カント哲学の奇妙な歪み

カント哲学の奇妙な歪み――『純粋理性批判』を読む (岩波現代全書)
カントは「ドイツ観念論」の元祖とされるが、著者もいうようにこれは奇妙だ。『純粋理性批判』はその逆、つまり世界には物自体しか存在しないという唯物論だからである。彼の目的は観念的な認識論ではなく、ニュートン物理学を正当化する(今でいう)科学哲学だった。

だが、その目的は達成できなかった。すべての人間がこの空間的・時間的な世界を同じように理解できる合理的な理由はないのに、なぜすべての人が一義的に理解しているのか。彼の答は「それは人々が世界を空間と時間という同一の先験的カテゴリーで構成しているからだ」というものだが、これは世界の座標系を座標系で説明する循環論法である。

これは多くの人が批判した問題だが、その答はいまだにない。最近の「思弁的実在論」も袋小路に迷い込んでいる。私はスコラ神学に、そのヒントがあると思う。すべての人々にとって世界が3次元空間と不可逆な時間で構成されているのは偶然だが、そうでないと人間が存在しえないのだ。

続きは4月10日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンでどうぞ。

新聞はなぜ満州事変で「大旋回」したのか

昭和戦前期の政党政治―二大政党制はなぜ挫折したのか (ちくま新書)
新聞が戦時中に競って戦意昂揚記事を書いたことはよく知られているが、1930年まで「軍縮派」だったことは意外に知られていない。ロンドン軍縮会議で日本が補助艦保有量を対米69.75%に制限されて6月に帰国したとき、新聞はすべてこれを歓迎した。その後の勇ましい論調から考えると奇妙だが、本書によると新聞の論調は二転三転したようだ。

1920年代まで新聞は軍縮派だった。第1次大戦で「戦争はもうこりごりだ」と思った世界の世論は絶対平和主義に傾いたので、日本の新聞もそれに従った。その後、軍部の力が増すと新聞は「艦隊派」に傾き、軍縮会議では「対米7割が最低線だ」という海軍の方針に同調したが、その防衛ラインは会議で破られた。

東京朝日の緒方竹虎は当初は艦隊派だったが、途中から対米7割は無理だとわかると、引っ込みがつかないので「会議を成功させるために7割にこだわるな」という論調に変更し、各社も横並びでこれにならった。それは単なる世論への迎合だったので、翌年満州事変が始まると「大旋回」したのだ。

今のマスコミの「安保反対」には当時の軍縮派ほどの論理もなく、終戦直後の一時的な厭戦気分でつくられた憲法を70年後も守っているだけだ。「第2次朝鮮戦争」が始まったら、1931年のようにマスコミが「大旋回」することは確実である。

続きは4月10日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンでどうぞ。

朝鮮半島情勢を合理的に考える

今週の金曜からアゴラ経済塾「合理的に考える」がスタートする(明日まで申し込み受付中)。ここではその宣伝もかねて、朝鮮半島の状況を合理的に考えてみよう。



続きはアゴラで。

戦争を始めるのは誰か

戦争を始めるのは誰か 歴史修正主義の真実 (文春新書)
朝鮮半島は危機的な状態で、アメリカのトランプ大統領は単独先制攻撃の可能性を否定していない。しかし先に手を出した側が「戦争を始めた」とはいえない。日米戦争で先制攻撃したのは日本だが、日本政府にも日本軍にも積極的に戦争したい人はいなかった。

他方、ルーズベルト大統領には戦争する十分な動機があった、と本書は多くの証拠をあげる。これは「歴史修正主義」とばかりもいえない。ジョージ・ケナンも、1930年代にルーズベルトが「日本に執拗にいやがらせをした」のは賢明ではなかったと批判している。彼はソ連の承認に反対したが、ルーズベルトはスターリンを信頼していた。

ヒトラーがいなかったら第2次大戦は起こっていなかったが、本書もいうようにチャーチルとルーズベルトがいなかったら起こっていなかったかもしれない。第2次大戦は「民主主義とファシズムの戦いだった」というが、ソ連は民主主義だったのか。日米戦争はどちらにとっても無意味で、勝者はスターリンだったのではないか。

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アメリカをタックスヘイブンにする「国境調整税」


きのうの記事では炭素税と国境調整税を一緒に説明してわかりにくくなったので、後者をきちんと説明しよう。トランプの「メキシコに対する35%の関税」というのは時代錯誤の保護主義だが、共和党の「国境調整税」はそれとは別である。

