人間はチンパンジーとどこが違うのか

Becoming Human: A Theory of Ontogeny (English Edition)人類は現在の地球ではもっとも繁栄している大型の動物だが、それは他の動物と何が違うのだろうか。人類の特徴だと思われていた次のような能力は、最近の研究ではゴリラやチンパンジーのような大型類人猿にもみられることがわかってきた:
 
 ・言葉を使う
 ・道具を使う
 ・集団で狩猟をする
 ・友達をつくる
 ・他の個体を助ける

もちろん人間と同じではない。チンパンジーに言葉を教えても使えるのは単語だけで、複雑な文はつくれない。石などの道具を使うことはできるが、石器をつくることはできない。友達の範囲は、毛づくろいできる程度に限られている。しかし人類だけができて、大型類人猿にまったくできない能力はほとんどない。

では人類がここまで繁栄した原因は何だったのか。本書はその秘密は個体発生にあるという。多くの動物の能力は肉体的なハードウェアで決まるが、人間は「半製品」で生まれ、知能の大部分は子供が育つ段階で、環境との相互作用で形成される。その成果は文化として次の世代に継承され、社会に蓄積される。これが人類の驚異的な進歩の原因だという。続きを読む

厚労省の官僚は無能か嘘つきか

国会では統計不正問題をめぐって見当はずれの質疑が行われているが、「アベノミクス偽装」という類の陰謀論はすべて誤りだ。2018年1月からの毎月勤労統計のシステム更新は、統計的精度も安定性も上がる改善だった。このとき結果として賃金が「上振れ」したが、問題はそれより2017年まで賃金が「下振れ」していたことだ。

立憲民主党にアドバイスしている明石順平という弁護士は、上振れが「ベンチマーク更新」の影響だというが、システムを更新したら影響が出るのは当たり前だ。2018年の場合は経済センサスに合わせて大企業を増やし、サンプルを毎年1/3入れ替える「ローテーション・サンプリング」にしたが、それで数字が上振れしても法的な問題は発生しない。

続きはアゴラで。

「韓国化」する沖縄

米軍基地の辺野古移設のための埋め立て工事の賛否を問う県民投票が、2月24日に実施される。最初は一部の市が参加しないなどもめて、「どちらでもない」を含む三択にして全市町村が参加することになったが、この県民投票には三重に法的根拠がない。
  1. 辺野古移設は日米の政府間協議で決定され、沖縄県も2013年に承認した
  2. その承認を取り消した沖縄県の決定は2016年に最高裁で違法とされた
  3. したがって承認を撤回する沖縄県の決定にも法的効力がない
続きはアゴラで。

死の恐怖という錯覚

自殺について (角川ソフィア文庫)
死の恐怖は人間のもっとも強い感情だが、すべて「本能」だとは限らない。それが文献に出てくるのは意外に新しく、16世紀にモンテーニュが死について考え続けたのが最初だ。多くの社会では人は死を自然に受け入れ、キリスト教では死後に永遠の生命が得られることになっているので、死の恐怖はありえない。

死が恐怖の対象になったのは、近代ヨーロッパで人々が神を失ってからだ。ヘーゲルは神の代わりに「絶対精神」にもとづく壮大な観念論を構築したが、ショーペンハウエルはそれを否定する「反ヘーゲル主義」の元祖であり、ニーチェから20世紀のポストモダンに至るニヒリズムの元祖でもある。

本書はショーペンハウエルの主著『意志と表象としての世界』の付録のようなもので、根本的実在は意志だとする。これはプラトンのイデアやカントの物自体と同じ普遍的な概念だが、それ自体は認識の対象ではなく、世界を動かすエネルギーである。意志のみが本質で表象はすべて幻想であり、生は意志の長い歴史の中で、ほんの一瞬この世に現われる閃光のようなものだから、個人は死ぬことによって本質的な意志の世界に帰る。

個体を超えて増殖を続ける意志というイメージは、生物学の「利己的な遺伝子」に似ている。個体は遺伝子のコピーを最大化するための乗り物であり、個体が死んでも遺伝子は子供に受け継がれて増殖を続ける。人間が死を恐れるのは子供をつくって遺伝子を残すためだから、子供が生まれたら死んでもかまわない。死の恐怖は、個体を保存するための錯覚なのだ。

続きは2月4日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

日本は長期停滞のトップランナー

日本経済論15講 (ライブラリ経済学15講APPLIED編)
日本経済の長期停滞の原因として、潜在成長率の低下がよくあげられる。これ自体は当たり前で、人口減少と高齢化で潜在GDPが下がるのは自然現象のようなものだが、こういう供給不足が原因なら物価は上がるはずだ。物価も金利も上がらないのは、需要不足が原因と思われる。

その最大の原因は、本書も指摘するように企業の貯蓄過剰(投資不足)である。これは1998年の金融危機から始まったもので、初期には過剰債務を削減して企業を防衛するために行われたが、20年たった今も企業(非金融法人)が純貯蓄部門で、その貯蓄を政府部門の赤字が埋めるいびつな構造は変わらない。

つまり企業が金を貸して政府が借りる状況なので、金融緩和しても企業の投資を高める効果はなく、財政ファイナンスになるしかない。これに対して、民間の貯蓄過剰を政府が吸収する財政支出には意味がある。サマーズの指摘する長期停滞の構造は、1990年代の日本から始まったのだ。

