「ミスター現状維持」の代表する日本の政治

今回の総選挙は、何も争点のない退屈な選挙である。岸田首相が「成長より分配」を打ち出し、野党もバラマキを主張する。外交・国防では、野党も日米同盟を認め、何も対立点がなくなった。もう日本では政党政治は機能しないのかもしれない。

政党は身分制議会でできたものだ。イギリスでトーリー党とホイッグ党ができたとき、前者が地主を、後者がブルジョアを代表する党だった。当初は全体の利益に奉仕する議員が徒党(fraction)を組むことは望ましくないとされたが、エドマンド・バークは、利害の一致する人が政党(party)に結集することに積極的な意義を見出した。

バークは政党を「その連帯した努力により彼ら全員の間で一致しているある特定の原理にもとづいて国家利益の促進のために結合する人間集団」と定義した。社会の全員の利害が一致するまで待っていると何も決まらないので、特定の階級の多数決で決めるのが議会政治である。

ところが日本社会には、こういう利害を共有する大集団(階級)がない。日本社会の単位は人間関係で結びついた小集団(家)なので、それを結びつける共通点は現状維持だけなのだ。「ミスター現状維持」と呼ばれる岸田首相は、その意味では久しぶりに自民党らしい首相である。

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自転する組織

一下級将校の見た帝国陸軍 (文春文庫)
第6次エネルギー基本計画が、素案どおり閣議決定された。誰も実現できると思っていないが、目的がわからなくなっても極端な前例主義で、走り出したら止まらない。山本七平のいう自転する組織の見本である。

本書は山本が1944年にフィリピンで砲兵隊の見習士官として体験した軍隊生活を中心に、日本軍の日常を詳細に描いたものだが、山本の特徴はそれを特殊な「狂気」として糾弾するのではなく、普通の日本人による日常的な組織として淡々と描き、同じ欠陥が現代の組織にも受け継がれていることを指摘した点にある。

戦争は全体のために部分を犠牲にするものだから、「自分だけは生き残りたい」という個人の意思を尊重していたら勝てない。しかし日本軍は現場主義で、ボトムアップでものを決めていく。よくも悪くも全体を指揮する超越的主体がなく、インサイダーだけで決めるので、決めるまでに時間がかかるが、いったん決まった前例は律儀に守る。それが自転する組織である。
教壇に立った区隊長K大尉は、改まった調子で次のように言った。「本日より教育が変わる。対米戦闘が主体となる。これを『ア号教育』と言う」と。驚きと、疑問の氷解と、腹立たしさとが入り混じった奇妙な感情のうねりが、一瞬、 私の中を横切った。

欧州では米英軍がシチリアに上陸している。 危機は一歩一歩と近づいており、その当面の敵は米英軍のはず。 それなのにわれわれの受けている教育は、この「ア号教育」という言葉を聞かされるまで、一貫して対ソビエト戦であり、想定される戦場は常に北満とシベリアの広野であっても、南方のジャングルではなかった。(本書p.39)
これは1944年の話である。この自転の原因は何だろうか、という疑問から山本の思索は始まった。

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財政破たんって何?



財務省の矢野事務次官が、文藝春秋に書いた「このままでは国家財政は破綻する」という記事が話題になっています。矢野さんは有名な財政タカ派で、上の図の「ワニの口」というのも矢野さんのアイディアだそうですが、国の財政が破たんするというのは、よい子のみなさんにはわかりにくいと思います。

続きはアゴラで。

【再掲】コルナイ・ヤーノシュ自伝

コルナイ・ヤーノシュ自伝―思索する力を得て
コルナイが死去したので、2006年7月14日の記事を再掲。本書は私のこれまで読んだすべての本の中のベストワンである。

経済学者の伝記がおもしろい本になることはまずないが、本書は例外である。1928年生まれの著者の人生は、20世紀の社会主義の運命とそのまま重なる。著者は共産主義者として青春を過ごし、戦後はハンガリーの社会主義政権のもとで、ナジ首相のスピーチライターもつとめた。

しかしハンガリーの民主化運動は、1956年にソ連の軍事介入によって弾圧された。著者はマルクス主義と決別し、政治の世界を離れて研究者になる。著者は、線形計画法を使って計画経済を効率化する研究を行う。続きを読む

慰安婦は「人身売買」ではなかった

「慰安婦」はみな合意契約をしていた
慰安婦問題にはもう飽き飽きした人が(私を含めて)多いだろう。それが強制連行だったか否かという問題には決着がついたが、韓国がゴールポストを動かし、慰安婦は性奴隷=人身売買だったという「女性の人権」問題にすり替えて、アメリカ民主党の人権派に売り込んだからだ。

この論点で日本が勝つのはむずかしい。人身売買についての証言は多く、自発的な契約だったという直接の証拠はないからだ。アゴラでも紹介したラムザイヤー論文は「契約書は確認できない」と書いて集中砲火を浴びた。

ところが米軍の捕虜尋問調書には、慰安婦の契約について詳細に書かれている。本書はそれを根拠に「慰安婦はみな合意契約していた」というのだが、こういう全称命題は一つでも反例が出てくると崩れる。日本の公娼にも親の借金を返すために身売りする例が多かったので、もっと貧しかった朝鮮半島でそれがゼロだったとは考えられない。