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炭素税を「国境調整」する保守派の提案



パリ協定を受けて、炭素税をめぐる議論が活発になってきた。3月に日本政府に招かれたスティグリッツは「消費税より炭素税が望ましい」と提言した。他方、ベイカー元国務長官などの創立した共和党系のシンクタンクも、アメリカ政府が炭素税を採用するよう求める提言を出した。

続きはアゴラで。

朝鮮戦争はなぜ起こったのか

アメリカ外交50年 (岩波現代文庫)
韓国の政権が崩壊し、朝鮮半島に「力の空白」が生じている。1950年に朝鮮戦争が起きたのも、アチソン国務長官が、「アメリカが責任を持つ防衛ラインは日本までだ」と発言し、韓国に言及しなかったことがきっかけだった。本書はジョージ・ケナンが「封じ込め」戦略を書いたX論文で有名だが、1979年の増補版では朝鮮戦争についても書いている。

彼の「封じ込め」は冷戦期のアメリカの外交方針になったが、ここには誤解があった。Containmentは「中に入れておくこと」という意味で、軍事的に抑え込むという意味はなかった。モスクワ大使館に7年いたケナンは、ソ連が信頼できないことを知っていたが、アメリカを攻撃する実力はないので、その勢力拡張を防いで力の均衡を維持すべきだ、というのが「封じ込め」の意味だった。

ケナンは日本に再軍備を求めないで中立化し、朝鮮半島に「民主的な選挙で選ばれた政権」を樹立すべきだと考えていた。ソ連の南下を防ぐ前線基地は、日本ではなく朝鮮半島だと考えていたからだ。ところが彼は国務省の主流からはずされ、在韓米軍が大幅に削減された直後に朝鮮戦争が起こった。そこにはアメリカの大きな誤算があった。

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「忖度」は遺伝的なメカニズム

今週の金曜から、アゴラ経済塾「合理的に考える」がスタートする(申し込みは木曜まで受付中)。合理的な思考力は字を読む能力と同じく、遺伝的にすべての人がそなえている能力ではない。それはコストのかかる「遅い思考」なので、普通の人は近道して「速い思考」で判断する。

人間の脳に特有の機能は、人間関係をアレンジすることだ。特に「空気」を読んで他人の気持ちを忖度することが重要だ。それは特殊日本的な文化ではなく、最近の人類学では、意図の共有は遺伝的な機能と考えられている。命令されなくても「共同主観的」な信仰で協力して戦うことによって、人類は繁殖した。

協力を効率的に行うためにできたのが言語を使った論理だが、その本質は同じ文法を繰り返し適用する再帰的な構造である。それを高度化したのが数学的証明やコンピュータのコーディングだが、これは多くの人が苦手だ。忖度は遺伝的な能力だが、論理的な「遅い思考」は自然には身につかないのでトレーニングが必要だ。それが今回の経済塾の目的である。

続きは4月3日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンでどうぞ。

デモクラシーなき立憲主義

きのうのアゴラ政経塾は、伊藤隆さん(東大名誉教授)をお迎えして「ファシズム」の話をうかがったが、おもしろかったのは「戦争に積極的だったのはルーズベルトのほうだった」という話だ。何も決められなかった東條英機が日米開戦を決めたのは、あらゆる手段でルーズベルトに追い込まれたからだという。

1930年代の大恐慌に対して、ルーズベルトは大統領の権限を拡大して財政支出を拡大し、ドイツでもヒトラーが国債を発行して経済を回復させた。蝋山政道は、このように行政に大きな裁量権を与える「挙国一致」が世界の潮流だと考え、政党を超える立憲的独裁が必要だと内閣に提言した。これが国債発行による軍備拡大や、大政翼賛会による政党政治の終焉への道を開いた。

つまり第2次大戦をもたらしたのは日独のファシストと英米のデモクラシーの対立ではなく、議会を超えて行政の裁量を拡大するデモクラシーなき立憲主義だった、という解釈も成り立つ。これは「立憲主義なきデモクラシー」としてのポピュリズムの逆で、現代的にいえば行政国家だ。それをどうコントロールするかは、今も大きな課題である。

続きは4月3日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンでどうぞ。

「こども」を食い物にする大人のモラルハザード



給付型奨学金を創設する法案が、参議院本会議で全会一致で可決された。これは大学生をもつ豊かな家庭に貧しい家庭から所得移転する逆分配であるばかりでなく、その財源を当の子供に負担させる世代間の逆分配だ。奨学金は親が消費し、大学は何も生産しないので、子供には国債の負担だけが残る。

続きはアゴラで。






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