裏切り者が協力の進化を生む

協力と裏切りの生命進化史 (光文社新書)
人類は協力で進化してきたが、これは進化の歴史の中では例外である。個体数でみると圧倒的に多いのは細菌で、1031ぐらい。それ以外のすべての生物を合計しても、細菌の1/10万もいない。つまり進化の大部分は、単細胞生物の競争なのだ。

ではどうやって競争の中から協力が生まれたのだろうか。多細胞生物が生まれたのは、光合成細菌が原核生物に細胞内共生して葉緑体になり、好気性細菌が細胞内共生してミトコンドリアになったためだというのが通説だが、そのきっかけは細菌の感染や捕食で、仲よくすることが目的だったわけではない。

同じような協力は、社会性昆虫や人類の社会性の進化にもみられるが、これをゲーム理論のしっぺ返し(TFT)で説明する本書の議論は誤りだ。TFTが強いのは1対1のトーナメントだけで、不特定多数の対戦では、つねに裏切り続ける戦略が最強である。協力は裏切りによって集団が崩壊するリスクをはらむ、不安定な戦略なのだ。

癌細胞も裏切り者だから、増殖すると宿主は死に至る。それを防衛するために免疫機構が癌細胞を攻撃するが、それに耐性をもつ癌細胞が生まれ、さらにそれを攻撃する免疫が進化する…という進化的軍拡競争が起こる。これは無駄なようにみえるが、癌細胞という裏切り者が免疫の「軍事同盟」を強化し、協力の進化を生み出しているのだ。

続きは3月25日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

記者クラブは「国民の代表」ではない



朝日新聞の大野博人編集委員が「選挙に通れば「国民の代表」か」という奇妙なコラムを書いている。東京新聞の望月衣塑子記者の騒動をめぐる菅官房長官の「国民の代表は国会議員であって新聞記者ではない」という見解がお気に召さないらしい。

続きはアゴラで。

銀行システムの生み出す過剰債務という病

債務、さもなくば悪魔 ヘリコプターマネーは世界を救うか?
最近は日本でもMMT(Modern Monetary Theory)が話題になってきたが、これはアメリカの問題ではない。「政府が自国通貨を印刷できる限り財政赤字は問題ではない」というMMTの主張はヘリコプターマネーとほぼ同じで、日本は大規模なヘリマネをすでに実行している。著者も指摘するように、日銀の「異次元緩和」は、財政赤字を中央銀行が埋める点ではヘリマネと同じだ。

違うのはあくまでも日本の国債は将来、償還するという建て前になっていることだ。日銀の量的緩和はインフレ目標を実現するためで、財政ファイナンスではないというのが黒田総裁の公式見解だが、それを信じる人は少ない。財政ファイナンス(本書ではマネタリーファイナンス)は法的には禁じられていないし、禁じる理由も明らかではない。「財政規律が失われる」というが、財務省への信頼は高い。

問題はそこではない。日本の財政が危機的だという診断は著者も同じだが、その処方箋はまったく違う。政府の過剰債務の原因は、1990年代のバブル崩壊から始まった民間の過剰債務だった。それを生み出したのは、決済機能という公共インフラを私的な銀行が独占して通貨を増殖させる信用創造というシステムだ。そのリスクは財政ファイナンスより大きい、というのが著者の警告である。

続きは3月25日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

日本最強の「岩盤」はマスコミである

岩盤規制 ~誰が成長を阻むのか~ (新潮新書)
望月衣塑子記者は、マスコミの特権意識を象徴する道化である。彼女がトンチンカンな質問を繰り返しても首相官邸に入れてもらえるのは記者クラブに加盟する東京新聞の記者だからであり、フリーランスだったらとっくに出入禁止だ。彼女はそういう談合の存在にも気づいていない。

本書に書かれている去年の規制改革推進会議でも、最強の「岩盤」はマスコミだった。今まで聖域になっていた電波利権に安倍政権が手をつけたのはよかったが、電波オークションを恐れた放送・新聞業界が反対キャンペーンを繰り広げ、出てきたのは電波利用料だけだった。

このとき読売新聞から朝日新聞までそろって展開した「放送法4条」騒動は、意味不明のキャンペーンだった。放送局に政治的公平性を義務づける4条の規定は表現の自由を侵害するので撤廃しろというならわかるが、それをなくすなというのはわけがわからない。ケーブルテレビや通信衛星で多チャンネル化した先進国では、とっくにコンテンツ規制は撤廃されている。

本書によると、規制改革推進会議の最初の段階で、放送が多チャンネル化すると4条の規制もいらなくなるという議論が出たという。これは当たり前の話だが、マスコミは多チャンネル化には反対できないので、それと一体になっている4条の話だけつまみ食いして「偏向報道が出てくる」と騒いだのだ。

続きは3月18日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

平成はなぜ失敗したのか

平成はなぜ失敗したのか (「失われた30年」の分析)
平成の時代は、1990年のバブル崩壊から始まった。野口悠紀雄氏はその前から「これはバブルだ」と警告した数少ない専門家だが、バブル崩壊のような金融の問題は日本経済の失敗の本質ではないという。

1990年代は、世界の産業構造に大きな変化の起こった時期だった。冷戦が終了してグローバル化が起こり、特に中国が世界市場に参入してきた。これに対してアメリカ企業は競争力を失った製造部門を海外移転して水平分業し、グローバル化によって大きな利益を上げた。

