退屈の小さな哲学

退屈の小さな哲学 (集英社新書)
人生は意味のない長い暇つぶしである。そういう認識は古代ギリシャからあったが、退屈は近代ヨーロッパの現象だと本書はいう。それを最初に明晰に書いたのはパスカルである。彼は『パンセ』の有名な断章で、人生を「気晴らし」と定義する。
私たちのみじめさを慰めてくれる唯一のものは、気晴らしである。しかしこれこそみじめさの最たるものだ。なぜなら、それは自分について考えるのを妨げ、知らず知らずのうちに滅びに至らせるからだ。それがなかったら私たちは退屈に陥り、この退屈から脱出するためにもっと確実な方法を求めるように促されたことだろう。ところが気晴らしは時間をつぶし、知らず知らずのうちに私たちを死に至らせるのだ。
近代人が退屈するようになった原因は、神を失ったからだとパスカルはいう。生活に追われていた民衆には、退屈する暇がなかった。貴族や聖職者は暇だったが、退屈しなかった。人生は神の国に至る過程であり、いつも神に救われるように努力する必要があったからだ。人々にそういう目的を与えるのが教会の仕事だった。

しかし民衆も豊かになると暇を持て余し、彼らが信仰を失うと人生は退屈になる。キルケゴールは「退屈はいっさいのわざわいの根源だ」と強調した。人々は退屈をまぎらわすためにユダヤ人を迫害し、長い平和に飽きると戦争を求める。つねに外部に敵をつくらないと、自分が死に至るみじめな存在だという現実に直面するからだ。

続きは12月3日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

ゴーンと「密約」を結んだのは誰か

ゴーン事件は毎日のように数字が変わるので、先週の記事を訂正しておく。そのときは日経が「SAR40億円」、朝日が「退任後の顧問報酬80億円」と報じて、どっちが正しいのかわからなかったが、その後日経はSARについて書かなくなった。どうやら「顧問報酬」が本筋らしい。

その内訳をNHKは「退任後に競業に就くことを避けるための契約金としておよそ35億円、役員退職の慰労金としておよそ25億円、コンサルタントの契約金としておよそ20億円」と書いているが、ゴーンが年俸20億円のフォードから二度にわたって引き抜きを受けたことへの対抗策だったとすれば、異常な金額とはいえない。

問題は有価証券報告書にそれを開示しないで、8年間にわたって「総額10億円」と記載したことだ。これについてけさの日経は、ケリーが「外部の法律事務所や金融庁などに問い合わせて処理した」と供述し、有報への記載は必要ないとの見解が記されていたと報じている。2011年から個別開示するとき、金融庁から了解を得ていたとすれば、逮捕容疑である金商法違反は崩れる。

続きはアゴラで。

感情にも普遍的な合理性がある

モラル・エコノミー:インセンティブか善き市民か
ゴーンの強欲を指弾するワイドショーは合理的だ。利己的な欲望を追及する悪者を憎む感情は、類人猿にもみられる本能だからである。こういう利他的感情は多くの未開民族にもみられるが、新古典派経済学の想定するように個人の欲望だけを最大化する利己的行動はほとんどみられない。

これは著者が多くの社会実験で実証したが、意外に重要な発見である。たとえば猿がもらったキュウリを投げ返す行動は合理的とはいえないが、不公平に怒る感情は必要だ。餌を独占する利己的な猿を放置すると、集団が滅亡してしまうからだ。そういう遺伝的な感情を文化的に制度化したものが道徳や宗教である。

近代社会では合理性だけが普遍性をもち、道徳はそれぞれの社会に特殊だとされているが、強欲を憎む感情も自己犠牲を好む感情も世界共通だ。市場やデモクラシーを動かすのが理性ではなく、大衆の感情だという事実も普遍的なので、そういう感情がどのように(遺伝的・文化的な)進化で生まれるのかを解明する「感情の科学」が必要だろう。

続きは12月3日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

ゴーンの役員報酬は「もらい過ぎ」か

世間では「ゴーンは所得を隠して会社に豪邸を買わせた強欲な経営者」というイメージができているようだが、社宅は逮捕容疑とは無関係だ。役員報酬の虚偽記載は違法だが、彼が巨額の報酬をもらっていたこと自体を批判するのはおかしい。疑惑の指摘されている2011~15年の彼の役員報酬をルノーと合算すると、年平均1460万ドル。GMとほぼ同じで、クライスラーやフォードよりはるかに低い。

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世界の自動車メーカーのCEOの年収(単位100万ドル)Bloomberg調べ

これを安いとみるか高いとみるかは、その基準による。フォードはゴーンにCEO就任を打診したことがあるが、そういう「経営者市場」の相場でみると、ゴーンの日産CEOとしての年収10億円は安い。「これぐらい払わないと優秀な人材は採れない」という彼の言い分にも一理ある。

「巨額の役員報酬は生産性に見合わない」という批判も強いが、これも何を生産性の基準とするかによる。ゴーンの役員報酬は日産の平均賃金700万円の140倍だが、経営者の生産性を労働時間で測ることはできない。経営者を生産要素と考えると資本財に近いので、ゴーンが企業価値をいくら上げたかを基準にすることが考えられる。最新鋭の工場で企業価値が20億円上がるなら、その工場の建設に10億円払うことは合理的だ。

