文化は暇つぶしから生まれた

人類史のなかの定住革命 (講談社学術文庫)暇つぶしは、高齢社会の切実な問題である。サラリーマンの人生は65歳で終わり、やることが何もなくなる。そのあと20年ぐらいある退屈な余生をどうやって過ごすのか。これは人類が初めて直面した問題ではない。本書によれば、狩猟採集社会から定住社会に移った約1万年前から、退屈は重要な問題だった。

人類の脳は新しい食糧を求めて移動する狩猟採集社会に最適化されているので、つねに新しい刺激を求める。キャンプを移動して食糧をさがし、外敵から身を守る感覚が、遺伝的な「古い脳」の機能だが、定住して農耕を始めると変化が少なくなる。食糧は安定して供給され、外敵からは隔離されるので、脳への刺激が不足する。農作業が終わると、人々は長い夜を過ごすために神話を語り、壁画を描き、音楽を演奏し、芸能を楽しむようになる。

日本列島でこの変化を示す証拠が、縄文式土器だ。狩猟採集時代には実用的な石器しかなかったが、定住の始まった1万年ぐらい前から、土偶や複雑な模様の土器が出現した。

この土器は単なる容器ではなく、祭祀に使われたものと思われる。実用的な機能はないが、おそらく呪術的な意味があり、われわれの祖先はそれを使って儀式をやったのだろう。こういう文化は生存競争の役には立たないが、単調な生活に変化を与え、定住で解放された脳のエネルギーを消費する暇つぶしになったのだ。

続きは11月19日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

生産性格差と「二重構造」

生産性とは何か: 日本経済の活力を問いなおす (ちくま新書)
日本経済の停滞の原因が人口(特に生産年齢人口)の減少にあることは政治家も認識しているが、それを解決することはむずかしい。外国人労働者を入れて労働人口を増やす安倍政権の政策は、問題を解決するより作り出すおそれが強い。もう一つの考え方は、労働人口が減っても労働生産性を高めればいいという議論だが、具体的に何をするかが問題だ。

生産性を考える場合、製造業とサービス業を区別することが重要だ。グローバルに立地できて労働節約的な技術進歩の速い製造業に比べて、ローカルな対人サービスに依存するサービス業の労働生産性はどこの国でも低く、製造業の比率が下がるにつれて労働生産性が下がる「ボーモル病」がみられる。

日本はこの格差が特に大きく、いつまでも縮まらないのが特徴だ。次の図は日米の労働生産性格差(生産性本部調べ)で、アメリカを100すると日本の製造業の生産性は69.7だが、サービス業は49.9。こういう「二重構造」の硬直性は高度成長期から指摘されていたが、1990年代以降の長期不況で拡大し、2000年代に固定化した。

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続きは11月19日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

新石器革命は「宗教革命」だった

人類進化の謎を解き明かす
人類の歴史の大部分はつねに移動する狩猟採集社会だったので、脳はそれに適応するように進化したが、ここ1万年ぐらいの新石器時代以降は定住社会なので、文化はそれに適応した。つまり人間は遺伝的には移動に適しているが、文化的には定住するように進化したのだ。この矛盾が、現代人の行動にも影響を与えている。

狩猟採集社会で移動する集団(band)の規模は50人程度で、それより小さいと外敵から身を守れないが、あまり大きいと集団の中で紛争が起こる。このため遺伝的には150人程度が限界だが、定住社会ではそれをはるかに超える人数が集団で暮らすようになり、紛争やストレスが多くなった。それを解決するしくみが(広い意味の)宗教である。

狩猟採集社会にも同族意識による信仰(シャーマニズム)はあり、共同体の内部で紛争が起こると、その長(シャーマン)が調停し、定期的に祝祭や儀礼で人間関係をリセットした。しかし定住して集団が大きくなると、そういう素朴なしくみでは維持できないので、体系的に世界観を共有する宗教ができた。この点で新石器革命は「宗教革命」だったと著者はいう。

続きは11月19日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

最低賃金を上げる「非伝統的な労働政策」

人手不足は日本経済の構造問題であり、これを「特定技能」と称する外国人労働者で埋めようという安倍政権の政策は、3K職場を温存してアジア人の低賃金労働者を増やすだけだ。長期にわたって労働の超過需要が続く原因は単なる人口減少ではなく、労働市場のミスマッチだからである。

低収益の中小企業が雇用の8割以上を占め、人手不足でも低賃金のパート・アルバイトを増やして正社員の賃金を上げない。このため労働者が集まらず、売り上げも収益も増えないので経営が行き詰まる「悪い均衡」に入ってしまった。つまり

 中小企業の低収益→低賃金→人手不足→低収益

という悪循環が起こっているのだ。こういうコーディネーションの失敗を脱却するには、労働者が高収益企業に移動して低収益企業が淘汰されることが望ましいが、政府が雇用規制で労働移動を阻害し、参入規制で中小企業を守るのでミスマッチが残ったままだ。

続きはアゴラで。

朝鮮人労働者の問題は「強制連行」ではない

韓国大法院の判決は外交問題としては終わった話だが、外国人労働者の問題を考える上で参考になる。1930年代の日本でも、戦争で人手不足が深刻だった。危険な炭鉱や建設現場などの「3K職場」をいやがる労働者の穴を埋めるために、朝鮮人労働者が使われた。

国が労働者を「強制連行」したのではなく、口入れ屋が朝鮮人を高賃金で募集し、内地の劣悪な職場で働かせたケースが多い。だまされたと気づいた朝鮮人は逃げようとしたが、タコ部屋に閉じ込められ、賃金は生存最低水準に張りついた。その外国人労働者が、今は技能実習生である。

