ヨーロッパ人はなぜコロナウイルスに弱いのか

銃・病原菌・鉄 上巻新型コロナは南米に拡大し、ブラジルでは死者が累計5万人を超えた。他方で日本の死者は21日は1人。アジア・アフリカに拡大する兆候はない。どうやらコロナは世界的なパンデミックではなく、ヨーロッパ文化圏に固有の風土病のように思われる。

こういう現象は歴史的には珍しくない。いま黒人の怒りの対象になっているコロンブスが新大陸に到着したあと、スペイン人がわずかな軍勢でアメリカ大陸を支配できた原因は軍事力ではなく、彼らの持ち込んだ天然痘が新大陸に急速に広がったことだった。

先住民の人口は、その後100年間に95%減ったと推定されているが、これは彼らにはヨーロッパ人の持ち込んだ疫病に対する免疫がなかったことを示す。先住民はモンゴロイドで、ベーリング海峡が陸続きだった時代にアジアから渡ったといわれている。遺伝的にはアジア人とほぼ同じなのに、なぜ彼らには免疫がなかったのだろうか?

本書はその原因を家畜に求める。ユーラシア大陸は東西に長いので、広い地域で同じ穀物を栽培して多くの家畜を飼育できたが、アメリカ大陸は南北に長いので大型哺乳類に適さず、1500年ごろには家畜が5種類しかいなかったという。このためユーラシアでは家畜からの感染で免疫ができたが、新大陸ではできなかったというのが本書の仮説である。続きを読む

パンデミックが「隣人愛」を生んだ

キリスト教思想への招待
新型コロナはWHOにパンデミック(世界的流行)と認定されたが、それまで世界的に流行する疫病がなかったわけではない。治療法のなかった古代には多くの疫病がパンデミックになり、長期にわたって世界に流行した。ローマ帝国では、西暦165年ごろから天然痘(と思われる疫病)が大流行し、その後もたびたび流行を繰り返した。

歴史上有名なパンデミックは、皇帝ユリアヌス(在位361~63年)のときの大流行である。命を守れないローマ帝国の権威は失墜し、信者は天国で救われると説くキリスト教が疫病のように流行した。ユリアヌスはローマの土着信仰を否定するキリスト教徒を「無神論者」と非難して弾圧したが、その強さを次のようにたたえた。
無神論者をこの上もなく発達させた理由は、他者に対する人間愛、死者の埋葬に関する丁寧さ、よく鍛錬された生き方のまじめさである。[…]それぞれの町に病院を多く設置せよ。外来者が我々の人間愛にあずかることができるように(本書p.123)。
ここで「他者に対する人間愛」と訳されているのは親子の愛情ではなく、恋人の恋愛でもない。それは地域や親族集団とは無関係に信者を歓迎する隣人愛(philanthropia)であり、それを制度化したのが病院(hospice)だった。キリスト教はローカルな集団を超える普遍的な医療共同体として急速な発展を遂げたのだ。

7月からのアゴラ読書塾「疫病と文明」では、医療や感染症の歴史から宗教や文明の意味を考えたい。

戦後日本の「弱い国のかたち」

戦後日本政治の総括
コロナ騒動で印象に残ったのは、日本の強さと弱さである。アメリカでは罰則をともなう外出禁止令で暴動が発生したが、日本では緊急事態宣言の要請だけで乗り切った。その強さをたたえる人が多いが、それは憲法に非常事態条項がないための弱さであり、日本が望んだものではない。

本書も指摘するように、こういう「弱い日本」は「強いアメリカ」と表裏一体だった。このため反米の首相は短命で、親米の首相は長期政権になる。第1次安倍内閣と第2次内閣の違いが、それを端的に示している。第1次内閣は「戦後レジームからの脱却」をめざして挫折したが、第2次内閣以降は自民党ハト派に近い親米路線である。

タカ派政策の最たるものと思われた安保法制も、アメリカから極東の防衛負担を求められたためだった。集団的自衛権を容認したあとは「アメリカがうるさくいわなくなったので憲法は改正しなくてもいい」と安倍首相はいったという。憲法改正は日米同盟を支えるためだったので、今はもう必要ないのだ。

