インフレは政治的現象である

Rational Expectations and Inflation: Third Edition (English Edition)
「インフレはいつでもどこでも金融的現象である」というのはフリードマンの有名な言葉だが、サージェントが多くのインフレの歴史的データから導くのは、インフレは財政的現象だという結論である。

無知なMMTは「自国通貨建ての国債ではデフォルトは起こらない」というが、本書には自国通貨でデフォルトした国の事例がたくさんあがっている。その理由は同じで、インフレの本質的な原因は政府への信頼の喪失なのだ。

この点では、財政タカ派の財務省がいる限り、日本でハイパーインフレが起こることはありえないが、別の原因でインフレが起こることはありうる。いま世界的に起こっているグリーンフレーションは「ネットゼロのために化石燃料への投資をゼロにせよ」というIEAのマントラに従うものだ。

先進国がネットゼロを完全実施するなら、今後30年で化石燃料への投資はゼロになる。30年というのは火力発電所の償却年数とほぼ同じなので、その新設は不可能だ。上流のガス田なども、2030年にCO2排出を半減するなら採算がとれないので、供給不足で資源価格は激増する。

ここではサージェントの理論とは逆に、企業が政府の脱炭素化政策を信頼するとインフレが起こる。これが欧州で資源インフレが起こっている原因だが、ネットゼロなんて実際にはできないと市場が判断すれば、インフレは起こらない。日本ではどっちだろうか。

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予想インフレ率(BEI)財務省

この図は予想インフレ率(10年物価連動国債の実質利回り)のチャートだが、直近でも0.576%。コアCPI上昇率(0.5%)とほぼ同じだ。これは市場が「岸田政権は本気で脱炭素化しないので物価は今後も上がらない」とみていることを示す。このようにインフレは政治的現象なのだ。

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脱炭素化でガソリンは値上がりするの?

ガソリン価格が1リットル170円を上回り、政府は価格をおさえるために石油元売りに補助金を出すことを決めました。他方で政府は、脱炭素化で化石燃料の消費を減らす方針です。これはいったいどうなってるんでしょうか。

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アイヌは「縄文人」の遺伝子を受け継いだ

縄文の思想 (講談社現代新書)
日本人が「単一民族」だという話は、よく批判の的になる。昨年も麻生太郎氏が「2000年の長きにわたり、一つの民族、一つの王朝が続いている国はここしかない」と発言して問題になった。

そのとき国会で野党が追及した根拠は、アイヌを「先住民族」と規定したアイヌ新法だった。これについてはアイヌ民族の実態はもうないという批判があるが、アイヌが先住民族だったことは事実である。

遺伝的にはアイヌと琉球人が遺伝的に近いことがわかっている。かつて日本の北から南まで縄文人が住んでいたが、九州から上陸した弥生人がそれを駆逐して農耕文化を築いたと推定できる。近畿地方を中心にして同心円状に分布する方言の分布も、それを裏づけている。

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日本人は天皇を中心として稲作で生活する農耕民というイメージは、いくらさかのぼっても弥生時代(紀元前600年)以降である。それ以前の日本列島には狩猟・採集・漁労で生活する縄文人が住んでおり、その子孫がアイヌだというのが本書の仮説である。

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「新しい資本主義」で雇用が失われる



岸田首相の施政方針演説は、また「新自由主義」を非難して「新しい資本主義」を提唱するものだった。民主党政権と同じくアンチビジネスで、株主の利益を労働者に分配するという発想だが、それは錯覚である。2000年代以降、日本の賃金が下がった最大の原因は、資本が海外に逃げたことなのだ。

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デジタル日銀券が日本経済を変える

FRBが初めて中央銀行デジタル通貨(CBDC)についての報告書を出すという。今までデジタル通貨といえば、ビットコインのようなあやしげなものしかなかったが、デジタルドルは経済システムを根本的に変える可能性がある。

ブロックチェーンは「Web3」の中核技術だが、10年以上前の枯れたテクノロジーである。これはセキュリティは完璧だが、価格が不安定なので、通貨としては使えない。「分散台帳」のような用途はあるが、それほど大きな市場ではない。セキュリティが重すぎるからだ。

しかし中央銀行券には、最大限に重いセキュリティが必要である。今でも日銀券は「日銀ネット」として電子化されているが、これは民間銀行との間に限定した卸し売りのネットワークである。ブロックチェーンで100%安全な日銀券ができれば、銀行を中抜きして全国民が利用する小売りの日銀ネットができる。

日銀がすべての決済を行うことは、紙幣では不可能だが、電子的には可能である。これによって銀行の決済機能はなくなり、信用創造はできなくなる。フリードマンやフィッシャーの提案したシカゴプランが実現でき、金融危機は原理的になくなる。

しかし銀行の本質的な役割がなくなるわけではない。銀行はリスクを配分する金融仲介機能に特化し、安全資産はデジタル日銀券で預金して銀行規制を撤廃し、自由にリスクを取ることができる。このような金融システムが理想であることは理論的にはわかっているが、政治的にはきわめて困難だ。

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縄文時代は「農業なき定住社会」

縄文vs.弥生 ――先史時代を九つの視点で比較する (ちくま新書)
マルクス的な進歩史観は葬られたが、いまだに歴史を発展段階論で考え、その頂点に西洋近代社会を置く暗黙の通念がある。その一つが新石器時代という概念である。旧石器時代は狩猟採集で生活する移動社会だったが、約1万年前から新石器時代が始まって農業で生活する定住社会に進歩し、土器が使われるようになった、と教科書には書かれている。

