アメリカはなぜプルトニウムを警戒するのか



7月16日に日米原子力協定が自動延長される予定だ。政府は閣議決定で「プルトニウム保有量の削減に取り組む」と初めて明記したが、その見通しは立たない。プルトニウムを消費するプルサーマル原子炉の再稼動が進まないからだ。今は幸か不幸か青森県六ヶ所村の再処理工場がまだ稼働していないが、これが稼働するとプルトニウムは増えてしまう。

だがアメリカがこれほどプルトニウムに過敏になる根拠は不明だ。きのう「言論アリーナ」でも話したように、日本がいま保有している純度の低い「原子炉級プルトニウム」では、核兵器は製造できないからだ。技術的には「自爆核兵器」のようなものはできるが、軍事的には意味がなく、外交的には自殺行為である。

アメリカはカーター政権が1977年に核燃料サイクル廃止に方向転換し、世界各国にも再処理をやめるよう求めた。それは世界の原子力平和利用の根幹をゆるがす大転換であり、日本もヨーロッパも反対したが、その後もアメリカは一貫してプルトニウムの拡散を警戒してきた。その背景には何があったのだろうか。

続きは7月16日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

ドイツの理想主義が偽善になるとき

そしてドイツは理想を見失った (角川新書)
戦後の日本とドイツは、似ているようで違う。似ているのは第2次大戦で敗戦国になったことだが、その負の遺産を処理する方法はかなり違う。日本では天皇制が残ったが、ドイツは「第三帝国」が国家として消滅したため、過去を100%否定した。ナチを肯定することやホロコーストを疑うことは今も犯罪であり、「ヘイト」を掲載したSNSに最大5000万ユーロ(約60億円)の罰金を課す法律が昨年できた。

そのドイツに登場したのが、移民排斥を主張するAfD(ドイツのための選択肢)である。昨年の総選挙で、AfDが第三党になったことは、世界に大きな衝撃を与えた。メルケル首相の与党CDU(キリスト教民主同盟)と野党第一党SPD(社会民主党)の政権協議は難航し、今も政権は不安定だ。

日本の国会では政治理念は争点にならず、スキャンダルばかり議論しているが、ドイツは自国を「理想の国」にしようという意識が強く、政治家は理念を掲げる。このためメルケルは難民を無条件に受け入れたが、犯罪が増えた。彼女の「脱原発」も理想主義だったが、CO2は減らないで電気代が大幅に上がった。そういう偽善に対する国民の不満を集めたのがAfDだった。

続きは7月16日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

「世界史」を創造した遊牧民

世界史序説: アジア史から一望する (ちくま新書)
個別の地域や文化圏を超えた普遍的な「世界史」が書けるのかというのは、むずかしい問題である。「唯物史観」がその答だと思われた時代もあったが、今そんなものを信じる人はいない。最近では「世界システム論」が歴史学界の主流になりつつあるが、それもヨーロッパ近代を中心とする唯物史観の変種である。

では「アジア中心の世界史」が書けるのかというと、これはもっとむずかしい。ポメランツ以降のカリフォルニア学派はヨーロッパ中心史観を否定し、18世紀の「大分岐」でヨーロッパが先進国だった中国を逆転したというが、では分岐する前には統一的な世界があったのかという疑問には答えていない。

本書はあえてアジアを中心に、世界史を書き直す試みだ。もちろん新書1冊で世界史が書けるはずがないので、具体的な歴史記述は荒っぽいが、われわれが無意識に信じている通念を疑うきっかけにはなる。著者の仮説は、近代以前の世界史を動かした最大の要因が遊牧民だということである。

続きは7月9日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

私立大学は「裏口」だらけ

文部科学省の局長が逮捕された事件は、まだ事実関係がはっきりしないが、「贈賄側」の東京医大の理事長と学長は、「入試の点数に加点した」ことを認めているようだ。賄賂は現金に限らず、職務上の地位が賄賂と認定された判例もあるらしいが、「裏口入学」が贈賄と認定されたら、私立大学は賄賂だらけになる。

続きはアゴラで。

科学者はなぜ神を信じるのか

科学者はなぜ神を信じるのか コペルニクスからホーキングまで (ブルーバックス)
本書は科学史のおさらいだが、おもしろいのは著者(物理学者)がカトリックの聖職者でもあることだ。だから彼は「物理学が神の存在を証明している」というのだが、これはある意味では正しい。キリスト教の神の正体はよくわからないが、宗派を超えて共通なのは、それが唯一神だということだ。それは物理学の前提でもある。

この宇宙が一つしかなく、アンドロメダ星雲でも地球と同じ万有引力が通用するという事実は証明できない。今のところそういう推測に反する事実は見つかっていないが、見つかる可能性は否定できない。本書によると、ジョルダーノ・ブルーノは「無数の宇宙が存在する」と主張して異端審問にかけられたという。

この宇宙に法則が一つしかないというのは物理学者の信仰にすぎないが、その法則を「神」と呼べば、キリスト教とほとんど同じだ。ニュートンも彼の運動方程式は神の存在証明だと考えていた。ここで本質的なのは法則が唯一だという信仰であって、それをどう呼ぶかではない。カント以降の近代哲学の目的は、その信仰を証明することだったが、いまだに成功していない。

