プーチンという「大審問官」

カラマーゾフの兄弟1 (光文社古典新訳文庫)
ウクライナを侵略する直前のプーチン演説を聞いて、なぜかドストエフスキーを思い出した。KGB出身らしい鋭い目つき。無表情で抑揚のない語調。そして「ネオナチの脅威からロシア系住民を守る」という空疎な(たぶん本人も信じていない)内容。

そこから連想したのは、『カラマーゾフの兄弟』の中の有名な劇中劇「大審問官」である。異端審問の嵐の吹き荒れる中世のスペインに、奇蹟で死者をよみがえらせる「彼」があらわれる。人々は彼をイエス・キリストの再臨として歓迎するが、異端審問官は彼を投獄する。その夜、審問官は牢獄を訪れ、彼に告白する。
われわれはこの仕事を、最後までやり遂げたのだ。おまえのためだ。15世紀間、われわれはこの自由を相手に苦しんできたが、いまやその苦しみかも終わった。彼らは自分からすすんでその自由をわれわれに差しだし、おとなしくわれわれの足もとに捧げた。

ウクライナの人民も、西欧から押しつけられた自由主義に苦しんでいる。プーチンという大審問官は、人民を服従させてその苦しみを終わらせ、彼らを自由という牢獄から救い出すのだ。
おまえは自由の約束とやらをたずさえたまま、手ぶらで向かっている。ところが人間は単純で、生まれつき恥知らずときているから、その約束の意味がわからずに、かえっておののくばかりだった。なぜなら人間にとって、人間社会にとって、自由ほど耐えがたいものはいまだかつて何もなかったからだ!

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レーニンからプーチンに継承される「新しいツァーリ」

ロシア革命――破局の8か月 (岩波新書)
プーチンを見て連想するのは、レーニンやスターリンである。1990年代に冷戦は終わったと思われているが、現在のロシアとソ連には相違点より共通点のほうが多い。10月革命はマルクスやエンゲルスの理想とした共産主義とはほとんど関係なく、ツァーリをボリシェヴィキに置き換えたクーデタだった。

帝政ロシアが第1次大戦で崩壊した無秩序状態でボリシェヴィキが出てきたというのも逆である。1905年の革命でストルイピンなどの改革がそれなりに成功し、軍備が近代化されて総力戦体制ができ、戦争でナショナリズム(民族主義)が昂揚した。だがロマノフ朝は多くの民族を抱える帝国だったので、各地の民族が自立するとツァーリの求心力が弱まり、地方に農産物が退蔵され、首都に食糧危機が起こって帝政が崩壊した。

各地に生まれた革命勢力は、多かれ少なかれ社会主義的だったが、ロシアのインテリの多くは西欧の自由主義にあこがれており、ボリシェヴィキのように暴力革命をめざす勢力は少数派だった。しかし戦時体制が社会全体を「一つの工場」にするという戦時共産主義にリアリティを与え、レーニンは反対派を暴力で排除して権力を確立した。

だからロシアのような後進国で革命が成功したのは逆説ではなく、むしろ西欧的な自由主義も法の支配も欠如していたから成功したのだ。その原動力はマルクス=レーニン主義の理論ではなく、農民が分裂する民族を再統合する新しいツァーリの役割をボリシェヴィキに期待したからだ。その伝統は、プーチンまで継承されている。

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墓場からよみがえったリフレ政策

ウクライナ問題でロシアを応援する橋下徹氏や鈴木宗男氏の発言で、日本維新の会が批判を浴びているが、経済政策もトンチンカンだ。

この日銀法改正案は第1条を「日本銀行は、我が国の中央銀行として、銀行券を発行するとともに、名目成長率の持続的な上昇及び雇用の最大化を図るため通貨及び金融の調節を行うことを目的とする」とするものだ(強調が改正部分)。

まずわからないのは、金融政策でどうやって「名目成長率の持続的な上昇」が実現できるのかということだ。たとえば大和証券のウェブサイトの自然失業率という項目には、こう書いてある。