しかし青森県で見つかった縄文式土器は1万6500年前のもので、これは世界最古の土器である。土器は定住社会でしか役に立たないので、縄文時代は新石器時代だが、農業の痕跡は3000年前よりさかのぼれない。つまり日本列島では、1万年以上にわたって農業なき定住社会が続いたのだ。

これは世界にも類をみない現象で、農業によって定住が始まったのではなく、その逆であることを示している。それは日本の歴史を「農本主義」で語るのは誤りだという網野善彦の批判を裏づけている。日本列島は次の図のように四季おりおりの自然に恵まれていたので、手間のかかる穀物をつくる農業は必要なかったのだろう。

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縄文カレンダー(小林達雄)

1万5000年前と現在はDNAは同じだが、日本人の文化的遺伝子は大陸から離れた平和な環境で、独特の進化をとげた。日本社会の中心だった「百姓」の原型は、網野もいうように潅漑農業で共同体に組み込まれた農民ではなく、漁業や林業で自由に暮らす縄文人だったのかもしれない。

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ブラックロックの「政治的インサイダー取引」

スクリーンショット 2022-01-18 234718世界のESG投資を牽引しているのが、世界最大の投資ファンド、ブラックロックのCEO、ラリー・フィンクだが、最近は「ESG投資は利益が出ない」と批判されている。彼の年頭の投資家への手紙では、それに反論して「ESG投資は利益を生む」と主張している。彼はこう書く。
私たちが持続可能性に焦点を合わせるのは環境保護主義者であるからではなく、資本家であり、クライアントの受託者であるためです。その一環として、温室効果ガス削減の短期、中期、長期の目標を設定するよう企業に求めています。これらの目標、およびそれらを達成する計画の質は、株主の長期的な経済的利益にとって重要です。
つまり短期的な利益にはならないと認めたわけだ。大企業にとってCO2排出量を減らす簡単な方法は、化石燃料部門を売却することだが、フィンクは「当社は資産売却ではなく投資によって脱炭素化を進める」という。ではどうやって長期的な利益が出るのか。その鍵は政府だという。
企業はこれを単独で行うことはできず、「気候警察」になることもできません。 それは社会にとってよい結果をもたらさないでしょう。 政府が持続可能性のための政策、一貫した分類、規制、そして全市場での情報開示を進める明確な道筋が必要です。
要するに持続可能性を保障するのは政府の仕事なのだ。ではなぜ企業が政府の仕事をするのか。それによる株主の利益は何か。これは政府に圧力をかけて特定の企業を規制や補助金で有利にするインサイダー取引ではないのか。

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日本人の「ゼロリスク」は縄文時代から始まった

人はなぜ戦うのか - 考古学からみた戦争 (中公文庫)
日本人は、極端にリスク回避的で争いをきらう。これは統計データでも客観的に示されているが、それはなぜだろうか。いちばん簡単な説明は、島国で平和が長く続いたからだということだが、これは最近の人類学の知見と一致しない。

ホモ・サピエンスは石器時代から戦争を続けており、その遺伝子には戦いに生き残る闘争本能が組み込まれているというのが最近の人類学や考古学の通説だが、日本人はその例外である。縄文時代と呼ばれる1万5000年前~3000年前の遺跡には、ほとんど戦争の痕跡が見当たらないのだ。

これはグレーバーも「西洋中心の発展段階論に対する反証」として注目している。狩猟採集=移動社会から農耕=定住社会へという順序で文明が発展するという通説に反して、三内丸山遺跡などの縄文時代の遺跡は、農耕なき定住社会の存在を証明しているからだ。世界的にみてもこういう民族は、縄文人以外には北米西岸の先住民族しかいない。

もう一つの特徴は、縄文時代が戦争のない時代だったことだ。戦争に関する遺跡の9割は農耕社会のもので、中国では紀元前6000年ごろから農耕と戦争がワンセットで始まっていたが、縄文時代の遺跡からは武器も損傷した人骨も出てこない。青銅の短剣などが発掘されるのは弥生時代(紀元前600年~)の遺跡で、中国より5000年ぐらい遅い。日本人は太古から平和主義だったのだが、それはなぜだろうか。

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インフレ目標なんていらない

世界的にインフレ基調になり、インフレ目標2%を設定した日銀は大喜びかと思ったら、黒田総裁はご機嫌斜めだそうだ。日銀が国債の保有残高を減らして「出口」にさしかかったときインフレになるのは、彼の「異次元緩和」がトンチンカンだったことを示しているからだろう。

インフレ目標は2013年1月に白川総裁の時代に設定し、黒田総裁が「マネタリーベースを2年で2倍にして2%」というキャッチフレーズで実現しようとしたものだ。図のように2014年には一時的にドル高・原油高で2%を超えたこともあるが、為替が落ち着くと元に戻った。いまだにCPI上昇率は0.1%である。

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社会実情データ図録

理論的には、インフレのメリットは賃金の下方硬直性ゼロ金利制約を解決できることだが、前者は日本にはほとんどなく、後者の原因は自然利子率がマイナスになっていることなので、それを解決しないで日銀が「期待に働きかける」だけでインフレが起こることはありえない。

これは2013年に(私を含めて)ほとんどの経済学者が指摘したことだ。黒田総裁は自信たっぷりだったが、9年間の壮大な社会実験は通説を確認しただけだった。何がまちがっていたのだろうか?

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「プライマリーバランス黒字化目標」なんていらない

経済財政諮問会議に、内閣府の新しい経済財政試算が提出された。財政健全化の目安となる国と地方を合わせたプライマリーバランス(PB)黒字化の実現時期を昨年7月の試算に比べて1年早め、2026年度とした。


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