中央銀行は「財政ファイナンス」をコントロールできるか

日本ではまだMMTなどという古い話にこだわっている人がいるようだが、世界的にはそんなものは問題になっていない。大論争になっているのは、ブランシャールやサマーズの提案した財政と金融の協調である。この論争にスタンリー・フィッシャー(元FRB副議長)も参加した。

従来のマクロ経済学では、景気安定化策に財政政策を使うのは効率が悪く、金融政策でやるべきだと考えられていたが、2010年代の先進国経済(DM)は流動性の罠に陥って、金融政策がきかなくなった。他方で図のように、財政支出の余地(実質金利-実質成長率)は大きい。

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このため財政支出を増やすべきだという議論が高まっているが、財政インフレをコントロールする手段がはっきりしない。MMTのいうような増税は簡単にできない。フィッシャーの提案は、これを中央銀行が長期国債の買い入れでコントロールしようというものだ。

中銀は財政支出とインフレ率の目標を決め、イールドカーブがフラットになるまで長期国債を買い入れる。予想インフレ率が目標を上回ったら、買い入れをやめる。これは明示的な財政ファイナンスで、日銀のやっているイールドカーブ・コントロールに近い。しかし長期金利で財政はコントロールできるのだろうか。

続きは11月4日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

霞ヶ関のブラック労働は「行政国家」の末期症状

今年の8月、厚生労働省の若手チームの出した業務・組織改革のための緊急提言がちょっと話題を呼んだ。これは霞ヶ関でも最悪といわれる厚労省の労働環境について、現場のアンケートをもとに提言したものだ。

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そこには「厚生労働省に入省して、生きながら人生の墓場に入ったとずっと思っている」といった過酷な労働実態への悲鳴が並び、その大きな原因として「国会関連業務」があげられている。今や「モンスタークレーマー」になった野党への対応が、若手官僚の大きな負担になっていることがわかる。

この原因は日本独特の国対政治だが、そこには普遍的な問題も含まれている。ジョン・ロック以来の近代デモクラシーの原則では、主権者たる国民が選挙で議員を選び、彼らが立法によって政府をコントロールすることになっている。法を執行するのは官僚だが、その解釈は行政から独立した司法が決めるというのが、モンテスキュー以来の三権分立の理念である。

だが、そんな原則を信じている官僚はいない。事務量が膨大になった現代の先進国では、官僚が立法も行政も法解釈も実質的に行う。議会は官僚機構の決定を追認する機関にすぎない。このような行政国家をチェックする制度は、日本国憲法には存在しない。国民主権とか立憲主義とかいうとき、想定されているのは実定法による支配だけなのだ。

続きは11月4日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

モンゴル帝国のグローバル化はなぜ挫折したのか

アジア近現代史-「世界史の誕生」以後の800年 (中公新書)
本書の副題は「世界史の誕生以後の800年」。ここでは世界史が誕生したのは、チンギス・ハンがモンゴル帝国の初代カアンに就任した1206年である。それ以降モンゴルは中国から東欧に至るユーラシア大陸の大部分を版図に収め、世界史上最大の帝国を築いた。

これはウォーラーステインのいう近代世界システムより300年近く早いグローバリゼーションだったが、モンゴル帝国は200年足らずで崩壊した。中国では1368年に明が元を滅ぼし、中央アジアでは1370年にティムールがモンゴルを滅ぼし、ロシアでは1380年にモスクワ大公がモンゴルに勝利を収めた。

このようにあっけなくモンゴル帝国が崩壊したのはなぜかというのは明快な答のない問題だが、本書はそれを軍事帝国の限界と考える。モンゴルの最大の武器は馬だった。モンゴル兵は馬から弓矢を射て、歩兵との戦いでは圧倒的な強さを発揮した。チンギスやクビライは戦略家としても一流で、敵が戦わずして降伏することも多かったという。

しかしモンゴルには固有の文化がなく、征服した民族を同化できなかった。モンゴル軍に降伏すれば相手を殲滅することはなく、宗教や言語も元のままでよかった。モンゴル帝国の権威を示す建物はほとんど建設されなかった。こういうゆるやかな支配では、土着勢力が同時多発的に反乱を起こすと、少数派のモンゴル人が鎮圧することはむずかしい。