物価水準が安定し、実質賃金による労働市場の需給が調整された長期均衡状態における失業率。完全雇用が達成された状態での失業率に近いとされています。米経済学者のフリードマンは、財政金融政策によって自然失業率よりも失業率を低下させることはできないとしています。

これがマクロ経済学の常識である。金融政策でインフレにすれば景気がよくなるという話は、今は亡きリフレ派が提唱し、日銀に雇用の最大化を義務づける日銀法改正案もみんなの党が出したことがある。安倍政権と黒田日銀はリフレを実験し、完膚なきまでに失敗した。

4月にはインフレ率が2%を超えることは確実だが、喜んでいる人は誰もいない。500兆円を超える保有国債が、金利上昇で暴落する「時限爆弾」になったからだ。そんな時期に墓場からリフレ政策をよみがえらせようとする維新には、経済学の知識も政策のセンスもない。

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ロシアとウクライナの戦争は「どっちもどっち」なの?

ロシアのウクライナ侵略は強盗みたいなものだと思いますが、ネット上では「ウクライナにも責任がある」とか「どっちもどっちだ」という人がいます。そういう意見を頭ごなしに否定するのもよくないので、考えてみましょう。

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謀略とテロと戦争でのし上がった男

ウクライナ戦争は、プーチンの戦争である。これをロシアの国家意志とみるのは早計で、独裁国家の必然と一般化する前に、プーチンの特異な個性を理解する必要がある。

彼はソ連の秘密警察KGBの出身だがエリートではなく、ソ連の崩壊後は失業した時期もある。それが国有財産の売却を食い物にしたオリガルヒ(新興財閥)と結託して、エリツィン政権の秘密警察(FSB)長官になった。

1990年代後半には腐敗したエリツィン政権に対する批判が強く、共産党が政権を奪回すると思われたが、これに対抗してオリガルヒが擁立したのがプーチンだった。彼は1998年に首相になる直前に、テロリストを取り締まると称してチェチェンに介入した。

これに対してチェチェンの武装勢力がロシアで4ヶ所の集合住宅を爆破し、300人以上が死亡したという理由でロシア軍はチェチェンに侵攻し、数万人を殺した。この第2次チェチェン戦争でプーチンの支持は高まり、2000年の大統領選挙で当選した。

しかしこのきっかけとなった爆破事件の容疑者として逮捕されたのは、FSBの工作員だった。これについてFSBは容疑を否定したが、今に至るも真相は不明である。爆破事件もチェチェン戦争も、プーチンが大統領の座を勝ち取るための謀略だった疑いが強い。

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不合理なエネルギー政策が大規模停電を招く



これは今年1月7日の動画だが、基本的な問題がわかってない人が多いので再掲しておく。いま問題になっている大規模停電の原因は、直接には福島沖地震の影響で複数の火力発電所が停止したことだが、もともと予備率(電力需要に対する供給の余裕率)が3%しかなかったので、供給能力が3%以上落ちると停電が起こることはわかっていた。

今は揚水発電で不足分を供給しているが、20時ごろにはそれも停止するので、絶対的な電力不足になると、計画停電が避けられない。

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ウクライナ危機の責任は西側にあるのか



この「なぜウクライナは西側の責任か」という動画が、2200万回以上も再生されている。話しているのはシュワルツェネッガーではなく、ジョン・ミアシャイマー。国際政治学界ではリアリストとして有名なシカゴ大学の教授である。

注目に値するのは、この2015年の動画で彼が「西側がウクライナの政権を支援しているとプーチンが軍事介入してくる」と予言したことだ。今回の戦争が始まってからも、彼は「ウクライナ危機の主な責任は西側にある」という記事をEconomistに寄稿した。陰謀論者はこれを引用して「東方拡大したNATOが悪い」というが、これはそんな単純な話ではない。

