物理学の観測問題と並ぶ難問として微調整問題がある。これは宇宙の構造を決めるパラメータが、人間の生存に適した値に微調整されているという事実である。
たとえば量子力学のプランク定数はゼロに近いごく小さな定数だが、それがゼロだと電子は原子核に吸い込まれて消滅する。宇宙定数と呼ばれる真空のエネルギー(斥力)は10-123とゼロにきわめて近いが、ゼロだと宇宙は重力で収縮して消滅する。
普通の液体は固体になると体積が小さくなるが、氷は水素結合で中心に六角形の空間ができるため、体積が大きくなって水より軽くなる。こういう物質は自然界には水だけだが、この性質が生命の誕生にとって決定的だった。もし氷が水より重かったら、氷河期には海底から凍ってゆき、海はすべて凍結して生物は死んでしまう。氷が海面に浮いて太陽光を遮断したから、生物は水の中で生きていけたのだ。
その他にも生物の生存に必要な値をとっているパラメータは少なくとも40あるが、それがなぜその値をとるのか、また互いにどんな関係にあるのかはわからない。それは偶然と考えるしかないが、そんなに多くの微調整が独立に起こる確率はゼロに近い。それを説明する論理が人間原理(anthropic principle)である。
続きは2月5日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで(初月無料)
たとえば量子力学のプランク定数はゼロに近いごく小さな定数だが、それがゼロだと電子は原子核に吸い込まれて消滅する。宇宙定数と呼ばれる真空のエネルギー(斥力)は10-123とゼロにきわめて近いが、ゼロだと宇宙は重力で収縮して消滅する。
普通の液体は固体になると体積が小さくなるが、氷は水素結合で中心に六角形の空間ができるため、体積が大きくなって水より軽くなる。こういう物質は自然界には水だけだが、この性質が生命の誕生にとって決定的だった。もし氷が水より重かったら、氷河期には海底から凍ってゆき、海はすべて凍結して生物は死んでしまう。氷が海面に浮いて太陽光を遮断したから、生物は水の中で生きていけたのだ。
その他にも生物の生存に必要な値をとっているパラメータは少なくとも40あるが、それがなぜその値をとるのか、また互いにどんな関係にあるのかはわからない。それは偶然と考えるしかないが、そんなに多くの微調整が独立に起こる確率はゼロに近い。それを説明する論理が人間原理(anthropic principle)である。
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中公新書は先月、リフレ派の飯田泰之氏に財政・金融政策の本を書かせたと思ったら、今月は財政タカ派の小林慶一郎氏に経済政策を書かせている。それなりにバランスを取ったのだろうが、人選がよくない。
飯田氏はリフレ派がなぜ間違えたのか反省しないで「積極財政」を語り、小林氏は『ハイパーインフレがこの国を滅ぼす』などという本を書いたことを反省しないで、相変わらず緊縮財政を説いている。
「失われた30年」といわれる長期停滞の原因を考える上で、金融政策が役に立たないことは自明である。それはもともと短期の「需要の先食い」だから、いくら続けても成長率は上がらない。ましてゼロ金利では、通常の政策手段はない。黒田日銀の「異次元緩和」の目的は「人々のインフレ期待を動かす」というものだったが失敗した。
では財政政策はどうか。これについては財政赤字が増えるとインフレが起こって持続可能ではないと考えられていたが、2000年代にこれを見直す動きが出てきた。ゼロ金利なら国債はフリーランチであり、財政赤字を増やしてもインフレにはならないが、持続的な成長には結びつかない。
要するに長期停滞はマクロ経済政策ではどうにもならないことがわかったわけだが、著者はその原因は財政の「将来の不安」だという。
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飯田氏はリフレ派がなぜ間違えたのか反省しないで「積極財政」を語り、小林氏は『ハイパーインフレがこの国を滅ぼす』などという本を書いたことを反省しないで、相変わらず緊縮財政を説いている。
「失われた30年」といわれる長期停滞の原因を考える上で、金融政策が役に立たないことは自明である。それはもともと短期の「需要の先食い」だから、いくら続けても成長率は上がらない。ましてゼロ金利では、通常の政策手段はない。黒田日銀の「異次元緩和」の目的は「人々のインフレ期待を動かす」というものだったが失敗した。
では財政政策はどうか。これについては財政赤字が増えるとインフレが起こって持続可能ではないと考えられていたが、2000年代にこれを見直す動きが出てきた。ゼロ金利なら国債はフリーランチであり、財政赤字を増やしてもインフレにはならないが、持続的な成長には結びつかない。
要するに長期停滞はマクロ経済政策ではどうにもならないことがわかったわけだが、著者はその原因は財政の「将来の不安」だという。
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また高橋洋一氏が嘘を繰り返しているので、訂正しておこう。
これは一昨年の記事で私が指摘したことだが、そもそも彼のいうバランスシートは、資産と負債がバランスしておらず、BSになっていない。日本政府は、1661兆円も国債を発行していない。
続きはアゴラで
