円安で東京を「国際金融センター」に

金融化の世界史 ――大衆消費社会からGAFAの時代へ (ちくま新書)
FRBが0.5%の利上げを決めたが、マーケットは織り込みずみで、ドル円は落ち着いている。しかし日銀の金融抑圧が変わらない限り、日米の金利差は拡大する。その長期的な水準が何によって決まるかはむずかしい問題だが、日本の貯蓄過剰が続く限り、自然利子率もゼロに近いので、海外の金利が上がると円安になる傾向は止まらないだろう。

このように金融が世界経済の均衡水準を決める変化は、それほど新しいものではない。本書も指摘するように、経済の金融化は18世紀に大英帝国が始めたものだ。実物資源は植民地に置き、資本家は海外投資で大きなリスクを負担する代わりに金利を得る。その意味では、資本主義は生まれたときから金融資本主義だった。

それがITで加速したのが、1990年代以降のグローバル化である。金融技術の発達でリスクと資産が分離されると、国際資本移動で実質金利が均等化する。ゼロ金利とインフレで実質金利を抑える日銀の一国ケインズ主義は、海外の金利が上がると大幅な円安をもたらすのだ。

これは輸入インフレで大多数の国民を窮乏化するが、対内直接投資のコストを低下させる。東京を「国際金融センター」にするという小池知事の構想は、今は夢物語だが、1ドル=150円ぐらいになれば不可能ではない。それには法人税の引き下げが必要だ。

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赤字国債の禁止は「戦後レジーム」か

ウクライナ問題を受けて、来年度予算の防衛費増額が焦点になっているが、WiLL6月号の安倍元首相と北村滋氏(前国家安全保障局長)の対談の中に、ちょっとおもしろい話がある。安倍氏は「赤字国債の発行を禁じる財政法4条は戦後レジームそのものだ」というのだ。財務省の逐条解釈にはこう書かれている。

第四条は、健全財政を堅持していくと同時に、財政を通じて戦争危険の防止を狙いとしている規定である。

戦争と公債がいかに密接不離の関係にあるかは、各国の歴史をひもとくまでもなく、我が国の歴史を見ても、公債なくして戦争の計画遂行の不可能であったことを考察すれば明らかである。公債のないところに戦争はないと断言し得るのである。したがって、本条はまた憲法の戦争放棄の規定を裏書保証せんとするものであるとも言い得る。

安倍氏はこれについて2016年の衆議院本会議で、共産党の質問に対して「これは財政の健全性の規定であり、戦争の防止は立法趣旨ではない」と否定した。逐条解釈は役所の法令解釈だから、それを首相が否定するのは異例だが、この解釈は誤りである。

財政法4条で定めているのは、公共事業に使う建設国債(特例公債)である。それ以外の経費については、毎年国会で特別法を立法して国債を発行する。これが赤字国債であり、予算案とは別に議決が必要だ(財務省の解説)。

これも儀礼化した手続きなので、実務的には建設国債と赤字国債の区別は無意味だが、来年度予算では重要になる。防衛費は将来世代の資産になるので、社会保障のように今の老人が食いつぶす消費支出とは違い、公共事業に近いのだ。

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「保安規定」の変更認可は再稼動の条件ではない

4月29日のアゴラの記事について、関係者からコメントをいただいたので、細かいことだが補足しておく(業界関係者以外は読む必要がない)。

全国の原発を止めている田中私案には法的根拠がないが、唯一の根拠とされているのは保安規定(発電所の安全設備などについて電力会社が書いた文書)である。

特重(特定重大事故等対処施設)の審査で、関西電力の美浜3号機では「新規制基準への適合性確認に係る保安規定変更認可申請を行い、本日、原子力規制委員会より認可をいただきました」と書かれている。

関電も保安規定の認可が運転開始の条件だと解釈しているが、これは誤りである。それは原子炉等規制法(第43条-3-24)の条文からも明らかだ。

発電用原子炉設置者は、原子力規制委員会規則で定めるところにより、保安規定を定め、発電用原子炉施設の設置の工事に着手する前に、原子力規制委員会の認可を受けなければならない。これを変更しようとするときも、同様とする。

安念潤司氏が指摘したように、保安規定は最初に原発を設置するときの規定で、運転とは無関係である。続きを読む

日経新聞の知らない再エネの「本当のコスト」は1万倍

最近の電力危機で、日経も「カーボンゼロ」のキャンペーンをやめておとなしくなったと思ったら、また「太陽光の電気落札価格、火力の半分以下」という記事を書いている。それによると平均落札価格が今年3月の入札で初めて9円台になり、図のように火力を下回ったという。

図表(太陽光の電気落札価格、火力の半分以下 再エネに追い風)

これが本当なら朗報である。ただちにFIT(固定価格買取)を廃止して、自由に競争すべきだ。そうすれば燃料費のかかる火力は、燃料費ゼロの太陽光に勝てないので撤退し、夜間の発電はほぼゼロになるだろう。いま起こっている電力危機の本質的な原因は、このような過少投資である。

こういう問題が起こるのは、再エネ業者がコモンズ(共有資源)である電力インフラにただ乗りしているからだ。日経は「蓄電池などの付帯設備を考慮しても10円を割る」と書いているが、これは再エネが電力の一部だけを供給している場合だ。太陽光だけで電力を100%供給するには蓄電池が必要だが、そのコストは図のように9.8万円/kWh。火力の1万倍だが、これでも2時間しか蓄電できない。

