なぜ侵略は「悪」なのか

東大入学式の河瀬直美氏の祝辞が問題になっている。この祝辞は全文を読んでも、悪文で論旨が不明だが、問題になったのは次の部分である。

例えば「ロシア」という国を悪者にすることは簡単である。けれどもその国の正義がウクライナの正義とぶつかり合っているのだとしたら、それを止めるにはどうすればいいのか。

なぜこのようなことが起こってしまっているのか。一方的な側からの意見に左右されてものの本質を見誤ってはいないだろうか?誤解を恐れずに言うと「悪」を存在させることで、私は安心していないだろうか?

自分たちの国がどこかの国を侵攻する可能性があるということを自覚しておく必要があるのです。そうすることで、自らの中に自制心を持って、それを拒否することを選択したいと想います。

これは「節分には「福はウチ、鬼もウチ」という掛け声で、鬼を外へ追いやらない」という寺の話を受けているので、一般論として寛容や価値相対主義を述べているだけとも解釈できるが、「自分たちの国がどこかの国を侵攻する可能性がある」という言葉には政治的意図がある。

論理的には「ロシアにもウクライナにもそれぞれの正義がある」という命題は正しい。それは「強盗にも被害者にもそれぞれの正義がある」という命題が正しいのと同じである。それではなぜロシアの行動は「悪」なのか? それは河瀬氏の考えているほど簡単なことではない。

続きは4月18日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで(初月無料)

防衛力強化は財源論と切り離せ

アゴラは「自由な議論の広場」ですが、長くてむずかしいと敬遠する人が多いので、コメントや短文も載せることにしました。みなさんからも投稿してください。その素材として、けさの長島昭久さんの記事を取り上げます。

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地球温暖化で生命が救われる

IPCC第6次評価報告書の第3作業部会の報告書が発表された。この作業部会は第1・第2作業部会の報告を受け、それに対する政策をまとめたものだ。

2月28日に出た第2作業部会の報告書は、ウクライナ戦争の勃発直後で、ほとんど注目されなかったが、その中で1ヶ所、注目すべき点がある。IPCCは全体として地球温暖化の脅威を強調しているが、温暖化による超過死亡率というセクション(9.10.2.3.1)は微妙な表現になっているのだ。
アフリカのすべての原因による気温に関連する死亡リスクは地球温暖化で増大し、年間10万人あたり50~180人の超過死亡が見込まれる。しかし寒冷化による死者を経験している一部の地域では、温暖化によって気温関連の死亡リスクが低下すると予測されている。

「気温に関連する死亡リスク」は温暖化と寒冷化を含む。その死亡率がもっとも高いのはアフリカだが、図のように温度変化による死者は、現状から2℃上昇程度のゆるやかな温暖化(RCP4.5)より、4.8℃上昇する激しい温暖化(RCP8.5)のほうが少なくなるとIPCCは予測している(図のcの緑の部分)。つまり温暖化で死亡率は下がるのだ

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アフリカの気温に関連する死亡率の変化(IPCC第6次評価報告書第3部会)

その原因は、この図の説明にも書かれているように、寒冷化が気温に関連する死亡の最大の原因だからである。アフリカでこうなのだから、他の大陸、特にロシアやカナダでは、温暖化でもっと死者は減る。これは前にも紹介したLancet論文の結果だが、他の研究でも支持されている。

続きは4月11日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで(初月無料)

ウクライナ戦争はジェノサイドである

ウクライナ侵略について、米バイデン大統領は「戦争犯罪」と断定し、岸田首相は「国際法違反だ」と言ったが、その目的はいまだにはっきりしない。特定の民族を絶滅させるジェノサイド(民族浄化)は国際法違反だが、プーチン大統領はそういう目的を表明していない。

しかしロシア国営のRIAノーボスチ通信は、署名記事の形で「ロシアはウクライナで何をすべきか」というロシア軍の方針を発表した。これはロシア軍がウクライナの非ナチ化(de-nazification)が目的だと書いている。自動翻訳で引用しよう。

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非ナチ化は、人々のかなりの部分(おそらく大多数)が習得され、その政治においてナチス政権に引き込まれたときに必要です。つまり、「国民は良い・政府は悪い」という区別が機能しないのです。非ナチ化は、戦争犯罪者として技術的に直接の罰を受けることができない、人口の非ナチ化された集団に関連する一連の措置です。

武器を取ったナチスは戦場で最大限に破壊されるべきです。民兵を区別する必要はありません。これらの2つのタイプの軍隊に加わった領土防衛。それらのすべては、民間人に対する極度の残虐行為に等しく関与しており、ロシア人の大量虐殺についても同様に有罪であり、戦争の法律や慣習を遵守していません。

ナチズムの実践に関与している組織はすべて清算され、禁止されています。しかし、トップに加えて、ナチズムの共犯者である受動的なナチスである大衆のかなりの部分も有罪です。彼らはナチスの力を支持し、甘やかしました。人口のこの大衆のさらなる非ナチ化は、ナチスの態度のイデオロギー的抑圧(抑圧)と厳格な検閲によって達成される再教育にあります。
この文書のいう「ナチス」は「受動的な大衆」を含むウクライナ人をさすので、非ナチ化とは(軍民を問わず)彼らがナチスとみなしたウクライナ人を最大限殺すという意味である。

ここではロシア軍の目的は特定の地域を領有することではなく、ウクライナ人の絶滅である。プーチンにとってはウクライナ人は同じ民族なので「民族浄化」ではないが、「集団殺害」という意味ではジェノサイドといえよう。ウクライナのゼレンスキー大統領は「このRIAの文書は戦争裁判で証拠として採用されるだろう」と述べた。続きを読む