首都上空の管制権をアメリカがもつ日米地位協定は占領体制の延長であり、最悪の戦後レジームだが、安倍政権は手をつけない。それはアメリカという世界最強の傭兵をやとうコストとしては安いものかもしれない。この「弱い国のかたち」は日本人の心にすっかり定着したが、本物の危機に強いかどうかはわからない。

続きは6月22日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで(初月無料)。

厚労省と共謀して失敗をごまかす8割おじさん

厚労省の「第2波」対策が、都道府県への事務連絡という形で発表された。「東京で感染者が8万人」とか「42万人死ぬ」とかいう誇大な予測がはずれた反省を踏まえているのかと思ったら、今度も「再生産数1.7か2.0」を想定しろという。



これは概要版の図だが、ここでは3月後半に東京だけでみられた実効再生産数Rt=1.7が全国に一般化され、それが「都道府県のアラート」で0.7に激減したことになっている。

続きはアゴラで。

「コロナパニック」の被害はコロナより大きかった

BBCが世界各国の超過死亡(平年を上回る死者)を国際比較している。イギリスでは(3ヶ月で)新型コロナの死者が約5.2万人に対して、その他の超過死亡数が約1.3万人。圧倒的にコロナの被害が大きかったことがわかる。



ところが日本のコロナ死者(3月)は51人で、コロナ以外の超過死亡が301人。まだ暫定的な数字だが、日本の超過死亡がヨーロッパよりはるかに少なかったことは国際比較できる公式統計でも明らかである。



さらに注目されるのは、日本のコロナ死者数よりその他の超過死亡数のほうがはるかに多いことだ。逆にヨーロッパでは、イタリアは(2ヶ月で)コロナが2.7万人でその他が1.6万人、スペインでは(2.5ヶ月で)それぞれ2.8万人と1.5万人と、コロナの死者が超過死亡の大部分を占めている。

続きはアゴラで。

新型コロナは今なぜ収束したのか

日本では新型コロナは「流行」の域に達しないで終わった。厚労省の抗体検査では、陽性率は東京で0.1%、大阪で0.17%。擬陽性率は0.2%で、検出限界以下である。これについて朝日新聞は「次の波が来たときに誰もが感染しうる。安心してはいけない」と不安をあおっているが、誰もが感染しうるなら、なぜ今コロナは収束したのか。



これは自明のようだが、標準的な疫学理論(SIRモデル)では、上の図の西浦モデルのように感染は指数関数で感染爆発し、人口の80%(1億人)が感染するまで止まらないはずだ。ところが実際の感染者数は1.7万人。予想の1/6000で収束した。その原因は、次の三つが考えられる。
  1. 自粛や緊急事態宣言などの介入の効果があった
  2. 感染しても重症化しにくい軽症の風邪だった
  3. 日本人が抗体以外の原因で感染しにくい
専門家会議はもっぱら1を強調しているが、これだけではこの大きな差は説明できない。ロックダウンしなかった東アジアの感染率が日本より低い原因もわからない。2では日本とヨーロッパの抗体陽性率(10~20%)の大きな差を説明できない。

消去法で考えると、日本人は(自然免疫や免疫交差反応などで)感染可能性(susceptibility)が低いと思われる。そして最初は感染しやすい(免疫力の弱い)高齢者に感染し、次第に感染しにくい人に感染して衰えたために自然に減衰したわけだ。すべての人が同じように感染するというSIRモデルには、実証的根拠がない。

こういう傾向は経験的に知られており、その変化はゴンペルツ曲線として描くことができる。これは生物の個体数やソフトウェアのバグの数の予想などに使われている。早川英輝氏がブログで日本の新規感染者数(PCR Positive)と武漢ウイルス(Wuhan strain)と欧州ウイルス(European strain)のゴンペルツ曲線をフィッティングしている。

20200616221440続きを読む

新型コロナ対策の事後評価は第三者委員会で

大阪府の新型コロナ対策本部専門家会議が6月12日に開かれた。政治的利害のからむ東京の専門家会議と違って、データを素直に見るとこうなるという分析である。



注目されるのは、阪大の中野貴志氏によるK値データの分析(12:30~)だ。実効再生産数ではわかりにくい2月と3月の二つの波が分離され、3月中旬以降はKが単調に減っていることがわかる(大阪府も全国も同じ傾向)。



