遺伝と文化の共進化

文化がヒトを進化させた―人類の繁栄と〈文化-遺伝子革命〉
獲得形質は遺伝しない、というのは中学生でも知っている進化論の鉄則である。技術が遺伝するなどというと頭がおかしいと思われるだろうが、本書はそういうトンデモではない。著者はハーバード大学の進化生物学教授である。

ヒトの消化器は、霊長類の中でも特徴的だ。口の大きさはリスザル(体重1kg)ぐらいしかなく、歯も貧弱で生肉を噛み切れない。胃の表面積は体重が同じぐらいの霊長類の1/3しかなく、大腸も6割ぐらいしかないので消化能力が劣っているが、小腸の長さは他の霊長類と同じだ。

それはなぜだろうか。本書の答は、ヒトが道具や火を使う技術を学んだからだというものだ。特に火を使って大型動物の肉を焼いて柔らかくできたので、胃や大腸は小さくなった。しかし栄養分を吸収する小腸の機能は柔らかくなっても同じなので、短くならなかったのだ。

これは他の動物にはみられない特徴である。蟻や蜂が巣をつくる技術は遺伝によるものだから、一部の個体を他の場所に移しても、同じように巣をつくることができる。ところがヒトにはそれができない。現代人が無人島に残されると、動物を捕獲も調理もできないので餓死してしまう。

ヒトが石器を使うようになったのは300万年ぐらい前といわれるので、そのころから技術が人体の形を変えたと考えられる。これは獲得形質が遺伝したわけではないが、文化が遺伝形質の淘汰に影響を与えたことを意味する。そういう例は本書に多くあげられているが、そのうちもっとも重要なのが脳の機能である。続きを読む

自粛から撤退して経済を正常化するとき

内閣府が発表した今年4~6月期のGDP速報値はマイナス7.8%、年率換算でマイナス27.8%となった。これはリーマン・ショック後のマイナス17.8%を超える戦後最大の落ち込みである。緊急事態になっているのは日本経済なのだ。

新型コロナの患者は東京では一段落したが、感染が全国に広がり、今月いっぱいは重症患者も増えるだろう。それは大した問題ではない。医療資源の制約に収まるかぎり、患者が増えてもいいのだ。

これを集団免疫戦略と呼んで「集団免疫は実現しないのでだめだ」というのは間違いだ。これは米CDCが2007年に出したガイドラインでも示されているcommunitiy mitigationという世界標準の考え方で、WHOも採用している。



続きはアゴラで。

消費税の減税より「マイナス金利の拡大」を

国民民主党が分裂することになった。立憲民主党と何が違うのかよくわからないが、玉木代表が強調するのは「消費税減税」である。そういう声は自民党の中からも出ており、安倍首相が秋に消費税減税を争点にして解散・総選挙をやるという観測もある。

これは政治的にはありうる。今はコロナ自粛で景気が大幅に落ち込んでおり、追加の景気対策が必要だ。給付金を何度も出すわけにも行かないので、減税するなら誰でも知っている消費税が心理的な宣伝効果は大きい。



しかしマクロ経済的には、これはナンセンスである。図のように今年度は2次補正予算を含めて100兆円近い新発債が発行され、3次補正を含めると300兆円を超えると予想される。この史上空前規模の国債は市場で消化できないので、こういうとき減税を約束すると、金利が上がるおそれが強い。

続きはアゴラで。

コロナ対策の決め手は「指定感染症」の解除

「国民全員PCR検査」を提言して批判を浴びた小林慶一郎氏が、同じく政府のコロナ対策分科会のメンバーになった大竹文雄氏とともに、東洋経済オンラインで「重症ベッドを増設せよ」と提言している。
今年4~5月の自粛と休業によって年間で日本の経済成長率はおおよそ5%程度低下したと考えられる。[…]これから病床が逼迫して、緊急事態宣言の再発出という事態になれば、4~5月のように経済活動が萎縮し、10兆円規模の経済損失が発生することになる。

この10兆円の経済損失を防ぐために、1兆円かけて重症ベッドを増やしても元がとれるというのだが、この計算はあやしい。

続きはアゴラで。

集団免疫って何?