続きは7月9日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

ビル・ゲイツと原子力の未来

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私が西和彦さんと一緒にビル・ゲイツに会ったのは、2011年9月だった。彼は第4世代原子炉に巨額の投資をしているが、原発推進派ではない。彼は気候変動が人類の最大の脅威だと考え、再生可能エネルギーにも投資したが、蓄電技術がボトルネックだった。

エネルギー産業は、ITの次の大きなフロンティアだ。アメリカでは古い地域独占の電力会社が残っているおかげで、イノベーションの余地は大きい。新興国はクリーンで安いエネルギーを求めており、重量あたり石炭の100万倍のエネルギーを出せる原子力には、非常に大きなポテンシャルがあるという。

「原子力についてのシンクタンクをつくりたい」という私の提案に対して、彼は「原子力技術や放射能の影響は科学的によくわかっているので、問題はそれを一般市民に伝えることだ。研究員を雇う必要はなく、ウェブサイトで情報を共有する仮想シンクタンクをつくるべきだ」といって寄付してくれた。その資金で設立したのがGEPRだ。

彼はPCソフトウェアで世界を変えた。そしてもう一度、原子力で世界を変えられると信じているが、その舞台は中国に移った。原子力の最大の問題は技術ではなく、政治だからである。

続きは7月9日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

中国が世界の原子力のリーダーになる


三門原発(CNNCサイトより)

最新鋭の「第3世代原子炉」が、中国で相次いで世界初の送電に成功した。中国核工業集団(CNNC)は、浙江省三門原発で稼働した米ウェスチングハウス(WH)社のAP1000(125万kW)が送電網に接続したと発表した。他方、広東省台山原発にできたフラマトム社の欧州加圧水型炉(EPR)175万kWも送電に成功したと発表した。

続きはアゴラで。

デモクラシーは生き残れるのか

政治の衰退 上 フランス革命から民主主義の未来へ
議会によるデモクラシーはここ200年ほどヨーロッパに生まれた制度であり、近代国家の必然ではなく、唯一のモデルでもない。今のところは成功モデルとされているが、多重のチェック機構があるので、合意形成に時間がかかり、効率が悪い。もっとも効率的に意思決定できるのは独裁国家である。

この効率とチェックのトレードオフが、近代国家の抱える問題である。チェックを重視する権力分散がアメリカ型で、意思決定を内閣に集中するのがイギリス型だが、著者はアメリカ型を高く評価していない。政府と議会がバラバラに意思決定し、官僚制が機能しないので金のかかる司法が強く、政治家は腐敗している。

これに対してイギリス型に近い日本では、清潔で優秀な官僚機構に権力が集中し、成功したというが、「決められない政治」は似たようなものだ。政治家が金で動く傾向はアメリカほどひどくないが、政権交代がないので政治の転換がむずかしい。

世界全体をみるとデモクラシーは少数派で、21世紀に入って中国やロシアのような独裁国家が成長している。欧米人は「自由のない国家はいずれ没落する」といい続けてきたが、その兆候はみえない。中国は、デモクラシーの次の国家モデルになるのだろうか。

続きは7月9日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

山口敬之氏の逮捕状はなぜ執行されなかったのか



伊藤詩織事件がまだ延焼しているが、この動画でも説明したように、これは刑事事件としては決着がついている。刑法で「準強姦罪」が成立するのは「心神喪失または抗拒不能となった女性を姦淫した場合」だが、山口氏の証言によれば伊藤氏がベッドに入ってきたので、心神喪失にはあたらない。伊藤氏も「記憶がない」というのでは、立証は困難だ。

これは山口氏が安倍政権に近いかどうかとは関係ない。彼が左翼の活動家だったとしても、公判が維持できないと考えたら検察は起訴しない。本件も書類送検になった段階で、警察は無理とあきらめていたのだろう。それが「有罪率99%」の日本の司法の特徴だが、本件の場合は起訴して、裁判で決着をつけたほうがすっきりしたと思う。

特に釈然としないのは、伊藤氏が2015年4月に警察に被害届けを出した直後に、TBSが山口氏をワシントン支局長から解任し、彼が帰国するとき高輪署の取った逮捕状を警視庁の刑事部長が執行させなかったことだ。これは警察の手続きとしても異例で、政治的配慮があった疑いが強いが、それは「安倍政権への忖度」ではない。

続きは7月2日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

安倍首相の意図せざる財政革命

夏の合宿でも議論する予定だが、戦後の日本に二大政党ができなかったのは中選挙区制のせいではなく、政策の対立軸がなかったからだ。戦前も中選挙区制だったが、政友会と民政党の二大政党で政権交代が起こった。それは税金を使う政府の党である政友会と、納税者を代表する民政党が対立したからだ。

議会は近世ヨーロッパで、納税者(地主・ブルジョア)と税を使う貴族の対立から生まれた制度だ。アメリカの共和党と民主党も、イギリスの保守党と労働党も、納税者の党と使う党で、その対立は「福祉国家」になると先鋭化した。自民党の支持基盤も高額納税者だったので、1980年代以降は財政再建が最大の課題になり、野党はそれを「新自由主義」と批判した。

ところが安倍首相は、日銀の財政ファイナンスで国債発行の上限を踏み超え、「大きな政府」に舵を切った。それは今までの常識では金利上昇とインフレで財政破綻を招くはずだが、今のところ金利は下がっている。これは財政の歴史の中では革命的な出来事だが、安倍首相が斬新な経済理論でやっているようにはみえない。この革命を可能にしたのは何だろうか。

続きは7月2日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。






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