1999年にゴーンがルノーから派遣されたとき、日産の負債は2兆円で債務超過の危機に瀕していたが、今の時価総額は約4兆円。20年前の企業価値をゼロとすると、彼は4兆円の価値を生み出したことになる。この20年間に累計200億円の役員報酬をもらったとすると企業価値の0.5%だから不当に高いとはいいきれないが、問題は企業価値の増加のうちゴーンの貢献はどれだけかということだ。

続きは11月26日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

地球温暖化を止める確実だが危険な技術

IPCCは10月に出した1.5℃特別報告書で、2030年から2052年までに地球の平均気温は工業化前から1.5℃上がると警告した。これは従来の報告の延長線上だが、「パリ協定でこれを防ぐことはできない」と断定したことが注目される。

温暖化を防ぐ手法として、IPCCは大気の組成を変える「気候工学」の技術をいろいろ検討しているが、その中でもっとも安価で効果的なのはSAI(成層圏エアロゾル注入)である。IPCCも、SAIで確実に1.5℃上昇に抑制できると認めている。



続きはアゴラで。

猿にも道徳や「公平」の感情がある

道徳性の起源: ボノボが教えてくれること
日産の事件についてのマスコミの論評をみると「何が事実か」には関心がなく、「ゴーンは強欲だ」とか「会社を私物化した」という類の決めつけが多い。読者には「善か悪か」という価値判断が、事実認識より強くアピールするからだろう。これは「犯罪の認定は事実にもとづかなければならない」という近代国家の原則とは違うが、ほとんどの社会では「敵か味方か」で正義が決まる。

これには遺伝的な根拠がある。狩猟採集民が草原で見知らぬ男と出会ったとき、彼が何者であるかを確認している間に、向こうが石を投げてきて殺されるかもしれない。まず敵か味方かを識別して敵を攻撃し、味方とは協力する感情が、反射的な「速い思考」になったと考えられる。

そういう感情を道徳と呼ぶとすれば、最近の実証研究では、類人猿にも道徳があることがわかってきた。猿は利己的に行動するだけではなく、必要なときには他の猿と協力する。他の猿と平等に扱ってもらわないと怒る「公平」の感情も持っている。この実験では、隣の猿と同じ餌をもらえなかった猿は、怒って餌を投げ返す(13:00以降)。


続きは11月26日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

ゴーン事件は「役員報酬飛ばし」か「経営統合つぶし」か



きのう日産の取締役会で、カルロス・ゴーン会長が全会一致で解任された。これを日経新聞は「あまりにひどい」という見出しで報じたが、ル・モンドは「経営統合を恐れた日産側が解任を急いだ」と報じた。どっちの筋書きもありうるが、この事件はまだ疑問が多い。

続きはアゴラで。

ゴーン逮捕は「経営統合つぶしのクーデタ」か

ゴーン事件は各社の報道で徐々に全容がわかってきたが、まだ辻褄のあわない部分が多い。最大の謎は、なぜ最高経営者を逮捕という荒っぽい方法で引きずり下ろしたのかということだ。ゴーンと経営陣の間に紛争があったことは事実らしいが、普通は社内で処理するだろう。それがいきなり刑事事件になった原因には、いくつかの推測がありうる:
  1. 社員からの内部通報で不正が判明し、検察に相談した
  2. 検察の内偵で虚偽記載が追及され、司法取引に応じて情報を提供した
  3. 社内の「反ゴーン派」が既知の不正を利用してクーデタを決行した
1は記者会見で西川社長の説明したストーリーだが、有価証券報告書で「株価連動型インセンティブ受領権」の欄が会長だけ0円になっている単純な虚偽記載に、経営陣が今年の内部通報まで気づかなかったとは考えにくい。他の私的流用も社内では公然の秘密だったといわれ、今ごろわかった話ではないだろう。

では2のように捜査の手が及んで、経営陣がゴーンをスケープゴートにして逃げようとしたのか。これも考えにくい。検察の捜査は普通、内部からの売り込みで行われるが、ゴーンが逮捕されると日産にとって大きな打撃になる。事情を知る社員が、社内の手続きを飛び越えて検察に通報することは、常識では考えられない。

となると消去法で、3のような見方になる。これについては社長会見で否定していたが、FTは「日産・ルノーの統合を計画していたゴーン氏」という記事を出している。ゴーンが日産をルノーに経営統合しようとして日本の経営陣と対立し、経営陣がゴーンを解任するために検察を利用したという話だ。今のところ推測の域を出ないが、これが一番ありそうな話だ。

続きは11月26日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

最高経営者が会社を欺くとき

きのうの記事の一部訂正。この記事でも書いたように、私を含めて多くの人が「有価証券報告書の虚偽記載で逮捕ってどういうこと?」と疑問をもったと思うが、日経新聞の19時の記事が、その疑問を解いてくれた。

常識的には、役員報酬の支出は財務部門を通り、取締役会で承認するので、会長個人が虚偽記載することは不可能だが、ストックオプション(新株予約権)などの権利は必ずしもそうではない。これは2011年の日産の有報だが、右端の「株価連動型インセンティブ受領権」(SAR)の欄が、ゴーン会長だけゼロになっている。彼は実際には、5年で40億円のSARを自分に付与したという。


続きはアゴラで。

ゴーン逮捕から見えるグローバル資本主義の闇

きのう日産のゴーン会長が逮捕された容疑は「役員報酬の虚偽記載」という金融商品取引法違反だったので報道が混乱したが、これは本筋ではない。まだ全容は不明だが、今のところわかった情報を整理しておくと、事件の概要は次のようなものだ:

続きはアゴラで。






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