【再掲】コルナイ・ヤーノシュ自伝

コルナイ・ヤーノシュ自伝―思索する力を得て
コルナイが死去したので、2006年7月14日の記事を再掲。本書は私のこれまで読んだすべての本の中のベストワンである。

経済学者の伝記がおもしろい本になることはまずないが、本書は例外である。1928年生まれの著者の人生は、20世紀の社会主義の運命とそのまま重なる。著者は共産主義者として青春を過ごし、戦後はハンガリーの社会主義政権のもとで、ナジ首相のスピーチライターもつとめた。

しかしハンガリーの民主化運動は、1956年にソ連の軍事介入によって弾圧された。著者はマルクス主義と決別し、政治の世界を離れて研究者になる。著者は、線形計画法を使って計画経済を効率化する研究を行う。続きを読む

慰安婦は「人身売買」ではなかった

「慰安婦」はみな合意契約をしていた
慰安婦問題にはもう飽き飽きした人が(私を含めて)多いだろう。それが強制連行だったか否かという問題には決着がついたが、韓国がゴールポストを動かし、慰安婦は性奴隷=人身売買だったという論点にすり替えてアメリカ民主党の人権派に売り込んだからだ。

この論点で日本が勝つのはむずかしい。人身売買についての証言は多く、自発的な契約だったという直接の証拠はないからだ。アゴラでも紹介したラムザイヤー論文は「契約書は確認できない」と書いて集中砲火を浴びた。

ところが米軍の捕虜尋問調書には、慰安婦の契約について詳細に書かれている。本書はそれを根拠に「慰安婦はみな合意契約していた」というのだが、こういう全称命題は一つでも反例が出てくると崩れる。日本の公娼にも親の借金を返すために身売りする例が多かったので、もっと貧しかった朝鮮半島でそれがゼロだったとは考えられない。

しかし韓国政府のいうように慰安婦はみな人身売買だったという主張は、明らかに誤りである。少なくともビルマで働いていた朝鮮人慰安婦の契約は陸軍が監視し、「自ら署名」していた。これは意外に重要である。それは慰安婦が制度的な「性奴隷」ではなかったことを示しているからだ。

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政府の「自己窮乏化」政策が国を滅ぼす

武士の家計簿 ―「加賀藩御算用者」の幕末維新 (新潮新書)
財務省の矢野事務次官の財政破綻論は、内容的には目新しい話ではないが、矢野氏もMMTも見逃している問題がある。国は債務の増加ではなく歳入の減少で滅びるということだ。それを示しているのが江戸時代の歴史である。

本書の素材は、猪山家という加賀藩の「御算用者」(会計係)の家計を幕末から明治初期まで37年にわたって詳細に記した文書だ。猪山家はもともと格の高い家ではなかったが、幕末には各藩の財政が苦しくなり、財務の専門家が出世した。いわば「理系」の実力派エリートだが、その家でも借金が年収の2倍もあり、金利が年18%もあったので、猪山家は破産の危機に直面した。

そこで1842年に家財道具をすべて売却して借金を返済し、破産を逃れた。猪山家のようなエリートでこうなのだから、下級士族は水呑百姓より貧しかった。各藩の財政も困窮して俸禄(賃金)の遅配や減額が増え、武士はもはや特権ではなく、商売も農業もできない不自由な貧民だった。

幕藩体制が腐敗しなかった最大の原因は、このように実効税率が下がったために武士が絶対的に窮乏化したことだ。次の図のように徳川幕府が始まったころは農業生産高の20%ぐらいあった年貢の実効税率は、幕末には5%足らずになり、各藩の債務は年貢の約3年分になった。

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江戸時代の実効税率(深尾京司ほか『日本経済の歴史2』)

このため廃藩置県で各藩の徴税権を明治政府が奪うと同時に債務も肩代わりしたとき、ほとんどの大名は喜んで徴税権を手放した。これが明治維新のような革命が、驚くほどスムーズに短期間に成功した最大の原因だが、大名はなぜこのような自己窮乏化政策をとったのだろうか?

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格差はグローバルな問題である

入門・世界システム分析
岸田政権は何をしようとしているのかよくわからないが、格差の拡大が今の日本の最大の問題だと考えているようだ。その認識は正しいが、バラマキ給付金や所得税の累進課税といったゼロサムゲームでは問題は解決しない。格差は本質的にグローバルな問題だからである。

本書はウォーラーステインが晩年に自分の理論をやさしくまとめた講演で、格差を考える素材にもなる。従来の歴史学では「産業革命」で発展した資本主義が周辺の途上国を支配したと考えたが、ウォーラーステインは資本主義そのものがグローバルな中心/周辺の構造から生まれたと考えた。

これはフランクやエマニュエルなどの従属理論と呼ばれるマルクス主義の学説である。従属理論は新古典派経済学のように先進国が途上国を援助すれば開発によって豊かになり、世界の所得格差はなくなるという「収斂理論」を批判し、現実には格差が拡大している状況を説明する。

フランクが低発展の発展(development of underdevelopment)という概念であらわしたように、発展途上国を発展できない状況に置くことによって先進国の企業がそれを搾取するシステムである。その発想はマルクス主義だったが、今でも先進国が資本家階級で、途上国が労働者階級と考えると、グローバル化で途上国が搾取され、富が先進国の一部の富裕層に集中する現象を説明できる。

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脱炭素バブルが「資源インフレ」を生みだす

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Economistのカバーストーリーは「不足経済」。今の世界的なインフレの原因は、コロナと脱炭素化と保護主義だという見立てだが、中でも深刻なのは脱炭素化の影響である。