最近、新型コロナの感染者が増える一方、死者はあまり増えないので、日本はこのまま集団免疫をめざせとか、指定感染症の指定をやめたほうがいいという声が聞こえてきます。

集団免疫のしくみはむずかしいのですが、簡単にいうと感染が広がって、集団の中で免疫をもつ人が増えると、感染しにくくなるのです。

たとえば100人の集団で1人がまわりの2人にうつす病気だと、その2人が2人ずつうつすと4人、さらに8人…とネズミ算で感染が増えていきますが、50人が感染すると、それ以上は増えません。ある人が2人にうつしても、そのうち1人は免疫をもっているからです。

このように感染がゼロになるのではなく、1人が1人にうつす状態が集団免疫です。これが成り立つと、感染は収束します。図のように免疫をもった人が「防護壁」になって感染していない人を守り、ウイルスが減っていくからです。


酪農学園大学ホームページより

続きはアゴラで。

国家は「集団免疫システム」だった

反穀物の人類史――国家誕生のディープヒストリー
人類の歴史の最大の岐路は、紀元前1万2000年ごろ始まった定住生活である。これによって農耕で生活が安定し、豊かになったと思われているが、最近の考古学調査はこの通念を否定している。農耕が始まったのは紀元前9000年ごろだが、大部分の人類は狩猟採集で生活していた。この時期の農民の人骨は狩猟民より小柄で、食糧が不足していたことを示している。

移動生活では4年に1人子供が産まれたのに対して、定住生活では2年に1人子供ができたといわれるが、これだと人口は数十年で倍増するはずだ。ところが紀元前1万年前に400万人だった人類の人口は、紀元前5000年には500万人になっただけと推定されている。なぜ定住で人口は増えなかったのだろうか。

その最大の原因は感染症だった、と本書は推定する。定住生活では感染者と一緒に住み、排泄物や死体も蓄積するので、誰かが感染すると集落が全滅するリスクが大きい。そういう人口が突然消滅した遺跡が、数多く見つかっている。定住の始まった新石器時代初期は、人類史上もっとも死亡率の高い時期だったという。

ところがそれ以降の5000年で人類の人口は20倍の1億人に増え、その後も同じペースで増え続けた。これは人類が感染症を克服したからではなく、感染しても全滅しないシステムを発見したからだ。数百人の集落は感染症で全滅するが、数十万人集まれば、数万人死んでも、残った人々で集団免疫ができる。それが国家だった。続きを読む

日本で「集団免疫戦略」は可能か

JBpressの記事が意外に読まれているので、テクニカルな問題を少し補足しておく。まず「集団免疫戦略」という言葉は正確ではない。集団免疫は政策目的ではなく、感染の結果である。わかりやすくいえば「ピークシフト」だが、これはあまり一般に使われていない。

専門家会議はこれについて5月1日の分析・提言で「感染の拡大を前提とした集団免疫の獲得のような戦略や、不確実性を伴うワクチン開発のみをあてにした戦略はとるべきでないと考える」と明確に否定した。

これは集団免疫が「感染拡大が望ましい」という誤解を与えるためだと思われるが、もちろん感染はしないほうがいい。新型コロナウイルスをゼロにできるならそれがベストだが、日本では不可能である。この場合、次善の策として次の二つの考え方がある。
  1. ウイルスを徹底的に封じ込めてゼロに近い水準を維持する
  2. 感染をゆるやかに拡大して医療資源の制約内に収める
現在の日本政府の公式の立場だと思われるが、それは維持可能だろうか。感染をゼロにするには、4月の緊急事態宣言よりはるかに厳重な外出禁止令を永久に続けなければならない。

2が感染症学界の主流であり、米CDCやWHOはcommunity mitigationと呼んでいる。この政策の問題点は、感染が拡大すると医療が崩壊するのではないかということだ。イギリス政府の方針転換の原因となったインペリアルカレッジ報告書の最大のポイントも医療資源の制約だった。

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イギリスの重症患者数とICUベッド数(インペリアルカレッジ)続きを読む

新型コロナウイルスの「封じこめ」はできない

検査陽性者数が増えたことが話題になっているが、毎日900人前後というのは世界的には取るに足りない。陽性者数というのは統計的に無意味なので、毎日の人口あたり死者で比較すると、最近、死亡率の上がっている「第2波」の筆頭はアメリカ(100万人あたり3人)だ。これに対して日本の死者はほぼゼロで、図に描くこともできない。

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各国の100万人あたり新規死者(FT.com)