しかし日本企業は雇用維持のため国内に工場を持ち続け、水平分業の流れに乗り遅れた。電機産業は中途半端な規模とコモディタイズした製品で中国との競争に敗れ、日本の「輸出立国」モデルは崩壊した。このような構造問題を「デフレ」ととらえて金融政策で打開しようとしたアベノミクスは失敗に終わり、財政危機だけが残った。

こういう著者の見方は経済学者の主流で、私もおおむね同感だが、供給面だけでは2010年代の状況はうまく説明できない。財政危機なら金利が上がるはずだが、日銀が資産買い入れのペースを毎年80兆円から30兆円に落としても、長期金利はマイナスだ。これほど企業の資金需要が衰えたのはなぜかという需要側の問題も考えないと、日本経済の陥っている隘路はわからないのではないか。

続きは3月18日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

アゴラ経済塾「長期停滞の時代」

日本では長期にわたって低成長・低インフレ・低金利が続いています。これはかつては日本の特殊な問題と思われていましたが、今はアメリカもEUも「日本化」し、実質金利がゼロになる世界史上かつてない状況が続いています。

当初これも日本の「デフレ」のように世界金融危機後の一時的な現象だと思われていましたが、最近は構造的な長期停滞だという説が多くなってきました。日本経済が直面する潜在成長率の低下が、先進国に共通の悩みになり始めているのです。

日本の潜在成長率(日銀調べ)

続きはアゴラで。

日本は「金融抑圧」で政府債務を踏み倒せるか

アメリカでは「政府債務は中央銀行が国債を買い取れば相殺できる」というMMT(Modern Monetary Theory)をめぐる論争が続いているが、その実例としてあげられるのが日本である。アメリカでは政府債務がGDPの100%を超えたと騒いでいるが、日本は200%を超え、国債の半分近くを日銀が買っている。

これがMMTの推奨する財政ファイナンスである。社会科学で実験はできないといわれるが、安倍政権は世界最大のMMTの実験をやっているのだ。これほど政府債務が積み上がると普通は金利が上がるが、日銀が国債を爆買いしているのでマイナス金利になっている。これは政府が国民に低利の国債を保有させてインフレで政府債務を軽減する金融抑圧である。

続きはアゴラで。

聖なる天蓋

聖なる天蓋 (ちくま学芸文庫)
私の学生時代には現象学的社会学が流行した。その元祖はシュッツだが、よく読まれたのはバーガー=ルックマンの『現実の社会的構成』だった。本書はその方法論を宗教社会学に応用したものだが、アメリカでは珍しくマルクスの影響が強い。

最初に「社会は一種の弁証法的現象である」と宣言し、「疎外」や「物象化」という言葉が出てくる。宗教を「社会的規範の内面化」と考える主観主義は、統計的な実証に乗りにくいので、社会学界では主流にならなかった。いま読むと、古めかしいホーリズムにみえるだろう。

しかし最近の生物学や脳科学には、ホーリズムがよみがえっている。進化の単位は(多レベルの)集団であり、バクテリアでさえ集団(コロニー)が生き残れなければ個体は生き残れない。人間の脳の第一義的な機能も人間関係の調整であり、その構造は集団を考えないと理解できない。これは昔の社会有機体説とは違う進化論的ホーリズムともいえよう。

続きは3月18日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

エネルギー問題を「経済問題」として考えよう

今年も3・11がやってきた。アゴラでは8年前から原発をめぐる動きを追跡してきたが、予想できたことと意外だったことがある。予想できたのは、福島第一原発事故の被害が実際よりはるかに大きく報道され、人々がパニックに陥ることだ。これは1979年のスリーマイル島事故のときも、1986年のチェルノブイリ事故のときもそうだった。

意外だったのは、その心理的な影響が8年たっても衰えないことだ。これはアメリカよりヨーロッパに近い。スリーマイル島の被害は何もなく、チェルノブイリ事故による晩発性障害(放射性物質による発癌率の増加)の死者は50人しか確認されていないが、事故の当時は全ヨーロッパで「死の灰が降り注いだ」というパニックが起こり、その影響で今も反原発運動が続いている。

続きはアゴラで。

進化の意外な順序

進化の意外な順序ー感情、意識、創造性と文化の起源
人間は自分が知性の進化の最高段階にいると信じているが、たとえば自分で家を建てることはできない。それに対してアリやハチのような社会性昆虫は、何も教わらなくても巣をつくることができる。彼らが遺伝的にもっている巣の構造についての「知性」は、人間よりはるかに高度なものだ。

このような利他性は、単細胞生物にさえみられる。バクテリアのコロニーが絶滅の危機に瀕したとき、個体にとっては不利だがコロニーが生き延びるには必要な「自己犠牲的な行動」を取ることがある。これはもちろんバクテリアに道徳があるからではないが、その原因は何だろうか。

それはホメオスタシス(恒常性)を維持する感情だ、と著者はいう。これは生物の体のバランスを取るという従来の意味ではなく、集団が生き延びるための調整機能という一般化された概念であり、バクテリアでもアリでも人間でも同じだ。集団が維持できなければ個体は維持できないので、全体は個に先立つのだ。

続きは3月11日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。






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