続きは11月4日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

与野党の談合する「国対政治」が官僚を疲弊させる



国会の騒ぎは、野党のいう「情報漏洩」の根拠がツイッターの日付の誤認だとわかって、急に静かになった。野党が国会で政策論争をしないでスキャンダルたたきに熱中するのは今に始まったことではないが、その起源は意外に古い。

続きはアゴラで。

ネットは社会を分断しない

ネットは社会を分断しない (角川新書)
現代社会が保守とリベラルに二極化している、というのはよくいわれる。その原因がインターネットだというのもありふれた意見だが、実態はどうなのだろうか。本書はこれを10万人のアンケート調査で検証した計量分析をまとめたものだ。

結論からいうと、分極化していることは事実だが、その原因はネットではない、というのが計量データの示す結果だ。ここで保守かリベラルかというのは、「憲法9条を改正すべきか」など10問の質問にどう答えるかを基準にしている。

ネットが普及したことが分極化の原因なら、スマホを使いこなしている若者のほうが分極化の傾向が強いはずだが、データでは分極化しているのは中高年で、若者は穏健化しているという。ネット世論が分極化しているようにみえるのは、1年に60回以上書く「ヘビーライター」が極端な意見を書くからだ。人数では0.23%しかいない彼らの書き込みが、投稿総数の50%を超える。

ネットメディアやツイッターの読者の傾向も個別に分析しているが、アゴラの読者や池田信夫のフォロワーは中間で「やや保守」の傾向だという。これは妥当なところだろう。最右派はチャンネル桜で、最左派はリテラ。彼らは極端な意見を意識的に集めているが、アゴラはそういう特定のポジションを取らないからだ。

続きは10月28日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

「情報漏洩」の犯人さがしは野党の自殺行為だ


10月23日、衆議院内閣委員会で無所属の今井雅人議員は「高橋洋一氏が15日の森ゆうこ議員の質問内容を事前に知っていた」と質問し、これに対して北村地方創生相は「責任を取る」と答弁した。
今井:その図と思わしきものはですね、森議員が質問の際に出した資料の中にあると思います。これは事前には原さんにも渡してないはずです。しかし、なぜ高橋さんは質疑が始まる前に、この図のことを知っていらっしゃったんでしょうか? [中略]

内閣府から情報が漏れたということはないと、断言していただけますか? で、もし後日そういうのが出てくるということであれば、これはもう大臣の責任問題になると思いますけれども、いかがですか。

北村:本件について内閣府から通告内容が漏洩した事実はない、ということを確認しておりますから、責任問題が生じたときには責任取ります。
24日の野党ヒアリングで、立憲民主党の柚木道義議員も「高橋氏が事前に質問内容を知っていたのは官僚が情報漏洩したからだ」と主張した。その根拠は、野党ヒアリング資料にある高橋洋一氏のツイートだと思われる。

ここには15日の質問前の14日19:57のツイートが出ているが、この時刻はアメリカ太平洋標準時である。日本時間では質問後の15日11:57であり、前後関係からも彼が国会中継の感想を書いていることは明らかだ。



続きはアゴラで。

グローバル化はモンゴル帝国から始まった

興亡の世界史 モンゴル帝国と長いその後 (講談社学術文庫)
グローバリゼーションはヨーロッパが世界を支配した「長い16世紀」に始まった、というのがウォーラーステイン以降のグローバル・ヒストリーだが、ここでは13〜4世紀にユーラシア大陸の大部分を支配したモンゴル帝国が視野に入っていない。

それは短い時代だったが、地域ごとに分断されていたユーラシアを統合する大帝国を形成した。モンゴル帝国が解体した後も、帝国は清・ロシア・オスマンに継承され、それが最終的に消滅したのは第一次大戦後だった。モンゴルはユーラシア大陸をグローバル化し、700年にわたる「アジアの中世」を開始したのだ。

今ではほとんど忘れられたモンゴル人が、これほど短期間に大帝国を築くことができたのは、もともと遊牧民が軍団だったからである。遊牧民は夏には家族が分散して牧畜で暮らし、冬には多くの家族が集まって越冬する。冬の食糧は、秋に農民の土地に侵入して彼らの収穫した作物を略奪する。遊牧民の移動手段だった馬は、農民を殺して作物を持ち去る強力な武器でもあった。続きを読む