それが20年以上続いているのはなぜか、という問題については経済学者にも合意があるわけではないが、本書が指摘するのはグローバルな実質金利の均等化という現象だ。これによって新興国(特に中国)の貯蓄過剰の影響が世界に広がり、2010年代には世界的に実質金利ゼロになった。日本は長期停滞のトップランナーなのだ。

世界的な貯蓄過剰が低金利・低インフレを生んでいる、というのはサマーズやバーナンキなども指摘する問題で、ゼロ金利の原因がそういうグローバル・インバランスだとすると、各国の中央銀行が是正することはできない。続きを読む

勤労統計の賃金上振れは「アベノミクス偽装」ではない

国会で毎月勤労統計についての審議が続いているが、政局がらみの話ばかりだ。データの誤りが2004年からなのに2018年のサンプル変更ばかり追及しているのは、民主党政権にも責任がある時期を避けているのだろう。欠陥の原因を追及しないで、それを是正したことを問題にしても意味がない。

朝日新聞によれば、野党が2018年のサンプル変更前の事業所に限って実質賃金を計算したところ、「増減率は8カ月で厚労省の発表より下がった」という。これを「アベノミクスの成果の偽装だ」と野党は騒いでいるが、そんなことはありえない。



続きはアゴラで。

財政赤字の何が悪いのか

立憲民主党が、アメリカで話題になっている民主党のオカシオコルテス議員を取り上げている。彼女の支持するMMT(Modern Monetary Theory)は、先日の記事で紹介したように「財政赤字は問題ではない」という理論だ。彼女はサンダースを継承する「民主社会主義者」で、MMTはトンデモではない。

トランプ大統領の大減税でアメリカの財政赤字は激増したが、実質金利はゼロのままだ。この状況で財政破綻やハイパーインフレを心配するのはナンセンスで、中央銀行が紙幣を印刷して国債を買えば、格差是正の財源はいくらでも出てくる――というのが彼女の主張で、社会主義としてはそれなりに筋が通っている。

MMTは20年ぐらい前からあるが、注目されるようになったのは世界的にゼロ金利の続く2010年代である。日銀がいくら国債を爆買いしても金利が上がらない日本では、財政ファイナンスはフリーランチになるので、アメリカよりもMMTが向いている。MMTは、ゼロ金利が続く限り正しいからだ。

もちろんゼロ金利が永遠に続く保証はないが、終わる兆しも見えない。サマーズもグローバルな長期停滞が構造的な需要不足によるものだと論じ、MMTを部分的に認めている。立憲民主党がMMTを掲げて「財政赤字なんか気にしないで弱者救済のバラマキをやる」と主張したら、おもしろいのではないか。

続きは2月4日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

消費増税も軽減税率もポイント還元も中止しよう

有地浩氏の記事に私も同感だ。長期的には消費税の増税は必要だが、今回の増税案は軽減税率やポイント還元など複雑怪奇になり、消費税の最大のメリットである「一律で透明な税」という特長がなくなった。

政府債務を削減することは必要だが、ゼロ金利では優先順位は高くない。政府債務が増加した最大の原因は社会保障給付の増加だが、それを削減できないとすると、負担増にはざっくりいって次の三つの方法がある。

・消費税の増税
・社会保険料の増額
・国債の増発

続きはアゴラで。

信用創造が金融危機をもたらす

シフト&ショック──次なる金融危機をいかに防ぐか
リーマンショックから10年たち、世界的に景気が減速してきた。1980年以降、世界規模の金融危機は6回発生したので、次の危機が起こってもおかしくない時期だ。本書は2008年以降の危機の総括だが、経済システムの機能について「経済学の定説はなんの役にも立たないことが明らかになった」と断定し、「新しい思想」が必要だと強調している。

金融危機の最大の原因は世界的な貯蓄過剰で、それを生んだのは1990年代から始まった新興国の供給過剰と先進国の需要不足だった。これが世界的な低成長・低インフレ・低金利の原因ともなっている。この資金需給のギャップを埋めるのが銀行の役割だが、このとき銀行は信用創造という形で私的マネーを作り出す特権をもっている。

このマネーが好況のときは膨張してバブルをもたらす一方、不況のときは収縮して金融危機を起こす。しかし主流派のマクロ経済理論(DSGE)には貨幣が存在しないので、バブルの生成と崩壊を分析できない。フローの「インフレ目標」で経済をコントロールする金融政策も時代遅れだ。金融危機を生むのは資産価格の崩壊だからである。

こういう状況を分析する理論はまだないが、著者は異端派の経済理論にそのヒントを見出す。その一つが、銀行の信用創造を禁止してナローバンクにする「シカゴプラン」で、この考え方はMMTと同じだ。私的マネーを廃止して中央銀行が財政ファイナンスで過剰貯蓄を吸収すれば、資産価格をコントロールして金融危機をなくすことができるという。続きを読む

厚労省はなぜ勤労統計のサンプルが増えたことを隠したのか



このVlogだけでは意味がわからないと思うので、補足しておく。2004年に厚労省が毎月勤労統計調査のサンプルを減らしたことが国会でも問題になっているが、これは間違いである。このときサンプル数は増えたのだ

続きはアゴラで。






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