反緊縮って何?

このごろ政治家に「反緊縮」を掲げる人が増えてきました。山本太郎さんみたいな極左がいうのは昔からですが、このごろ自民党にもそういう政治家が増えてきました。こういう人のいうのは「政府はお札を印刷できるんだから、もっとお金をばらまけ」という話です。

これはよい子のみなさんにもわかりやすいですね。国債(国の借金)をいくら発行しても、日銀がそれを買い取ればいいんだから、借金がいくら増えても気にしなくていい。給付金をどんどん国民にばらまき、インフレになったら止めればいい――というのはだれでもわかる単純な理屈ですが、本当でしょうか?

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マイナポイントで「マイナス金利」ができる

わが家にもマイナンバーカードがやってきた。7月8日に申請して受け取ったのが10月19日という事務処理の能率の悪さにも驚いたが、そのデザインにもあきれた。笑ってしまうのは、裏面のマイナンバーを袋で隠していることだ。これでは袋から出したら丸見えである。

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これはマイナンバーがIDかパスワードかという設計思想に迷いがあるからだが、マイナンバーはIDである。それは本人を識別する記号だから氏名と同じで、隠す必要はない。本人認証はICカードでするので、パスワードがあればいいのだ。パスワードが4種類もあるのも設計が混乱している。

しかしマイナポイントをプリペイドカードなどにチャージできるしくみはおもしろい。これでマイナンバーと銀行口座が紐づけられ、1人5000円の給付金を出すのと同じ効果がある。事務コストはいちいち申請して現金を配るよりはるかに小さいから、永江一石さんのいうように、ポイントを使えば簡単に給付金が出せる。

このポイントを期限つきにすれば、マイナス金利をつけることができる。たとえば国民全員に5万円のマイナポイントをつけ、これが5年間有効だとすると、毎年マイナス20%の金利をつけるのと同じだ。これは2008年にTyler Cowenが提案した期限つき電子マネーと同じで、貯蓄に回らないので景気対策としての効果が大きい。

続きは10月26日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで(初月無料)。

自衛官の入学拒否についての毎日新聞の「ファクトチェック」は誤報である

毎日新聞が「ファクトチェック」と称して、櫻井よしこ氏の発言を誤りと断定している。これがファクトかどうかチェックしてみよう。

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学術会議の独立性を制度的にどう担保するか

学術会議をめぐる論争は、安保法制と同じ色分けになってきた。反対派は憲法第9条の代わりに第23条(学問の自由)を振り回し、政府を擁護する側は「反日」だとか「中国と協力した」というが、これは的外れだ。問題はそのいびつな制度設計にある。

学術会議は戦後の混乱期にGHQの指導でつくられたため、内閣直属の政府機関で研究者の直接投票という世界にも類のない制度で発足した。これを最大限に利用したのが共産党だった。直接投票という制度の欠陥を利用して大量の党員を送り込み、極左的な決議を発表させた。

これに対して自民党の反発が強まり、政府は1984年に学会推薦にした。その後も民営化しようとしたが、学術会議はこれを拒否し、2005年に会員推薦に変えただけだ。その結果、会員が自分の後任を決める縁故採用になって政府は口を出せず、民主的統制のまったくきかない治外法権になった。

これは国家公務員の人事としては考えられないので、内閣が選別するのは当然だ。「学術会議だけ特別に無条件で任命しろ」という要求は、法的に認められない。だが任命の基準が明確でないと、恣意的な政治介入が行われるおそれがある。本質的な問題は、研究機関や学術団体の独立性を制度的にどう担保するかということである。

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日米戦争をしたくなかった東條英機

東條英機 「独裁者」を演じた男 (文春新書)
学術会議をめぐる議論では「戦前に回帰するものだ」という話がよく出てくる。こういう人は東條英機がトップダウンで反対派を排除して戦争に突入したと思っているのだろうが、史実は逆である。東條は日米戦争で勝てる見込みがないことを知っていた。彼の迷いを押し切ったのは、ボトムアップの強硬派の圧力だった。

1941年10月14日の閣議で東條陸軍大臣は、中国からの撤兵を求めるアメリカの要求を断固として拒否する演説を行なったが、同じ日に彼は木戸内大臣と会談して「海軍の決心に何か変化ができたのか」と質問し、変化があったのなら「既に定まった国策(日米開戦)がそのままやれるかやれぬか」考えるとのべた。杉山参謀総長にも同じ話をしている。

ところが彼は、閣議では「海軍の肚が決まらぬなら内閣総辞職しかない」という強硬論を主張した。近衛内閣を倒して東久邇宮内閣をつくり、開戦の責任から逃れようとしたのだ。そのもくろみ通り内閣は倒れたが、近衛の後任として大命が下ったのはなんと東條だった。

これは強硬派の東條しか軍を抑えられないと考えた木戸の奇策だったが、東條を高く買っていた昭和天皇も賛成した。天皇の意を受けて東條は外交による打開の道を模索したが、すでに陸軍と参謀本部の大勢は開戦論で固まっており、これを「大臣の変節なり」と攻撃した。東條は自分の主張した強硬論に自縄自縛になってしまったのだ。

10月23日、東條は嶋田海軍大臣に「今更後退しては支那事変20万の精霊に対して申し訳ない。されど日米戦争ともなれば更に多数の将兵を犠牲とするを要し、誠に思案に暮れている」と述懐した。彼は嶋田に「戦争はできない」と言ってほしかったのだろう。