野党の「日程闘争」が官僚のブラック労働を生む

森ゆうこ議員のパワハラ問題に、産経新聞以外のマスコミは沈黙を続けているが、朝日新聞は「論座」で米山隆一氏の「森ゆうこ議員の質問漏洩問題から見える日本の劣化」というコラムを掲載している。彼は「官僚を自称する複数のアカウント」のツイートについてこう書く。
私は、そもそも事実ではなくそれ自体不当な非難であったことを前提としたうえで、理由はさておき、台風を前に帰宅もできず、愚痴の一つも言いたくなったことは理解できます。しかし、相手の事情を確認もせず、あらゆる結果を仕事の相手方に帰責する形で個人を特定してあげつらったのは、通常の職業倫理からはおよそ考えられず、霞が関の劣化以外の何物でもないと思います。
これ以降の彼の議論は、官僚の情報が「事実ではなくそれ自体不当な非難であった」という前提で官僚を批判するものだが、この前提は誤っている。「森ゆうこ糞」などのハンドルネームで行われた批判は正確であり、質問通告は24:25までかかったことが確認されたので、米山氏の話はナンセンスである。

続きはアゴラで。

森ゆうこ議員の「質問通告」に守秘義務はない

森ゆうこ事件は些細な話のようにみえるが、国会では毎日のように起こっているパワハラの例であり、見逃すことはできない。産経新聞がその質問通告を掲載しているので、ここから当日の経緯を推測してみよう。

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まず明らかなのは、この14項目の「未定稿」だけでは答弁が書けないことだ。特に8の「国家戦略特区について」という項目で「原座長代理」が質問の対象になっているが、原英史氏は公務員ではないので、参考人として出席を要請しなければならない。その時こんな質問項目だけでは、何を聞かれるのかわからない。

そこで内閣総務官室が11日の19:30ごろ森議員に問い合わせ、特区の部分の質問内容が追加された。内閣総務官室は20時ごろ、14項目に次の「質問詳細」を加えた2枚のFAXを添付したメールを原氏に送った。これは15日の質問の実質的に前日であり、民間人に配慮して早めにこの部分だけ外部に送ったものと思われる。質問通告がすべて終わったのは24:25だった。

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これは産経も指摘するように「通常の業務」であり、質問内容は公務員の守るべき秘密ではない。それを受け取った原氏も民間人であり、守秘義務は負わない。彼はこの質問通告を読んで、自分に対する人権侵害が含まれていると考え、私を含む多くの人にこの事実をメールで伝え、そのうち15人が署名運動の発起人になった。

事実はこれだけである。どこにも違法性はない。問題をややこしくしたのは、高橋洋一氏が14日に虎ノ門テレビで「(質問が)役所の方から来た」と言ったことだ。これは嘘である。彼が話を聞いたのは原氏であって「役所」ではないからだ。

続きは10月28日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

民主主義の次の政治システム

ニック・ランドと新反動主義 現代世界を覆う〈ダーク〉な思想 (星海社新書)
森ゆうこ事件をみると、民主主義がいかに非効率な政治システムかがわかる。これは国家の外に移動できない農民のシステムだから、議会でvoiceして合意を形成するしかなく、こういういやなやつとも一緒に暮らさなければならない。それに対して都市国家は、いやな都市からはexitすればいい。

こういう発想を政治システムとして提案したのが、ニック・ランドの「暗黒啓蒙」というウェブ上の著作である。ここで彼のいう新反動主義はリバタリアンの変種で、こういう都市国家の発想は昔からある。経済学でいうと、ローマーの提案したチャーターシティと同じだ。

新反動主義がダークな危険思想とされているのは、それが生物学的多様性を論じているからだ。これは誤解を恐れずにいえば「白人は黒人より遺伝的に知能が高いので白人だけの都市に集まって住めばいい」という思想で、かつて白人が黒人を排除したのと逆の発想だ。このため彼の本は、アメリカでは出版できなかった。

これ以上の話は政治的に正しくないので、10月21日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。






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