効率性とインセンティブのトレードオフ

アゴラの記事が誤解を招くといけないので、ややテクニカルな補足をしておこう。銀行を無差別に救済することは事後的には望ましいが、事前のルールとしては望ましくない。これは一般的には、次のような債権者と債務者のゲームと考えることができる。

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いま債権者(銀行)が、あるプロジェクトに500億円を投資したとしよう。これが成功したら何の問題もないが、失敗して投資はすべてサンクコストになったとする。債務者(企業)を清算するとすべてゼロになるが、追い貸しして救済すると資産価値は400億円に下がってプロジェクトは続行できるとする。この場合、債権者はどうすべきだろうか?

図からも明らかなように、事後的には救済することが効率的(Pareto efficient)である。しかし事前にそれがわかっていると、債務者は過大なリスクをとり、失敗したらコストを債権者に押しつけるモラルハザードが起こる。このような効率性とインセンティブのトレードオフは普遍的な問題で、いろいろな解決法が提案されている。

続きは5月1日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンでどうぞ。

日本的雇用は「後入れ先出し」の大学から崩壊する

一橋大学から香港科学技術大学に移籍する経済学者が話題になっているが、彼もいうように経済学では珍しいことではない。理系ではとっくに、優秀な研究者は日本の大学に残らない。これは日本語のハンディもあるが、根本的な問題は准教授以上は自動的に終身雇用(テニュア)になるからだ。

これは大企業と同じだが、大きな違いは大学教師には転勤がないことだ。日本のサラリーマンに競争がないというのは大きな間違いで、出世競争は激しい。給料や形式上の職位は横並びだが、たとえばNHKでいうと東京の特報部長と北見の放送部長は、給料が同じでも社内ランクはまったく違い、これが強いインセンティブになっている。

ところが大学教師には転勤がないので、准教授になったら論文を書かなくても授業だけやっていれば、定年まで雇用が保障される。ここで大学教師の定員を減らすと、後入れ先出しになる。論文を1本も書いていない老人の既得権を守って、その何倍も業績を上げている若い研究者が任期つきになり、5年で切られるのだ。このため優秀な研究者は日本の大学でテニュアをとれず、それを見た学生は大学院に進学しなくなった。

続きは5月1日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンでどうぞ。

マスコミが金融危機を作り出す



日銀が量的緩和を巻き戻す「出口」が近づいてきた。27日の記者会見で黒田総裁は、出口戦略についての質問には今までと同じく答えなかったが、9年ぶりに「景気拡大」という言葉を使った。「完全雇用に近い」とか「デフレは脱却した」という表現も従来から使っているので、国債の買い入れを減らす「テーパリング」は近々やるだろう。

続きはアゴラで。

日本人の中のアナーキズム

アナキスト民俗学: 尊皇の官僚・柳田国男 (筑摩選書)
日本人が「強いリーダー」をきらい、権力の分立を好むアナーキーな傾向は多くの人が指摘しているが、その原因ははっきりしない。本書は柳田国男が若いころクロポトキンの影響を受け、そのアナーキズムを学問的に表現したのが「常民」を中心とする民俗学だったという。

農商務省の官僚だった柳田は、1910年の大逆事件を機にアナーキズムを「表」では語らなくなるが、その民俗学には常民のアナーキーな心情が記録されている。柳田は平民社のメンバーとも交流があり、社会主義に密かに共感していた。その「裏」には、クロポトキンと共通の「相互扶助」への信頼があり、農本主義的な歴史観があったという。

発想はおもしろいが、本書が実証的に論じているのはここまでだ。後半はヘーゲルやフッサールからメイヤスーまで話が脱線し、本筋に戻らない。誤字も多く、飲み屋の与太話を聞かされているような感じだ。肝心の柳田とクロポトキンのつながりを示すのは2本の講演記録だけで、最後は「戦後天皇制はトーテミズムとして完成した」という意味不明な結論で終わる。

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日本は「核武装のオプション」をもっている

日本はなぜ核を手放せないのか――「非核」の死角JBpressにも書いたが、来年、日米原子力協定が切れる。原発のほとんどが止まっている日本は、余剰プルトニウム47トンをどう処理するのか、アメリカに説明を求められるだろう。その理由は、高速増殖炉がなくなった今は、核武装の技術的オプションをもつことしかない。これはいま核武装するという意味ではないので、核拡散防止条約には違反しない。

それが本書のタイトルの答であり、秘密でも死角でもない。政府は国会で「核武装は合憲だ」と答弁している。著者は反原発派なので、核兵器そのものが悪だという前提で「核密約」を糾弾しているが、兵器は単なる手段であり、よくも悪くもない。アメリカの「核の傘」がなくなったら、日本が核武装する必要があるかもしれない。ただしプルトニウムは47トン(原爆6000発分)も必要ないので、余剰プルトニウムは売却すればいい。

ところが原子力推進派も、私が「日本の原子力開発には核兵器がからんでいたのでは?」と質問すると、血相を変えて怒る。「最初から100%平和利用であり、核兵器への転用なんか考えたこともない」というのだ。考えたことはないかもしれないが、客観的にみて原発はプルトニウム製造装置である。正力松太郎が東海村に導入したコールダーホール炉は、イギリスが兵器用プルトニウムの生産を目的に開発したものだった。