3月末にでる連結ベースに日銀を合算した「統合政府」でみると、100兆円程度の資産超過なので問題ないよ。1/23の高橋洋一チャンネルhttps://t.co/pHjlO9zoFHをみてみ→国の財務状況 「債務超過」702兆円 過去最大を更新 | NHK https://t.co/Djeg7aoNLa
— 高橋洋一(嘉悦大) (@YoichiTakahashi) January 28, 2024
これは一昨年の記事で私が指摘したことだが、そもそも彼のいうバランスシートは、資産と負債がバランスしておらず、BSになっていない。日本政府は、1661兆円も国債を発行していない。
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原子力に世界の投資家の注目が集まっている。COP28では、日本を含む22ヶ国が原子力を3倍にするという宣言文書に署名し、ウランの価格は1年で55%上がり、福島第一原発事故以来、最高になった。この背景には、ウクライナ戦争以来の化石燃料価格の上昇がある。
もう一つは再エネを補完するコストが大きくなったことだ。再エネがマイナーなエネルギーだったときは稼働率は問題にならなかったが、もし再エネ100%になると、夜間などにはその電力を蓄電して発電しなければならない。蓄電池のコストは約10万円/kWhで、火力の1万倍。連系線の強化にも莫大なコストがかかるが、これは再エネ業者の負担すべきものだ。
このように蓄電によって一定の電力を供給するコストを内部化したのが、Levelized Full System Costs of Electricity(LFSCOE)である。これを使ったBank of Americaの計算によると、図のように原子力のLFSCOEは106ドル/MWhだが、太陽光は1548ドルと15倍である。
BoA Research Investment Committee
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もう一つは再エネを補完するコストが大きくなったことだ。再エネがマイナーなエネルギーだったときは稼働率は問題にならなかったが、もし再エネ100%になると、夜間などにはその電力を蓄電して発電しなければならない。蓄電池のコストは約10万円/kWhで、火力の1万倍。連系線の強化にも莫大なコストがかかるが、これは再エネ業者の負担すべきものだ。
このように蓄電によって一定の電力を供給するコストを内部化したのが、Levelized Full System Costs of Electricity(LFSCOE)である。これを使ったBank of Americaの計算によると、図のように原子力のLFSCOEは106ドル/MWhだが、太陽光は1548ドルと15倍である。
BoA Research Investment Committee
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最近の政局の混乱をみると、30年前に永田町を取材していたころを思い出す。政治資金スキャンダルが表面化し、その捜査の結果、大物政治家が逮捕をまぬがれたことに国民が怒り、それをごますために自民党が「派閥解消」を言い出すのも同じだ。
1993年6月に宮沢内閣の不信任案が可決されたとき、Economist誌は「日本は光を見た」という記事を書いた:
あのとき私を含めて多くの日本人が、永遠に続くかと思われた自民党政権が崩壊したことにあっけにとられ、日本が変わると思った。私がサラリーマンをやめようと思ったのは、あの日、国会で不信任案の可決を中継したときだった。
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1993年6月に宮沢内閣の不信任案が可決されたとき、Economist誌は「日本は光を見た」という記事を書いた:
自身の党を分裂させて政府を崩壊させることを目的とした反乱を主導した羽田孜氏は6月18日、宮沢喜一首相に向かい、皮肉ではなく頭を下げた。驚異的な経済的成功や不可解な政治と同様に、その絶妙な礼儀正しさにおいて、日本は長い間他の国とは異なっているように見えてきた。
いま羽田氏・小沢氏と彼の反逆者たちは、日本の独自性の主な特徴の一つ、つまり自民党を38年間連綿と政権の座に保ち続けてきた政治システムに風穴をあけた。日本人の中には、自民党の崩壊をベルリンの壁の崩壊にたとえる人もいる。日本では確かに革命が起きているのかもしれない。
やがて一枚岩の自民党の解体と政治の開放が、その背後にある変化を加速させるだろう。日本の有権者が自分たちの要求をよりオープンに表現するようになれば、日本の政治家も彼らの利益をより明確に反映するようになるだろう。それは古いシステムを操作していた少数の人々から、新しいシステムにもっとアクセスできる多くの人々へと影響力を広げることにつながる可能性が高い。
あのとき私を含めて多くの日本人が、永遠に続くかと思われた自民党政権が崩壊したことにあっけにとられ、日本が変わると思った。私がサラリーマンをやめようと思ったのは、あの日、国会で不信任案の可決を中継したときだった。
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自民党の裏金問題をめぐって、政治資金規正法にいろんな抜け穴があることが話題になっています。そのうち最大の穴が政策活動費だといわれています。チャットGPTに聞いてみました。