しかし韓国政府のいうように慰安婦はみな人身売買だったという主張は、明らかに誤りである。少なくともビルマで働いていた朝鮮人慰安婦の契約は陸軍が監視し、「自ら署名」していた。これは意外に重要である。それは慰安婦が制度的な「性奴隷」ではなかったことを示しているからだ。

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政府の「自己窮乏化」政策が国を滅ぼす

武士の家計簿 ―「加賀藩御算用者」の幕末維新 (新潮新書)
財務省の矢野事務次官の財政破綻論は、内容的には目新しい話ではないが、矢野氏もMMTも見逃している問題がある。国は債務の増加ではなく歳入の減少で滅びるということだ。それを示しているのが江戸時代の歴史である。

本書の素材は、猪山家という加賀藩の「御算用者」(会計係)の家計を幕末から明治初期まで37年にわたって詳細に記した文書だ。猪山家はもともと格の高い家ではなかったが、幕末には各藩の財政が苦しくなり、財務の専門家が出世した。いわば「理系」の実力派エリートだが、その家でも借金が年収の2倍もあり、金利が年18%もあったので、猪山家は破産の危機に直面した。

そこで1842年に家財道具をすべて売却して借金を返済し、破産を逃れた。猪山家のようなエリートでこうなのだから、下級士族は水呑百姓より貧しかった。各藩の財政も困窮して俸禄(賃金)の遅配や減額が増え、武士はもはや特権ではなく、商売も農業もできない不自由な貧民だった。

幕藩体制が腐敗しなかった最大の原因は、このように実効税率が下がったために武士が絶対的に窮乏化したことだ。次の図のように徳川幕府が始まったころは農業生産高の20%ぐらいあった年貢の実効税率は、幕末には5%足らずになり、各藩の債務は年貢の約3年分になった。

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江戸時代の実効税率(深尾京司ほか『日本経済の歴史2』)

このため廃藩置県で各藩の徴税権を明治政府が奪うと同時に債務も肩代わりしたとき、ほとんどの大名は喜んで徴税権を手放した。これが明治維新のような革命が、驚くほどスムーズに短期間に成功した最大の原因だが、大名はなぜこのような自己窮乏化政策をとったのだろうか?

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格差はグローバルな問題である

入門・世界システム分析
岸田政権は何をしようとしているのかよくわからないが、格差の拡大が今の日本の最大の問題だと考えているようだ。その認識は正しいが、バラマキ給付金や所得税の累進課税といったゼロサムゲームでは問題は解決しない。格差は本質的にグローバルな問題だからである。

本書はウォーラーステインが晩年に自分の理論をやさしくまとめた講演で、格差を考える素材にもなる。従来の歴史学では「産業革命」で発展した資本主義が周辺の途上国を支配したと考えたが、ウォーラーステインは資本主義そのものがグローバルな中心/周辺の構造から生まれたと考えた。

これはフランクやエマニュエルなどの従属理論と呼ばれるマルクス主義の学説である。従属理論は新古典派経済学のように先進国が途上国を援助すれば開発によって豊かになり、世界の所得格差はなくなるという「収斂理論」を批判し、現実には格差が拡大している状況を説明する。

フランクが低発展の発展(development of underdevelopment)という概念であらわしたように、発展途上国を発展できない状況に置くことによって先進国の企業がそれを搾取するシステムである。その発想はマルクス主義だったが、今でも先進国が資本家階級で、途上国が労働者階級と考えると、グローバル化で途上国が搾取され、富が先進国の一部の富裕層に集中する現象を説明できる。

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脱炭素バブルが「資源インフレ」を生みだす

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Economistのカバーストーリーは「不足経済」。今の世界的なインフレの原因は、コロナと脱炭素化と保護主義だという見立てだが、中でも深刻なのは脱炭素化の影響である。

FTも「ガス不足」を特集している。その最大の原因は、脱炭素化の中で石炭の生産が世界的に減少し、天然ガスの需要が増えたことだ。しかしヨーロッパは「ネットゼロ」をめざしているので、ガスへの設備投資は増えない。

このため当面はロシアからのパイプラインに依存せざるをえない。ロシアはこれを政治的に利用し、ガス価格を毎月変動させている。それに頼るヨーロッパは、ロシアの意向に従わざるをえない。ドイツ政府は、プーチンの反体制派弾圧に沈黙している。



しかし最大の敵はヨーロッパにいる。パリに事務局を置くIEAは今年5月、ネットゼロの報告書を発表し、「化石燃料への投資の中止」を呼びかけた。

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高市政調会長と矢野財務次官のバラマキ財政論争

コロナ対策の給付金などを「バラマキ合戦」と批判した財務省の矢野康治事務次官の『文藝春秋』の記事が、さまざまな波紋を呼んでいる。さっそくこれに噛みついたのが、自民党の高市早苗政調会長である。政府内では更迭論も出てきた。

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「寄生エネルギー」が起こす第2の石油ショック

ヨーロッパで、エネルギー危機が起こっている。イギリスでは大停電が起こり、電気代が例年の数倍に上がった。この直接の原因はイギリスで風力発電の発電量が計画を大幅に下回ったことだが、長期的な原因は世界的な天然ガスの供給不足である。

こういう現象は昨年から始まっていた。昨年末には世界的なLNG価格の上昇が起こり、日本でも電力危機が起こった。この原因は単なる寒波ではなく、ヨーロッパ各国政府が化石燃料への投資を抑制していることだ。今年も天然ガスの価格は、昨年末と同じレベルになった。


石油天然ガス・金属鉱物資源機構

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