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石油の禁輸に「逆切れ」した日本軍



エネルギー問題は、安全保障と表裏一体である。アゴラで岩村昇さんが書いているが、きのうの「言論アリーナ」で山本隆三さんも「中国が北朝鮮への石油供給を止めるのは危険だ」といっていた。

日米韓は中国に北朝鮮への圧力を強めるよう求めたが、これは両刃の剣である。北朝鮮軍は石油を全面的に中国に頼っているので、それがなくなると戦争はできない。だから圧力をかけるということを聞くだろう――と考えるのは常識ある人だ。金正恩にはそんな常識はないので、逆に「戦争のできるうちにやろう」となる可能性もある。

1941年8月、アメリカは南部仏印進駐への制裁として、日本への石油輸出を禁止した。日本は石油の8割をアメリカから輸入していたので、これでアメリカの撤兵要求に従うと考えたのだ。ところが日本軍は「逆切れ」して、真珠湾を攻撃した。それは「無謀な開戦」といわれるが、主観的には目算がなかったわけではない。

続きは5月1日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンでどうぞ。

財政拡大で「成長による財政再建」はできるか

先週のJBpressでも紹介したが、OECDは先進国で財政デフレが起こっていると警告している。リーマンショック以降の金融機関に対する財政支援の巻き戻しで、世界的に財政赤字が減少して総需要を抑制する「逆ケインズ政策」が起こっている。異常な低金利はそれが原因なので、各国は協調して財政支出を拡大すべきだという。

これは安倍政権にとっては朗報である。日本が財政を拡大できる財政余地はGDP比で2.2%あるので、「アベノミクス2.0」で公共事業を拡大すれば、日本経済は成長して財政再建でき、一石二鳥…だろうか?

続きはアゴラで。

「戦争のできない国」は危険である

日本を「戦争のできる国」にするなという話がよくあるが、これをゲーム理論で考えてみよう。戦争はチキンゲームと考えることが多いが、同時に両国から起こる戦争はないので、これを次のようなフローチャートで表現する(図の数字は各国の利益)。このように時間的な順序を織り込んだゲームの表現を展開形ゲームと呼ぶ。

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北朝鮮が攻撃してきたとき、日本が反撃すると全面戦争になって両方の利益が-10になるが、日本が譲歩すると休戦になって北の利益が1になるとする。北朝鮮も日本も何もしない状態(0,0)がベストだが、日本が攻撃すると北朝鮮は損する(-1, 1)。この問題を戦略的に考えるというのは、相手の立場になって考えることだ。

金正恩からみると、日本が憲法を守って「戦争のできない国」になると、彼がどんな行動をとっても日本はつねに譲歩する(図の青線)ので、利益は1(北が攻撃して日本が譲歩)か0(北が譲歩して日本も譲歩)になる。攻撃の利益のほうが大きいので、日本が手の内を明かすと、彼の攻撃するインセンティブを強めてしまうのだ。

続きは4月24日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンでどうぞ。

安倍「一強」は民主党の掲げた「政治主導」の実現

二つの政権交代: 政策は変わったのか
「一強」を批判する朝日の政治部は、安倍首相が特異なファシストだといいたいのだろうが、それはお門違いだ。本書も指摘するように、2000年代に日本で政治の集権化が起こったことは政治学の常識である。具体的には
  • 首相および首相周辺の政治家・官僚の役割が強まった
  • 各官庁の内閣からの独立性が弱まった
  • 政府外の与党議員や利益集団の政治力が低下した
これは多くの分野で共通に観察される傾向で、最初に実現したのが小泉政権だったが、その後は揺り戻しがあった。それを空想的な形で実現しようとしたのが、民主党政権の掲げた政治主導だった。これは民主党にそれを実現する組織がなかったので散々な失敗に終わったが、政治主導が消えたわけではない。

本書は外交・安全保障だけでなく、農業、電力、税制など多くの分野で政治主導が強まったと分析している。その原因は1990年代の選挙制度改革と「橋本行革」以来の内閣の権限強化、そして最近の内閣人事局による政治任用の拡大だ。この点で民主党政権と安倍政権は連続している。つまり「一強」は、民主党の夢見た「政治主導」の実現なのだ。

続きは4月24日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンでどうぞ。

「一強」の何が悪いのか

「強すぎる自民党」の病理 老人支配と日本型ポピュリズム (PHP新書 1058)
朝日新聞の「パノプティコン」シリーズは、ますます意味不明になってきた。けさの記事では経産省が執務室に施錠したことを「息苦しい」と批判しているが、この記者はアメリカ連邦政府に行ってみればいい。各階ごとに空港のようなボディチェックがあり、記者が政府内をうろつくことなんかできない。

この連載は持って回った表現で、安倍首相の「一強」状態をファシズムとダブらせ、「安倍はヒトラーだ」とほのめかしている。シリーズの名づけ親である、元革マルの石田英敬氏は「安倍政権はファシズムだ」と攻撃している。

続きはアゴラで。







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