでやるべきだと思う。

そもそもロシアが「温暖化」で困るということは、常識で考えてもありえない。地球温暖化がいかに政治的な問題であるかを示す実例だ。これについて、なぜか私のところに取材が来る。記者は「他の専門家の方に聞いても、政府見解と違う話が聞けないので」という。私は、この問題については専門家ではないが、状況はデジタル放送に似てきたようだ。

C&W

C&WIDCが日本から撤退するという。

これで通信業界では、ボーダフォン以外の外資はみんな撤退した。通信の80%は国内で、95%は同じ大陸だが、この比率はインターネットによって逆転し、80%はグローバルな通信になるだろう――というジョージ・ギルダーの主張を、かつて(私を含めて)多くの人々が信じたが、むしろインターネットの発達につれて国内サイトへのアクセスの比率は高まってきた。今では、日本のインターネット・アクセスの80%以上は国内である。

通信は各国政府に強く規制された産業なので、国境を越えるのは簡単ではない。また英語圏以外では、企業ネットワークに海外企業が参入するのもむずかしい。したがって、グローバルな競争のなかではNTTの独占も大した問題ではないという(石黒一憲氏などの主張する)NTT擁護論の根拠も疑わしい。やはり、国内の公正競争なしには国際競争もないのである。

情報家電

24日に電波有効利用政策研究会のWGが開かれ、免許不要局については無線LANなどの「帯域を占有しない無線機」からは取らないという方向になったそうだ。私のパブリック・コメントと似た考え方である。

しかし今度は、5GHz帯に「情報家電専用の帯域」を設けるという話が本格化してきた。「情報家電」の実態はよくわからないが、ブルートゥースに似た日本独自規格らしい。総務省は「情報家電に帯域を割り当てるのは世界初だ」と自慢しているらしいが、米国では5GHz帯で800MHz以上を完全自由に(免許不要で)開放するというのに、日本が本当にこんな割り当てをしたら、世界の笑いものである。







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