朝鮮人労働者の問題は「強制連行」ではない

韓国大法院の判決は外交問題としては終わった話だが、外国人労働者の問題を考える上で参考になる。1930年代の日本でも、戦争で人手不足が深刻だった。危険な炭鉱や建設現場などの「3K職場」をいやがる労働者の穴を埋めるために、朝鮮人労働者が使われた。

国が労働者を「強制連行」したのではなく、口入れ屋が朝鮮人を高賃金で募集し、内地の劣悪な職場で働かせたケースが多い。だまされたと気づいた朝鮮人は逃げようとしたが、タコ部屋に閉じ込められ、賃金は生存最低水準に張りついた。その外国人労働者が、今は技能実習生である。

その教訓も似ている:人手不足を埋めるために外国人労働者を増やしても、問題は解決しない。戦時中は戦争を早くやめることが最善だったが、今は労働市場を機能させて賃金を上げるしかない。それもできない中小企業を守るために移民を増やすと、低賃金の劣悪な職場環境が温存され、民族差別や社会不安が大きくなる。それが安倍政権のやろうとしていることだ。

続きは11月12日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

韓国の訴訟の原告は「徴用工」ではなかった

韓国大法院が新日鉄住金に賠償を命じた判決について、日本政府は「旧民間人徴用工」という呼び名を改め、「朝鮮半島出身労働者」に統一した。この訴訟の原告が日本に来た1943年には、朝鮮人を「徴用」する制度がなかったからだ。1959年の外務省の資料によると、
元来国民徴用令は朝鮮人(当時はもちろん日本国民であつた)のみに限らず、日本国民全般を対象としたものであり、日本内地ではすでに1939年7月に施行されたが、朝鮮への適用は、できる限り差し控え、ようやく1944年9月に至つて、はじめて、朝鮮から内地へ送り出される労務者について実施された

続きはアゴラで。

人類は石器時代から戦争に明け暮れてきた

War Before Civilization (English Edition)
レヴィ=ストロースはルソーを「人類学の父」と呼び、彼の描いた「高貴な未開人」のイメージに人類の原型を求めた。暴力や戦争で混乱した現代社会とは違い、未開社会は平和な「冷たい社会」だと思われていた。しかし著者は1970年代に新石器時代の遺跡を調べるうちに、そのまわりに砦があり、柵や溝が張りめぐらされていたことを発見する。それは明らかに戦争の痕跡だった。

「人類は石器時代から戦争を繰り返してきた」という著者の発表は最初は学界に無視されたが、90年代には戦争の遺跡が世界中で発見され、頭蓋骨からも凶器で破壊された痕跡が多く見つかった。次の図はいろいろな部族の戦争による死亡率だが、石器時代や未開社会では平均25%の男性が戦争で死亡し、女性や子供を入れても平均15%ぐらいが戦争の死者だったと推定されている。戦争は多くの部族で2年に1度ぐらい起こり、負けた部族は皆殺しにされた。

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戦争による死亡率(%)

この発見は、社会科学の多くの分野に影響を与えた。戦争が石器時代から頻繁にあったとすると、それに適応するメカニズムが脳に遺伝的に埋め込まれているはずだ。生存する上で重要なのは個人の利益を最大化する合理的行動ではなく、戦争に勝つための集団行動であり、その根本は「敵か味方か」を区別して敵を憎み、味方を愛する同族意識(tribalism)である。人類は経済的動物ではなく、政治的動物なのだ。

続きは11月12日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

自由な移民は福祉国家と両立しない

臨時国会は、入管法改正案で大荒れだ。この原因は、人口減少と高齢化という構造問題に安倍政権が場当たり的な移民政策で対応しようとしているからだ。次の図でもわかるように、生産年齢人口(15~64歳)は1995年の8716万人をピークに毎年ほぼ1%下がり続け、2060年には4400万人程度になると予想されている。


人口の推移と予測(内閣府)

続きはアゴラで。

文化の進化をもたらした「長期記憶」

Not By Genes Alone: How Culture Transformed Human Evolution (English Edition)
獲得形質は遺伝しない、というのが中学生も習う生物学の根本原理である。あなたがいくら勉強しても、その記憶は子供には遺伝しない。だからラマルクの進化論は否定されたが、文化レベルでは間違いとはいいきれない。記憶は遺伝しないが言語習得能力は遺伝するので、子供に言葉を教えれば、勉強できるようになる。

これは遺伝的な進化と似ているが、メカニズムはまったく違う。DNAのゲノムは固定されたハードウェアだから、環境が変化したとき、それに適応できない個体が淘汰されるという形でしか、遺伝子の進化は起こらない。これには長い時間がかかり、急激な気候変動などがあると種が絶滅してしまう。

それに対してホモ・サピエンスは大きな脳が発達し、文化や言語を長期記憶にソフトウェアとして記憶する能力を身につけた。文化は遺伝子より柔軟で変化の幅が広く、蓄積できる。しかも適応のスピードは遺伝子よりはるかに速いので、これが人類が短期間に驚異的に繁殖した最大の原因だ、というのが本書の主張である。

続きは11月12日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

労働市場のミスマッチは2000年代に拡大した

アゴラの記事はちょっとややこしいので、経済学的に解説しておこう。次の図は労働市場の需給状況を示すUV曲線と呼ばれるもので、縦軸に失業率、横軸に欠員率(人手不足)をとっている。労働市場にまったく摩擦がないときは原点(失業も欠員もゼロ)だが、現実にはミスマッチがあるので、UV曲線の原点からの距離は労働市場のマッチングの効率性を示す。