その教訓も似ている:人手不足を埋めるために外国人労働者を増やしても、問題は解決しない。戦時中は戦争を早くやめることが最善だったが、今は労働市場を機能させて賃金を上げるしかない。それもできない中小企業を守るために移民を増やすと、低賃金の劣悪な職場環境が温存され、民族差別や社会不安が大きくなる。それが安倍政権のやろうとしていることだ。

続きは11月12日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

韓国の訴訟の原告は「徴用工」ではなかった

韓国大法院が新日鉄住金に賠償を命じた判決について、日本政府は「旧民間人徴用工」という呼び名を改め、「朝鮮半島出身労働者」に統一した。この訴訟の原告が日本に来た1943年には、朝鮮人を「徴用」する制度がなかったからだ。1959年の外務省の資料によると、
元来国民徴用令は朝鮮人(当時はもちろん日本国民であつた)のみに限らず、日本国民全般を対象としたものであり、日本内地ではすでに1939年7月に施行されたが、朝鮮への適用は、できる限り差し控え、ようやく1944年9月に至つて、はじめて、朝鮮から内地へ送り出される労務者について実施された

続きはアゴラで。

人類は石器時代から戦争に明け暮れてきた

War Before Civilization (English Edition)
レヴィ=ストロースはルソーを「人類学の父」と呼び、彼の描いた「高貴な未開人」のイメージに人類の原型を求めた。暴力や戦争で混乱した現代社会とは違い、未開社会は平和な「冷たい社会」だと思われていた。しかし著者は1970年代に新石器時代の遺跡を調べるうちに、そのまわりに砦があり、柵や溝が張りめぐらされていたことを発見する。それは明らかに戦争の痕跡だった。

「人類は石器時代から戦争を繰り返してきた」という著者の発表は最初は学界に無視されたが、90年代には戦争の遺跡が世界中で発見され、頭蓋骨からも凶器で破壊された痕跡が多く見つかった。次の図はいろいろな部族の戦争による死亡率だが、石器時代や未開社会では平均25%の男性が戦争で死亡し、女性や子供を入れても平均15%ぐらいが戦争の死者だったと推定されている。戦争は多くの部族で2年に1度ぐらい起こり、負けた部族は皆殺しにされた。

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戦争による死亡率(%)

この発見は、社会科学の多くの分野に影響を与えた。戦争が石器時代から頻繁にあったとすると、それに適応するメカニズムが脳に遺伝的に埋め込まれているはずだ。生存する上で重要なのは個人の利益を最大化する合理的行動ではなく、戦争に勝つための集団行動であり、その根本は「敵か味方か」を区別して敵を憎み、味方を愛する同族意識(tribalism)である。人類は経済的動物ではなく、政治的動物なのだ。

続きは11月12日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

自由な移民は福祉国家と両立しない

臨時国会は、入管法改正案で大荒れだ。この原因は、人口減少と高齢化という構造問題に安倍政権が場当たり的な移民政策で対応しようとしているからだ。次の図でもわかるように、生産年齢人口(15~64歳)は1995年の8716万人をピークに毎年ほぼ1%下がり続け、2060年には4400万人程度になると予想されている。


人口の推移と予測(内閣府)

続きはアゴラで。

文化の進化をもたらした「長期記憶」

Not By Genes Alone: How Culture Transformed Human Evolution (English Edition)
獲得形質は遺伝しない、というのが中学生も習う生物学の根本原理である。あなたがいくら勉強しても、その記憶は子供には遺伝しない。だからラマルクの進化論は否定されたが、文化レベルでは間違いとはいいきれない。記憶は遺伝しないが言語習得能力は遺伝するので、子供に言葉を教えれば、勉強できるようになる。

これは遺伝的な進化と似ているが、メカニズムはまったく違う。DNAのゲノムは固定されたハードウェアだから、環境が変化したとき、それに適応できない個体が淘汰されるという形でしか、遺伝子の進化は起こらない。これには長い時間がかかり、急激な気候変動などがあると種が絶滅してしまう。

それに対してホモ・サピエンスは大きな脳が発達し、文化や言語を長期記憶にソフトウェアとして記憶する能力を身につけた。文化は遺伝子より柔軟で変化の幅が広く、蓄積できる。しかも適応のスピードは遺伝子よりはるかに速いので、これが人類が短期間に驚異的に繁殖した最大の原因だ、というのが本書の主張である。

続きは11月12日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。

労働市場のミスマッチは2000年代に拡大した

アゴラの記事はちょっとややこしいので、経済学的に解説しておこう。次の図は労働市場の需給状況を示すUV曲線と呼ばれるもので、縦軸に失業率、横軸に欠員率(人手不足)をとっている。労働市場にまったく摩擦がないときは原点(失業も欠員もゼロ)だが、現実にはミスマッチがあるので、UV曲線の原点からの距離は労働市場のマッチングの効率性を示す。

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失業率と欠員率のUV曲線(労働政策研究・研修機構)

不況になると失業率が上がって左上に動き、景気がよくなると人手不足で右下に動くが、1990年代からの長期不況でUV曲線が大きく上にシフトした。その後、失業率が低下するとともに欠員率が増えたが、2008年の金融危機で2000年ごろの状況に戻り、2010年代に失業が減って人手不足が拡大した。

このように今の人手不足は循環的なものだが、問題は2000年代に大きくなったミスマッチが元に戻らないことだ。労働政策研究・研修機構の計算によれば、2018年第3四半期の完全失業率は2.43%で、均衡失業率2.88%を下回る。このように「自然失業率」を超える超過需要になると、賃金が上がってインフレになるのが普通だが、そうならない。この背景には、どういう構造的な変化があるのだろうか。

続きは11月12日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。






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