日本企業の戦略は出世競争に従う

組織は戦略に従う(Structure follows strategy)というのはチャンドラーの有名な言葉だが、実際の組織はその逆になることが多い。組織を変えるにはコストと時間がかかるが、戦略を変えるコストはそれより低いからだ。特に日本の大企業では長期的関係が強いので、戦略は出世競争に従う傾向が強い。

日本のサラリーマンの賃金は年功序列で競争がないといわれるが、出世競争は激しい。総合職は全国に転勤するので、「本流」ポストにつくかどうかが人生を左右する。「傍流」に入ると下流に行くに従って差が大きくなり、入社10~15年で回復不可能な差がつく。異動は学生でいうと成績評価のようなものだが、サラリーマンの通信簿は社内の全員に公開されているわけだから残酷である。

35歳ぐらいで「自分は本流をはずれたな」ということはわかるが、そのころはつぶしがきかない。ハローワークに行っても、大企業の年収1000万円のサラリーマンよりいい仕事はまずない。このようなタコ部屋で競争することが、よくも悪くも日本のサラリーマンのインセンティブを特徴づけ、企業戦略を決めている。

続きは4月17日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンでどうぞ。

「一国平和主義」という病気はなぜ生まれたか

ジョージ・F・ケナン回顧録II (中公文庫)
米空母カール・ビンソンが朝鮮近海に出動して緊張が高まっているが、「戦争法案」に反対した野党やマスコミは妙に静かだ。世界に平和主義と呼ばれる思想はあるが、「憲法第9条で日本を守る」という一国平和主義は特殊日本的な病気である。それが生まれた背景には、歴史的な経緯がある。

分かれ目は、1951年の吉田=ダレス会談だった。一般には、朝鮮戦争に直面して日本に再軍備を迫るダレスの要求を吉田が拒否し、アメリカはやむなく日米地位協定(および安保条約)で米軍を駐留させたことになっているが、これは不自然である。まだ占領下だったのだから、日本の実質的な「主権者」だったアメリカが日本に再軍備を強制することはむずかしくなかったはずだ。

ジョージ・ケナンは本書で「1950年春には、講和条約締結後もアメリカ軍を無期限に日本に駐留させることは決定されていた」という。これは6月に始まった朝鮮戦争の前であり、最初から米軍が駐留することは前提で、ダレスは日本が再軍備して日米同盟に参加することを求めた。しかし朝鮮戦争に巻き込まれることを恐れた吉田は、それに反対した。

つまり米軍の駐留か日本の再軍備かという選択ではなく、米軍および再軍備か米軍だけかの選択だったわけだ。当時の判断としては、これはおかしくなかった。米軍の圧倒的な軍事力に比べれば「保安隊」の兵力はわずかなもので、憲法第9条は日本を無力化して、戦前のような脅威になることを防ぐ意味もあった。しかしその後の(ケナンの理論にもとづく)冷戦で、状況は大きく変わった。

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ユナイテッド航空の事件から日本企業が学ぶべきこと



ユナイテッドのオーバーブッキング事件は、警察官が法を執行しただけで大した話ではない。交通違反で容疑者が検挙されたようなものだが、たまたま容疑者がケガをした動画が世界に拡散されたため、UAの株価が5%も下がる事件になった。Economistが指摘するように、この事件は企業にとって重要な教訓を含んでいる。
  1. 事前のリスク管理と事後のダメージ・コントロールは違う:UAはこの種の事件の対応をマニュアルで詳細に決めていたと思われるが、それでも今回のように異常な「クレーマー」が出てくる確率はゼロではない。そのときの危機管理はマニュアルにこだわらず、トップに連絡すべきだ。
  2. 法的に正しくても感情的に正しくないことがある:オーバーブッキングは合法で、乗客が乗務員の指示に従わなかった場合には警察を呼べるが、これは最後のオプションにすべきだ。法とは暴力なので、実際に執行すると反発をまねく。
  3. ネット情報を軽視してはいけない:今回の事件は4月9日に起こったが、UAの広報が公式のコメントを発表したのは11日で、それも「オーバーブッキングではない」というものだった。これは嘘ではないが、さらに世界のメディアを憤激させた。
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オーバーブッキングを戦略的に考える

UAの事件はアゴラ経済塾の教材に最適なので、おさらいしておこう。UAの説明では、これはテクニカルには「オーバーブッキング」ではなく、乗客を全員機内に入れてから、乗員(翌日の便のパイロット2人とCA2人)を乗せるために「800ドルのクーポンと航空券とホテル1泊」の取引を申し出たが、応じる客がいなかったので、4人を無作為に選んだ。うち1人が取引を拒否したので、警察を呼んで排除したという。

これは警察を呼ぶところまで含めて、UAの約款の通りだ。通常は搭乗カウンターでオーバーブッキングを調整するが、航空会社としてはカウンターで最後の数名と取引するより、乗客全員と取引したほうが成立しやすい(今回もカウンターで取引が成立しなかった可能性がある)。しかし乗客にとっては、いったん搭乗してから降りるのは抵抗が強い。