FTも「ガス不足」を特集している。その最大の原因は、脱炭素化の中で石炭の生産が世界的に減少し、天然ガスの需要が増えたことだ。しかしヨーロッパは「ネットゼロ」をめざしているので、ガスへの設備投資は増えない。

このため当面はロシアからのパイプラインに依存せざるをえない。ロシアはこれを政治的に利用し、ガス価格を毎月変動させている。それに頼るヨーロッパは、ロシアの意向に従わざるをえない。ドイツ政府は、プーチンの反体制派弾圧に沈黙している。



しかし最大の敵はヨーロッパにいる。パリに事務局を置くIEAは今年5月、ネットゼロの報告書を発表し、「化石燃料への投資の中止」を呼びかけた。

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高市政調会長と矢野財務次官のバラマキ財政論争

コロナ対策の給付金などを「バラマキ合戦」と批判した財務省の矢野康治事務次官の『文藝春秋』の記事が、さまざまな波紋を呼んでいる。さっそくこれに噛みついたのが、自民党の高市早苗政調会長である。政府内では更迭論も出てきた。

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「寄生エネルギー」が起こす第2の石油ショック

ヨーロッパで、エネルギー危機が起こっている。イギリスでは大停電が起こり、電気代が例年の数倍に上がった。この直接の原因はイギリスで風力発電の発電量が計画を大幅に下回ったことだが、長期的な原因は世界的な天然ガスの供給不足である。

こういう現象は昨年から始まっていた。昨年末には世界的なLNG価格の上昇が起こり、日本でも電力危機が起こった。この原因は単なる寒波ではなく、ヨーロッパ各国政府が化石燃料への投資を抑制していることだ。今年も天然ガスの価格は、昨年末と同じレベルになった。


石油天然ガス・金属鉱物資源機構

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財務次官、反緊縮派に反論する

財務省の矢野康治次官の『文藝春秋』への寄稿がちょっと話題になっているので、読んでみた。たしかに現役の事務次官が雑誌に寄稿するのは異例だが、中身は財務省の公式見解だ。気になったのは、財政の維持可能性の説明である。

今のような超低金利情勢のもとでは、金利が事実上ゼロなので、中には、「今こそ、思い切って大量に国債を発行して、有意な財政出動によってGDPを増やすべきだ。そうすれば、『国債残高/GDP』の分母が増大するから財政も健全化する」と唱える向きもあります。一見まことしやかな政策論ですが、これはとんでもない間違いです。

これは(名前はあげていないが)高市早苗氏のような「財政出動で経済成長すれば財政赤字が減る」という主張だろう。これが成り立つには

 長期金利(r)<名目成長率(g)

という金利ボーナスが必要だ。これがいわゆるドーマー条件で、たとえばrがゼロでgが1%なら、いくら国債を発行しても金利負担はゼロで、財政支出で成長できるので、反緊縮派のいうように国債を際限なく発行すれば政府債務(GDP比)は減る。しかし矢野氏はこれは誤りだという。

財政出動を増やせば、単年度収支の赤字幅(正確に言えば基礎的財政収支赤字のGDP比)が増えてしまい、それを相殺してくれるはずの「成長率−金利」の黒字幅との差が開いてしまいます。その結果、「国債残高/GDP」は増え続け、いわば、金利は低くても元本が増え続けてしまうので、財政は際限なく悪化してしまうのです。

ドーマー条件はプライマリーバランス(PB)がゼロの場合の条件なので、今のようにPB赤字が大きい場合には、金利ボーナスより赤字幅が大きくなることがある。これは算術的には正しいが、大きな見落としがある。ゼロ金利は一時的な「ボーナス」なのかということだ。

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グーグルは「仮想空間の中国共産党」になるのか

グーグルは広告ポリシーを変更し、気候変動に懐疑的なサイトへの広告掲載を停止し、YouTubeの動画も削除すると発表した。

気候変動の存在と原因に関する確立された科学的コンセンサスと矛盾するコンテンツの広告と収益化を禁止するGoogleの広告主、サイト運営者、YouTubeクリエイター向けの新しい収益化ポリシーを発表する。

これには気候変動をデマや詐欺と呼ぶコンテンツ、地球の気候が温暖化している長期的な傾向を否定する主張、温室効果ガスの排出や人間活動が気候変動に寄与することを否定する主張が含まれる。

ここでグーグルの書いていることは、彼らの信じる「科学的コンセンサス」なのだろうか。

続きはアゴラ

「婿養子」という日本的能力主義

士(サムライ)の思想: 日本型組織と個人の自立 (ちくま学芸文庫)
アゴラでも書いたように、日本経済を制約する最強の「岩盤」は雇用規制である。1990年代以降、政府はいろいろな規制改革をしてきたが、判例として確立した解雇権濫用法理に手をつけないどころか、労働契約法で立法化してしまった。

ヨーロッパでも雇用規制は問題になり、OECDも「労働者の過剰保護が構造的失業の原因だ」として緩和を求めてきた。ドイツのシュレーダー改革でも、2010年代のイタリアの労働市場改革でも、解雇規制を緩和したが、日本だけは、雇用を聖域にしてきた。

この原因は複雑だが、会社を「乗り物」と考えるヨーロッパとは違い、日本人は会社を「家」と考える潜在意識があるからだろう。制度をあまり宿命的に考えるのはよくないが、そういう組織原則は少なくとも鎌倉時代から受け継がれてきた。

その一例が婿養子である。親族以外から婿を迎えるのは世界的には珍しく、中国では「異姓不養」として異なる宗族から養子を迎えることは禁止されている。これは日本的な能力主義だ、というのが著者の見立てである。名君として知られる徳川吉宗も上杉鷹山も婿養子だった。

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