続きは10月19日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで(初月無料)。

処理水問題は安倍首相の「貯蓄過剰」だった



福島第一原発の処理水問題が、今月中にようやく海洋放出で決着する見通しになった。これは科学的には自明で、少なくとも4年前には答が出ていた。「あとは首相の決断だけだ」といわれながら、結局、安倍首相は決断できなかった。それはなぜだろうか。

政治家の人気を政治的資本(political capital)と呼ぶことがある。安倍首相は第1次内閣では「戦後レジームからの脱却」などの理念を打ち出したが、政治的反発を呼んで1年足らずで退陣に追い込まれた。その反省から第2次内閣では「デフレ脱却」で政治的資本を蓄積し、安保法制や憲法改正などの不人気な政策に投資するつもりだったのだろう。

ところが安保法制で2015年の国会が大混乱になり、このあおりで憲法改正も公明党が反対して行き詰まった。この状況を打開するために、経済政策は慢性的な景気刺激になった。消費税の増税は2度も延期し、日銀の量的緩和は果てしなく続き、不人気な原子力政策にはまったく手をつけなかった。その結果、政治的資本は蓄積されたが、結局それを使わないまま退陣してしまった。

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社会はなぜ左と右にわかれるのか

社会はなぜ左と右にわかれるのか――対立を超えるための道徳心理学
学術会議をめぐる論争を見ていると「またか」という既視感を覚える。
  1. 政府が学術会議の名簿のうち6人を任命しなかったのは違法か?
  2. 学術会議の会員になれないことは学問の自由の侵害か?
  3. 学術会議は科学に多大な貢献をしているか?
以上はいずれも正しいか否かで答えられる事実問題だが、その答はきれいに二分される。たとえば木村草太氏と百田尚樹氏がこの3問にどう答えるかは、目をつむってもわかる(彼らはその予想どおり答えた)。

こういう傾向はアメリカでも同じで、最初から党派的に意見を決めて答える人が多い。これを「アメリカが分断されている」などというが、そういう傾向は今に始まったものではなく、アメリカだけの問題でもない。上のように日本でも(対立軸がちょっと違うが)みられる。

それはヒュームが指摘したように、理性は感情の奴隷だからである。人は感情にもとづいて行動し、それを理性で正当化するのだ。このような感情と理性の関係を、本書は象とそれに乗る人にたとえる。

脳の情報処理の90%以上は進化の初期に発達した象の部分で行なわれており、反応も速い。乗る人の部分は処理が遅くコストがかかり、教育しないと発達しない。政治的な議論が、政策の中身ではなく「右か左か」というイデオロギー論争になるのも、人々を動かすのが象だからである。

続きは10月19日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで(初月無料)。

杉田官房副長官はどこで間違えたのか

学術会議の問題は、国会の最大の争点になってきた。これは森友・加計のような中身のない話ではなく、政府機関の制度設計という大きな問題だが、野党やマスコミが「学問の自由」という見当違いな争点を設定しているので話が噛み合わない。

わからないのは、なぜ官邸が欠員6人を出したのかということだ。12日の記者会見で菅首相は「99人の名簿しか見ていない」と口をすべらせたが、これだと6人の任命を拒否したのは首相の判断ではなかったことになる。その後「105人の名簿は決裁文書に添付されていた」とか「任命できない人が複数いると事前に説明を受けた 」とか話が二転三転している。

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【再掲】ミルグロム&ロバーツ『組織の経済学』

ポール・ミルグロムとロバート・ウィルソンがノーベル経済学賞を受賞したので再掲。

組織の経済学
本書を私がFacebookで紹介したら、アマゾンで「経済学」の第1位になって驚いた。原著は1993年、訳本は1997年だが、いまだにビジネススクールの世界標準で、残念ながらこれをしのぐ経営学の教科書は私の知る限り出ていない。それほどむずかしくないが分厚いので、これを日本向けにアレンジしたのが拙著である。

最近は社会学者や憲法学者がバカの代名詞になったが、経営学者は昔から(経済学者の)物笑いのタネだ。本書の著者もスタンフォード・ビジネススクールの教授だが、二人とも経済学者である。数多い経営学者の書いた教科書を押しのけて本書が20年以上もスタンダードなのは、やはり経済学に「科学」としての競争があったからだろう。続きを読む

学術会議はGHQのつくった「学問の戦後レジーム」

学術会議をめぐる議論が迷走している。菅首相が105人の推薦のうち99人の名簿しか見ていなかったことが「日本学術会議の推薦に基づいて内閣総理大臣が任命する」という学術会議法に違反していると野党は騒いでいるが、彼らは内閣に上がってくる膨大な決裁文書を首相がすべて見ろとでもいうのか。

「内閣総理大臣が〜する」という実務は内閣のスタッフが行うのであり、この場合は杉田官房副長官(内閣人事局長)だろう。ただこれは首相が本件をそれほど重視していなかったことを示唆している。今のような騒ぎになることを計算していたら、落とした6人の名前ぐらい見たはずだ。

内閣法制局の1983年答弁についての矛盾した説明も、準備不足をうかがわせる。もともと内閣が諮問機関の人事をその機関に白紙委任することはありえないので、民主的統制のまったくきかない従来の運用が異常であり、今回はそれを正常化しただけだ。

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