他に第2波が来ている主要国はオーストラリアとイスラエルで、いずれもEUより強硬なロックダウンで封じこめに成功したといわれていた。おもしろいのはルクセンブルク(人口62万人)で、国民の98%をPCR検査して封じ込めたといわれていたが、今は世界最高速で死者が増えている。

この中で日本と似た環境にあるのはオーストラリアである。ともに島国で入国制限しやすく、6月までは死亡率はほぼゼロで同じだった。ところが7月にオーストラリアがロックダウンを解除してから死者が急に増え、累計では日本を抜いた。オーストラリアの人口は日本の1/5なので、死亡率は5倍である。

まだ感染は進行中なので断定はできないが、これまでのデータからいえるのは、ロックダウンでウイルスを封じ込めれば経済が早く回復するというのは幻想だということだ。ウイルスは根絶できないので、一時的に感染を止めても、ロックダウンをやめたら感染は再開する。最終的には(広い意味での)集団免疫ができるまで感染は止まらないのだ。

続きは8月10日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで(初月無料)。

「第2波」という錯覚が起こった単純な理由

新型コロナの検査陽性者数が全国各地で増え、「第2波」と騒がれている。たしかにPCR検査の陽性者数は増えているが、これは統計的には無意味な数字である。今の検査は症状の出た人が中心で、サンプルが大きく片寄っているからだ。

これは統計学の初歩だが、統計は母集団をすべて調べるものではない。たとえば日本人の平均寿命を知るには、全国民の年齢を調べる必要はない。特定のサンプルで平均を計算し、チェックするのはそのサンプルにバイアスがないかどうかである。

普通の感染症では、こういう統計手法が確立しているので、すべての患者をカウントしないで推定する。たとえばインフルエンザでは、全国にあるサイト(病院)ごとの患者数を5万倍して患者数を推定する。

だがコロナではサンプルと母集団の関係がわからないので、検査で陽性になった人をカウントしている。したがってコロナ陽性者数をインフルの推定患者数と比較するのは正しくない。

5月までは保健所に届け出た(自覚症状のある)人を検査していたが、6月からは無症状の人も検査するようになった。このため6月下旬には4000人程度だった検査人数が7月から急に増え、7月末には1万人6000人(7日移動平均)と4倍に増えた。


全国のPCR検査人数と陽性者数(右軸)厚労省オープンデータ

続きはアゴラで。

新型コロナの「本当の感染者」は何人か

コロナの「第2波」をめぐる論議には勘違いがある。いま行われているPCR検査は、陽性者を発見して隔離する検査で、疫学的には意味がない。正確な統計をとるにはランダムサンプルが必要だが、今の検査はランダムではないので、検査陽性が増えても本当の感染者が増えているかどうかはわからないのだ。

たとえば東京都民の5%が、コロナウイルスをもっているとしよう。咳や発熱などの症状の出た人の20%がコロナ患者だとすると、症状の出た人500人を検査すると100人が陽性になる。これが東京の4~5月の状況に近い。

ダウンロード
東京都の検査人数・陽性者数(棒グラフ)と陽性率(右軸)

そこで6月以降に検査キットを増やし、無症状の人にも検査を拡大した。発症者1000人+無症状5000人を検査すると、無症状の人の5%(250人)がコロナウイルスをもっているので、検査陽性は100人+250人=350人に増える。これがいま起こっている状況に近い。

このケースでは本当の感染者は5%(70万人)で、増えても減ってもいない。実際のデータでは4~5月に陽性が減っているので、自粛の効果はあったと思われるが、これは誤差の範囲である。6月以降の陽性者の増加は検査の増加とほぼ比例し、陽性率は6.5%前後でほとんど変わらない。つまり陽性が増えた最大の原因は検査方法の変化なのだ。

では本当の感染者は何人いるのか。今まで行われた抗体検査では陽性率は1%以下だが、これは低すぎる。常識的にはウイルスをもっている人はもっと多いのではないかと思うが、ソフトバンクグループの検査では、逆の結果が出た。

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抗体陽性率は0.43%だったが、その陽性者191人のうち(抗体検査の前に行われた)PCR検査でも陽性になった人は11人だった。これはPCR検査で陽性になった人の17倍が抗体をもっていることを示しているが、どう解釈すればいいのだろうか?

あとはアゴラサロンで(8月末まで無料)。









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