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業務用の蓄電コスト(エネ庁資料より)続きを読む

日本は世界最古の「定住社会」

縄文人からの伝言 (集英社新書)
考古学では、いま大きな時代の書き換えが起こっている。20世紀末まで「縄文時代」といえば、1万2000年前以降の「完新世」に始まった新石器時代の後期と考えられていたが、最近の放射性同位元素(14C)による正確な年代測定の結果、最古の土器は1万6500年前のものだとわかったからだ。それが発見されたのは日本である。

これは「完新世に地球が温暖化して農業が始まり、人々が定住して土器をつくるようになった」という従来の歴史観をくつがえした。氷河期にも土器があったことは、定住生活の開始が従来の想定よりはるかに早かったことを示唆している。

他方で日本で農業が始まったのは、いくらさかのぼっても2500年前の弥生時代からなので、日本では、最長1万4000年も農業なき定住社会が続いたことになる。著者はそれが昭和30年ごろまで続いたという。世界最長の定住生活を続けた日本人は、それに適応する文化を形成したのだ。

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原子力規制委員会に「再稼動の是非」を判断する権限はない

東洋経済オンラインに掲載された細野豪志氏の「電力危機に陥る日本「原発再稼働」の議論が必要だ」という記事は正論だが、肝心のところで間違っている。彼はこう書く。
原発の再稼働の是非を判断する権限は原子力規制委員会にある。原子力規制委員会の頭越しに政府が再稼働を決めることは法律上できない。原子炉等規制法で「原子力規制委員会の確認を受けた後でなければ、その発電用原子炉施設を使用してはならない」、すなわち再稼働することはできないと規定されている。

これは誤りである。内閣は2014年2月21日の答弁書で「発電用原子炉の再稼働を認可する規定はない」と表明しているからだ。再稼動を認可する規定がないのに、原子力規制委員会にその「是非を判断する」権限があるはずがない。

マスコミでは再稼動という言葉は「新規制基準を満たして運転する」という意味で使われるが、そんな言葉は法律にない。新規制基準に適合しなくても、既存の基準にもとづいて運転できるからだ。

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1ドル=150円の世界



1ドル=130円になったが、日銀の黒田総裁のきょうの記者会見は、円安を止める気がないことを示している。それは一つの考え方である。円安で輸入インフレが起これば、2%のインフレ目標は達成できる。任期があと1年の彼にとっては最後のチャンスだ。

もう一つの理由は、彼がインフレより円安の効果を重視しているからだろう。物価が2%上がってもほとんど生活に影響はないが、民主党政権時代の1ドル=80円が黒田時代に120円になったことは大きな影響をもたらした。日経平均は8000円から2万円になり、輸出産業は息を吹き返し、インバウンドで観光業は急成長した。

しかし130円以上の円安になると、輸入品の価格が上がって100円ショップはなくなり、電気代やガソリン代は大幅に上がるだろう。インフレ率は2%をオーバーシュートするが、黒田総裁は「安定的に2%」になるまで量的緩和をやめないだろう。

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ISバランス(兆円)と為替レート(右軸)

ここで円安予想が形成され、キャピタルフライトが起こると、2000兆円の家計金融資産の1割でも動けば、一挙に1ドル=150円ぐらいになる可能性もある。これは1985年のプラザ合意のあと「円高で大変だ」と騒がれた時期と同じで、それほど驚くべき水準ではない。では何かいいことがあるだろうか。

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「資源インフレ」を止めるには原発再稼動が必要だ

岸田政権の「物価高対策」が発表された。「インフレ対策」とか「円安対策」といわないところがポイントである。3月のコアCPIでも0.8%と、日銀のインフレ目標2%に達していないのに、なぜ物価高対策なのか。

参議院選挙の前にバラマキをやるため、当初は使い残している予備費でやろうとしたが、公明党が「補正」という形を求めたので、6.2兆円の事業規模になった。経済政策としては無意味な補正予算である。

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日本企業の生産性を低下させる「負の退出効果」

いま円安が起こっている原因は、ある意味では単純である。2年前のブログでも書いたように、日本が慢性的に貯蓄過剰(内需不足)で、経常収支の黒字(外需)がないと需要不足が埋められないからだ。この貯蓄超過は1ドル=130円では埋まらない。むしろ資源インフレで経常収支は赤字になったので、さらに円安は進むだろう。

では1ドル=150円になったら、アジアに逃げた生産拠点は日本に帰ってくるだろうか。残念ながら、そうは行かない。150円になったら人件費(単位労働コスト)は中国より安くなるが、問題は人件費ではなく、アジアの市場が成長しているからだ。人口の減る日本に投資するより、アジアで生産してアジアで売るほうが効率的である。

もう一つの原因は、日本の生産性(TFP)の低下である。その原因は技術だけではない。企業が撤退するとき、普通は古い工場をつぶして新しい工場を残すが、星岳雄氏の指摘するように、日本ではその逆に新しい工場が退出して古い工場を残す負の退出効果が強まっている。

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負の退出効果(権赫旭氏の調査)

その原因は、新しい工場の最新技術をもつ要員をアジアの生産拠点に配置転換し、古い工場は雇用維持のために残すからだ。その結果、国内工場の平均稼働期間が延び、ゾンビ化が進行しているのだ。

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超円安で「キャピタル・フライト」は起こるか



円が暴落している。1ドル=130円になるのは時間の問題だろう。鈴木財務相は「悪い円安」だといって協調介入を示唆している。日銀の黒田総裁は「急速な円安は望ましくない」というが、日銀が長期金利を0.25%に抑える「指し値オペ」を続けるかぎり、日米の金利差は拡大し、円安の流れは止まらない。

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