ウクライナ人の後ろから弾を撃つのはやめよう

八幡さんの記事には問題がある。アゴラは自由な討論の広場なので、編集部の見解と異なる意見も歓迎するが、「英米が戦争を終わらせたくない」というのは事実に反する。

八幡さんの持論は「ウクライナ人はロシア人と同じ民族だから、プーチンが併合するのは当たり前だ」ということらしいが、主権国家の帰属はその国民が決めるというのが国際法の原則である。それはロシア人とウクライナ人の歴史的関係とは関係なく、2度の世界大戦を通じて人類が築いてきた最小限のルールである。

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ロシア軍はなぜキエフで敗北したのか

2月24日に戦争が始まったとき、ほとんどの人が(私を含めて)ロシアが圧勝して傀儡政権を樹立するだろうと予想した。しかしその4日後に「なぜロシアは敗北するか」というツイートを出した軍事アナリストがいた。80もある連続ツイートを、かいつまんで紹介しよう。


今回の首謀者ショイグ国防相は、プーチンに迎合する「宮廷政治」の達人で、合理的に戦争を行う能力がなかった。彼は軍需産業に迎合して、陸軍と海軍の両方の軍備を増強した。


このためロシアの陸軍は弱体で、ロシアは初期の「電撃戦」で勝利できなかった。プーチンがウクライナ侵略を「特殊な軍事作戦」と呼んだことには重要な意味がある。それは古典的な意味での戦争ではないのだ。続きを読む

激安になった円は「均衡水準」に戻るか


為替は1ドル=125円をつけた後、やや戻して122円台になっているが、これで落ち着くと思っている人は少ない。日銀が指し値オペで、長期金利に0.25%という天井を設けているので、FRBが利上げするほど日米の金利差が開き、円安になるからだ。

しかし本質的な問題は金利ではない。それは短期の鞘取りの結果であり、購買力平価(PPP)でみると、円安はオーバーシュートしている。PPPの簡単な目安としておなじみのビッグマック指数でみると、日本では390円だが、アメリカでは5.8ドル(707円)。名目為替レート(円/ドル)は41.7%も過小評価されている。

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ビッグマック指数(Economist)

「円高で大変だ」と騒いでいた2010年の1ドル=80円ぐらいが、PPPでみると適正だった。これが昔の経済学で考えていた均衡水準(貿易財のPPP)に近いが、現実にはそこから大きく円安方向に振れたまま戻らない。

その一つの明らかな原因は、日米のインフレ率の差である。アメリカでは毎年2%ぐらい物価が上がり、最近では7%近いが、日本はほぼゼロ%のままだったので、それが積み重なって40%以上の差になったのだ。これはPPP(1ドル=約90円)に戻るだろうか?

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原発がミサイル攻撃されたらどうするか

全国知事会が「原子力発電所に対する武力攻撃に関する緊急要請」を政府に出した。これはウクライナで起こったように、原発をねらって武力攻撃が行われた場合の対策を要請するものだ。

これは困難である。原子力規制委員会の更田委員長は国会で「攻撃を受けても核爆発のような被害をもたらすわけではないが、著しい環境汚染を引き起こす」と説明し、「対策は事実上ない」と答えた。



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NATOの東方拡大は「挑発」だったのか

橋下徹氏は、だんだんプーチンの代理人になってきた。細かい話だが、これはよく出てくるので事実関係を整理しておく。

ブカレスト宣言というのは、2008年4月のNATO首脳会談で、米ブッシュ大統領、独メルケル首相、仏サルコジ大統領などが集まって出された文書である。そこにはこう書かれている。

NATOに加盟したいというウクライナとジョージアのユーロ大西洋的な願望を歓迎する。本日われわれは、これらの国々が将来NATOの加盟国になることに合意した。

本日われわれは、これらの国の(加盟の準備段階となる)加盟行動計画(MAP)申請を支持することを明確にした。2008年12月の会合で、外相に進捗状況の最初の評価を行うよう求めた。

これは外交文書によくある玉虫色の表現で、両国の「加盟申請」を認めたようにみせながら、その「評価」は12月の外相会合に先送りした。しかしドイツとフランスが加盟に反対したため、この話は立ち消えになった。それから14年たっても、ウクライナにはMAPステータスもない。

NATOは紛争当事国であるウクライナとジョージアの加盟を拒否し、ゼレンスキーもそれは認めた。ウクライナの中立(NATO非加盟)は、よくも悪くも既成事実なのだ。ところがプーチンは「ウクライナは非加盟を文書で確約しろ」と要求し、それに応じないという理由でウクライナを侵略した。

これは暴力団が事務所の隣の家に「おれの家に泥棒に入らないと約束しろ」と因縁をつけ、約束しないといって隣の家に強盗に入ったようなものだ。橋下氏はこんなプーチンの言いがかりを認めるのか。続きを読む

戦争がもたらした「超円安」はどこまで行くか



ウクライナ戦争が始まってから、為替レートは1ドル=115円から一時は125円と、1ヶ月で10円も上がり、超円安が止まらない。このきっかけは、25日の国会で、黒田総裁が「現時点で円に対する信頼が失われたということではない」と円安を容認する答弁をしたことだった。

その後、国債が売られ、長期金利0.25%で日銀が28日から2日続けて無制限に国債を買う異例の連続指し値オペを行ったことで、円が急落した。125円は「黒田ライン」といわれるので、市場は介入を警戒したのか、いったん値を戻したが、円の先安感は強い。

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