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失業率と欠員率のUV曲線(労働政策研究・研修機構)

不況になると失業率が上がって左上に動き、景気がよくなると人手不足で右下に動くが、1990年代からの長期不況でUV曲線が大きく上にシフトした。その後、失業率が低下するとともに欠員率が増えたが、2008年の金融危機で2000年ごろの状況に戻り、2010年代に失業が減って人手不足が拡大した。

このように今の人手不足は循環的なものだが、問題は2000年代に大きくなったミスマッチが元に戻らないことだ。労働政策研究・研修機構の計算によれば、2018年第3四半期の完全失業率は2.43%で、均衡失業率2.88%を下回る。このように「自然失業率」を超える超過需要になると、賃金が上がってインフレになるのが普通だが、そうならない。この背景には、どういう構造的な変化があるのだろうか。

続きは11月12日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

外国人労働者を増やしても人手不足は解決できない

政府は外国人労働者に「特定技能」という在留資格をもうける入管法改正案を国会に提出したが、この法案には穴が多い。そもそも「外国人労働者は移民ではない」という定義が意味不明だ。国連の定義では、移民とは「1年以上外国で暮らす人」である。

「特定技能1号」という資格で単純労働の就労ビザを発行し、滞在中に高い専門性が確認されれば「特定技能2号」として実質的な永住権を与えることになっているが、法案には対象業種も書いてない。受け入れ人数も不明だが、「初年度は4万人程度」だという。

こういう異例のドタバタで法案が出てきた背景には、来年の統一地方選挙や参議院選挙をにらんで中小企業の人手不足に対応しようというねらいがあるのだろうが、この程度では焼け石に水だ。2060年までに日本の生産年齢人口は約3000万人減る。毎年4~5万人の移民が入ってきても、その5%程度しか埋まらないのだ。

続きはアゴラで。

言語はなぜ進化したのか

心の進化を解明する ―バクテリアからバッハへ―
ホモ・サピエンスの最大の特徴は言語をもっていることだが、その原因ははっきりしない。チンパンジーにもプリミティブな言語はあり、イルカにも音声コミュニケーションはあるが、人類の言語は格段に複雑で柔軟だ。本書もいろいろな説を紹介しているが、音声は証拠として残らないので決定的な答はない。

ただ多くの人類学者が同意するのは、人類の真社会性(巣をつくって社会的分業を行う能力)が言語の原因であって、その逆ではないだろうということだ。言語なしでも叫び声や身振りで共同作業はでき、そういう民族もいるからだ。では言語がここまで複雑に発達したのはなぜだろうか。

この答を本書はミーム(文化的遺伝子)に求める。それはDNAで遺伝するものではなく慣習や教育で伝えられるので、生物学者には疑わしい比喩だと思われているが、人類が短期間にここまで繁殖した最大の原因は文化の蓄積だ。ミームは人類の脳に「感染」して人類の共同作業を容易にし、人類の繁殖で爆発的に拡散したウイルスのようなものであり、その感染を媒介したのが言語である。

続きは11月5日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

不良債権は「自己責任」論で金融危機に発展した

日銀の白川前総裁が、朝日新聞のインタビューに答えている。内容は近著『中央銀行』の要約になっているが、興味深いのは1990年代の不良債権処理の話だ。
――リーマン・ブラザーズを救済すれば、あれほど危機は深刻にならなかったのではないですか。

「難しいところです。たしかに危機が深刻化した直接の引き金は(米国の中銀である)FRBがリーマン救済の融資をしなかったことでした。FRBは担保不足を理由にしましたが、実は議会や国民の反発の声が非常に強かったからではないかと想像します」

「対照的なのが97年、日銀が山一証券の自主廃業の際、無制限の特別融資をしたケースです。[…]政府・日銀は日本発の世界金融危機を防ぐことを優先し、日本経済の落ち込みはリーマンの時と比べ小さくできた。だがそれゆえに抜本策の採用は遅れ、問題先送りだと批判されました」

続きはアゴラで。

「新しい冷戦」が始まるのか

中国を攻撃するトランプ大統領の方針は単なる保護主義ではなく、アメリカ政府の中で孤立しているわけでもない。それを示すのが、共和党の本流を代表するペンス副大統領が10月に行った、中国を激しく批判する演説である。Economist誌もこれを特集し、ペンス演説は「新しい冷戦の不吉な進軍ラッパのように聞こえる」と評した。

チャーチル首相は、1946年に「バルト海からアドリア海までヨーロッパ大陸に鉄のカーテンが降ろされた」と演説し、冷戦の開始を宣告した。だがその後も西側には「平和共存」を信じる人が多く、日本でも「全面講和」や「安保反対」を唱えた人々は、西側が社会民主主義になる一方、東側は市場経済を取り入れて「東西の収斂」が起こると予想していた。

その後の歴史はそれが幻想であることを示したが、冷戦の終了後、今度こそ収斂が起こると多くの人が考えた。特に市場経済化で成長した中国が政治的にも民主国家になるという期待が大きく、アメリカは中国のWTO(世界貿易機関)加盟を容認するなど、中国と和解する関与(エンゲージメント)政策を取った。しかしその後も中国の民主化は進まず、むしろ異質な文明としての性格を強めている。ペンス演説は第二の「鉄のカーテン」演説になるのだろうか。

続きは11月5日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。






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