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「有事の円買い」はなぜ消えたのか

1ドルは119円台になり、120円を抜くのは時間の問題である。特にロシアのウクライナ侵略以降、円は5円も下がった。これは珍しい現象である。普通は世界経済が不安定になると、円は買われる。図のように名目為替レートが1ドル=80円前後の最高値になったのは、1995年と2011年だった。

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名目為替レート(赤・左軸)と実質実効為替レート(青)日銀

2011年の円高を安倍政権は「デフレが原因だ」と考え、黒田日銀は「異次元緩和」を実施したが、これでは1995年の円高は説明できない。その原因は、上の図のように実質実効レート(全通貨に対する円の実質レート)をみればわかる。

1990年代前半に実質実効レートが最高値をつけた原因は、ヨーロッパにあった。90年代に日本ではバブルが崩壊したが、東ヨーロッパでは国家が崩壊し、政府や企業のデフォルトが続出した。このためヨーロッパの債権のリスクが大きくなり、安全な円が買われたのだ。

同じ現象は、2008年のリーマンショック以降も起こった。このとき日本の輸出産業は大きな打撃を受け、成長率はマイナスになったが、2011年にドル円は史上最高値の79円台になった。このときは、アメリカの金融危機でドル建ての不良資産を売った資金が円に逃避してきた。

こうした過去の経験則からみると、ヨーロッパで深刻なエネルギー危機が起こっている今は、その打撃が相対的に少ない円が上がってもおかしくないが、円は下がり続け、実質実効レートは史上最低だ。これはなぜだろうか。

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エネルギーの脆弱性が戦争を誘発する



ゼレンスキー大統領の議会演説は、英米では予想された範囲だったが、ドイツ議会の演説には驚いた。

彼はドイツがパイプライン「ノルドストリーム」を通じてロシアのプーチン大統領に戦争の資金を提供していると、かねてから警告していたという。それに対してドイツは「ノルドストリームはビジネスだ」と相手にせず、この冬にノルドストリーム2を開通させる予定だった。

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ウクライナがロシアに降伏するのは「合理的」である


こういう無抵抗平和主義を今回いう人はさすがに少ないが、まだ一部にいるようだ。これは論理的には、それほどナンセンスな話ではなく、人質問題というゲーム理論の例題である。テリー氏はこういう。
このまま行くと、プーチンのことですから、さらに攻撃をするってことは民間人の死者がどんどん増えていくってことが現実になっていく時、私はそれは一番いけないことだと思うんですよね。命を落とすことをいとわないという考え方は避けたい。

これに対してウクライナ人のゲストは激怒したが、テリー氏を説得できなかった。彼の話は論理的には間違っていないからだ。ウクライナが降伏して人的被害を最小化することは、事後的には合理的なのだ。これを簡単な展開形ゲームで考えてみよう(数字はロシアとウクライナの利益)。

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まず先手のロシアが撤退して原状回復すれば、上のように両国ともプラスマイナスゼロだ。問題はロシアがウクライナを占領したまま「クリミアの主権を認めろ」とか「東部の独立を認めろ」などと要求したときのウクライナの選択である。

ここでウクライナが要求をのんで降伏すると、ロシアはAの利益を得るが、ウクライナは-Aの損害をこうむるとしよう。ウクライナが要求を拒否して戦争を継続すると、ロシアは-1の損害、ウクライナは-Bの損害をこうむるとする。

ここでウクライナの降伏が合理的になる条件は、降伏による損害Aが戦争継続による損害Bより少ないとき、すなわち

 A<B

である。これはウクライナの戦力が、ロシアに大きく劣る場合は成り立つ。テリー氏がいうように、ウクライナ人が無駄死にするより、プライドを捨てて停戦すれば、人的被害は少なくなるのだ。

これが橋下徹氏や玉川徹氏などもいう論理で、事後的には正しい。降伏によってロシアは利益を得るとともに、ウクライナは損害を最小化できる。どちらのペイオフも改善するという意味で、降伏はパレート改善なのだ。
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