続きはアゴラで
政党が「政策活動費」として政治家に支出し、その使い道を明らかにしなくてもよい政策活動費。 pic.twitter.com/aXSr5Bu7Co
— Mi2 (@mi2_yes) January 26, 2024
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自民党の裏金問題をめぐって、岸田首相が岸田派を解散し、安倍派に離党を求めるなど強硬な方針をとり、政局がにわかに風雲急を告げてきた。これは私がNHKで政治番組の現場にいた30年前の政局と、そっくりの展開である。
- 自民党の幹部が検察の捜査を受ける:1988年に竹下内閣でリクルート事件が起こり、検察は大規模な捜査をしたが、起訴した国会議員は藤波元官房長官と公明党の池田議員だけで、他の議員は会計責任者の略式起訴だけだった。
- 国民の怒りが高まり、政局が流動化する:竹下内閣が倒れ、宇野内閣も倒れて、海部内閣になり、1991年に懸案の政治改革三法案を閣議決定して国会に提出したが自民党内の反対が強く廃案となり、海部内閣も倒れた。
- 竹下派が分裂:1992年に宮沢内閣になったが、8月に金丸信副総裁が東京佐川急便から5億円の政治献金を受け取っていたことが判明。これも政治資金規正法違反で罰金20万円に終わったため、検察庁の入口の石碑に何者かが黄色いペンキをかけた。金丸は失脚し、竹下の後継者をめぐって内紛が始まった。
- 小沢グループの離党:当初は竹下の後継者とみられていた小沢一郎が、金丸をめぐる検察との取引の失敗の責任を問われ、竹下派の内紛が拡大。後継者に小渕恵三が選ばれたことに反発した小沢グループが派閥を離脱した。
- 内閣不信任案の可決:1993年6月18日、小沢グループを含む39人が野党の提出した宮沢内閣不信任案に賛成して可決。宮沢首相は衆議院を解散。
- 細川内閣の成立:総選挙では自民党はほぼ改選前の議席を維持したが、過半数には届かず、新生党を核とする非自民・非共産の8会派が細川護煕を首相に立て、自民党政権が38年ぶりに終わった。
量子力学の観測問題は100年近く前から続く大論争だが、多くの物理学者は関心をもっていない。どう解釈しようと量子力学は100%正確に実験結果を予測できるからだ。しかし茶飲み話としては最適だ。何しろアインシュタインもシュレーディンガーも答を出せなかった問題が未解決のまま残っているのだから、素人が何を言ってもかまわない。
本書もそういう茶飲み話だが、おもしろいのはこれも100年前のレーニンとボグダーノフの論争が出てくることだ。これは論争というよりレーニンが『唯物論と経験批判論』で一方的にボグダーノフを罵倒したものだ。レーニンの議論は唯物論というより素朴実在論で、今では読むに耐えない。
ボグダーノフの議論は、20世紀の科学を変えたマッハの認識論だった。マッハは感覚に先立つ「絶対空間」などの本質を否定し、時間や空間を相対化するアインシュタインの理論のヒントになった。しかしレーニンはこれを「主観的観念論」とののしり、「ボグダーノフが認識する前から世界は存在する」と主張した。
これはばかばかしいようで、反論するのはむずかしい。それはほとんどの人の常識であり、むしろカント以来の「認識が存在に先立つ」という観念論こそ、ほとんどの人に理解できないだろう。
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本書もそういう茶飲み話だが、おもしろいのはこれも100年前のレーニンとボグダーノフの論争が出てくることだ。これは論争というよりレーニンが『唯物論と経験批判論』で一方的にボグダーノフを罵倒したものだ。レーニンの議論は唯物論というより素朴実在論で、今では読むに耐えない。
ボグダーノフの議論は、20世紀の科学を変えたマッハの認識論だった。マッハは感覚に先立つ「絶対空間」などの本質を否定し、時間や空間を相対化するアインシュタインの理論のヒントになった。しかしレーニンはこれを「主観的観念論」とののしり、「ボグダーノフが認識する前から世界は存在する」と主張した。
これはばかばかしいようで、反論するのはむずかしい。それはほとんどの人の常識であり、むしろカント以来の「認識が存在に先立つ」という観念論こそ、ほとんどの人に理解できないだろう。
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「言論アリーナ」で、国民民主党の玉木さんと維新の音喜多さんと一緒に、いま話題の社会保険料について議論した。
日本社会の直面している最大の脅威は高齢化ではなく、そういう人口動態の大きな変化に制度が適応できず、いまだに高度成長期の若かった国のしくみを続けていることだ。その最たるものが、社会保障の国民皆保険である。日本のように全国民が強制加入の社会保険は世界に類を見ない。
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日本社会の直面している最大の脅威は高齢化ではなく、そういう人口動態の大きな変化に制度が適応できず、いまだに高度成長期の若かった国のしくみを続けていることだ。その最たるものが、社会保障の国民皆保険である。日本のように全国民が強制加入の社会保険は世界に類を見ない。
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