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これがEconomistの指摘するように「非自発的な搭乗拒否」がUAに多い原因だが、航空会社の選択の幅は「高くてサービスがいい」から「安くて悪い」まで広いほうがいい。オーバーブッキングの問題はゲーム理論で昔から知られており、オークションで解決すべきだというVickeryの1972年の論文がある。

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オーバーブッキングは合理的である



ユナイテッド航空の機内から乗客が引きずり出された事件で世界中が盛り上がっているが、これは誤解である。直前にキャンセルする乗客が一定の比率で出るので、定員以上の乗客の予約を受け付けるオーバーブッキングは合法的であり、世界中の航空会社がやっている。

続きはアゴラで。

孫正義氏はなぜ日本一の富豪になったのか

今年のForbes誌の長者番付で、ソフトバンクグループ社長の孫正義氏が資産総額を204億ドル(約2兆2640億円)に増やし、3年ぶりに首位になった。彼がここまでリッチになった原因は何だろうか。その原因をアゴラ経済塾で使っているゲーム理論で考えてみよう。



続きはアゴラで。

ハル・ノートは「最後通牒」だったのか

ハル・ノートを書いた男―日米開戦外交と「雪」作戦 (文春新書)日本が開戦を決意したきっかけは、1941年11月26日にアメリカ政府から出された日米協定案(ハル・ノート)だといわれている。特にその第3項の撤兵条件が問題だった。
The Government of Japan will withdraw all military, naval, air and police forces from China and from Indo-China.
日本語訳でも「日本の支那及び仏印からの全面撤兵」となっているが、東條英機はそれを「支那全土(満州を含む)からの撤兵」と解釈し、これを「最後通牒」だと考えて戦争を決意した(東京裁判の供述)。パル判事の意見書もそういう解釈で、安倍首相も同じだと思われる。

ところがハル・ノートの原案(11月22日案)では"China (excluding Manchuria)"と明記されていた。外務省(野村大使と東郷外相)もそう解釈しており、アメリカの要求が満州からの撤兵を含まないのなら日本にも受け入れる余地はあった。ところ軍は「満州を含む」という存在しない言葉を挿入して理解し、戦争を決意したのだ。

その原案となったモーゲンソー財務長官の案では"China (boundaries as of 1931) "と書かれており、これは「1931年以降の国境」つまり満州国を除く中国という意味だ。モーゲンソー案を書いたのは財務長官の特別補佐官バリー・ホワイトだが、彼はソ連の工作員と接触していた証拠がある(ヴェノナ文書)。このため「ホワイトがソ連の意を受けて最後通牒を書いて日本を戦争に追い込んだ」という説があるが、本当だろうか。

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戦略的思考の技術

戦略的思考の技術―ゲーム理論を実践する (中公新書)
アゴラ経済塾「合理的に考える」では、本書をテキストにして「戦略的な思考」を学ぶ。戦略というのは政治家やコンサルの好きなバズワードだが、本書の戦略はそういう飾りではなく、ゲーム理論である。というと「囚人のジレンマ」を思い浮かべる人が多いと思うが、本書には囚人のジレンマは出てこない。それは本来の意味での戦略的なゲームではないからだ。

囚人のジレンマでは、他人の行動によらずつねに裏切ることが最適な支配戦略なので、カネを借りたら踏み倒すことが合理的で、それを予想するとカネを貸さないことが唯一の均衡状態だ。これは事実に反するので、それを説明するために「繰り返しゲーム」を考えるが、同じ相手と同じ取引を永遠に繰り返すことはありえない。

本書は囚人のジレンマを使わないで、いろいろな状況に対応した戦略を考える。出てくる例は「寓話」だが、大事なことは相手がベストをつくすと考えて自分の戦略を考えることである。「憲法第9条があれば北朝鮮は攻撃してこない」というのは、戦略的な思考ではないのだ。

続きは4月10日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンでどうぞ。

「世界の警察」は合理的ではないが必要だ



今週からアゴラ経済塾「合理的に考える」が始まったが、毎日その教材が(不幸なことに)提供されている。Vlogでは北朝鮮を例にしたが、「北朝鮮と日本」を「シリアとアメリカ」に置き換えても同じだ。

続きはアゴラで。

【更新】戦争という「チキン・ゲーム」を解決する戦略

朝鮮半島やシリアで、情勢が緊迫してきたので更新。戦争を安全保障のジレンマと考えて、協力から入って裏切りには報復する「しっぺ返し」(Tit-For-Tat)を最適戦略と考える人が多いが、これは誤りだ。くわしい証明は、たとえばBinmore-Samuelsonにあるが、TFTは2人ゲームでは強いが、一般的な多人数ゲームでは、つねに裏切るGRIMのほうが強い。

そもそも安全保障のジレンマでは戦争が唯一の解(支配戦略)なので、平和を説明できない。長谷部恭男氏もこの点について「国際政治は囚人のジレンマではなくチキン・ゲームだ」というが、ここではナッシュ均衡が一つに決まらないので、自衛隊の「実質的な根拠は条文の外側にある」というように論理が迷走して結論が出ない。これは出発点が間違っているからだ。続きを読む






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