続きはアゴラで。

スペイン人はいかにして新大陸を征服したのか

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警官の黒人殺害から始まった暴動は、アメリカの歴史をさかのぼり、南軍の英雄の銅像を倒し、コロンブスの銅像を破壊するに至った。彼が新大陸を発見しなければ白人がアメリカ大陸を征服することもなく、黒人が奴隷として連れて行かれることもなかったというわけだ。

奴隷制はアメリカ人の原罪であり、彼らは黒人に永遠に謝罪し続けなければならないと思っている。それが彼らが韓国人の慰安婦をめぐる作り話に弱い原因だが、植民地支配の歴史を全面否定するなら、黒人はアフリカに帰り、アメリカ大陸はすべて原住民に返還するしかない。それは偽善だが、ヨーロッパの黒歴史を見直すにはいい機会だろう。

コロンブスが到着したころ、新大陸には約3000万人が住んでいたと推定されるが、スペイン人コルテスがやってきてから50年余りで、人口は300万人に激減した。コルテスがわずか600人の軍勢でアステカ王国を滅ぼした最大の武器は、彼らの持ち込んだ天然痘だった。

もちろん意図的に感染させたわけではなく、当時ヨーロッパで天然痘が流行し、生き残った人々が免疫をもっていただけだが、インディオにとっては疫病は神罰であり、スペイン人が発病しないことは神の加護を示すものだった。アステカ王の権威は失墜し、王国はあっけなく崩壊した。

疫病は戦争と同じぐらい大きく人類の歴史に影響を与えた。7月からのアゴラ読書塾「疫病と文明」ではそういう歴史をたどり、病や死の意味を考えたい。

アゴラ読書塾「疫病と文明」

疫病と世界史 上 (中公文庫 マ 10-1)新型コロナウイルスの世界的な流行は、先進国では過去のものと思われていた疫病(感染症)の脅威が、今なお大きいことを人々に思い知らせました。人類の歴史の中で、疫病は戦争と並んで生命をおびやかす最大の危険でした。

戦争に勝ち抜くために国家が生まれたように、疫病と戦うために宗教が生まれました。多くの未開社会に世界を浄と不浄に分類する呪術があり、死者を隔離する墓地や葬儀があります。これは今では機能的には無意味な儀式と思われていますが、人が世界を分類することには、疫病を防ぐ意味があったのです。

続きはアゴラで。

ロックダウンで「コロナ以外の感染症」が激減した

ロックダウンには、新型コロナの被害を減らす効果があったのだろうか。科学者の評価はわかれているが、おもしろいのは、イギリスではコロナ以外の呼吸器疾患がロックダウンで減ったというデータだ。


図のように上気道(upper respiratory tract)感染症(黄)や下気道感染症(赤)の感染率が、3月14日以降のロックダウンで大きく減ったが、コロナの感染率(緑)は増えた(インフル(青)はやや増えた)。この最大の原因は、外出禁止でコロナ以外の患者が検査を受けられなくなったためと推定されている。

日本でも同じ傾向がみられる。呼吸器疾患だけでなく、感染性胃腸炎の患者まで今年の第3週から激減し、第16週(3月22日~)にはピークの1割程度になった。ボトムを記録したのは、皮肉なことに緊急事態宣言の出た4月7日で、その後やや増えている。このデータは「接触削減で感染者が減った」とも解釈できるが、コロナだけ増えたのはなぜだろうか?

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東京の感染性胃腸炎の新規感染者数の推移(東京都感染症情報センター)

その最大の原因は、やはり検査がコロナに集中したためだろう。「コロナかそうでないか」の検査が優先され、それ以外の感染症はカウントされなくなった。病院が「三密」とされたため、人々が恐れて外来に行かなくなった。医療スタッフがコロナに動員されたので、ほとんどの手術が延期された。

要するに医療は崩壊したのではなく、コロナだけに片寄ったのだ。これは世界的にみられる傾向だが、これで救われた命と失われた命のどっちが大きいかはまだわからない。

続きは6月15日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで(初月無料)。








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